WeWorkの共同創業者の葛藤 お金か、それとも使命感か

Tech in Asia JP
Tech in Asia JP
Published in
11 min readNov 9, 2017
WeWork 共同創業者の Miguel McKelvey氏 写真提供: Tech in Asia.

コワーキングスペース運営で知られるWeWork が著しい成長を見せている。グローバル市場における急速な展開を繰り広げる中で、彼らの企業理念はどのように実践されているのだろうか。

WeWorkはSoftbank Groupから約4,400億円の巨額投資を受けることを発表し、Hony Capitalと提携をした。さらに、東南アジアへの拡大を目的としてシンガポールのSpacemobを買収した。

今年6月、インド参入のためにバンガロールを拠点とするEmbassy GroupのJitendra Virwani氏と手を組み、Galaxyと呼ばれる映画館を145,000平方ものコワーキングスペースに設計し直した。

ムンバイのビジネスハブであるBandra Kurla Complexにはより一層大きな、190,000平方ものオフィススペースが出来上がる予定で、さらに年内には、Embassy Golf Links IT park とバンガロールの Koramangalaでもオープンが予定されている。2018年初めにはデリー近郊のテクノロジーハブであるGurgaonにもオープンする。Virwani氏は、向こう4年でインドに600万平方のWeWorkのオフィススペースを作り上げることを目標としている。

WeWorkの共同創業者であるMiguel McKelvey氏は同社のCCO (chief culture officer)で、ユニコーン企業として引き続き成長に焦点を当てたいと考えており、彼は「私たちは、どれほど資金調達をしたか、どれほど投資しているか、どれほどビルを持っているかということで自分たちを評価しているのではありません」と語っている。

すらっと背が高く、カンナダ語がプリントされたTシャツを着こなすそんな彼は、アメリカの北西オレゴン州のヒッピーコミューンで育った。さらに、幼少期をイスラエルで過ごした共同創立者であるAdam Neumann氏と共同体での生活を共にしている。よって、「共同体」というのは、2010年当時WeWorkのサービスを開始した際の、彼らのコアとなる考え方なのである。

McKelvey氏は続けて以下のように述べる。

「この会社を立ち上げたのは、世界で何かが変わりつつあると考えていたからで、インドはまさにそのいい例でした。インドでは仕事の外で求められていることが少しずつ移り変わってきていた。」

さらに、「これがまさに我々が考えている『変革』なのです。我々はこの考え方によって自己評価を行なっており、そこにたどり着くことができるまでずっと投資を続けていきます」と述べた。

彼らの挑戦はインドにおけるWeWorkの共同出資者であるJitendra Virwani氏とその息子 Karan Virwani氏との会話の中で明らかになった。「財政目標の達成」と、インドのシリコンバレーことバンガロールにおける「コミュニティーを作り上げていく為に不可欠なこと」とのバランスをとるのは大変困難であるようだ。

WeWork の共同設立者 McKelvey氏とthe Embassy Group のJitendra Virwani氏 (右) と Karan Virwan氏i(左). 写真提供: Tech in Asia.

企業の歪み

インドの駆け出しスタートアップ企業であればWeWork Galaxyのオフィススペースを利用することに少し躊躇するであろう。というのも、WeWorkの次の進出先であるバンガロールのEmbassy Golf Links は、IBMやマイクロソフトがゴールドマンサックスやJPモルガンと肩を並べて仕事をする場所であるからだ。要するにバンガロールは、世界の大企業が集まるテクノロジーハブなのだ。

WeWorkが提供する雰囲気やサービス、その柔軟性に関心を抱く企業がますます増えてきている。アマゾンやマイクロソフトといった整った設備を持つ企業であっても、多様な場所で働けることの利便性を求めて、あるいはクリエイティヴなチーム作りのための新しいオフィスを求めてWeWorkでの席を何百も確保しようと夢中になっている。

「Golf Linksを一つの大企業に貸し出すことも可能であろうが、それはコミュニティビルディングを目指すWeWorkの理念にはそぐわない。」とVirwani氏は言う。「注意を払わなくてはならない。なぜなら、バンガロールのような町ではスペース全体を大企業に取られかねないからね。釣り合いが取れるように心がけている。40パーセントは起業家に、60パーセントは大企業に、といった風にね。」

「いや、むしろその逆なんだ」

とその言葉を遮るMcKelveyは、WeWorkをスケールさせ、世界各国でローカルパートナーと共に事業展開を行う際に生じる、お金とミッションの衝突を思い描いている。

「60パーセントか40パーセントか。どちらでもいいね。とにかくバンガロールでは、多くの企業はこのような建物の広いスペースを確保したがるので、気をつけなければならない。」と、Virwani氏は付け加えた。

「我々のマーケットはWeWorkをはじめとする他のマーケットよりも深刻な『企業の歪み』があります。」と息子のKaran Virwani氏がさらに話を続ける。

「この都市ではグローバル企業は急速に成長していて、彼らは、そのソリューションの鍵となるのがWeWorkだと考えています。彼らはWeWorkが10都市でどのようにして成長していくかを見ています。なので、世界的に展開をしている点で彼らにとってWeWorkは最高の企業なのです。しかし我々のコワーキングスペースにはインド企業のクライアントやスタートアップもたくさんいますよ。」

WeWork式の風土を作ることを現在進行形で行っていると、彼は語る。

「我々は経営者ではないし、ビルを貸し出すためだけの存在でもありません。WeWorkがグローバルな成長をしていくために企業1つ1つがが大きな役割を果たすことになるのは間違いありません。我々がどれだけ柔軟になれるのか、今現在は様々なモデルに取り組んでいるところです。」

McKelvey氏はさらに、WeWorkはニューヨークだけで30箇所、ロンドンで20箇所以上もの拠点を持つということを述べた。バンガロールを始めとして、需要に応じて他の都市でも同様に展開を試みている。立地によっては異なった価格で提供されることも予想される。だが、現時点ではインドのWeWorkスペースは一等地に限られていて、起業家コミュニティのエリアからは離れているのが難点だ。

「我々は支援に巨額の投資をしている。我々自身のビジネスモデルを達成するためにはもっともっと経験が必要なんだ。だから絶対に安直な解決策をとってはならない。」と語るMcKelvey氏。「向上心が強く、使用料を払うのを厭わない企業もある。彼らは、真剣にビジネスと向き合おうとしない人たちとは全く違う種類の人たちだと思う。」

グローバル展開のシナリオ、そして地域戦略

2010年にWeWorkを創業した時、まさに世界金融危機が起こった。地価が暴落したが、おかげで賃貸物件においてWeWorkに有利に働いた。今後このような景気後退が起きた場合でも、ストレスフリーな環境と讃えられるようなワークライフバランスが提供できていれば、それがたとえ最上級ランクのオフィススペースであっても借りてくれるかどうかということを考えていかなければならない。

香港のWeWorkタワー内の コワーキングスペース 写真提供: WeWork.

上記の理由より、WeWorkの急速な拡大はリスク緩和のためであるとわかる。分析によると、規模が大きければより有効で新しいオフィススペース活用の可能性が構築され、テックサービスを使った生産性の向上を図ることができ、そして様々な企業と提携できる機会を創出できる。WeWorkが順調にその規模を拡大させているのはそのデザインとリサーチにおける深い洞察力のおかげである。

WeWorkがインドに進出するのは時期尚早だといえる。なぜなら、どれほどWeWork Galaxyがスペース活用における戦略をうまく活用できていようとも、彼らのコミュニティの外はまだ発達段階にあるからだ。

「私はまだこの町のことをよく知らない。すぐに成果が出たのはローカルチームとの協力のおかげで、建物の中にいるメンバーだけでなく全体のエコシステムにまで目を向けてくれている。スタートアップやスモールビジネスの支援のための政府の取り組み、そしてその他の組織と関わりを持つことなど、様々なことに関してね。」

「ビルがきちんと機能しているときは、ぼくらのリサーチチームは後から介入することに決めているんだ。」

McKelvey氏は続けて述べる。「このサービスは、僕らに共感してくれる小さな起業家・スタートアップ、大きな企業の集まりだ。この二者がお互いに利益を享受することができる架け橋となれるよういつも僕らは考えている。400人で乗り込んで来るマイクロソフトのような企業があれば、それはコミュニティにとってとても大きなインパクトとなるから、その他の人々は彼らとの関係性をどう構築していこうかを見出そうとするだろうね。」

WeWorkのMD(merchandising)部門のChristian Lee氏は上記について詳しく述べている。「それぞれの都市や町はそれぞれ特有の要素を持ち合わせている。デザインとリサーチチームがやっているのは、それぞれのエリアにおいて、どうすればコミュニティが活性化し、人々がインタラクティブになるだろうか、ということを理解すること。会社が拡大するに従って、ビルごとに、そしてマーケットごとにこれを考察していかなければならない。」

「そういえば、外でコーヒーを飲みながらヴェーダの教えを説いて、瞑想の仕方を教えている男性に会ったよ。」Jitendra Virwani氏が一言付け足した。「彼はこのビルになんと2番目に登録したそうで、このビルの中で多くの顧客を集めたんだ。ここには本当に様々な機会があるんだよ。」

バンガロールのWeWork 写真提供: WeWork.

哲学的なワーキングスペース

WeWorkインド2.0が多様な地域に広がっていると言えるにはまだ程遠い。Karan Virwani氏はすでに、新興のテクノロジーハブであるChennai, Hyderabad, and Puneといった3つのインドの都市に展開するという兆しを見ている。最大の課題は、多様性を維持することである。なぜなら大手企業がオフィススペースを占有する傾向にあるからだ。

参照: Techstars、インドのバンガロールにアジア初拠点

上海を拠点に活動をするChristian Lee氏の仕事は資金と使命感、ビジネスと文化、そして収益と影響力のバランスが取れる、同じ意思を持ったパートナーを見つけることである。

インドのスタートアップがオフィススペースの価格に不満を感じている企業があれば、彼らはHive Workspace,や91Springboard、Awfis、またThe Hive等のライバルに自然と惹きつけられていくだろう。今のところWe Workの圧倒的存在感の右に出るものはないが、仮に大企業のみを相手にするようになれば、WeWorkはたちまち起業家精神に付いていけなくなるだろう。どれほどオフィス内の装飾が美しいとしても、透き通ったガラスのパーテーションがあったとしても、また、挽きたてのコーヒーの香り漂っていようとも。

*為替レートは1ドル100円で換算しています。

編集:Sumit Chakraberty
原文
訳:Mari Sunahara

--

--

Tech in Asia JP
Tech in Asia JP

Tech in Asiaは、アジアに焦点を当てたテック情報やスタートアップのニュースを提供し月間1000万PVを誇るメディアを運営。毎年アジア最大級とされるカンファレンスをシンガポール・東京・ジャカルタの3都市にて開催、累計参加者は1万5000人以上。シンガポール本社を2011年に設立(日本支社は2014年)。