本当にTEDは広めるべきアイデアを広められているか?

Mai Iida
TEDx Experience [日本語版]
5 min readNov 18, 2016

2016年10月、私はTEDWomen2016に参加しました。日本ではまだTEDの知名度がそれほど高くはありませんが、アメリカはTED発祥の国。そりゃアメリカ人のほとんどがTEDのことをご存知なのではないか、と思っていました。…大間違いでしたが。

TEDWomen2016初日。様々なアクティビティがある中、私はケーブルカーツアーに参加し、貸切のケーブルカーで他の参加者と交流しながらサンフランシスコの観光を満喫できました。

しばらく乗っていると、ケーブルカーの運転手(とても明るい30代ぐらいの女性)が、私たちに次の質問を聞きました。

これは一体なんの団体なんだい?

「私たちはTEDイベントの参加者です」と答えると、運転手が次のように答えました。

TED?何それ?

その時の私の顔といったら。

おそらくその答えは完全に私の予想外だったのでしょう。その時までは、なぜか自分の頭の中では全米でTEDが知られていて、特に発祥地のカリフォルニアでは誰もがTEDを一度は見たことあると思っていました。最初は、その運転手の彼女だけかと思いきや、なんとすれ違いの人にも、「TEDって何?」とつぶやかれたぐらいです。

そこで現実を痛感しました。そうだ、これがアメリカ社会に潜在する「格差」だ、と。

そんなことを考えて、TEDWomenが終わり、帰国したら… 今度はトランプ氏が大統領選で勝利。これもまたびっくり仰天。

TEDWomenに参加していた間は、誰もトランプ氏に投票する人はいないと思い込んでしまうほど、会場内の誰もが彼を批判していました(まぁ、もちろんTEDWomen自体、女性の権利を唄い、参加者の大半もとてもパワフルな女性たちの集まりだったので、そこのバイアスは強いですが)。そんな環境から帰ってきてこの結果なので、いろいろと気持ちがついていけなかったです。

選挙では西と東海岸の多くが民主党色に染まっていた一方、それ以外の地域は共和党の赤に染まっていました。これは単なる地域差なのか、それとももしかしたら他の要因… たとえば、ある一種の教育の格差を示しているのか?

今回の米国大統領選の様子を見ながら、TEDWomen期間中に出会ったあのケーブルカーの運転手や通りすがりに「TEDって何?」とつぶやいた人々のことを考えました。私の周りでは、多くの方がTEDのことをどこかで聞いています。それは友人からシェアされた動画を見たのか、学校の先生が紹介してくれたのか、何かしらの方法でTEDに出会っています。しかし、誰かに紹介される機会自体がなければ、TEDのことを知るなんてもちろんないでしょう。

それはつまり教育へのアクセスと似たようなものかもしれない。近年、オンライン教育などで教育を受ける方法が多種多様になり、より身近になったとも言えます。しかし、実際のところ、たとえ教育がいつどこで受けられるようになったとしても、その機会自体がなければそういうツールに触れることもないでしょう。大事なのは、教育への「チャンス」を与えることです。

では、「広めるべきアイデア」を紹介しているTEDは、本当にそのアイデアの数々を広められているのでしょうか?それともすでに教育を受ける「チャンス」が与えられたある限られたコミュニティの中だけで広まっているのでしょうか?

TEDトークの動画はすでに多くの方々にシェアされ、世界中で観られているので、このアイデアの数々は確実に広まっていると信じています。しかし、私たちの世界はとてつもなく広い。まだまだ道のりは長いと思います。

今、もしかしたら私たちは自分に似た環境や価値観の人々とのみ集い、異なる境遇の人とは交流を持たないのかもしれない。持たないのか、持てないのか、どちらかは断定できませんが。

「広めるべきアイデア」が本当に広まるには、すでにそのアイデアに触れた人々が、その他の人々をうまく巻き込み、その方々にもシェアし、彼らとも議論を深めるべき。TEDトークがあるおかげで様々なアイデアが世に知られることとなりましたが、これからは私たち次第。私たちがしっかりとアイデアを広め、普段なかなかこういう機会に恵まれない人々にしっかりと手を差し伸べ、その機会を与えていかなければなりません。私たちが広めるべきアイデアを広めていけば、きっとまだ残る社会課題の議論もより一層深まり、解決へと近づけるであろうーそう信じています。

あら、それはなんだか面白そうね。帰ったらすぐその動画を見て見なきゃ!

あのケーブルカーの女性は、結局帰ってから動画を観れたのでしょうか。

Originally published at tabilogue.wordpress.com on November 18, 2016.

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