Bubble Sunsはなぜ強かったのか

じゃり
The Chewing Gum
Published in
9 min readAug 22, 2020

なんで、私がOrlando Bubbleに!?

ファンですらネタと思っていたPhoenix Sunsのseeding games参戦だったが、蓋をあければあれよあれよと無敗の8連勝。惜しくもプレイオフには届かなかったが、その快進撃は再開後のNBAで注目の的となった。相手の主力温存もあったとはいえ、こちらも平均19pts 6rebのKelly Oubre Jr、2番手センターのAron Baynesを欠いての布陣であった。その中で8-0という結果を残したSunsは贔屓目を抜きにしても、強かったと言って過言ではないだろう。

なぜそれまで大した結果を残していなかったSunsが急に躍進したのか。

2019-20シーズン全体のサンズは平均113.6得点113.4失点であったのに対し、seeding gamesでは平均122.3点109.0失点と、特にオフェンス面での改善が目立った。しかし試合を見るに、オフェンスのシステムが大きく変わっていたわけではない。そもそも再開前から今シーズンのサンズはボールと人が良く動く良いオフェンスを展開していた。

ただしそれはRicky Rubioがコート上に立っているときに限って、だった。

Ricky Rubioの存在感

今シーズン、待望のPGとして獲得されたRubioはこれまでのSunsにいなかった、「Devin Booker以外の、ボールを持てる選手」であった。「周りに使われる側」の選手はいるものの、「周りを使う側」の選手がBooker以外いなかったSunsにおいて、RubioはBookerにパスをちゃんと供給でき、またBookerを囮にその他の選手、あるいは自らを活かすことができる真のプレーメイカーとして、HCのMonty Williamsが落とし込んだ“0.5 second system”=「ボールを持って0.5秒で判断せよ」の舵取りを担っていた。Bubbleでの躍進以前に、そもそも今シーズンのSunsはRubioの存在によりこれまでのBooker頼りのオフェンスから脱却していたのだ。その顕著な例として今シーズンのサンズはBookerを最後にボールを回すフィニッシャーとして使ったり、またBookerが一度もボールを触らずに完結するオフェンスを何度も披露していた。それはBookerの強力な得点能力をより一層際立たせることとなった。

しかしRubioがベンチに下がる時間帯では彼の代わりにプレーメイクできるPGがおらずオフェンスが停滞、従来のBooker任せのオフェンスになってしまっていた。それが(Deandre Aytonの薬物規定違反による出場停止と共に)Sunsの勝ち星が増えない要因の一つであった。シーズン序盤はバックアップPGとして出場していたJevon Carterが独力で3ptを決めたりし、Rubio不在時の時間帯をつないでいたことが開幕スタートダッシュを可能にしていたが、徐々に調子を落とすに連れプレーメイク力の乏しいCarterは悪い部分が目立ち始め、その輝きは失われていった。

なお、Rubioはシーズン全体で3ptを36%で決めたが、seeding games中に限っては43%と非常に高確率で決めた。CurryやLillardのようにプルアップで強引に決めるようなことはないが、空いたら打ち高確率で決める3ptは、元来のRubioのプレーと組み合わさり強力な武器となった。それによりフロアスペースが広がったことはオフェンスの改良に直結した。

Cameron Payne、大活躍

バックアップPGがいない。そんなSunsが中断期間中に獲得したのがG Leagueで無双していたCameron Payneであった。OKC時代にWestbrookのダンスパートナーとして注目されて以降、NBAでは大した実績を残せずG Leagueのエース止まりだったPayne。正直期待をしていたファンは少なかっただろうが、バックアップPGとして予想を良い方向に大きく裏切った。22minの出場で11pts 3ast、そして3ptを52%の高確率で決める大活躍を見せた。自ら切り込んでズレを作ったところからパスを散らしチームに全体に動きをもたらすプレーメイクぶりは3astという数字以上の貢献であった。ディフェンスでも何度もテイクチャージに成功し、相手の攻撃の芽を摘んだ。またJevon Carterとバックコートを組んだ際、2人の機動力を活かしてチーム全体でオールコートマンツーを仕掛け、あわよくば高い位置でのTOを誘発、という場面も時たま見られた。PayneがバックアップPGとして攻守で存在感を放ち、Rubio不在時の穴を埋めるどころか、逆に彼の時間帯にリードを広げることすらあるほどの活躍を見せたことがSuns躍進の大きな原動力となった。

隠れた功労者 Dario Saric

今年のドラフト時に指名権トレードダウンの見返りとして獲得したDario Saricは内外から卒なく点を取る器用さに加え、seeding games中はキャリア平均を上回る8本近いリバウンドを記録した。中断前はほぼスタート出場だったSaricだが、再開後はCameron Johnsonの台頭もありベンチ出場となった。これがSunsにとって良い方向に働いた。Saricにもまた「ボールを持てるプレイメイカー」としての才覚があるからだ。

味方を囮に使いドライブし、ディフェンスが寄ったところでパスアウトができる。そんなSaricがベンチスタートに回ったことでセカンドユニットのオフェンスがよりスムーズなものとなった。

このようにビッグ-ビッグのボールスクリーンユーザーも担うことができ、オフェンスの幅を広げることに大きく貢献した。

RubioがいなくてもPayneとSaricの2人のプレーメイカーが控えていることで、セカンドユニットの時間帯でもオフェンスが停滞する時間が明らかに減った。

彗眼となったドラフトデイトレード

2018年ドラフトではPHIに16位指名のZhaire Smithと将来1巡目指名権を差し出し、10位指名のMikal Bridgesを獲得。

2019年ドラフトではMINに6位指名権(MINがJarret Culverを選択)を差し出し、Dario Saricと11位指名のCameron Johnsonを獲得。

Saricについては先述の通りであるが、BridgesとJohnsonもまたseeding gamesでは全試合スタートで出場し活躍を見せた。

Bridgesは機動力とウイングスパンを活かしたディフェンス力を買われ、Paul GerogeやKawhi Leonard、Luka Doncicといった相手エースにマッチアップした上で「リーグトップクラスのディフェンダー」とも言われる評価を勝ち取った。オフェンスでも3ptを40%で決めつつアテンプトは1.5本増やし、カットインからの合わせで得点を重ねた。

Johnsonは203cmの高さ(多少サバ読みはあるだろうが)からのクイックスリーが売りの選手だと思われていたが、Bridges同様、味方の動きに合わせてのカットインも上手く、ファストブレイクにも絡む走力もある。3pt成功率は35%と中断前よりやや確率を落としているが、その分合わせや速攻で攻撃に絡み2ptのアテンプトを2本近く増やしている。

ドラフトでの獲得がギャンブルとなりがちな「ボールを持ち」「使う側」の駒にはすでにNBAで実績を残しているRubio、Saricを獲得しつつ、「使われる側」にはドラフトで即戦力となる人材を見抜き獲得できた成果が表れた8試合だった。

無論、BridgesについてはRon Babbyオーナーのお気に入りとのことで前GMのRyan McDnaughが指名しており、すべてが計算通りというわけではなかっただろう。さらに「使う側」の駒が欲しかったならなぜDoncicを指名しなかったのか、という指摘についてはぐうの音もでない。

しかし、偶然な要素も大いに関与したとはいえ、結果的にBubble SunsはエースBookerを各タスクを担える人材で取り囲む非常にバランスのいいロスターとなったことは間違いない。

課題

Doncicをパスして獲得したDeandre Ayton。異次元の活躍を見せるDoncicとの比較は抜きにしても、ドラフト1位指名センターにしては少々物足りない。オフェンスでの主な役割はピックとロールだがロールした後の強引さが足りず、またポストで持ってもほとんどがミドルジャンパーで終わっており、FTがシーズン平均2.3試投と非常に少ない。Alex Lenを彷彿とさせるようなファンブルも目立つ。Nikola JokicやKarl AnthonyTownsのほどの器用さまでは求めないがフィニッシャーとしての力強さが欲しい。

またAyton がSunsのディフェンスの要になっている、という表現を何度か見かけたが、実際Aytonのディフェンスはまだまだエリートとは言えない。相手ガードのドライブに対してうまく反応できた場面ではその高さを生かしてプレッシャーをかけているが、実際カバーに出る出ないの判断、というかそもそも反応が悪く、全くボールウォッチャーとなっている場面もよく見受けられる。

チーム全体のディフェンスも、昨シーズンのオモテナシディフェンスと比較するとよく足が動くようになったが、まだローテションが甘く簡単にオープンを許すシーンが目立ち、改善の余地は十分にある。

来シーズンにはさらなる飛躍、そして念願のプレイオフを達成したいところだが、いい形でシーズンを終えたチームが、翌シーズン全く振るわない、というパターンは毎年恒例である。Sunsとて、seeding gamesで活躍した選手たちが来シーズンも皆同様以上の活躍を見せる保証はなく、偶然的要素の力も関与しての結果だった。的確なオフの人事でさらにロスターの厚みを増す動きが必須なのは間違いない。ともかく選手やコーチはコート上で結果を残した。今度はJames JonesのGMとしての腕が試される。

6年ぶりに上った太陽が、あっという間に沈んでしまわないように。

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