Takram
Takram Stories
Published in
14 min readFeb 6, 2020

--

Takramの文化や組織デザインを紹介する「Making of Takram」シリーズ第2弾。今回は、Takramがこの数年をかけてつくってきたバリューについて。バリューを言語化し、その考え方を社内で共有することによって、Takramの働く環境はどのように変わってきたのでしょうか? 中心となってバリューづくりを担ってきた「People and Organisation」部門の阿野理恵、ディレクターの田川欣哉、佐々木康裕の3人が、Takramが大事にする「働く」の価値観について話しました。

佐々木康裕 (Yasu)前回は、会社のバックオフィスという部署をなくして、新たに「People and Organisation」(PO)という組織をつくったこと、Takramではバリューに沿ったかたちでさまざまな制度をつくっていることをお話しましたが、今日は欣哉さんも交えて、「そもそもTakramのバリューって何なんだっけ?」というところを中心に話ができたらと思ってます。

会社のビジョンについては、結構長い間議論をしていますよね?

田川欣哉 (Kinya):ミッションを考え始めたのが3年前くらいだよね。「Design to Discover and Deploy Value」、つまり「世の中にない価値を見つけ、それを実装すること」というのがTakramのミッションになっています。

これは「新しいものをつくって変化を起こしていく」という社会に向けたメッセージでもあるし、「自分たちの仕事の在り方や役割も、世の中にまだ発見されてないようなかたちでありたい」という自分たち自身に向けたメッセージでもあります。言葉を磨くのには結構時間がかかったけれど、いったん決まると「これかもね」と定着しましたよね。

阿野理恵 (Rie):そうなんですよね。決めた瞬間に、みんなすっと納得して。

Kinya:それがミッションで、バリューはほぼ出揃っているけれど、目下議論中。この議論自体がおもしろかったりするので、永遠の議論中になるかもしれなくて。

Yasu:最終的にいくつになるかは決まっていませんが、いまのところ「Learning Organisation」「Collective Openness」「Pendulum Thinking」「Thought Leadership」「Power of Making」の5つですよね。

Rie:このバリューに関しては、プロジェクトリーダーやエキスパートの人たちを含めてみんなで議論をしながら磨き上げていきましたが、わたしもそこに参加させてもらっていて。「自分たちがいまどうあって、今後どうありたいのか」という議論が深くできたことは、すごく良かったなと思っています。

Yasu:それまでTakramにはミッションやバリューがなかったんですが、ある時点で「ミッションをつくろう」となったんですよね。

Kinya:もともとTakramはバリュードリブンの会社だなとは、ずっと思っていたんだよね。「学び」や「好奇心」を共通の価値観としてもっている人たちが一緒に仕事をしているな、という意識はもっていたんです。それから人数が増えくるなかで、Takram Londonのウッシー(牛込陽介)が「ミッションほしいよね」と提案してくれたんだよね。

仕事をするうえではやっぱりいろんな人を巻き込んでいかなきゃいけないし、特にイギリスだと「何のために仕事してるの?」と新しく入るメンバーから頻繁に聞かれるから。そこで「あらためてミッションを考えてみませんか?」って提案をしてくれたのが、3年くらい前。それは東京オフィスでも人数が増え始めたフェーズだったから、あらためて自分たちの価値観を言語化できたのは良かったと思いますね。

Rie:制度を考えるうえでも、バリューの言語化ってすごく大切なんですよね。

Yasu:理恵さんはこの5つのバリューを見ながら制度を考えたり、チューニングしていったりしているんですか?

Rie:そうですね。バリューが言語化されていることで、「なぜこういう制度があるといいのか」ということについて、お互いに共通認識をもったうえで議論が進められるようになるんです。

Kinya:Takramでは制度の概要がすべてNotionにまとまっているけど、「その説明文の最初に必ずバリューを引用しよう」ということを渡邉(康太郎)くんが言い始めてくれて。それは実直にやっているよね。

Yasu:たとえばブックパーチェスの制度は、「Learning Organisation」のためであり「Thought Leadership」のためでもある。それから最近始まった「Mark@」と呼ばれるTakram内部の研究活動は、「Thought Leadership」や「Power of Making」の考えから生まれていますよね。

Kinya:「Mark@」もけっこう時間をかけてつくったよね。「Learning Organisation」を実現するためにTakramは「越境」という考え方をもっていて、隣のエリアにジャンプすることでゼロから学ぶということを繰り返していく。でもそれと同時に、ひとつの領域を深く掘っていきたいという欲もみんなから出てきたんですよね。

やっぱりグラフィックデザイナーは「グラフィックデザインをもっと深掘りたい」と思うものだし、テクノロジストは「最新のテクノロジーに常に触れておきたい」と思う。つまり越境すると同時に、自分の専門領域のなかにおいても先端にいたいと。

この「Mark@」をPOチームが準備してくれて。そうやって枠組みをつくり、みんながそれを使ってくれる状況をつくることで、Takramのコアバリューを実現できるようになっている。振り返ってみると、バリューが言語化されて骨組みがしっかりしたことで、そこにぶら下がる制度設計の速度はむちゃくちゃ上がったよね。

Rie:そうですね。これらのバリューに対して何ができているのか、できていないのかを議論できるようになったと思います。Takramではいま、20〜30の制度や取り組みがありますが、こういう制度も必ず社員の誰かが言い出して、かたちになっていくんですよね。

Kinya:そう、言い出すんですよ。そうやって言い出す人はやっぱり現状に違和感をもっている人なので、そうした意見にどれくらい聞き耳を立てられるかっていうのが懐を試されるんですけど(笑)

いつも思うんだけど、少数の人たちがもっている違和感って、周りから見るとちょっと進み過ぎているように映ってしまう。でも2〜3年後に振り返ってみると、そうした違和感が時代を先取りしていることも多いから、聞いた瞬間は「そこまでやる必要ある?」と思っても、誰かの違和感は大切にしていかないといけないんですよね。

Rie:そうですよね。だから「意欲がある人のことは応援しよう」という姿勢で考えることから、いい制度ができていくのだと思っています。

Yasu:バリューもこうやって長い時間をかけながらつくられていて、あらためてPOの重要性を感じるんですけど、振り返ればいつも対話のハブの存在として理恵さんがいてくれて。リーダー層で議論をしているときにも、理恵さんが「いや、こういう声もあって」とか「実はこういう側面もあって」と、いろんなパースペクティブを議論の場に投げかけてくれる。それがあることで制度やバリューも、さらに磨きがかかっていると思います。理恵さんは、いろんな人とすっごい話していますよね。

Rie:話していますね。これからTakramの人数が増えていっても、気軽にいろんな要望や意見を言ってもらえる存在でありたいなとは思います。Takramのメンバーはそれぞれ携わってる業務内容も違うので、やっぱり見えている世界や感じていることも人それぞれ。そうしたさまざまな考えをまずは受け入れて、議論のテーブルに乗せるのは大事だと思いますね。

Yasu:Takramでは起きることの多様性がすごくあると思っていて。越境する人が抱えている大変さも、深堀りしたいけどできていない人が抱えるフラストレーションも、チームマネジメントを初めてやる人が感じる難しさもある。画一的な事業をやっている会社に比べて、Takramでは都度都度いろんなことが起きている。それに対して改善を重ねていきながらより良い組織にしていく、という楽しさはあるかもしれないですね。

Kinya:POが担当している制度設計は、扇の要のようなイメージで。ピンで留まっている箇所があるからこそ、羽がいろんな方向に広がっていくことができる。そうやって中心を押さえながらもみんなが発展させられる余白のある、具体と抽象のちょうどいいバランスをどう枠組み化するのか、ということもTakramの制度づくりにおける特殊なところだよね。あんまり抽象度が高すぎても掴めないし、具体的すぎると広がりがなくなってしまう。

Rie:もうちょっと業務が類型化できる会社だと、PO側からパッケージされた研修を提供することもできるかもしれませんが、Takramでそれをやると、「そうじゃない」とみんなから言われてしまう(笑)

Kinya:みんな日々の仕事で課題解決や仕組みづくりをやっている人たちだから、自分たちが使う仕組みがいい加減だと怒られちゃうんだよね(笑)

Kinya:オーガナイゼーションデザインの観点で言うと、POでやっていることはデザインの対象が「Takramという会社」になっていて。だから、制度をつくるときもプロトタイピング思考だよね。理恵さんも、つくったと思ったらやめることも多いじゃないですか。

Rie:そうですね。みんなに「こういう制度を始めますよ」って言うときも、必ず「プロトタイピングなので」ということを前提にするようにしています。使いながら磨きをかける前提で、「みんな必ず意見してね」と併せて伝えていますね。

Kinya:そこがいいよね。制度って、1回リリースされちゃうとその制度自体が前提となっちゃって、起こった副作用に対して対応できないことも多いじゃないですか。でもTakramの場合は、柔軟すぎる柔軟性をもって常に変わり続けることができる。

Rie:「ここ変わりました」みたいなのがわりと頻繁に起きるので、キャッチアップはちょっと大変かもしれないですけどね。

Kinya:果敢に投入して、あんまり効果がなければ引くし。大半のものはまぁまぁいいけど、すごくいいってところまでいくのに3回くらいは磨きが必要で。その磨きのトリガーになっているのは、やっぱりメンバーから来る違和感なんですよね。そう考えると、B2Cでサービス設計をするのと一緒なんだなって思う。

Yasu:MVP(Minimum Viable Product)を投入して、テストして改善をして、という感じはありますよね。ブックパーチェスも、最初はただ「こんな本読んでます」ということをSlackでシェアするだけだったんだけど、そうすると他の人が何を読んでいるのかが可視化されて。すると「おもしろそう! おれも読む」と乗っかる人が出てきたり、「こっちもオススメだよ」と会話が生まれたりして。そうしたインタラクションは、始めたときにはあんまり予想していなかったんですよね。

それからブックパーチェス用のフォームをつくって、そこに投稿するとSlackに自動的につながるような仕組みもできてきた。そうした細かいチューニングが、ブックパーチェスの制度をより充実したものに変えてくれたと思います。

Kinya:しかもだいたい途中から、「おれにつくらせろ」っていうやつが出てくる(笑)。そうやって翻訳機能が追加されたりすることで、どんどん制度が改善されていくんですよね。

Kinya:コアバリューのなかでは、「Learning Organisation」系の制度はけっこう揃ってきていて。最近だとディレクターのなかで本を書く人が増えているから、「本を書くということ」をテーマにT2Tをやろうという話にもなっていたよね。逆にもうちょっと付け加えたいのは、「Collective Openness」。これはカルチャーをつくる幹になるところだけど、まだ制度っぽいものはないですよね。

Rie:ないですね。

Yasu:そうやってバリューが言語化されていることで、「ここをサポートする仕組みはまだないな」という見方ができるようになりますよね。

Kinya:「Collective Openness」はけっこう難しくて、単純に「多様なバックグラウンドの人が仲良く一緒に仕事しようね」というだけの話ではなくて。特にクリエイティブの話になると、個性も大事だけど、同時にチームでやっているからメンバー同士のせめぎ合いも当然出てきたりする。その個人とチームのバランスをどう保っていくかを考えるためには、けっこう際どい議論も大事なんだよね。

なので「Collective Openness」については、制度をつくるほかにも、ちょっとしたワークショップやアクティビティのような、チームで働くことの理解を深めるための取り組みをやってみるのもいいかもしれない。この間、尾原和啓さんがオフィスに遊びに来てくれたときに、チームビルディングのクイックワークショップをやってくれたんだよね。2人1組になって、1人が相手に背を向けた状態で立ち、重力に任せて倒れる。「倒れるよ、いいですか?」「安心して倒れてください」と互いに確認をしたあとに、実際に倒れてキャッチするっていう。

Rie:おもしろい。

Kinya:それを1回やってから、どうすればより良い倒れ方やキャッチの仕方ができるのかを相談して、もう1回やってみる。そのセットを何度か繰り返してみる。「これがチームワークの基本です」と、尾原さんは言うんですよね。

Rie:そうやってチームワークもブラッシュアップされていくんですね。

Kinya:そう、されていくんだよね。こういうアクティビティはまだやったことがないので、「コレクティブに働く」というところをさらにサポートできるようになると、Takramのチーム力もさらに上がっていくのかなと思っています。

この記事の感想は、#TakramStories までお願いします。また、このコンテンツは Takramcastでもお楽しみ頂けます。

--

--

Takram
Takram Stories

Design innovation firm with studios in Tokyo, London and New York