今アツいのはどんな業界?

インドのVCファンディング情報2017(infographicあり)

Tech in Asia JP
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10 min readNov 9, 2017

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2017年の第三四半期に発表されたベンチャーキャピタルによる数々の投資案件から判断すると、世界中のスタートアップ企業や投資家たちはついに資金調達の厳しい冬から抜け出したと言える。

オルタナティブ資産を扱うインテリジェンス企業のPrequinによれば、2017年第三四半期、2,362件のベンチャーキャピタルの投資案件が、約4兆9,000億円という累計投資額とともに全世界で公開された。投資額の割り当ての大半はアジアのテック企業に渡っている。

•東南アジアにおける配車サービスの大手であるGrabが中国のDidi Chuxingや他の投資家とともに約2,000億円の投資案件を手にした。
•中国のToutiao、さらに約2,000億円をGeneral Atlanticより調達した。•SoftBank、インドのFlipkartに約1,500億円を投資。Tencent、Microsoft、eBayが約1,400億円をeコマース企業につぎ込んだ直後であった。
•OlaもSoftBankと他の投資家より1,100億円の資金調達を行なった。
•aytmも同様、およそ1,400億円をソフトバンクより調達した。

インドのテック企業が調達した資金は2017年最初の9ヶ月で約9,600億円・574案件を超えている。これはSoftBankの三案件によるものが大きいだろう。

だが、業種ごとにスタートアップの風向きを示唆する早期投資の方はどうだろうか?Tech in Asiaはスタートアップ企業と投資家をつなぐプラットフォームを運営するインドの LetsVentureに話を聞いた。

Kathrinna Rakhmavika(オリジナルイラスト):Tech in AsiaMatahari Indonesia(更新版)

直近6ヶ月の間に、LetsVentureは資金調達を試みるインドの駆け出しスタートアップ企業を約1,000社にわたって調査し、第三四半期の早期投資の取引数が第二四半期のものに比べ25%減少していることに着目した。

LetsVentureは、Tech in Asiaのみに向けて発表された報告の中で、第二・三四半期の、取引額約1,500万円から約1.5億円のうち全ての早期投資案件についての調査を行なった。

とりたてて驚くようなことではないが、今アツい業界、言い換えるならば、最もディール数の多い分野はヘルスケアとフィンテックだということがわかった。

ヘルスケアとフィンテックはともに、インドの早期投資案件の19%を占めている。企業アプリケーションが8.8%と、件数は3番目に多いが、投資案件の平均額はヘルスケアスタートアップの約7,430万円・フィンテックの約5,510万円を上回って約8,000万円となっている。

緑色のグラフは2017年第三四半期のアーリーステージファンディングを示しており、灰色のグラフは第二四半期のものを示している。

最新情報

第二四半期に比べ、第三四半期では、投資家が企業アプリケーションの開発を手がけるテックスタートアップにより関心を示している。

この業界で最も資金調達をしたスタートアップはこちら:

  • InnovapptiveがHyderabad Angelsより約1.5億円を調達
  • VidoolyがGujarat Venture FinanceとTimes Internetより約1.4億円を調達
  • Goodbox がNexus Venture Partners と エンジェル投資家のMekin Maheshwariより約1億円を調達

企業アプリケーションは、大きな組織において生産性と効率を向上させる数々のテック製品を含む。例えば、ビジネスインテリジェンス(BI)や企業資源計画(ERP)、顧客関係管理(CRM)、経理、サプライチェーンマネジメント(SCM)、そしてプロジェクト・ポートフォリオマネジメントを行う上で効果があるものだ。Statistaによれば、エンタープライズ向けソフトに対する費用は2017年末には約35.1兆円を記録すると予想されている。

ほとんどのスタートアップ企業はSaaSモデル(software-as-a-service)を採用している。2010年よりインドの6,100のSaaS企業が著しい成長を見せ、VCインテリジェンス企業のTracxnによるとそのうちの630社は外部の資本投資より1,980億円を調達した。インドのSaaSスタートアップ企業には、豊かなテック人材プールに高い資本効率など「不当だとも思えるほど有利」な条件が整っており、彼らはその恩恵を大いに受けている。

参照:インドSaaSスタートアップ 不当とも取れるその優位性とは

「インバウンドマーケティングないし内勤型営業のモデル(ほとんどの販売がネット市場のみでなされている)を用いて、顧客による購入の意思決定がなされるが、これは彼らが製品をどう受け取るか、どのような経験を持つかなどで決まる。顧客を説得して製品を購入させるような方法ではモノは売れない。」 と、OrangeScapeの創立者でありCEOであるSuresh SambandamがTech in Asiaに語った。

お金の威力

LetsVentureが所有するデータによれば、フィンテック分野では、早期投資の第三四半期の取引数が第二四半期に比べ減少している。しかしそこには、データをさらに深掘りしていくための十分な動きが見られる。

インド政府はフィンテックスタートアップ企業を刺激する政策として、2016年11月9日に突然、通貨廃止の動きを見せた。高額紙幣である500ルピー(約750円)と1,000ルピー(約1,500円)が廃止されたことで、インドの国民はデジタル経済への参入を余儀なくされた。

参照:有力な後ろ盾Alibabaを得たPaytm 儲かりすぎて止まらぬ笑い

「世界的に見ても、通貨廃止ほどに大きな財政システム関連の混乱は起こっていません。」とデジタルペイの専門家であるMonica Jasuja氏が自身の論に理由を引用をする形で述べている

インド国民のための電子ID制度であるアドハー(Aadhaar)の推進もフィンテックのスタートアップ企業を後押しする要因となっている。

VCデータベースを提供するCB Insights による業界マッピングでは、融資、決済、保険、銀行サービスに取り組む72のスタートアップ企業が記載されている。

LetsVentureの発表したデータによれば、フィンテック分野で最も多額の資金調達に成功した早期投資スタートアップにおいて、この分野での早期投資案件のうち67パーセントが一般消費者向けのフィンテックスタートアップになったとしている。

PWC Fintech trends report 2017によると、「インドはフィンテックプロジェクトの投資において29パーセントという高い期待リターンを提示しており、それは世界平均の20パーセントを上回っている」ということだ。

さらに「決済事業は、通貨廃止の流れに乗り、インドのあらゆるフィンテック事業の中で最も資金提供を受けている部門だ。しかし、B2Bプロダクトを含む銀行のテクノロジーソリューションも大きな発展を見せており、エンドユーザーに向けた金融機関によるシームレスなソリューション提供をも可能にしている」という旨が報告されている。

写真提供:PWC Fintech Trends 2017 reportより

健康は宝なり

第三四半期のヘルスケアは第二四半期に比べて大きな動きさえ見せないが、業界全体では依然としてトップに君臨している。一次医療単独では約4兆円の市場になると想定されている。「約6兆円市場の二次医療と三次医療もオンラインでの普及が進んでいる。しかし我々の推定では、オンラインヘルスケアにおける支出は現在ではたった約50億円から60億円にしか達していない。」そう述べるのはStellaris Venture Partnersの共同創業者であるRitesh Banglani氏だ。さらに「ヘルスケアのオンラインサービスはまだまだ小規模だ」と付け加えた。

Banglani氏は医療技術会社 mFineの役員で、数ヶ月前、ヘルスケア起業家であるStellarisのMayur Abhaya氏やRohit MA氏とともに約1.5億円を出資した。2017年2月にmFineは患者と医者を結びつけた遠隔操作による診断に成功している。9月には、スリランカ発信の類似アプリケーションoDocも約1億円の開業資金の調達に成功した。

医療助手サービスのCredihealthがTolaram GroupとMountain Pine Capitalから約1.5億円を調達し、メンタルヘルス企業のWayForwardがエンジェル投資家より約1億円を調達するなど、ヘルスケア部門ではmFineの他にも、上記で記載されているインドの企業2社が早期投資での資金調達を成し遂げている。

思考のための食品

直近の6ヶ月を振り返ってみると、フードテックのスタートアップが投資家の興味を引くことはそれほどなかった。7パーセントあまりの早期投資案件が見られたくらいだ。資金調達に成功した若手のスタートアップ企業はディール規模の平均である約6,690万円を調達した。その4分の3の企業は顧客対応ビジネスであった。

約1億円の資金調達に成功したフードテックのスタートアップは以下の3社だ:ジュースブランドの Mygreens、高級茶販売を行うThe Good Life Company、そしてオンラインでの食料販売を行う MrNeedsである。

教育分野でも、約4,270万円という取引規模で資金調達の動きが少しではあるが見られる。 Michael and Susan Dell Foundationや Mahindra Groupの議長である Anand Mahindra氏は、グルガーオンを拠点とするスタートアップのNest Educationに約6,250万円の投資を行った。ジャイプルを拠点とした学校管理のアプリケーションを運営する Mylyは約3100万円をSmall Industries Development Bank of Indiaより調達した。教育分野の他にもリテール、AI、観光、ファッション、そしてIoT分野がLetsVentureにより報告されたレポートに挙がっている。

※この記事はLetsIgniteでのTech in Asiaによる取材の一部です。LetsIgniteとは、LetsVenture主催のもとバンガロール、ムンバイ、デリー3都市にわたり、起業家・スタートアップ企業のために開催されるイベントです。20万ドル~150万ドルの資金調達は、こちらよりお申し込みを

*為替レートは1ドル100円で換算しています。

編集:Malavika Velayanikal
原文
訳:Mari Sunahara

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Tech in Asiaは、アジアに焦点を当てたテック情報やスタートアップのニュースを提供し月間1000万PVを誇るメディアを運営。毎年アジア最大級とされるカンファレンスをシンガポール・東京・ジャカルタの3都市にて開催、累計参加者は1万5000人以上。シンガポール本社を2011年に設立(日本支社は2014年)。