Stop the ACE

じゃり
The Chewing Gum
Published in
8 min readMay 10, 2018

京都ハンナリーズのチャンピオンシップ初戦の相手であるアルバルク東京。そのエース、田中大貴はハンナリーズがアルバルクを倒すために避けては通れない相手だ。

しかしレギュラーシーズン中の対戦では、残念ながら彼を止められていたとは言えない。

今回はレギュラーシーズン最終節の対戦で見えた、対田中ディフェンスの欠陥とその対策に注目したい。

田中のピックを止めるために

以前記事にもしたように田中大貴のような選手を完全に止めることは難しい。しかしレギュラーシーズンでのハンナリーズは、彼にやられすぎた。

特にピック&ロールである。基本的には岡田が田中をマークする。ピックをかけられるシチュエーションでは、岡田はスクリナーの上から田中を追い、スクリナーのディフェンダーは下がって守る、いわゆるドロップという守り方を採用している。

この守り方はスクリナーが外に開くピック&ポップには弱いが、アレックスカークのアウトサイドはある程度捨てていた。

それはともかく、根本的な問題はそこではなく岡田のピックの対処法にある。最終節のアルバルク戦でのプレーを見ていきたい。

ピックがかけられるタイミングで、岡田と田中の距離が離れすぎているのだ。

だからカークは綺麗に岡田だけを引っ掛けるようにスクリーンをかけることができる。また、田中の移動距離に比べて岡田の移動距離が長くなってしまう。よってその後、田中と岡田のギャップが大きくなってしまう。

ハンナリーズとしては、ある程度こうなるのはわかってるので、逆サイドから片岡がヘルプに寄る、という守り方をする。しかしこれでは逆サイドで2対1になってしまう。ここのスリーは捨てる、というのはディフェンスとして成立しない。なにせスリー成功率は安藤、竹内、ザックが39%、菊池が36%、馬場も35%なのだ。

ここで距離を詰めているとどうなるか。スクリナーがクリーンに岡田だけを引っ掛けることが難しくなる。

いい例がこれだ。

1つ目のスクリーンの際、川崎の谷口が田中との距離を詰めている。そのためカークは田中を邪魔せず谷口だけを引っ掛けなければならず、慎重なスクリーンをかけざるを得ない。よって谷口がカークと田中の間に体を入れ、スクリーンをうまくすり抜けているのがわかる。

そうすることでヘルプのディフェンダーが先ほどの片岡のように完全に田中に寄るギャンブルなディフェンスではなく、少し田中側に寄りドライブコースを限定しつつバスが出たらマークマンに戻る、という守り方ができる。

上の動画のディフェンスは、かなり上手く対処できたケースであり、毎回こんなに上手くいくとは限らない。しかし距離を詰めることで、多少後追いになってしまったとしてもなるべく田中とのギャップを作らずに済む。このシーンでもその後もう一度スクリーンがかけられるが、そこでも谷口は距離を詰めて守っているためすぐに田中に追いついている。

これも距離を詰めて上手く守ったケースだ。

距離を詰めず、離して守ると、

こうなる。

また距離を詰めないことの弊害としてもう一つ、ディレクション(ドライブ方向を限定すること)ができない、という点がある。

距離が詰められていないと、田中は左右どちらにもドライブすることができる。なので、田中はフェイクで効果的にディフェンダーを揺さぶることができるこの場面でも岡田が田中のフェイクに逆を突かれている。それもまた田中とのギャップを大きくしてしまう原因になっている。

どちらにディレクションするかについては議論の余地があるところだが、少なくともサイドでのピックに対してはウィークサイド側にドライブさせるべき(いわゆるアイスとかブルーといわれる守り方)と思われる。

ミドル側に行かせると、このようにロールマンをバンプ(体をぶつけて進行を妨害)するディフェンダーがおらず、簡単にやられてしまう。

ただ、ハンナリーズはレギュラーシーズン中、サイドピックに対してに対して明確にアイスを使ってはいない。おそらく本戦でもやらない可能性が高い。アイスに対してはその対策もかなり浸透しており、そこも考慮した上でアイスは使ってないのかもしれない。上のようにがっつりやられるのは流石にダメだが、竹内やカークがミドルを打つならそれはOKという考えならそれはそれでありとも言える。

距離を詰める、という話に戻るが、実は最終節の2戦目では岡田も田中に対して距離を詰めて守っていた。

距離を詰めた分カークはスクリーンを掛けにくい。笛は鳴らなかったがカークは明らかに動きながらコンタクトしており、イリーガルスクリーンだ。このように守ることで田中にあれほどまでに自由にやられることはなくなると考えられる。

しかし岡田はレギュラーシーズン、このように距離を詰めてスクリーンをすり抜ける守りをあまりやっていない。慣れていないせいかファールを吹かれてしまい、結局ファウルトラブルに陥ってしまった。

岡田が1週間でこの部分を調整できるか、が1つのカギになるだろう。

もし岡田以外が田中をマークするなら、

片岡:岡田よりスクリーンを上手く守れる可能性はある。しかし伊藤のコンディション次第では、片岡は岡田以上にファールトラブルに陥ってはいけない人になる。岡田と同様、高さのミスマッチも生じる。

晴山:高さ、フィジカルの面では最も張り合える。しかしオフボールの動きなどが少し懸念。また、オンザコート1の時に晴山が田中につくと、ザックバランスキーと内海のマッチアップが生じるが、これは前回対戦時かなりやられたのとこなので、あまり好ましくはないか。

内海:クイックネスの点で不安が残る。今回もマッチアップのズレで何度か田中を守ったが、岡田以上に上手く守っていたようには見えなかった。岡田より内海の方が上背があるのはプラス。

坂東:ファール覚悟の激しいディフェンスを求められるタイミングがあるかもしれない。ただし坂東もまた高さのミスマッチは避けられない。

といったところか。

軽く触れたが、田中に対する高さのミスマッチもまた問題になりそうだ。

この2試合で田中がポストアップした回数は少なかったが、アルバルクにとってこれは効果的なオプションだ。シンプルなダブルチームではおそらく簡単に処理されてしまう。ジョシュアスミスがよくやられるようにベースライン側にターンさせ、その瞬間ダブルチームに寄る、というような、何かしらの工夫が必要になるだろう。

余談

ジョシュアスミスが出場停止となったことで、ポストからの得点が減ることは予想されるが、それは仕方がない。

しかしこのアルバルク戦はポストから、カットしてきた選手やアウトサイドのシューターに合わせるという形があまり見られなかった。

スミスと同じようにポストでディフェンスを引きつけることができる選手は今のハンナリーズにはいないが、それでもポストにボールを入れることはオフェンスの起点作りのオプションとして重要だ。

ダブや永吉、マブンガはもちろん、伊藤がポストから起点になる形もシーズン中やってきたはずだ。もちろん多少の戦術の変更はあれど、いない選手がいてもハンナリーズらしいバスケを崩さず戦って欲しい。

もちろんアルバルクは田中を止めさえすれば勝てるチームではない。

だがエースの田中を抑えずしてアルバルクに勝つのは難しい。

まず田中を抑える。それが第一関門だ。

その上で他の選手は、捨てると決めたところは捨て、抑えるべきところをきっちり抑える。

川崎が田中を抑えてる例を挙げたが、田中以外のところで篠山や藤井が懸命にクローズアウトしている所も忘れてはいけない。

厳しい戦いになるのは間違いなく、ハンナリーズが勝ち上がるには多かれ少なかれ、運の要素も必要になるだろう。

しかし、これがバスケットボールである以上、勝利のチャンスは決してゼロではない。

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