さっそく、泊まってみた。

☕️ 生活のある大学(1)

Fumitoshi Kato
the first of a million leaps
6 min readApr 23, 2016

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ついに「滞在棟」が完成したので、さっそく泊まってみることにした。ぼく自身は、今学期はサバティカル(特別研究期間)なのだが、変則的に「研究会(ゼミ)」を開講している。ちょうど、年度初めでメンバーが入れ替わったところなので、オリエンテーションのための合宿をおこなうことにした。なにより、できたばかりの施設を、いちはやく利用してみたいと思ったのだ。リネンの類いはまだ段ボールに入ったままだし、キッチンの冷蔵庫は届いたばかり。すべてが、ピカピカだった。学部生、大学院生、そしてぼくを合わせて16名で利用した。

「滞在型学習環境」については、もう少し時間をかけて整理をしてみたいと思っているので、今回は、記憶が新鮮なうちに「さっそく、泊まってみた」話を書いておきたい。簡単ではあるが、「滞在記」を残しておけば、これから利用する人の参考にもなるはずだ。まず、スケジュールは以下のとおり(実際のようすは、ビデオで…)。

Day 1: 4月15日(金)

  • 18:20 集合(チェックイン)
  • 18:30 夕食
  • 20:15 セッション01:「滞在型学習環境」について
  • 22:00ごろ〜 ディスカッション・懇親の時間

Day 2: 4月16日(土)

  • 7:30 朝食
  • 8:30 セッション02:「コミュニケーションにおけるいくつかの試案的公理(Watzlawickほか)」について
  • 9:30 ダイジェストビデオ鑑賞+ふり返り
  • 10:00 掃除
  • 10:30ごろ 解散(チェックアウト)

見てのとおり、(今回は)とてもシンプル。当然のことながら、平日の金曜日なので、なかには18:00まで講義があるという学生がいる。今回のように、平日の晩に宿泊の日程を組むときには、何時に集合できるかがポイントになりそうだ。ぼくたちの場合、計画を立てているうちに、全員揃うのが18:00過ぎだということがわかったので、18:30にスタートとなった。昼過ぎから時間に余裕があった学生たち数名が食材の買い出しに行き、ぼくも15:00過ぎには「滞在棟」に向かった。

なかに入ると、縦長の共用スペースが広がる。天井は高く、大きなガラスからは、たくさん光が射し込んで気持ちがいい。敷地をはさんで、民家が見える。今のところ、あいだに遮るものがないので、なんとなく視線を感じる。一番奥にはキッチン、そして2段ベッドが2基(4名収容)置かれた部屋が、8つ配置されている。男女別に部屋割りをして、学生たちは3名ずつで5部屋、ぼくが一部屋つかうことにした。

ふだん、学期中に2〜3回は、学生たちとともに地方のまちに出かけて「キャンプ」と称するフィールドワークを実施している。行き先によってことなるが、2泊3日で出かけることが多い。「滞在棟」は、キャンパスのなかにあるので、大げさな荷造りも切符の手配も必要ない。もちろん、親しみのあるキャンパスのなかにあるという意味では「ホーム」(「アウェイ」ではなく)なのだが、家に帰るのともちがう。キャンパスでの合宿は、不思議な「旅」だということにあらためて気づいた。

2011年の初夏から、3年間にわたって「三宅島大学」プロジェクトにかかわった。たびたび、学生たちとともに島で過ごしたが、あのときは、まさに「アウェイ」な感覚をみんなで共有していた。6時間半、同じ船に揺られて島にたどり着く。その航行で、しばし「ホーム」を離れて過ごすための心と身体の準備がおこなわれていたように思う。その点、「滞在棟」だと、あまりにも簡単に合宿が始まってしまう気がした。

大きなテーブルを大勢で囲んでいる雰囲気は、三宅島のときと同じに見えた。一緒に厨房に立ち、“同じ釜の飯”を食べて、片づける。シンプルなことながら、みんなで食卓を囲むことは大切で、いまでも「三宅島大学」プロジェクトで思い出すのは、食卓の情景が多い。だが、たんに「食べること」が重要なのではない。大切なのは、お互いに「時間を出し合う」ということなのだ。

通常、教室でおこなわれる講義は90分。あらかじめ「始まり」と「終わり」が決まっていて、その時限が終われば、次に会うのは一週間後だ。それが、十数週間にわたってくり返される。ぼくたちは、時間割によって刻まれている、規則的な学事のリズムに慣れすぎてはいないだろうか。

「滞在棟」を利用する際には、慣れ親しんだ「時間割」の感覚を超えて、どこまで「時間を出し合う」ことができるかが問われるはずだ。学生も、そして教員も、キャンパスのなかに「居場所」を求めている。たとえば、キッチンを活用した実習などは面白いはずだ。附設されるデジタルファブリケーションの工房が稼働すれば、ものづくりの精神もさらに深化するだろう。だがそれが、通常の「時間割」のなかに位置づけられるだけではふじゅうぶんだ。さまざまな利用の方法が、実践をともなうかたちで提案されていけばいいと思う。

ぼくたちの課題は、「時間割」でつくられるリズムと併存しながら、そして(いわゆる合宿のように「アウェイ」に向かうことなく)「ホーム」で宿泊するという、あたらしい時間の過ごしかたを考えることだ。それはきっと、「生活のある大学」をつくるという課題だ。

2016年4月15日〜16日|撮影・編集:此下千晴・阿曽沼陽登

金曜日の晩は、学生たちと夜更かしをした。とくに何かの課題や作業に向き合っていたわけではなく、あれこれ話をしていたら、2時過ぎになっていた。学生たちは、まだ話に夢中なようすだったが、ぼくはひと足先に大きなテーブルを離れて、部屋に戻った。部屋といっても、引き戸で仕切られているだけなので、学生たちの笑い声が響いてくる。「滞在型」には、それなりに体力が必要だな…。ぼんやりと考えているうちに、眠りについていた。

(つづく)

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Fumitoshi Kato
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