オラディポをめぐる戦術的攻防
NBAのプレーオフは戦術バトルの応酬である。どのようにして相手のディフェンスを崩すか。どのようにして相手のオフェンスを止めるか。そして自分たちの策に対応されたら、次はどうするか。そのせめぎ合いは1つの勝敗が大きな意味を持ち、しかも同じ相手と戦い続けるプレーオフでは一層激しさを増す。今回はイーストのファーストラウンド、キャバリアーズ(第4シード)対ペイサーズ(第5シード)のシリーズより、ペイサーズのエース、ビクターオラディポをめぐる両チームのここまで(Game4終了時)の攻防を見ていきたい。
ビクターオラディポへのピックに対して、ドロップ(ボールマンのディフェンダーは後追い、スクリナーのディフェンダーは下がる)で守るのはあまり得策ではない。
このようにリムアタックしてもよし、プルアップしてもよしの自由を与えてしまう。
かといってスイッチするのもよくない。
よってキャブスはGame3あたりからオラディポへのピックに対してはダブルチームで守るように対策をしてきた。とはいってもトラップディフェンスのようにオラディポに激しくプレッシャーを掛けるのではなく、あくまでオラディポにパスを捌かせる事を目的としているように思われる。
そうなると今度はペイサーズ側の対応力が問われる。オラディポがダブルチームを受けている分誰かが空くはずだが、当然そこはキャブス側も分かっており、ローテーションにより簡単にフリーを作ってはくれない。
ペイサーズの解答はアーリースリップだった。
ドマンタスサボニスがオラディポに対しピックに行く場面。しっかりピックをかけるのではなく、かかる前に中に飛び込む。
そこにパスが入るとヘルプが来るので、ウィークサイドで2対1ができ、ボヤンボグダノビッチのスリーへつながった。
またスリーが打てるボグダノビッチが同じようにスクリーンに行くとみせかけ、外にポップアウトする形も見られた。
ボグダノビッチにパスは出なかったが、コーバーがボグダノビッチへのリカバーを優先したことで、オラディポとマークマンのJRスミスの間にギャップができ、スリーを打った。
キャブスサイドの次の手は、アーリースリップで中にロールしてくる相手に対し、それを予期して早めにヘルプポジションを取ることだ。そうすることでディフェンスのポジション修正のための時間を稼ぐ。しかしそれに対してもペイサーズはカウンターパンチを喰らわせた。
マイルズターナーがオラディポにピックをかけようとしたのを確認したキャブスのカイルコーバー。
ターナーのアーリースリップを警戒して、コーバーはミドルレーンのヘルプポジションへ寄る。しかしそれを見たオラディポはコーバーが離したボグダノビッチへパス。
コーバーのクローズアウトに対してボグダノビッチはドライブで抜きインサイドへアタック、ディフェンスを収縮させターナーのスリーへ。
このような両チームのハイレベルな戦術的やり合いを象徴するようなシーンがあった。
先述の通り、普通にオラディポにピックに行ってもダブルチームが来る。なのでこのシーンでは、ペイサーズはピック行くターナーに2つのスクリーンをかけた。
ターナーをマークするケビンラブがこれに引っかかってしまう。
ラブはこれにより遅れてしまい、ターナーがピックをかけたときオラディポにダブルチームに行くことができず、ミドルのプルアップを決められてしまう。
このプレーの次のポゼッションでもペイサーズは同じプレーを選択。2人がターナーへスクリーンに。
しかし今度はターナーに対して、ウイングにいるサディアスヤングを守るレブロンがターナーにバンプし、ターナーがピックに行くのを妨害する。
今回ラブはスクリーンに引っかかっていなかったが、もし引っかかっていてもレブロンがバンプで時間を稼ぐことで、ラブがターナーに追いつくことができたはずだ。
レブロンの、ワンプレーで自分たちのやられ方を把握する危機察知能力と、適切な対処を実行する戦術眼には恐れ入る。
また、キャブスの対オラディポディフェンスを、オラディポの個人能力により打開するシーンも見られた。
たとえばスクリナーとスクリナーディフェンダーの間を強引に割っていくスプリット。
さらに“そもそもスクリーンに行くからダブルチームされるんじゃん”と、勝負どころの時間では単純なオラディポの1on1も。
この次のポゼッションでもまたオラディポの1on1で攻めようとしたペイサーズ。
キャブスはJRスミス一人ではオラディポを守れないので、コーバーがヘルプに。
それなら、とオラディポはボグダノビッチにパス。ご丁寧にサボニスがフレアスクリーンまでかけている。
Game4でキャブスはシンプルにダブルチームに行くような守りも何度か見せた。
ここではピックではなくハンドオフだが、オラディポに対してトリスタントンプソンがスイッチし、その後レブロンがダブルチームに行っている。この守り方についてだが、この試合ではキャブス側が習熟していなかった部分もあり得点になってしまうシーンもあったが、あまりペイサーズ側が上手く崩していたという印象もなかった。
ダブルチームが寄ってきたサイドと逆のサイドにパスを出すシーンが多かったが、これは悪手だろう。
2つ目のプレーでは得点になっているものの、カルデロンがオーバーディナイにより簡単にバックカットを許したことが原因であり、それがなければタフショットを強いられていたはずだ。
逆にダブルチームが寄ってきたサイドにパスを捌くのが正解のように思われる。
ここではランススティーブンソンのタフショットになったが、奥のコーナーでコーリージョセフが空いており、そっちに出していればジョセフのスリー、またはエキストラパスでトップ付近からオラディポのスリーが打てたはずだ。
おまけ
ペイサーズのマイルズターナーは2m11cmの高さがありながら、ミドルレンジやスリーもリーグ平均レベルで決めることができる選手だ。オラディポが厳しくマークされてる中、ターナーを活かしていくことはペイサーズにとって重要事項だ。
そこでペイサーズが採ったのが、ボールマンが味方が2人いるサイドに行くようピックをかける、Going 2 sideという配置だ。実際どのような効果があったのだろうか。
ダレンコリソンに対してターナーがピックをかける。この場面では分かりづらいが、コリソンは味方が2人いる(青丸)サイドに向かう。
ターナーはロールしてそこにパスが入る。ターナーがロールしたのは味方が1人しかいない(赤丸)サイド、つまりディフェンダーも1人しかいないサイドだ。
ここでもしターナーのヘルプにこのディフェンダーが寄ってしまうと、奥のコーナーにいる前の試合で30点をあげたボグダノビッチに、フリーのスリーを許すことになる。よってターナーにはヘルプに寄らず、ラブが1人で守らざるをえずターナーのレイアップが決まった。
このGoing 2 sideの配置は下の動画のようにターナーがロールではなくポップしてアウトサイドシュートを打つときでも有効だ。
このようにしてペイサーズは高さとアウトサイドシュートを兼ね備えたターナーを活かしている。
いかがだっただろうか。
世界最高峰のリーグでどのような戦術バトルが行われているか、その一端を垣間見ることができたかと思う。今回はペイサーズのオラディポの事のみを取り上げたが、これと同時に両チームはキャブスのエースであるレブロンについても、どう止めるか、どう対処するか、といった事を考えている。
これぞNBAプレーオフ、実に奥深い。