TEDxKyotoのデザイナーが伝える
スライドデザインの方法

Ryo SHIMIZU
TEDx Experience [日本語版]
6 min readSep 1, 2015

スライドをデザインする時、デザイナーは何をしているのか?

デザインと聞くと、体裁を整えたり見映えを良くするといった事をイメージするかもしれない。
しかしプレゼンテーションのスライドをデザインするにあたっては、見た目を整えるプロセスは最後の一部分だけだ。

今回、米澤由香理さんの素晴らしいコーチングのレシピを伝えるための、スライドデザインを担当した。
この、『「印象的なストーリをつくるには?」TEDxKyotoのコーチが伝える、スピーカーの魅力の引き出し方』スライド制作の過程を公開し、スライド制作におけるデザイナーの役割についてお話したい。

・1・
構造を見つける

デザインに携わる人にとっては自然に行う事だと思うが、論理的な思考による情報の整理は、スライドをまとめる時にも強い味方となる。

与えられた目次や内容を吟味し、情報を整理しながら論理的な破綻が無いか、また分類や階層が一貫しているかを見て行くといい。
スピーカーの想いが強いあまり、同じ事を別の言葉で繰り返したり、重複して用いられているかもしれない。

一歩ひいた客観的な視点で、初めて聞く人にとっても分かりやすい全体の構造を、スピーカーと打ち合わせると好ましいと思う。

今回は、最初に全体の項目や流れのスケッチを提示してもらい、それらを元に全体構成の打ち合わせを行った。
各要素の包含関係などを一緒に考えながら、項目ごとの関係性や優先順位を書き出して一枚のシートにラフにまとめたものが下である。

150601

このように全ての要素を見える化することで、最も伝えたいコアのメッセージは何か、を視覚的に確認することが出来る。最初の段階でスピーカーとデザイナーとの認識のギャップを最小限に抑えることは、制作を通じて非常に重要なことだ。
(今回は最初に提示された構造がほぼ完成に近い状態であったため、大きな編集作業などは必要無かった。それでも見える化するプロセスは意義の大きいものだと思う。)

スピーカーの考え方や物事の捉え方がわかれば、表現の選択肢で迷うような場合でも、何かしらのガイドラインとして参考になるだろう。

この構造をもとに、最初のドラフトとして制作したものが、下のバージョンだ。整理のために1ページ目のスライドには全体の構造を図式化してある。(結局このページは使用しなかった…)

Ver. 150611

・2・
表現方法をデザインする

伝えるべき内容を決めたら、
次にする事はその内容を「どう表現するか」考えることだ。

分かりやすい短い言葉にするのか、図解にして要素間の関係性を示すのか。様々な表現方法があるが、文章と図解、どちらか一方だけに偏らないように全体のバランスを見ながら進めるといい。

もし短くしても、もともとの文章の意味が損なわれないなら、ある程度文字数は少ない方がいいだろう。あまりに長い文は聞き手にとっては少なからずストレスになるものだ。箇条書きにして、5項目以内におさめよう。

特に引用を行う時は、その必要性をよく吟味するほうがいい。文章が長い場合も多く、加えて、スピーカーのアイデアと引用文との関係性を別途(口頭か別のスライドかで)補足的に説明する必要があるからだ。

項目同士が並列の関係ではなく、互いに影響を与えるようなものの場合は図解にするとわかりやすい。よく例として出されるものだが、輸血と血液型の関係について、文章と図解とで比較すると下のようになる。

これは極端な例だが、図解を用いる事で直感的に伝わる内容であれば積極的に採用するといい。

図解化はデザイナーの負担も大きいが、見栄えもよく直感的に伝わりやすい。特にスピーカーが想定するプレゼンテーションのピークに合わせるとなお効果的だ。

今回は、図でなければ上手く示せない内容を選んで適用したほか、全体の流れを見せ、かつ聞き手がいまの現在地がわかるようなナビゲーションの役割を持たせた図解を行った。

Ver. 150703

・3・
デザイナーの手から離れる時

長い時間を共有し、自分で手がけたものは何にせよ愛着の沸くものだ。しかしデザイナーはスライドのデザインに対してあまり思い入れを持ち過ぎ無いほうがいいと思う。

自分のデザインだ、と主張したくなるかもしれないが、アイデアはスピーカーのものであり、それを元に制作されたスライドも彼らのものだ。我々はほんの少しサポートをしたに過ぎない。

Ver. 150812

最終版が出来上がった後も、練習に熱心なスピーカーほど修正を要求してくるだろう。実際に言葉にし、繰り返し練習することによって見えてくる違和感もあるからだ。

その都度修正するのもいいが、スピーカーに編集可能なスライドデータを渡す事も選択肢としてお勧めする。日程的にタイトなタイミングで、修正の度にデザイナーに連絡をとるような手間もあまり好ましいものではない。

スピーカー自身の最後の修正によって、読み易さに配慮した文字組や、綺麗に整えた図解が崩れることもあるかもしれない。例えそうなったとしても、致命的なミスで無い限り目をつぶろう。
主役はスピーカーであって我々デザイナーではないのだから。

おわりに

プレゼンテーションのスライドデザインは、概ねこのような形で進行する。関わり方は人それぞれだと思うが、個人的には、デザイナーだけでなくコーチや、もちろんスピーカーと一緒になって創り上げるという姿勢で臨むようにしている。

なによりも、デザイナーとは、単に見栄えを良くするだけではなく、一緒になって議論しながら進めていく役割も担うのだという点を強調したい。

そして、そのためには、ゆかりさんのコーチングのレシピと同じく「聴く」という姿勢がなにより重要なのだ。

written by
TEDxKyoto Designer:
Ryo SHIMIZU

Special Thanks
TEDxKyoto Speaker Coach:
Yucari YONEZAWA
TEDxKyoto Curator:
Ichi KANAYA

(メモおよびイメージの掲載許可を得て公開しています。またこれらの内容は著者の経験に基づくものであり、TEDxやTEDxKyotoの見解を示すものではありません。)

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Ryo SHIMIZU
TEDx Experience [日本語版]

Design consulting studio Balloon Inc. / Founder & CEO / TEDxKyoto Designer loon.jp