データ・ジャーナリズム記事をどうやってマネタイズするのか?

あるいはいかにして上司を説得するかについての考察

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2016.11.27に「データ・ジャーナリズム・ハンドブック日本語版」の公開記念イベントを開催しました。おかげさまで沢山の方に来場頂きました。ありがとうございました。

会場でもお話しましたが、この翻訳プロジェクトは何回かの停滞とリブートを経てようやくここまでたどり着きました。第1期からのメンバーとしては、時間がかかってしまった事への反省と、ようやくマイルストーンをクリアできたことへの安堵が入り混じった心境です。

さて、質疑応答の時間に「データ・ジャーナリズム記事のマネタイズについて」の質問が出ました。自分自身も過去にデータ収集とビジュアライズを行うプロジェクトを経験し、検証やインタラクティブの制作にかかるコストと記事からの収益のアンバランス(ぶっちゃけて言えば赤字)について思うところがありましたので熱く語らせていただいたりしました。

ウェブ・メディアでの収益化は、1) Google Adsenseなど広告システムを使ったマネタイズ、2) 自社営業による広告販売、 3) 有料コンテンツが多くを占め、特に多くの場合に1)のみに頼らざるを得ない状況があるため、コストのかかるプロジェクトはやりにくい現状があります。

2)の広告営業をがんばって行く必要があるかとは思いますが、ネットにおけるレピュテーションの獲得など直接的ではないリターンを上層部あるいは経営陣に理解してもらうということも必要であると考えています。

また3)の有料でのサービスを行っている場合は、注目を集めるコンテンツで有料会員の獲得につなげる=広告キャンペーンとしての記事制作という位置づけも可能になるかと思います。

会場では事例としてNYTimesの話をしました。2016年の大統領選挙終了後の1週間で、NYTimesの有料購読者数が4万人以上増えているということです。

NYTimesの有料購読プランは「$6.25/week」となっており(現在はキャンペーンでかなり安くなっていますが)、広告などによる購読者獲得のための費用のターゲットが一人あたり$5程度であると仮定しても、$20万(日本円で約2100万円)の価値があったと考えることができます。実際には1ユーザーあたりの収益見積もりはもう少し高い(平均して数週間以上はやめない)はずで、獲得にかけられるコストも高ブレすると思います。つまりは数千万円の価値ということです。

あのコンテンツなので、それでもコストに見合うと言えるかは微妙なところですが、様々なマネタイズ方法の考え方の一つとして(上層部を説得する)参考になるのではないかと思います。

なお同じ記事で、NPOとして記事制作をしているProPublicaにも寄付が増えているという事も書かれていました。同様の組織でメディアを運営する際にも参考になると思います。

P.S.

「メディアのマネタイズ」という観点で言うと、「政治メディアを立ち上げるために有料メルマガをやる」と宣言して実際に読者を集めてポリタスを作った津田大介さんの事例もありました。あまりに近すぎて書き漏らしてしまっていたので、ここに追記します。

実際に支援を目的に購読されていた方も多く、「ゼゼヒヒ」「ポリタス」のローンチ時にはメルマガ読者限定でβ版サイトを公開するなどの試みも行われました。

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立薗理彦(たちぞのまさひこ)
スタジオピグボ

「ナタリー」「ゼゼヒヒ」「ポリタス」いまはこれ→「カラクリ合戦伝」(スマホ用リアルタイム・ストラテジー・ゲーム) https://yoyaku-top10.jp/u/a/MTgwNzA