フェンスの向こう
🚧Over the fence
ずっと雨の日が続いていたが、また夏が戻ってきた。予報では、猛暑日。そのせいだろうか、〈現場〉には誰もいなかった。ちょうど、昼休みの時分だったからだろうか。
みんなでヤスリがけをしてから、およそ一か月。すでにSBCセンターは、姿を消していた。あっという間に景色が変わってしまった。がらんとしたキャンパスで、コンクリートの土台だけが、太陽に照らされている。事情を知らない人には、建設中なのか解体中なのか、見分けがつかないかもしれない。この先は土台もなくなり、やがては芝生で覆われて、何もなかったように原状に向かうはずだ。ぼくたちは、そのことを知っている。
2年前の夏、建てている最中にも、いまと同じような景色があったにちがいない。ふと、そう思った。造るか壊すか。その方向は真逆なのだが、一瞬一瞬をスナップショットでとらえると、区別がつきにくい。だから、事情や経緯をまったく知らなければ、一枚のスナップショットだけでわかることはかぎられている。〈現場〉がどのように変わってゆくのかを知るためには、つぶさに観察して何らかの手がかりをさがす。これから、建物が造られる兆しがあるのか。あるいは、すでにこの場所が使われていたという痕跡が見つかれば、解体中だと考えればいい。たびたび足をはこんで、何枚かのスナップショットを手に入れることができれば、〈現場〉の行方がわかる。
正面にある木が、ちょっと大きく見えた。知らず知らずのうちに、デッキの上から眺めるのに慣れていたのだろう。デッキが撤去され、地面に立って見上げると、なんだかちがう木のように見えた。ぼくは、フェンス越しにSBCセンターの痕跡をさがしていた。一か月前の「解体祭」のときに吊り下げた、メッセージ入りの木片が見えた。もちろんわかりきっていたことだが、そのようすを見て、ちょっと安心したような、不思議な気持ちになった。そう、デッキに開いた四角い穴から伸びていた、あの木だ。
ぼくがちょっとしみじみとしていたら、キャンパスの見学に来たとおぼしきグループが歩いてきて、福澤諭吉像の前で記念撮影をはじめた。すぐ背後にある〈現場〉には、いっさい関心がなさそうだった。5分ほどいただけで、汗だくになった。😎