ヤスリをかける
😭A farewell
これまでに何度も引っ越しをしてきたので、がらんとした部屋は見慣れているはずだった。
この夏、センターが解体されるという。もちろん急に決まった話ではなく、もともと2年間の「仮設」ということだった。だから、その時が訪れたというだけだ。学期中のような往来があっては工事ができないので、夏休みになるのを待ってから解体がはじまる。いまは、まさに学期末で、おそらくはふだんよりも学生たちの姿を多く見かける時期だ。あと一週間もすれば、こんどはキャンパスはとても静かになって、そのなかで解体工事がすすむ。たくさんの人に見守られることもなく、センターは姿を消すのだ。
じつは、建てるときも事情は同じだ。2年前の夏休み中に少しずつ工事がすすんで、秋学期になって学生たちがキャンパスに戻ってきたときには、突然できた建物のように見えたはずだ。ひと晩で形になったり、あるいは更地に戻ったりするはずはないのに、工事中のようすを見ることがないために、いきなり起きた出来事のように感じる。そもそも、ぼくたちは、工事現場と「すれ違う」ことになっているのだ。

夕方、センターに行くと、みんなで床にヤスリをかけていた。2年間とはいえ、多くの人にとって大切な場所だった。感謝の気持ちを込めて、(わずかながらも)床を磨いた。床はきれいになって、ほのかに木の香りがした。
ぼくも、たびたびセンターを利用してきた。学部や大学院の講義科目の「教室」として利用したが、なかでも印象に残っているのは、研究会(ゼミ)の4年生との定例ミーティングだ。毎週火曜日の午後にセンターに集まって、「卒業プロジェクト」の話をした。学生がそれぞれの進捗を報告し、ぼくがいちいち苦言を呈するという場面が多かったように思うが、それでも定期的に話をすることで少しずつ理解がふかまった。「すれ違う」ことを避けるのに、役立ったように思う。
あの場所は、きっとすぐに元どおりになるだろう。何もなかったように。あの場所で語られたこと、あの場所でのいくつもの出会いは、確実に「いま」につながっている。もっと写真を撮っておけばよかった。あんなふうに使ってみたかった。いつも、何かが無くなる寸前に、あれこれと未練がましいことを考える。
そんな感傷的な気分などおかまいなしに、今朝も、灼熱の太陽が、ぼくを照りつけている。😭

