バスケ日本代表 男子と女子の違い

じゃり
The Chewing Gum
Published in
9 min readNov 20, 2017

現在、日本男子バスケットボール代表のFIBAランクは50位である。世界の中で消して高い位置にいるわけではない。

ところが、女子はFIBAランクで13位と、かなりいい位置にいるのである。女子日本代表は7月のU19ワールドカップで4位という好成績を残し、8月にはA代表がアジア選手権において中国、オーストラリアを破って優勝し2連覇を成し遂げた。また昨夏のリオオリンピックでの日本女子バスケ代表の活躍を覚えている人も多いことだろう。

※今回のU19ワールドカップでは、八村の鬼神の如き活躍もあり男子も10位という成果を残している。

男子と比べて女子が世界で通用しているのは何故なのか。

今回は7月に行われたU19ワールドカップ(以下、今大会)を対象として、男子と女子の違いを探ってみたい。

※今大会を対象としたのは同時期に同じ世界規模の大会に男女共に出場したこと、スタッツが公式サイトに掲載されていること、などが理由である。今大会の男子の結果がダメだったというつもりは無い。むしろ男子の10位という結果は素晴らしいものであり、本記事では「男女で何が違うのか」を考えたい。以上のことを前提として読み進めていただければと思う。

身長の問題

下のグラフは今大会の男女全出場国の平均身長を比較したものである。

これを見ると、身長によるハンデは女子より男子の方が厳しいものだったことがわかる。男子の他の国は200cm から193cmの間にいる中、日本は187cmしかないのである。

つまり女子は「デカいチームもあれば小さいチームもある中、日本は小さい方」であるのに対し、男子は「他のチームはみんなデカい中、日本は圧倒的に小さい」のである。

身も蓋もないようなことだが、身長のハンデが大きいことが不利であることは言うまでもない。

ただ、女子も小さいチームであることは変わりない。その中で女子はどのような戦い方をしているのだろうか。

点の取り方

今大会の日本女子の1試合平均得点は76.0点で大会3位という好成績を残している。対して男子は70.4点で大会8位タイ。平均得点の順位は、「女子4位、男子10位という最終結果」に見合った順位となった。

女子と男子の得点方法の内訳はこのようになっている。

女子は男子と比べ2Pシュートによる得点が多いことがわかる。

女子の方が2P成功率が高く、試投数も多い。理由としては先ほど挙げたように、女子では身長のハンデが小さいからということが考えられる。ただ実際試合を見ていると、単純にそれだけではないことがわかる。

アシスト数

女子の2Pによる得点が多いことの大きな理由として「アシスト」を挙げたい。女子はアシスト数で大会2位の23.4本をマークしている。男子の方は17.9本で9位。

FGM%AST(FG成功数の内、アシストがついたFG成功の割合)を見てみると順位自体は男女であまり差はないが、%は女子の方が高い。

今大会の女子チームのアシストシーンを一部抜粋したのが以下の動画である。

ゴール付近でのシュートへのアシストも当然あるが、注目したいのはミドルジャンパーへのアシストが目立つこと。

試合のショットチャートを見ても女子はミドルジャンパーを比較的たくさん打っていることがわかる。

女子 対アメリカ戦
女子 対スペイン戦

対して男子のショットチャートは、

男子 対韓国戦
男子 対エジプト戦

このようにペイントエリア外のミドルの本数がかなり少ない。男子は一試合平均の3P試投数が25.6本で大会3位の多さで、「3Pかインサイドか」という攻め方だった。

男子が比較的ミドルを打ったのが対イタリア戦だ。この試合の男子は3P を厳しくチェックされ(4/21で成功率19%)、ほかに攻め手がなく仕方なく苦しいミドルを打たされている、という感じだった。女子が「自分たちの攻め方の一つ」として、いい形でミドルの機会を作り出しているのとは対照的だ。この試合の55得点というのは今大会の日本チームでは最も少ない得点となってしまった。

近年「ミドルよりも3Pの方が得点効率が良いから、ミドルを打たず3Pを打つべき」というのが通説になっている。それは正しいと思うし、ミドルを多投するオフェンスが良いとは言えないだろう。しかしそれはミドルが打てなくてもいい、というわけではないと感じる。

いい例が昨シーズンのNBAプレーオフのスパーズ対ロケッツだ。シリーズ序盤ロケッツが3Pの雨を降らせスパーズを圧倒したが、スパーズがロケッツのスリーを徹底チェックし、ロケッツのミドルを捨てる守り方をするとロケッツはリズムを崩しシリーズ敗退してしまった。

ミドルが打てなくてもいい、のではなく、場合によってはミドルを決められる形も持っている、というのがベストだろう。

それを実現しているのがウォリアーズだ。ウォリアーズといえば3Pというイメージがあるかもしれないが、それだけではない。

この動画の50分~あたりから言われているように、彼らはミドルを高い確率で決めている。

日本男子チームは小さいチームであり、なかなかインサイドで優位に立てるチームではない。だとすれば尚のこと、もう少しチームとしてミドルを打つ形を作ってもいいのではないかと感じる。高さで不利な日本にとってはミドルを効率が悪いと切り捨てるのではなく、逆に武器とするようなスタイルが求められるのではないだろうか。

その他のスタッツ項目

今大会の男女日本チームの各スタッツの順位を表にした。

前述の通り、女子は全体的にシュート成功率が高い。小さいチームなのに2P成功率4位というのは素晴らしい。男子も厳しいことは承知だが、2P成功率をもう少し高めることができれば成績上昇が見込めそうだ。

さらに女子のフリースロー成功率は78.2%でトップだった。男子も4位につけているが成功率は66.2%であり、さらなる改善を期待したい。

他では男子のスティールの少なさが気になる部分だった。試合を見ても女子の方がディフェンスでトラップを仕掛け甘くなったパスをスティールし速攻へ、といったシーンは多かった。ディフェンスでギャンブルしろとまではいかずとも、男子ももう少しアグレッシブな守備ができると良いと感じる。

キャリアの違い

最後にFIBAランキングをもう一度見てみたい。

女子はU18が11位、フル代表が13位である。男子はU18が27位なのに対し、フル代表は50位と大きく順位を下げている。年齢が上がるにつれ体格の差がより顕著になる、というのが大きな理由だろう。

ただ、もう一つ理由として「男子の場合トップリーグ入りが遅い」ということがあるかもしれない。今U19ワールドカップのロスターを見てみると女子の場合12人中8人はすでにWリーグに所属している選手である。男子は12人全員がまだ大学あるいは高校に所属している。

トップリーグ入りが遅くなることで、必然的に代表入りも遅くなってしまいがちである。先日ワールドカップアジア予選に向けて男子フル代表候補が発表されたが、主力選手は冨樫24歳、馬場21歳を除くと全員20代後半以上である。これまでの代表選手たちは世界を経験するのが少し遅かったのではという気がする。世界を見渡すと20代前半でフル代表に選ばれている選手は全く珍しくはないし、なかには10代の選手もいる。

女子の場合は今夏のアジアカップのロスターを見ても12人中6人が20代前半だった。主力の渡嘉敷と本川を欠いていたため、若い選手にチャンスが回ってきた節もあるだろうが、その渡嘉敷と本川もまだ26歳、24歳だ。高校卒業と同時にトップリーグであるWリーグに入り、国内トップレベルで日々戦い、早い段階から代表で世界を相手にする、という経験は大きいのではないかと思う。

大学でプレーすることのメリットはたくさんあるだろうし、その方がいい選手が多いのは事実だろう。それでも男子にも中には高校卒業と同時にBリーグに挑戦する選手がいてもいいのではないだろうか。馬場雄大が筑波大学に在学しながら今季からアルバルク東京とフル契約することが話題になったが、僕はそれすら少し遅いんじゃないかと思ってしまった。夏のユーロバスケットでスロベニアの優勝に貢献したルカドンチッチなんかは、16歳の時にすでにレアルマドリーのトップチームデビューをしている。

そういう意味では今回の男子代表候補に東海大学の平岩(2年)、西田(1年)に加え中学3年生の田中力君が選ばれたのは非常にいいことだと感じる。最終メンバーには残らなかったが、早いうちからより高いレベルを肌で感じることは選手にとってもプラスになるだろう。

現在はBリーグにも特別指定選手という制度があり、現役大学生がBリーグでプレーすることも珍しくはない。今後こういった若い選手の育成への取り組みが成果を出し始めれば、代表の強化につながることは間違いない。さらに八村塁や渡邊雄太ら海外組もさらなる成長を遂げて代表に帰ってくるだろう。2020年東京五輪、そこで成果が出るかは未知数だが、総じて男子代表の未来がこれからいい方向へ進むことを期待したい。

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