NBAファイナル2016レビュー 両チームはどう戦っていたか

じゃり
The Chewing Gum
Published in
18 min readMar 19, 2018

※旧サンズブログにて2016.7.2に投降したものを再編、再掲したものです。

↑画像引用:ESPN

ドラフトも終わり来シーズンに向けた移籍話で盛り上がってる時期ですが、ここで2016NBAファイナルのレビューをしていきたいと思います。

はじめにいっておきたいのですが、このシリーズ、本当にどちらが優勝してもおかしくなかったですし、○○だからキャブスが勝ったとか、ウォリアーズが負けた、というような断定的な結論には至りません。

その上で、両チームがどのような戦い方をしていたのか、ということを分析してみようという趣旨です。

書いてみた結果キャブスの話が多くなってしまいましたが、ご容赦ください笑

フロアの使い方

キャブスのオフェンスのメインウエポンはレブロンとカイリーです。

基本的に彼ら(時々ラブも)の1対1からオフェンスが始まり、そこからJRのスリー、トリスタンのゴール下、という攻め筋を突いてくるわけです。

ここでキャブスにとって都合が悪かったのは、ウォリアーズディフェンスのヘルプの速さとその後の対処、ダブルチームに行ったときの周りの動きはリーグトップクラスに素晴らしい、ということです。

例を見てみましょう、レギュラーシーズンのブルズ戦でのシーンです。

今ガソルからローポストのジミーにボールが入りました。

すると…

ガソルをマークしたドレイモンドがジミーにダブルチームへ。

こうなると当然ガソルが空くわけですが、この後のカリーの動きに注目。

ぐっとガソルの前へ入ります。

ジミーに対してもパスを出す余裕を持たせないように厳しいプレッシャー。

はい、完璧!

外にいるミロティッチ、ハインリック、スネルはバーンズとイグダラがバランスを取ってどこにパスが出てもケアできる位置取り。

こうしてブルズに良いオフェンスをさせず、ボールを奪うことに成功。

このようにウォリアーズのディフェンス相手に1対1だけで攻めようとするのは非常に厳しく、周りの選手がうまく動き、そこにしっかりパスをさばいていくことが求められるわけです。

レブロンのパス能力については今更言及する必要もないですね、なので周りがどれだけ連携を取りながら動けるか、ということがカギになってきます。

では実際のキャブスのオフェンスはどうだったのでしょうか。

第4戦の一場面より。

デラベドバからレブロンにボールが入りましたが、マークしているのはリビングストンと、ミスマッチ気味です。

ここでイグダラがレブロンにダブルチームに行きました。

レブロンはパスの出しどころを探しますが、、、

あかんwww逆サイドコーナーに3人固まっとるwwwww

とまぁキャブスはたびたびフロアバランスが崩れてしまっていました。

この辺はファイナルの間に少し良くなっている感じがしましたが、それについては後述。

では逆にウォリアーズはどういったオフェンスをしていたのでしょうか。

こちらは第1戦より。

ボールを持っているイグダラにエジリがボールマンスクリーンをかけに行きます。

このときカギになるのがヘルプポジションにいるトリトンと、トリトンがマークするリビングストンです。(上図赤丸)

イグダラがスクリーンを使うと、、、

エジリはゴールに向かってロール。

それをケアするためにトリトンがエジリに寄ります。

ということはリビングストンが空くわけですが、そのリビングストンはこの後どうしたのか。

がっつり空いたエルボー付近のスペースに入り込んできた!

そしてイグダラからのパスを受けて得意の距離のジャンプシュートを決めました。

これがフロアの使い方の巧さの差です。
キャブスディフェンスとしてはレブロンがポジションを下げて空いたスペースをケアすべきでした。

ラブは不要なのか

ラブ不要説はレギュラーシーズンから聞かれたことですが、ラブが抜けた第3戦でキャブスが勝ったことで「ラブいらねwwww」っていう人は増えました。

第7戦の泥臭い頑張りもあり、結果優勝したことで名誉挽回しましたが、実際どうなんでしょうか。

いろんな見方があると思いますが、「僕はラブをどう活かすか」が問題だと思っています。

オフェンス面でいうとキャブスでのラブの主な役割はポストプレーとスリーでしょう。

特に対ウォリアーズでいえば、ハリバン相手にローポストでラブが攻める、というのはキャブスにアドバンテージがありそうなポイントです。

ですが当然ウォリアーズ側もそれは承知の上。

では実際のシーンを見てみましょう。

画面奥のローポストでハリバン相手に押し込もうとするラブ。

そこにレブロンをマークするイグダラがダブルチームに向かいます。

するとラブはパスを出したい、、、んですが出せるところがない(;’∀’ )

結果ラブはボールを失ってしまいます。

ラブのアタックに連動したJR、レブロン、カイリーのポジション移動がほとんどないんですね、しかも近いところに3人。

だから、、、

ウォリアーズ側からしたら3人を2人で簡単に守れちゃうんです。

ここで手前コーナーに空いてるスペース(青い部分)にレブロンが下りてきていればウォリアーズ側からしたらすごく守りづらいはずなんですよ。

コーナーでレブロンがもらう→カリーがチェック→カイリーにパスしてスリー、という形が作れていればなぁ。

もし周りがそういった動きを作っているのにラブがそこにパスを出せない、というのであればラブが批判されるのもわかるんですが。

続いてこんなシーン。

トップ付近でボールを持ったレブロンにカイリーがスクリーン、レブロンがドライブを仕掛けます。

するとウォリアーズディフェンスはボガットがヘルプ、トリトンをドレイモンドがカバー。

レブロンからコーナーのラブにパスが出ます。

しかしそこにはドレイモンドが猛然とチェックへ。

ラブはワンドリからスリーを打ちますが、ドレイのしつこいチェックもあり、外れます。

一個前のラブがボールをもらった下のシーン。

画面右の映ってないところでJRとカイリーがこれまたボケっと見てるだけなんですよ、ボールをもらう気がない。

ここでも赤丸の位置でJRがエキストラパスをもらえば、そこはクレイが見るはず。

なのでラブからJR、JRからトップのカイリーにと素早くパスが回せればカイリーには青丸のカリーがこの位置からチェックに行かなければなりません。

そうなるとカイリーはスリーを打つもよし、カウンタードライブを仕掛けるもよし、と非常に有利な状態で1対1が仕掛けられるわけです。

やればできる子たち

ここまでさんざんキャブスオフェンスのダメなところを指摘してきましたが、彼らだってやればできるんです(手のひらクルー

第3戦あたりからちょくちょく良い形が増えてきてた気がします。

カイリーが高い位置でトリトンのスクリーンをもらってドライブ、そこにトリトンをマークするエジリがカバー。

トリトンが空いたのでそこにカイリーからパスが出ます。

そこにはコーナーのラブをマークするドレイモンドがヘルプ。

トリトンはラブにパス。

そこにはラッシュ(GSW4番)がチェックに急行。

ラブはさらにレブロンにパス。

さっきはJRがボールもらう気がなかったのでスリーを打ったラブですが、このように周りがちゃんと動いていればラブはパスが出せる選手なんです。

今回はラブのスリーという武器がしっかり活きましたね。

パスをもらったレブロンにはドレイモンドが遅れながらチェックに行きますが、、、

レブロンはズバッと抜き去り、レイアップまで持っていきました。

しっかりボールが回った良いオフェンスですね。

でも難しいフォーメーションを展開しているわけではなく、「ヘルプが来たからパス」をテンポよく3回続けただけです。

正直この形で最後にレブロンにボールが回ったら止めようがないですよ笑

また、セットプレーも一つ。

トップでボールを持つレブロン。

RJがカイリーにアップスクリーン、カイリーは裏へ抜け出します。

そこにレブロンからパス出て、ボガットがヘルプに。

カイリーはコーナーのJRにパス、JRがスリーを決めました。

地味ですがトリトンが中にカットして合わせようとしているのでカリーはそっちをケアせざるを得ず、ウォリアーズとしてはJRまでディフェンスが足りなくなってしまってます。

仮にカイリーにパスが出なかった場合、逆サイドのJRとトリトンがスクリーンをかける、という続きが用意されています。

このセットは結構効いてましたね。

キャブスのディフェンス

いやーひどかったですねキャブスディフェンス、特に最初の2戦。

コミュニケーションミスで簡単にフリーでシュートを打たれてしまってました。

少しずつコミュニケーションミスは減っていると感じましたが、それでもダブルチームに行った後の処理のまずさなど、粗を挙げればキリがないです。

ですが、一つポイントが。

それは、、、

ドレイモンドのスリーは捨てる

ということ。

つまりそれ以上にカリーとクレイにスプラッシュされるのを防ぎたいということです。

ファイナル各試合でのドレイモンドのスリー成功数は、2/6、5/8、0/4、0/4、0/2、6/8と、波はあるものの6試合通算成功率は40%と決して侮れる数字ではないので賛否両論ありそうですが、僕はこれが効いていたと思います。

実際の試合から、ウォリアーズのトランジションオフェンスのシーン。

クレイがラブを抜きゴールに向かってドライブ。

トリトンがレブロンがやばい!とクレイを守ります。

クレイはコーナーのイグダラへ。

イグダラにはチンタラながらカイリーが詰めます。

イグダラはドレイモンドへパス。

ドレイモンドはフリーになってますがJRはカリーを離さず、ドレイモンドを放置。

ドレイモンドは迷った挙句、ドライブしようとしましたがトラベリングを取られてしまいました。

ドレイモンド放置→迷ってドライブ→トラベリングのパターンは今ファイナルだけでも2,3回はありました。

第5戦あたりからはハリバンの外もある程度フリーになってましたね。

(ハリバンに関してはわざと捨てたというよりは、どうしてもそこまで手が回らなかった、という側面が強いように思いましたがハリバンがシュート不調に陥ってしまい、キャブスとしては良い方に転ぶ結果となりました。)

このドレイモンドを捨てる作戦はレギュラーシーズンにスパーズもやってたんです。

スパーズがウォリアーズを79点、FG38%(どちらも今季最低)に抑えた試合ですね。

もっともスパーズの場合は

・ドレイモンドのスリーは捨てる

・場合によってはハリバンも捨てる

・逆にスぺイツなんかはドライブを警戒しなくていいので思いっきり詰めてミスを誘おうとする(しかもうまくパスコースを切りながら)

と高度な戦術が徹底されていたのですがww

ボガットの貢献度

ボガットが怪我で第5戦の途中から離脱したのはウォリアーズにとってかなりの痛手になったでしょう。

ファイナルではボガットは5試合平均12分くらいしか出場していません。

ウォリアーズといえば「カリー、クレイ、ハリバン、イグダラ、ドレイモンド」の通称”デスラインナップ”が有名ですが、やはりセンターがいないというのは大きな負荷になります。

特にトリトンのようなオフェンスリバウンドおばけがいるようなチーム相手に48分センターなしで戦うというのはかなり厳しいでしょう。

そういった面でやはりセンターが必要になる時間がでてきます。

もちろんエジリも他のチームに行けばスタメンでもおかしくないセンターですが、エジリとボガットには決定的に違う点があります。

それは、ボガットはオフェンスの起点になれる

ということ。

まずご存知の通りボガットのパス能力は非常に高いという点です。

カリーからミドルポスト付近のボガットにボールが入ります。

次の展開としてはカリーがハリバンにスクリーンをかけウイングへ行かせ、カリーは中へカットする、というのが本来の攻め手。

ですが、、、

ハリバンはディフェンスの出方を見て、自ら中へカット。

このアドリブにボガットはしっかり反応しハリバンへナイスパス、アンド1をゲット。

しかしボガットのオフェンスでの貢献はパスだけではありません。

ボガットがカリーにスクリーンに行こうという場面ですが、、、

ここでボガットはカリーにドレイモンドのスクリーンを使うように動け!と指示、カリーは従います。

そしてボガットはコーナーのクレイにスクリーンに移動。

このときボガットのスクリーンの向き的にはクレイに緑の方向に行ってほしかったはず。

ですがクレイは状況を見て赤の方向へ走ります。

そうするとクレイにボガットをマークしていたラブがつられました。

そこでボガットは空いているエルボーのスペースへカリーからのパスをもらいに行きます。

パスを出したカリーはすかさずボガットからハンドオフ(手渡し)を受けようとダッシュ。

カリーをマークするカイリーがボガットに引っかかり、ボールをもらったカリーはきれいにフリーに。

ラブはクレイにつられてボガットを離していたので、カリーのシュートチェックに間に合いません。

このままシュートを打ってもよかったんですが、レブロン(赤丸)がイグダラをほったらかしにしてたので、ゴール下のイグダラにパスを出しフリーでダンク。

キャブスディフェンスが雑なのもありますが、周りに動きやパスを指示し、アドリブに合わせて機転を利かせられる判断力はエジリにはないものです。

このシーンもハリバンにパスを指示しています。

加えて、スムーズに次の展開へ移行するボガットに比べ、エジリやバレジャオはどこにスクリーンをかけに行くか迷っている場面があります。

結果テンポが悪くなりディフェンスに修正する時間を与えてしまい、どーもオフェンスがうまく回らない時間帯ができてしまってたように思います。

ウォリアーズの流れるようなオフェンスに適合できるビッグマンは今のウォリアーズにはボガットしかいないのです。

最後に

ここまで良いディフェンスだの悪いオフェンスだのの話をしてきといてあれなんですが、正直いくら良いディフェンスをしても、シュートを決められたら失点してしまうんですよ。

身もふたもないことを言うようですが、オフェンスにタフショットを強いるようなディフェンスをしても、それを強引に決めてくる相手に対してはそれ以上どうしようもないんです。

ただ、そういったタフショットを1試合通して決め続けるというのは非常に確率の低いことですよね。

だから1試合続けて良いディフェンスをすることで相手のシュート確率をできるだけ下げ、良いオフェンスをすることで自分たちのシュート確率をできるだけ上げることが大事になります。

実際、カイリーやレブロンが40点取ったような試合でも、ずっと彼らがシュートを決め続けていたわけではなく、シュートが入らない時間帯もあったんです。

(今シリーズのカイリーは覚醒していましたが、、、)

ですが、その時間帯に頑張ってトリトンがオフェンスリバウンドを取りシュート回数を増やしていた、あるいはオフェンスリバウンドから自分で得点するなり、ファールもらうなりで何とかつないでいたのが大きかったと思います。

逆にウォリアーズはシュートが入らない時間帯でもピャっとスリーを打つことが多いです。

それが入れば流れを引き寄せられるし、軽く一気に10点くらいは稼いできますが、入らないと淡白なオフェンスに終わってしまいオフェンスでのリズムが出てこなくなってしまいます。

最近では「スリーの方が確率は低くても得点期待値が高い」という理論がよく言われています。

しかし実際の試合ではどうしてもここで点がほしいという場面があるはずです。

そんな場面で、40%のスリーを打つか50%のツーを狙うかとなると、理屈でいえば50%の方をとるべきです。

さらにスリーでオフェンスが終わるということはフリースローが得られにくい、ということが言えると思われます。

ウォリアーズのレギュラーシーズンでの%PTS-FT(チームの総得点のうち、フリースローによるものの%)は14.5%なんですが、これはリーグ最下位なんですね。

(キャブスもこの数字は15.6%でリーグ27位と低いのは低いんですが、今シリーズでの7試合通算のフリースロー試投数はウォリアーズ145本、キャブス167本と22本の差がありました。)

得点期待値の高いフリースローで点取って苦しい時間を繋ごうってのが少ないんですよね。

もちろんウォリアーズは彼らのスタイルでレギュラーシーズン73勝し、プレーオフもファイナルまで勝ち上がってきたのでそのスタイルがダメだ!変えるべきだ!というつもりは全くありませんが、ファイナルでは不運なことにそれが裏目にでてしまったのかなと思います。

ウォリアーズでそういった確実に点を取る役割を担っていたのがリビングストンかと思います。

リビングストンのポストプレーからのFG%は50.6%と高く、ここぞというところで彼が得点というシーンは皆さんも覚えがあると思います。

しかし、リビングストンをカリー、クレイと同時に出すとどうしてもリビングストンが相手のSFを守らなければならずそこを突かれる、あるいはリバウンドが取れなくなる、といったようなリスクもあります。

(今シリーズではリビングストンがレブロンのポストプレーを守るシーンもあり、いいディフェンスをしていたので一概にそうとは言えないかもしれませんが。)

そういった点でリビングストンは20分前後しか出せないんだろうと思います。

そこで個人的に期待してるのが相手SF、さらにはPFも守れる体格があり、スリーも打てるハリバンです。

大きい相手には外から勝負、小さい相手には中で勝負ができるハリバンでの攻撃をもうちょっと増やしてもいいのかなーなんて思います。

そのハリバンがウォリアーズに残るのかどうかというとこなんですが。

※追記: とかいっていたらハリバンは移籍。代わりに1on1からの得点能力がリーグトップクラスのKDが加入した。

こうして振り返るとキャブスもウォリアーズもまだまだチーム力を上げる余地があると思います。

来シーズンに向けて両チームがロスター面で、戦術面でどうアップデートしてくるのか、非常に楽しみですね。

試合見返してて我らがサンズとレベルが違いすぎて泣きそうになったわwww

それではー。

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