未来政府からちばレポを考える

URAMOTO Kazunori
Stories by Code for Chiba
9 min readDec 4, 2016

この記事は、Civic Tech Advent Calendar 2016 に参加しており、8日目の記事です。日々、Civictech に関する記事が公開されていますので、チェックしてみてください。

さて、ちょっと前に「未来政府」という本がでました。

著者のギャビン・ニューサムは、現カリフォルニア州副知事で、その前はサンフランシスコ市の市長だった人です。この本をふむふむと読んでいくと、なんとあとがきに「ちばレポ」がでてきました。

千葉市でも「ちばレポ」をはじめている。…(snip)…

ただ、78万人いる千葉市民のうち、登録者はまだ3000人程度にとどまるようだ。…(snip)… 2014年9月からの半年間の投稿数は1000件程度で、1日に換算すると10件にも満たない。

本書で紹介されているメイナー市のイノバックと比較すると、市民の参加度、フィードバックの数や頻度に大きな違いがある。

人口が20万人くらいずれているのが気になるものの、本を読んで受ける感触としては、熱量の差が大きくありそうです。イノバックの事例を元にちょっと考えてみましょう。

イノバック

イノバックはメイナー市の地域通貨です。千葉でいうとピーナッツですね。

では、そのイノバックがどのように流通しているのか? ここに、メイナー・ラボという仕組みが関係してきます。メイナー・ラボには、市内の課題が登録されており、市民が解決策の提案を行えるプラットフォームとなっています。市民は、提案すると 1,000イノバック、アイデアが採用されると 100,000イノバックもらえます。そして、市民が手にしたイノバックは、サイト上で公開され、誰でも見ることができたようです。

さて、このイノバックを集めてどうするのか? イノバックは、実際に使うことができます。パトカーの体験乗車や一日市長など行政ならではのものから、地域の商店やレストランが割引券や食前酒無料などのサービスを提供したりしていたようです。この辺からも、地域に受け入れられている仕組み、という感じがしますね。

イノバックは、市民へのインセンティブとして十分機能していたようですが、市民はイノバック欲しさに解決策を提案するのでしょうか? どうやらそうではなかったようです。

市民が出した解決策に否定的な評価をした場合、提案者はどうしたかというと、振り出しに戻って問題点を修正しようとしたそうです。単にイノバックを稼ぐためだけであれば、そこまでしないですよね。こうなった要因は、提案がちゃんと実現し、アイデアが解決策として実行される、そのプロセスを見えるようにしたことで、本当に提案が欲しいんだ、と認知されたことが大きいと思います。

ちばレポとの比較

ここまでで、イノバックというかメイヤー・ラボの仕組みはなんとなくわかったと思いますので、ちばレポと比較してみましょう。

違いがわかりやすいところでいうと、ちばレポはレポートを送ると、一旦非公開の状態となります。市側の確認を経て、ポリシーに違反していなければ公開されます。一方、メイナー・ラボは全公開、かつ肯定的/否定的な評価もすべて公開しています。ちばレポの非公開のレポートの中には、こういう理由で対応できません、というものがあったりしますが、この内容はとても重要で、それはそこに市側の考え方が反映されているからです。

メイナー・ラボでは、すべてが公開されているので採用された理由、されなかった理由をすべて見ることができ、疑義が生じることがなかったそうです。ちばレポの場合は、非公開なのでレポートを送った当人しか知ることができず、市の考え方が共有されません。この点については、本の中でも次のように書かれています。

「誰かがアイデアや考えを書いて入れますよね。それは革新的な内容かもしれません。しかし書いた人には提案がどう処理されるのかわかりません。せっかく提案を出しても、それが実行されるのを見ない限り、処理状況を知りえなかったのです」。そして処理のプロセスを知る市民の数が少ないほど、市民の参加意識も低くなりがちだった。

このような状況は、大きな機会損失だと思います。レポートの対応内容について、もう少しオープンな関係になると行政がぐっと近づいた存在になり、市民の参加意識も高まるのではないかと思います。

次に、イノバックのようなインセンティブの仕組みがちばレポにあるかというと、モチベーションを高める要素としてはちばレポグランプリが該当しそうです。

ちばレポグランプリは、年間を通じて行われ、毎月ランキングが発表されます。ランキングには月間と年間の 2つがあり、ランキングはレポート件数、サポート活動件数などから算出されるポイントによって決められます。最終的に年間ランキングが決定すると、その上位者は表彰されるそうです。

ここまで見てきてもわかるとおりイノバックとの違いははっきりしています。利用できる報奨か否かという点で、雲泥の差があります。ちばレポグランプリの認知度は高くないので、まだまだランキングにのることをモチベーションにつなげるのは難しいのではないか、と思います。

今からできるちばレポの改善

さて、比較だけして終わるのもあれなので、なにか改善できないか考えてみましょう。ちばレポの運用状況はオープンデータとして公開されているので、こちらに基づいて検討してみます。

本の記述からすると、人口の割にユーザー数が少ないし、レポート数も少ないと思われてるので、実際のところを見てみます。人口のデータは、こちらのオープンデータを使います。

ちばレポのデータは 2016年2月まで存在するので、ここを基点に計算してみましょう。ちなみに、ちばレポのユーザーは千葉市外の方も登録できるので厳密でありませんが、公開されているデータからはわからないので誤差の範囲としておいておきます。たぶん、少ないので。

2016年2月時点での人口あたりのユーザー数は、人口の 0.37% にあたる 3,615ユーザー、一日あたりのレポート数は稼働開始からの全期間の平均で、3.33 となりました。また、ユーザーの中で 1回でもレポートを投稿している人をアクティブとすると、全ユーザーの 15.24%がアクティブでした。下のグラフは、ユーザー数とアクティブ数の推移です。

ユーザー数の伸びほどアクティブなユーザーは増えていないことが見て取れます。レポートすることが主目的のちばレポなので、もっとアクティブな(=レポートをするユーザー)を増やしたいところですね。

というわけで、ユーザー数を増やす、とアクティブ数を増やすことの 2つを考えてみましょう。

メイヤー・ラボの例から考えた場合、情報の透明性を高めることが有効なことがわかっていますが、すぐに実行するのは難しそうです。また、イノバックのような報酬を渡すことも同様に難しいでしょう。ここは、メイヤー市で行われた啓発活動を参考にしましょう。

一定の啓発活動は絶対に必要でした。この種の事業は、目的が市民に伝わりにくいですからね。やがて提案が実現され、”アイデア” が ”解決策”に変わるのを目にすると、市民の意識が変化しました。

レポートに置き換えると、どういうレポートがされていて、どのように解決されているのかを市民が知ることが重要といえるのはないでしょうか?現在のちばレポでも、過去のレポートを見ることができます。

上記のリンク先を見ると、地図にアイコンがわーっとあって、その中から気になるレポートを見ることになりますが、地図からわざわざ探して見たりしないですよね。ここに改善ポイントがありそうです。また、こういうレポートがあって、こういう対応したよ! という情報を Facebook や Twitter などを使って周知することも考えられます。

ちばレポを使っているとわかりますが、時に驚くようなスピードでレポートが解決されることがあります。でも、行政側からそれを周知することって、あまり考えられないですよね。なんだか当たり前のようになっていますし、変に周知すると、これがスタンダードになって逆に自分たちの首を絞めることにつながってしまうかもしれません。受け入れる市民側の問題もありますよね。

ここは、僕たち Code for Chiba のような団体が、今月の神対応のようなコーナーを作った方がいいのかもしれません :) どういうレポートがあって、それに対しどういう対応、解決がされているのか、知ることによって市民の意識も変わると思います。

といったところで、特に著者のギャビン・ニューサムが書いたわけではありませんが、あとがきに書かれていたことをキッカケに未来政府からちばレポを考えてみました。僕は、この本の中にでてくる「コモンウェルス」という言葉が大好きです。テクノロジーでコモンウェルスを蘇らせる、Code for の活動を通じて、実現したいですね!

--

--