神は細部に宿る ~京都の人とボールが動いたワンプレーを検証~

じゃり
The Chewing Gum
Published in
7 min readMar 26, 2018

京都ハンナリーズは“人とボールが動くオフェンス”を目指しており、そのスローガンは多くの人が、まさにモダンバスケットボールの理想のオフェンスと考えているものだ。

今回は3月18日の大阪戦でハンナリーズが見せた“人とボールが動くオフェンス”の良い典型例ともいえるワンプレーを見ていこうと思う。

これがそのプレーだ。

まず、ボールが片岡→坂東→永吉→片岡と回る。一見意味のないようなプレーだ。その間に画面奥のコーナーにいた内海が手前側にスイングしている。その間内海をマークしている大阪の安部はトップでボールが回されているのを見つつ内海を追わなければならない。なぜならボールから1番遠いところにいるディフェンダーは味方が裏を取られてしまった際のヘルプや、ヘルプに出た味方選手のヘルプに行かなければならないからだ。

そして再びボールが片岡に返ったタイミングで、坂東が画面奥のコーナーに向かってカットする。続いて内海がダブと永吉のスタッガードスクリーン(スクリナーが縦に2人並ぶ)を使ってボールをもらう。ボールの行方を追っていた安部は内海のスタートに対し、一歩出遅れてしまう。それでも上手くスクリーンをかいくぐりなんとか内海に追いついている。

ボールをもらった内海はすぐさま片岡とハンドオフ(手渡し)する。ここでよくあるのが安部と片岡をマークする合田の間でのマークマン受け渡しのミスである。そのまま付いていくのか、スイッチするのか。特に安部は先ほどの一歩の遅れを取り戻すために必死になっていたところであり、そんな中でお互いの意思を疎通させることは非常に難しい。実際この形で相手のスイッチミスを誘いフリーを作る、というプレーをハンナリーズは何度か見せている。

しかし、今回は大阪側もうまくスイッチすることに成功している。大阪はスイッチを多用するチームであり、そのあたりは十分仕込まれているのだろう。ならばハンナリーズの一連のアクションは無駄走りに終わったのかというと、そうではない。

その後、片岡はダブとのピック&ロールを試みる。それに対してダブのマークマンのベンソンは引き目に守るスタンダードな守り方をしている。

しかしここで安部が、これもほんの一瞬だがダブのスクリーンに引っかかってしまう。ここまでハンナリーズの多くの仕掛けをうまく処理し続てきた安部がついに小さなミスを、ミスといえるかも微妙な程度のミスをしてしまう。単純に最初からピックをかけるのではなく、色々仕掛けて負荷を与えた後にピックをかけることで、このようにミスを誘う。いくら優れたディフェンダーであっても、正確な処理をひたすら続けて実行することは非常に難しいのである。

安部が少し遅れることによって、ベンソンが片岡とダブを両方ケアせねばならず、逆サイドの合田、今野がミドルラインに寄ってヘルプポジションを取る。安部は遅れたもののそのまま片岡を追う。

それを見た片岡は逆サイドの坂東にパスを出すのだが、坂東は手を挙げて呼んでいる場所から2ステップ分、ベースライン寄りでボールを受ける。この2ステップのズレが“ボールを動かす”上で非常に重要になってくる。

もし坂東が単純に元いた場に留まったままボールをもらうと、ディフェンダーもそのポジションは分かっているので最短距離で最速でクローズアウト(距離を詰めること)ができる上に、パスコース上にディフェンダーがいることになるのでスティールも狙える。しかしディフェンダーの視線がボールマンに向いているときにマークマンがポジションをずらしていると、ディフェンダー側からするとパスを通されるだけでなく、クローズアウトに遅れが生じる可能性がある。このプレーでもクローズアウトする合田の一歩目の向きがまっすぐ坂東に向かっておらず若干の遅れが生じている。懸命に詰めてくる合田の逆を取り、坂東はドライブで抜くことに成功した。

ただ、実際には坂東が自ら動いたというよりは、片岡のパスに坂東が合わせた形になっている。そのため片岡は若干山なりのふわっとしたパスを出したが、もしあらかじめ坂東がベースライン側に数歩移動していたら片岡からの速いパスでそのままスリーを打てたかもしれない。こういったオフボールでパスをもらうためのアングルを作る動きが非常に上手いのが岡田師匠であり、坂東ももっと磨いていくべきスキルである。

続きを見ていこう。坂東のドライブに対しては片岡のマークマン安部がヘルプに出る。先ほどパスを出したばかりの片岡はすでにスリーポイントラインの外側に開いている。このように何かワンプレーを終えた後すぐに次のアクションのための動きをとれるか、というのもボールを回すために重要である。このとき手前コーナーの永吉のマークマン根来は、自らがケアすべきウィークサイドの片岡の位置を確認しているのがわかる。

その後坂東からパスが捌かれるのだが、ここでも片岡が2ステップ分トップ側に移動しているのがわかる。

今度は先ほどのようにパスに合わせて、というのではなく、片岡が自ら動きだしてパスコースを作っている。

もし元の位置に留まっていたなら、青ラインのコースにパスが出るが、それだと、先ほど片岡の位置を確認していた根来にカットされる危険がある。しかし片岡の2ステップの移動により緑のパスコースが生まれ、安全にパスが通った。

片岡には根来がクローズアウトするも、片岡はワンタッチでコーナーの永吉にパス。この、ウィークサイドにキックアウトされたパスをさらにワンタッチで捌き、よりフリーな状態でのシュートチャンスを生み出す通称“エキストラパス”は、ボールが回るオフェンスの象徴といえるだろう。永吉には坂東に抜かれた合田が鬼のクローズアウトを見せるものの、距離が長すぎて永吉にほぼノープレッシャーでのシュートを許してしまった。大阪側のディフェンスはそれほど致命的なミスはしていないものの、わずかなズレが重なって最終的には大きな大きなズレになってしまった。

このように、一見簡単にパスが回っているように見えるが、実はパスを回すための絶妙なポジション取りがあってこそ“有効に”パスが回っているのである。ハンナリーズも激しいディフェンスにあうと足が止まってしまったり、ボールウォッチャーになってしまったりで、わずかなポジションの移動でパスアングルを作る、という動きができていないこともあるし、逆にボールマンがそれを見つけられていないこともある。

先日チャンピオンシップトーナメント進出を決めたハンナリーズ。そこでどのチームと当たってもタフなディフェンスをされることは間違いない。そんな中でも自分たちがやりたいバスケを実行するためには、こういったディテールにこだわり続けることが鍵となるだろう。

神は細部に宿るのだから。

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