ミヒャエル・エンデが夢想した貨幣への問い

江口晋太朗 | SHINTARO Eguchi
The Living Library
Published in
3 min readAug 12, 2017

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最近、ネット上ではVALUやTimebankといった、ビットコインをもとに個人を資産にして取引するサービスが話題になっています。自分の価値を広めたり、自分の時間を売り買いしたりする話を聴く度に、時間泥棒と女の子の話を描いた『モモ』の話を思い浮かべます。

『モモ』を書いたミヒャエル・エンデをみなさんご存知かと思いますが、そのエンデは1995年に亡くなりました。亡くなる前年の1992年2月、ミュンヘンの自宅で語った音声録音をもとに作られたのが『エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと』です。

エンデは冒頭で次のように話しています。

「よろしいですか、どう考えてもおかしいのは資本主義体制下の金融システムではないでしょうか。人間が生きていくことのすべて、つまり個人の価値観から世界像まで、経済活動と結びつかないものはないのですが、問題の根源はお金にあるのです」。

「根源からお金を問うこと」ーエンデはこうした課題感をもって作品を作り続けていました。『エンデの遺言』では、彼の作品の解説だけでなく、彼が影響を受けてきた経済思想家やエンデに影響され、新たな貨幣の実験をした人たちの声を集めた作品となりました。

私たちが何気なく日常的に使っている貨幣。これは、私たちの共同体、ひいては社会全体を円滑にするための一つの媒介手段として誕生しています。そこから、株式や金融といった手段が開発されたものの、どこかで、その貨幣そのものに私たちが使われているような感覚を現代は持っているように思えます。そうした、貨幣論や経済社会論に対して、エンデは根源的なお金のあり方について問いかけます。

著書では、一部の地域で取り入れられている地域通貨の考えや、「老化する貨幣」という当初の価値が次第に減衰していく貨幣の考え方などをエンデは提唱しています。「お金とは」について問いかけるエンデの最後の著書。『モモ』をかつて読んだことがある人は、ぜひ手にとってエンデの考えを深く知ってみるのもいいかもしれません。

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