#331THINGS: クルマをぶつけられて、廃車になった話

Taro Matsumura 松村太郎
@tarosite
5 min readMay 31, 2018

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そろそろ半年が過ぎ、ショックも癒えてきたので、ささいなものごととして記録しておこうと思います。

去る12月、家の近所にある公園の目の前に停めてあったクルマがぶつけられてしまいました。ぺっしゃんこになった相棒を前に呆然としていましたが、日本に帰省する前日のできごとだったこともあり、なんとかその日のうちに修理工場に入庫しなければなりませんでした。放置していたら、動かない車でも駐車違反になりますからね。

ぶつけたのは40代の女性で、私が発見したときそこにはいませんでした。近くでその光景を見ていた中華系の女性が「フォードのSUVがものすごい勢いでぶつかって、逃げていったわよ」と興奮気味にまくし立てます。でも、その臨場感は余計というものです。心が痛むだけでしたから。

ただ、当て逃げではない、と思いました。というのも、ぺしゃんこになったボンネットのすぐ脇のワイパーに、名前、保険会社とその番号、電話番号が書かれたメモが挟まっていたからです。程なくすると、そのフォードのオーナーが帰ってきました。

最近のクルマは頑丈というべきか、思い切り後退でぶつかってきた相手にはバンパーにかすり傷がある程度でへこんでもいなかったのです。それに引き換えうちの相棒ときたら……まあ前方の衝突安全性を考えると、そうなるようにできているのは分かるのですが、それにしてもあまりの違い。

ご本人が話すには、愛犬がクルマの窓から飛び出して他のクルマに引かれそうになり、気が動転してオートマティックの「R」レンジのままアクセルを踏み込んでしまったそうです。彼女の愛犬は無事だったのは不幸中の幸いでした。しかしうちの相棒ときたら……。

「愛車」と言わず「相棒」と呼ぶには理由があります。そもそも米国に来たとき、クルマを買うつもりがなかったからです。

7年前、カリフォルニアのシリコンバレー周辺に引っ越してくるにあたり、どの街に移り住むか、という選定を行いました。テクノロジー企業の近くに身を置くならマウンテンビューやパロアルトといった年が良いわけですが、以前訪れて、「基本的には何もない場所」であることを知っていました。

東京から移り住む上で、歴史を米国に求めるのは酷かも知れませんが、多少の文化やおいしい食事、面白い自然などが身近にある場所が良い、と思いました。そしてもう一つの要素は、クルマなしで暮らせる、ということでした。まあそれは過信だったのですが。

バークレーにはサンフランシスコや空港に続く都市間高速鉄道BARTが通っており、また路線バスも比較的充実しています。地元の商店でも、新鮮な食材が手に入ります。しかし休日になると、それらの本数は絞りに絞られ、身動きができなくなってきます。例えばシリコンバレー方面に行こうものなら、乗り換えごとに1時間待ちを覚悟する始末。

2011年11月の感謝祭の休日で懲りて、すぐに見つけたのが相棒だった、というわけです。仕方なくみつけて手に入れたわけで、そうした相手に長く連れ添ったからといって「愛車」と呼ぶには失礼じゃないか、と思ったわけです。

日本滞在中、修理工場からの連絡では「Deemed Total Loss」というフレーズが告げられました。全損と見なす、ということですね。つまるところ、廃車です。

もちろん相手の保険ですべて保証されることになりますが、日本からの帰省から帰ってきて、早速クルマがない生活を余儀なくされ、普段ちょっと足を伸ばしていく日本食スーパーにすら行けないという不便を強いられることになりました。それ以上に、突然の相棒との別れは、なかなか受け入れがたいものがあります。

相棒はさほど売れ筋の車種ではなかったため、同じ年式や走行距離の中古車の市場価格が高止まりしていました。これで次の車を探すことができます。7年間の米国生活を豊かにし、去り際までも助けてくれる。感謝してもし尽くせない相棒は、いまでは片思いの相手となりました。

日々の生活の中で、「ささいなものごと」を貯めるのは、良くありません。適度にデトックスしていると、見過ごしていた気づきにめぐりあうこともあり、ちょっと得した気分になります。そんな、たいして大切ではものごとの話です。

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Taro Matsumura 松村太郎
@tarosite

Journalist/author covering tech, edu, and lifestyle. ジャーナリスト・著者。iU 情報経営イノベーション専門職大学専任教員。キャスタリア取締役研究責任者。Tokyo JP✈Berkeley CA http://forks.tokyo/