“食べログのように” 地域のNPO/公共サービスが検索でき、住民が評価できるマッチングサービス

Y Combinator が2014年支援するITスタートアップNPO 「 One Degree 」

笠原 孝弘
The Lean Series for Good
10 min readSep 14, 2014

--

「食べログ」のようにサービス利用者がNPOを検索・評価できるサービスを作りたい。そう考えていた矢先、海外ですでに取組んでいるサービスがありました。

サンフランシスコ・ベイエリアのソーシャル・スタートアップ「One degree」は、低所得世帯の家族と、地域で高品質サービスを提供するNPOをマッチングします。米国でも同じように、飲食店や小売店、ホテル等の口コミサイト「Yelp(イェルプ)」のソーシャルセクター版プラットフォームと評価されています。

「One degree」を活用することで、シングルマザーが低価格で歯の治療を受けることができるサービスを見つけることができたり、無料で参加できる夏の子どもキャンプに申込めたり、感染症になってしまい生活に困った青年が住居支援組織を見つけることができます。

ベイエリアには、6000のNPOサービスがあります。現在「One Degree」は、NPOや医療機関をはじめとするソーシャルセクターのサービスと連携をし、低所得の家族にフォーカスして、マッチング、ナビゲートを実現するサービスを提供しています。

One Degree https://www.1deg.org/
Revolutionizing the way low-income families connect to poverty-fighting resources. Nonprofit tech startup whose mission is to eradicate poverty.

One Degree の検索結果画面

なぜ低所得の人々がITの恩恵を受けることが出来なくていいのか

僕らは恵比寿のデートに素敵なお店を見つけるために食べログをチェックできます。タクシーがつかまらないなら、車を呼び出すUber(ウーバー)で移動することができます。これからも、スマホによるモバイルインターネットの普及、ウェアラブル端末、IoTなどのメガトレンドの恩恵を日々の生活で享受し続けるでしょう。しかも多くが低額のサービス料金で。

一方で、低所得のシングルマザーの家庭では、旅行やNPOのサービスをアナログに調べて、検索して、申込むまでにかなりの時間がかかり、一説によると、それに週20時間を費やしているそうです。

テクノロジーがここまで進歩したにもかかわらず、これは圧倒的に不平等です。もしかすると重要な場面で救命手段にアクセスしなければならないのに、苦労して、ややもすれば致命的な結果になることは見過ごせません。

One Degreeで見つけたサービスはすぐにアクションを取ることができる

ITに弱く、顧客視点が弱いままのNPOでいいわけがない

ユーザーがスマートフォンを所有できていない環境もあるかもしれませんが、そもそも、NPOの現場が「紙とペン」でアナログに管理している事も問題です。インターネット検索でようやく良さそうなサービスが見つかったと思っても、ユーザーに理解が出来ない専門用語で埋め尽くされたウェブサイトも問題です。

NPOの経営状況を評価したデータベースも更新されないのも問題で、しかもサービスに対する評価は無く、サービス利用者目線はゼロです。もうこの環境はサービスを利用したい人にとってはめちゃくちゃです。既存のデータベースは、人々の生活を変える目的では作られていないのですから。

あなたの友人が困っていたら、見つけたサービスをフェイスブックや携帯メールで簡単に共有できる

低所得者がITにアクセスできないのは思い込みか?

一方で、特にこのサービスで気になるのは、低所得者層がITにアクセスできるのかという点。ITに親しんでいるユーザーか。スマホを駆使してLINE、Facebook、Twitterをよく使っている人なのか。

従来、セーフティネット関連のサービスはTVでたまたま知ったり、役所の窓口で案内してもらうことが圧倒的だと思います。訪問してくれているソーシャルワーカーやカウンセラー、ケアマネージャーから教えてもらうこともあるでしょう。

「One Degree」は、ベイエリアの貧困問題に取り組むコミュニティー「Tipping Point」にも加わり、現場のネットワークも拡大しているようです。現場の窓口になっている人々にとっての使いやすさや、API公開もはじめたようで、重要なリソースにアクセスできる権限を与えることも重要になってきそうです。

米国の世代&所特別スマホ普及状況
A survey by the Pew Research Center’s Internet & American Life Project

上記は米国のデータですが、世代によっては低所得者層でもスマホが十分普及しつつあるという調査結果が出ています。

ITにアクセスできないのでは。スマホを使わないのでは。もしかすると、誤解や思いちがいがあるかもしれません。アプリをダウンロードしなくても、まだガラケーかもしれませんが、携帯メールをしている人は沢山いるというのはイメージでき、確かにインターネットにアクセスできるはずです。

「One Degree」は、低所得の家庭にインタビューやリサーチを実施し、製品のテスト(MVP)実施も行い、このモバイルが普及するチャンスを狙って、サービススタートに踏み切ったようです。

元Change.orgのエンジニア、プロジェクトマネージャーの、「One Degree」CTO の Eric Lukoff は、Googleの開発者会議「Google I/O 2014」に登壇し、印象的な言葉を残しました。

“Technology is not a luxury, it’s a necessity in the world today”
―― Eric Lukoff (CTO at One Degree, Inc.) | Google I/O 2014 — Strengthening communities with technology: Bay Area Impact Challenge finalists

http://youtu.be/k6bcgWmnecQ

革新的なITスタートアップNPOとして、シリコンバレーで注目を集める

「One Degree」の2013年実績は、アカウント登録数1,215人で、月に登録者数70%で成長中。検索数は12,874回で、月に154%で成長中。6,453人のユニークユーザーが検索。

登録ユーザーの平均年齢は29歳。35歳以下が73%で、18歳以下は24%。64%が女性で、35%が男性。月2,000ドル以下の所得が73%で、1,000ドル以下が52%、500ドル以下が37%。

そして、「One Degree」経由でサービスにたどり着いたと報告してくれたアカウント登録者は215人。

シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクールとして日本でも有名な、Y Combinator(Yコンビネータ)の 2014年投資先51社に選出され、さらにこの夏にスタートしたばかりのNPOのためのシリコンバレースタートアップ・アクセラレーター「Fast Forward」の投資先5社にも選ばれています。

貧困、健康、教育、衣食住の生活に関わるNPOや起業家は増え続け、さらに旧来解決できていなかった課題をテクノロジーの力で、新しい解決策を生み出しつつあります。

「One Degree」の年次報告書
https://www.1deg.org/about/wp-content/uploads/2014/06/One-Degree-Annual-Impact-Report-2013-2014.pdf

米国人口16%の4,970万人が貧困の中で生きていると言われています。「One Degree」は、サービスを急成長させるエコシステムがあり、ハイテク企業の進出による住宅価格の高騰など、格差問題が表面化するサンフランシスコでスタートし、5年後には最も全米で信頼される、地域コミュニティ内のNPOやソーシャルサービスの情報を獲得できるプラットフォームを目指している。

日本はどうかと考えると、他の人と比べて生活が下回っていると感じているのは6人に1人の割合、2,000万人いると言われています。東京在住者だけでも貧困ラインにいるのはざっくりで200万人。

僕も今はいいかもしれませんが、高齢者になった時、何か重大な障がいが起きた時に貧困ラインになる可能性はあります。そのときに国が用意してくれているセーフティネットに加えて、自分からそれに類するものにアプローチできるような環境作りが大切だと思います。ソーシャルメディアの普及によりゆるいネットワークで支え合うこともイメージできます。でもその環境を自分からつくれないひともいます。

photo credit: Parker Knight via flickr cc

民主主義と資本主義の世の中に生きる僕らは、誰もが弱者になりうる。昔の貴族階級と庶民の固定化された格差と比べて考えてみると、持っている富や所有物がひっくり返りやすいのは明白だし、それが「機会平等」というものだ。

公務員で安定していると言われる教員も心の病に罹る割合が高いとされているし、大きな企業に勤めていたってそこがいつ倒産するか分からない。僕やあなたがそういった形でいつ弱者になるかなんてわからないのだ。

誰もが弱者になりうる時代、社会問題に対する「関心のセーフティネット」を作る(安部 敏樹) | 講談社[現代ビジネス] より一部抜粋

インターネット検索に必要な高いリテラシーを必要とせず、非常に簡単だけれども検索結果が優れている「NPO・ソーシャルビジネス版」の食べログ、もしくは価格ドットコムが日本にも必要になってくると思います。

(1)価格の安いサービス、(2)価格に見合ったクオリティのサービス、(3)信頼できる事業者が提供するサービスをいかに簡単に発見し、利用者自身のニーズと資力に合った情報にアクセスできるか。サービスの比較検討、問合せにつながる意思決定に変化を起こせるか。日本におけるこの分野のビジネスモデル構築を目指していきます。

今回紹介したサービス
「One Degree」
https://www.1deg.org/
低所得世帯の家族と高品質のサービス提供者を繋げるWebサービス。

--

--