中国のモバイル決済 マイクロサービス産業の起爆剤に

Tech in Asia JP
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8 min readNov 9, 2017
スターバックスにて。中国のWeChatを利用した決済を行なっている。
写真提供:Tencent

おそらく、「パクリの国」として知られている中国であるが、バイクシェアリングやミニチュアカラオケブーツに見られるように、新たなビジネスモデルを生み出すことにおいては極めて優れている。特にフィンテック分野では、迫り来るキャッシュレス時代の姿を中国人起業家が世界に指し示しているほどだ。

iResearchの研究によれば、2016年には、中国のモバイルペイ業界は約880兆円へと、想像を絶する規模に達しており、今年の末には約1400兆円にまで跳ね上がると予想される。さらに、2019年までに中国のオンライン決済の85パーセントがモバイル上で行われるようになり、残りの15パーセントは、パソコンないしタブレットでの取引となると想定されている。

しかしそれは、中国におけるモバイル機器の普及率を考慮すれば当然の話だ。中国では2016年の時点で、すでに95パーセント以上のインターネットユーザーがモバイル端末を使用し、オンライン接続を実現していたのである。

参照:WeChatがいかにしてAlipay最大のライバルになったのか

モバイルペイが我々にもたらす恩恵は非常に大きい。お釣りのやり取りをする煩わしさがないのであっという間に決済が完了し、便利である。しかし、ATMを介したモバイル決済方法を選択する中国人客が増えるにつれ、今までにはなかったお金の使い方(または稼ぎ方)をする人々が現れ、そこに新しいビジネスが生まれている。注目したいのは以下の5つだ。

位置情報フリーランサー

スマートフォンはいつでも我々の味方であるという点で魅力的だ。要するに、モバイル決済は新たな位置情報サービスのホスト役になり得るということだ。

例えばAlipayでは、写真家、ベビーシッター、ジムのインストラクターなど、近くにいるあらゆるフリーランサーを見つけられる。自分の位置情報を投稿したり、申請を送ったり、「報奨金」を受け取ったりすることも可能だ。

ここでは、リクエストを送るだけで様々なことが行われる。荷物の受け取りや配達もできるし、食料品を購入し、オフィスに届けることもできる。誰かと映画館デートに出かけることだってできる。誰だってボランティアとして誰かの役に立つことができ、報酬を得られるという仕組みだ。この「報奨金」の限度額は約3000円に設定されている。

100円以下でお使いを頼んでいる場面(花や朝ごはんを買って届けるなど)

ある中国人ブロガーは、「トイレットペーパーを持ってきてもらうためだけの理由でこのサービスを使うことだってできるんだ」と述べている。一見馬鹿げているが、アリペイの位置情報機能があれば、上記のような些細なことすら実現できてしまうのだ。

有料のグループチャレンジ

くだらないことをやってのけるのに他人からの圧力など必要ない。でも賭け金を増やせるといったらどうだろう?例えば、5000円賭けるとしたら?おそらく勝率は格段に上がるだろう。

WeChatのオフィシャルアカウントである「ナレッジサークル」のユーザーは、WeChatの決済システムを利用してまさにそのようなことを実行できる。

アカウントの参加者はタスクを達成すると、タスク完了の証拠を見せなければならない。それは宿題を撮影したものかもしれないし、ジムで撮った自身の写真かもしれない。毎日のタスクを達成できない日が続くと(達成度の基準はグループの主に委ねられる)賭け金を失うことになり、タスクを最後までやり抜いた人にお金が渡る。

ナレッジサークルは教育目的でデザインされているので、インストラクターやトレーナーが自分自身のグループミッションを作り、タスクを設け、メンバーにエントリー料を課すこともできる。

中国語学習チャレンジのためのグループ。参加をする場合は200元(約3000円)を支払う。

コンテンツにもチップを

チップという概念は以前から存在するが、中国でその熱気が高まり始めたのは記憶に新しい。中国ではウェイターやドライバー、バリスタなどのサービス業に従事する人々にチップを払う習慣がないからだ。

とりわけ最近では、ブロガーのような中国のオンラインコンテンツのクリエイターには記事に対してチップが支払われるようになってきている。WeChatではそれが特に一般的になっており、記事の最後にミニプログラムと呼ばれるものやQRコードを載せるだけで、ライターは寄付金を募ることができる。

チップは強制的ではないという点で持続可能なビジネスモデルだとは言えないが、広告やペイウォール、有料会員制等に頼らずにお金を稼ぐ方法の一つとして成り立っていると言えよう。

現時点でWeChat側はコンテンツを通じて発生したチップに対しては手数料を設けていない。2月にはペイウォール機能が実装されるというが立っていたが、今のところはアップデートの目処が立っていない模様だ。

WeChat上で有名なテックブログ「Keso」はチップを受け取るために1年で3つの方法を繰り返し試している。上記の写真における左側のQRコードはユーザーに支払い金額を決めてもらうもの、中間にあるのは定額を設定したもの、そして右側はチップのためのミニプログラムに誘導するものとなっている。

知識経済

もし大好きな有名人に質問ができると言われたら、あなたはお金を出すだろうか?

このアイディアはFendaと呼ばれるサービスを生んだ。有料で有名人に質問をし回答を得られることが魅力である、WeChatアカウントを通じて利用するアプリだ。昨年夏にローンチされた時、Fendaのユーザーがお金を支払ってボイスメッセージの形で質問を投稿したり、他の回答を「盗み聞き」したりすることができる機能が搭載されていた。

中国の富裕層ビジネスマンの息子Wang Sicong氏がこのサービスを通じて約3千万円も稼いだことは有名な話である。彼はセックスライフに関することまで様々な質問に答えたという。

このアプリケーションは有名人のゴシップよりも専門的なアドバイスを重視しており、ユーザーは弁護士や精神科医など、専門家からの助言を請うという目的で課金をしている。「オピニオンリーダー」が質問に答え、生放送のレクチャーを収録し、ポッドキャストで手軽に番組を始めることによって収入を得る。ここに中国の新たな知識経済における興味深い点があると言えよう。

マイクロレンタル

位置情報フリーランスと同様、マイクロレンタルサービスも中国において非常にうまく機能する。それもひとえにスマートフォンの存在が大きい。マイクロレンタルでは位置情報の記録、決済処理、そしてレンタル品返却日時のリマインダが行われる。日用品をサービスに変身させてしまうというツールだ。

参照:自転車シェアリングの後に流行る中国スタートアップはこれだ!

今年爆発的に拡大を見せたレンタルサービス。中国の自転車シェアリングは今では中国のあらゆる都市で利用されるようになり、海外にも進出している。

バスケットボール、傘、モバイルバッテリーからアダルトグッズの貸し出しに至るまでが、モバイル決済機能、QRコードとの連携、そしてスマートフォンが世の中に浸透している事実との調和のもと、体現されている。

中国杭州市にある傘のシェアリングスポット。写真提供:Tech in Asia

通貨は中国人民元より換算:100円=6.64

*為替レートは1ドル100円で換算しています。

編集:Eva Xiao
原文
訳:Mari Sunahara

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