cryptoeconomicsという概念

鎖界隈でよく耳にする「cryptoeconomics」に興味があるのでどんなものなのか見ていきたいと思います。

僕は今、大学の経済学部生ですが、色んな意味であまり大学生活を楽しめていないのでこれからcryptoeconomicsをモチベーションに生きようかなと思っています。

さて、読んで字の如くcryptoeconomicsはCrypto(暗号学) + Economics(経済学)を組み合わせた学問です。

暗号学は暗号化に関する研究や、電子署名などの安全性を守る暗号プロトコルの研究を指し、公開鍵秘密鍵ハッシュ関数といった用語が出てくる学問。
一方の経済学は価格理論やゲーム理論、契約理論などを扱うミクロ経済学、個別の経済活動を集計した一国全体の経済を扱うマクロ経済学の2つを大きな軸としている学問です。

この二つの学問分野を融合させて暗号通貨のインセンティブ設計などを考えていこうというのがcryptoeconomicsということになります。

私が属している大学の学部生の中でもゼミの論文テーマにcryptoeconomicsを選ぶ学生もいると聞きました。アカデミックな現場でも徐々に認知理解が進んでいるのかもしれません。

既にEconomics of Blockchainというタイトルで英語の論文がちらほら出ていたりもします。(Twitterかどこかでまとまってた気がするんですが…。)

経済学をざっくりと

この記事では主に経済学的な目線からcryptoeconomicsの概要を書き連ねていこうと思います。

cryptoeconomicsにおいて重要な経済学の分野として、ゲーム理論,メカニズムデザイン,貨幣数量説などがあげられると僕は考えています。ゲーム理論とメカニズムデザインはミクロ経済学、貨幣数量説はマクロ経済学の範疇です。

GunosyさんのBlockchain blogに「貨幣数量説を応用したユーティリティトークンの理論価格算出」をはじめ、トークン設計にまつわる良記事が満載なのでそちらを参照なさってみてください。。頭良過ぎィ…

今回はミクロに着目します。この記事で扱うミクロ経済学の簡単な概念図を書いてみます。これ以外にも種類はあるはず。

価格理論はミクロの中でも基礎をなす理論です。定義をブリタニカより引用してみると…

市場機構のもとにおける個々の経済主体の行動原理,あるいは動機を明らかにし,さまざまな市場において各種の財・サービスの価格が形成されるメカニズム,さらには資源配分と所得分配の原理,仕組みを明らかにしようとする経済学の一部門。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

かなり砕けた言い方をすると、需要と供給が存在する特定の市場において、財の価格は需給にどのような影響を受け、価格が決定されるのかを考察するといった感じです。(需要とは?財とは?といった厳密な定義はここでは省略)

続いてゲーム理論。ここでいうゲームは娯楽目的のゲームだけでなく、広義に「戦略が必要な状況」を指します。cryptoeconomicsではゲーム理論が一番重要な気がします。(ゲーム理論の中でも*ナッシュ均衡が出てくるのをよく見る…)

ある特定のゲームの中で個人個人がどのような動きをし、その行動が他の個人にどのような影響を与えるかを考察する学問、それがゲーム理論です。

メカニズムデザインはその反対で、「こんな風にプレイヤーに動いて欲しい」という状態を設定し、それが自律的に実行されるようなゲームのルールを設定する学問です。逆ゲーム理論と呼ばれることもあるようです。

ゲーム理論とメカニズム理論はミクロ経済学の範疇にあります。

これからメカニズムデザインを学ぼうとされる方は価格理論とゲーム理論を踏まえた上で学習されるのが良いかと思います。

参考:メカニズムデザインの考え方とマッチングのメカニズム

ナッシュ均衡…相手プレーヤー達の戦略が変わらない時に、自分一人だけ戦略を変えても利得が増えないような戦略の組み合わせのこと。

価格理論、ゲーム理論のその先にあるのが契約理論です。Wikipediaの定義から引用します。

契約理論(けいやくりろん、英: contract theory)とは、財・サービスの取引に関する当事者間の合意事項である契約に着目し、契約の締結や履行の管理に費用がかかったり、契約当事者間で保持する情報が異なったり(Hidden Information)、契約の履行を監視する機構が不完全であったり(Hidden Action)、情報を処理する能力が限定的である(限定合理性)ために生じる諸現象を説明するミクロの理論である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%91%E7%B4%84%E7%90%86%E8%AB%96

ここでいう契約とは二者以上の間で取り交わされるルール、法律、不文律なども含むでしょうか。

ゲーム理論が与えられたゲームにおけるプレイヤーの合理的戦略や結果について分析を行うことであるのに対し、メカニズムデザインは所望の結果になるようにゲーム(のルール)を設計するものでした。

よって上図ではゲーム理論と契約理論の間にメカニズムデザインが放り込んでありますので、イメージとしてメカニズムデザインは中間にあるんだなと思っていただいて問題ないかなと。

後述しますが、m0t0k1ch1さんがゲーム理論とメカニズムデザインの違いを明確に言語化しておられるので引用させていただきます。

同じくゲームを研究対象とするメカニズムデザインはゲーム理論とどう違うのでしょうか。端的に言うと、その違いは アプローチの方向 です。ゲーム理論与えられたゲームについて、プレイヤーの合理的な戦略やその結果について分析を行うことを主目的とするのに対して、メカニズムデザインは、プレイヤーの合理性を仮定した場合に所望の結果が得られるようなゲームを設計することを主目的とします。

あと補足として、大阪大学大学院の安田先生のブログは経済学をやる上で結構参考になると思います。ナッシュ均衡の説明、オススメの本など紹介されています。

誰がcryptoeconomicsを提唱し始めたのか

このcryptoeconomicsを最初に誰が提唱し始めたのか、正確にはわかりませんが、恐らくVitalik Buterin, Karl Floersch , Vlad Zamfirあたりが提唱し始めたと思われます。

それぞれ既にcryptoeconomicsに関する自身の考えを表現しています。

Vitalikがスライドを用いて説明しています。

Cryptoeconomicsとは

・ある望ましい特性(Desired properties)を持つシステムの構築

・暗号学を用いて過去に発生したやり取りの特性を証明する

・あるシステムの中に定義された経済学的インセンティブを用いて望ましい特性を見つけ出し将来にわたって管理する

少し抽象的な説明になるのでVitalikはビットコインにおける以上3点のあり方を説明しています。ビットコインもcryptoeconomicsを応用したブロックチェーンのプロダクトなのです。

ビットコインにおける望ましい特性(Desired properties)

・ブロックの生成
・各ブロックにトランザクションを持たせる
・UTXO(取引を維持する仕組み)を保持する
・クロックを保持する
・Convergence(収束):新しいブロックはチェーンに追加されるが内容を変更したり削除することはできない
・Validity(正当性)
・Data availability(データ可用性):ブロックに紐づいた全データをダウンロードすることが可能になるべき
・Availability:高い報酬が正当に支払われればトランザクションが素早く処理されるべき

ビットコインにおける暗号学

・コンセンサスアルゴリズムPoW
・ビットコインのトランザクションを証明する電子署名
・ハッシュ関数

ビットコインにおけるインセンティブ

・ブロックに含まれるチェーンを採掘したマイナーは12.5BTC獲得し、トランザクションを通じて報酬を得る
・チェーンが含まれないブロックを採掘しても報酬ゼロ
・難易度調整

Karl FloerschもCryptoeconomicsを引っ張る存在です。

彼はYoutube”Cryptoeconomics StudyというYoutubeチャンネルでのオンライン講義、forum上でCryptoeconomicsに関する議論を主体となって行なっています。(あとbookもありますが今の所あまり更新されていません。)

cryptoeconomicsのintroduction。日本語字幕がつけられていて見やすくなっています。

Vlad Zamfirは2015年から動画挙げてます。。。

こちらはVladがcryptoeconomicsについて語るPodcastです。親切なことにscriptがついているので英語学習の教材としても最適かも。

Cryptoeconomicsについて考える人

このCryptoeconomicsを提唱し議論の中心にいる人たちが先ほど挙げたVitalik, Karl, Vlad Zamfirです。

彼らを中心にforum上で世界中のcryptoeconomistたちが議論しています。

日本にも腰を据えてcryptoeconomicsについて考える人たちがいます。

Cryptoeconomics Labは福岡とシンガポールに拠点を置く、イーサリアムベースのプロトコルを研究するブロックチェーンカンパニーです。

Cryptoeconomics Reserchは先ほどのforumやGitHubのissuesのような議論スペースで、頻繁にアップデートされています。

(CTOのsgさんは以前イーサリアム研究所が開催したイベントにお越しいただきました。)

m0t0k1ch1さんが書かれた cryptoeconomics考察ブログは界隈に一石投じた感があると個人的に思っています。僕自身このブログに相当触発されています。

「cryptoeconomics」は、その名の通り、cryptography(暗号学)と economics(経済学)を組み合わせた新しい「学問」のこと。「トークンエコノミー」は、その名の通り、トークンが循環する新しい「経済圏」のこと。つまり、トークンエコノミーは、cryptoeconomics という学問から生まれた 1 つの経済の在り方を形容しているに過ぎません。また、トークンという概念も、cryptoeconomics を考える材料の 1 つに過ぎません。

昨年末頃から年明けにかけて「トークンエコノミー」という言葉をよく耳にするようになりました。西粟倉村PoliPoliALISが話題になり始めた頃です。

Vitalikなどのコアプレイヤーがプロトコルレベルでcryptoeconomicsの議論をしているのに、日本ではプラットフォームを作るトークンエコノミーがトレンドになっている状況に少しモヤモヤしていたそうです。

Casper のプロトコル設計も cryptoeconomics の範疇ですし、Plasma のプロトコル設計も cryptoeconomics の範疇と言えるでしょう。また、これらは今後の Ethereum の発展にクリティカルに関与する極めて重要なプロトコルであり、日本でも興味を持っている方々は多いと思います。(中略)
これらをトークンエコノミーの範疇と言うのはちょっとイメージが違うような感じがします。
このような状況を受けて、まずは cryptoeconomics というキーワードの存在だけでもいいから、多くの人に認知してもらう必要性を感じ続けてきました。

ここではcryptoecnomicsは既存の経済学で言うところのメカニズムデザインに近いと仰っています。

このブログが公開されて少し経ってからLCNEMの木村優さんもトークンエコノミーとBFTエコノミーの比較をするブログを公開されました。これまた勉強になります…!

BFTとはビザンチン将軍問題に耐性があるか、ということでcryptoeconomicsを考える上でビザンチン障害はリスクになるのです。

mediumには頻繁にcryptoeconomicsに関する良記事が上がっているのでいくつか紹介します。

タイトルの通り、概要説明的記事。

こちらはメカニズムデザインとゲーム理論をdappsにどう活かしていくか、といった内容が書かれています。

ベストなインセンティブ設計を施すことは難しい、細心の注意をはらいながら設計しようという結び。ここに出てくるFrom Satoshi to Steemitというグラフは見たことがある方も多いのでは。

終わりに

冗長な文章にお付き合いありがとうございました。学部2年の未熟者ゆえ、不勉強なところもありますので訂正すべき箇所ありましたらTwitterのDMやコメント欄で優しく教えてください。

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