WC予選 日本対カザフスタン 戦術レポート

じゃり
The Chewing Gum
Published in
7 min readSep 16, 2018

男子バスケットボール日本代表はワールドカップアジア予選ラウンド2の初戦、カザフスタン相手に85-70で勝利した(Box Score)。八村塁と渡邊雄太の二人が初めてそろい踏みしたこの試合で、日本はいったいどのように戦っていたのか。今回は少ないサンプルだが、カザフスタン戦での攻守における戦い方から、日本代表の現在地と今後の課題についてレポートする。

オフェンス

トランジションオフェンス

トランジションでの得点は積極的に狙う。相手からターンオーバーを誘発した時はまずファストブレイクを出そうとする。アウトサイド陣だけでなくアイラブラウンや八村らもトランジションを得意とするタイプであり、この試合ではターンオーバーからダンクを決めるシーンが何度もあった。

ディフェンスリバウンド後や失点後でもアーリーでのシュートを狙う。特に八村がリバウンド後にボールプッシュしそのままレイアップまで持っていくのが大きな武器になっている。また富樫がボールを運んできてそのままスルスルとレイアップまでいったシーンも2度あった。この試合ではあまり見られなかったがこれまでの戦いの中では比江島もそういったシュートを狙ってきた選手だ。ただし、チーム全体としてトランジションでのスリーはワイドオープンにならない限り狙わない。ここは辻をコート入れた場合にどうなるだろうか。

ハーフコートオフェンス

メインオプションは渡邊と八村だ。彼らにはただ単にボールを持たせるのではなく、よりよいシチュエーションでボールが渡るようなセットが用意されている。例えば、ワンサイドでピックやハンドオフをしつつその間に逆サイドを渡邊がピンダウンを使って外でボールをもらう、といったようなプレーだ。

このように最後に八村とのピックになるように組み立てられているプレーも見られた。

八村についてもインサイドでよりよいポジションを取れるようなセットを使っていた。

八村がローポストで1on1をする際に周囲の選手はアウトサイドでスタンディングになっている。カザフスタンは八村のローポストにあまりダブルチームを仕掛けてこなかったが、もしそれを仕掛けてくる相手だった場合や、八村が1on1で優位に立てない相手だった場合、アウトサイドのポジションチェンジやカッティングで合わせるてフリーを作る動きが必要になってくるだろう。

この二人以外で注目したいのが馬場雄大だ。これまで代表での馬場の役割は速攻やカッティングでボールをもらいシュートを打つフィニッシャーとしての役割が大きかった。しかしこの試合で馬場はボールハンドラーとしての役割を与えられ、前半からピックを使ったり外から1on1を仕掛けるシーンが見られた。

これはSLOBで馬場にピックをかけ、コーナーの八村へワンハンドでスキップパスを出したシーンだ。このように馬場がドライブから外に捌いてスリーを打つ形が何度か見られ、馬場個人としての成長を感じるプレーであった。

課題

渡邊や八村が積極的にシュートを打ち得点を重ねたことは素晴らしいが、彼ら二人で引き付けて他の選手が合わせる、といったプレーはほとんど見られなかった。

また相変わらず不用意なパスミスも多かった。相手の1線、2線にタイトにマークされたり、オフボールスクリーン時に行きたい方向へ行かせないようなディフェンスをされていたことが一因だ。例えばバックカットやスリップを使うといったような、相手の対応に対するこちらの対応が不十分だったことは否めない。

ディフェンス

マンツーマン

ボールマンピックに対しては、基本的にファイトオーバー+ドロップで守り、ミドルのプルアップは打たせつつ後追いでプレッシャーをかけていく、という形を採用していた。

ここがファイトオーバーではなくアンダーになってしまうとスリーを打たれていた。

この試合ではオフボールスクリーンの所も含めスイッチをこれまで以上に多用していた。SG~PF間でのスクリーンに関しては掛け方が緩いところではノースイッチだったが、引っかかりそうな場面ではためらわずスイッチをすることが多かった。ここはおそらく事前に指示があったのだろう。特に渡邊は比江島、田中だけでなく八村やアイラともスイッチをしていた。渡辺にサイズがあること、八村とアイラに機動力もあることがそれを可能にしている。

ただ渡邊が相手インサイドにマッチアップした際、押し込まれてしまうシーンも見られた。そうされないフィジカルを身につけることは渡邊のNBA挑戦においても課題となる場面だろう。

一方高さで劣る富樫や篠山、機動力で劣る竹内、相手のセンターが絡むスクリーンではスイッチはしない方針だった。

そして何より八村のリムプロテクトが素晴らしかった。2Q序盤の3連続ブロック以降、相手は警戒心を強め体勢を崩しているシーンが散見された。だが、八村がブロックに跳んだあとのリバウンドを確保できずセカンドチャンスを与えてしまうこともあった。

2-3ゾーン

スタイルとしては、ボールがウイングに降りたら前線の片方がプレッシャーを強める、逆サイドにテンポよくスイングされてしまったら後列の外がチェックに出てシュートを打たせず前列が追いついたところで戻る、という形だった。これまでの試合でもゾーンは使っていたが、リバウンドのところで苦労することが多かった。しかしこの試合では後列に竹内、八村、渡邊とサイズのある選手を並べられたことで、シンプルにオフェンスリバウンドを獲られてしまうことは減った。ただ中央の竹内あるいは八村が外に釣り出されるとインサイドを突かれたり、オフェンスリバウンドを許してしまっていた。

またギャップとなるフリースローライン上のエリアに対する守りもチームとして統一できていなかった。後列中央が出るのか出ないのかが曖昧で、そこを起点に崩されていた。

課題

1つは先述の通り2-3ゾーンの習熟度を上げることだ。

もう1つこの試合で日本が守れていなかったのがスペインピックだ。

これは非常に守りにくいため世界中で猛威を振るっているプレーだが、そもそも守り方がチームで統一されていなかったため、選手間の連携がうまくとれていなかった。もっともきれいに守るための手段としてオールスイッチが有効だとされている。しかしセンターがドロップで守り、なおかつPGにサイズのない日本だと採用しにくい。

この試合でもカザフスタンこのように富樫や篠山がゴール下で守らなければならない形を、再現性を持って作っていた。これをどう守るかはマンツーマンディフェンスの今後の課題になりそうだ。もっとも手早いのはサイズのあるPGの起用してのオールスイッチなのだが。

総評

渡邊や八村(さらにこの試合は怪我で欠いたファジーカス)が加入したことでチーム力が格段に上がった日本代表。まだまだ連携が十分にはできておらず、現状では単に強い選手が加わった、というだけだ。それでも彼らは戦術を変えチームを勝たせる力を有している。そして彼らがチーム内で大きな役割を担ってくれることで、それ以外の選手は負担が減り、限定されたタスクに集中することでのびのびとプレーすることができていた。今後は海外勢が合流できない試合が多くなることが懸念事項だが、チーム総力としてはまだまだ伸びしろだらけといえそうだ。

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