ベイエリアに進出する日本企業(1) -概況編-

Daisuke Minamide(南出 大介)
The Sun Also Rises
Published in
9 min readNov 16, 2015

3ヶ月近く前に日経で記事になっていた、ベイエリアに進出する日本企業が過去最大となったという記事を思い出し、少し書いてみようと思った。過去、シリコンバレーでのコーポレートベンチャーキャピタルの企画・立ち上げ後、実際にキャピタリストとして投資活動を行い、一時日本に戻って彼の地のスタートアップとのビジデブを担当し、そして再びベンチャーキャピタリストとしてシリコンバレーに戻ってきた体験を共有したい。そして現在シリコンバレーを目指す、又は既にこちらに拠点を構える日本企業にとって有益な情報となれば、と思う。

過去最大の日系企業の進出

source:北加日本商工会議所(JCCNC)と日本貿易振興機構(ジェトロ)サンフランシスコ事務所

記事によると2000年代前後のドットコムバブル時代の記録を抜き、過去最高の719社がベイエリアに存在するという。現地にいる者の肌感覚としても、イベント等で出会う日本人の数が増えたと実感しているし、多くの日系企業の方からのご挨拶の機会も増えたと感じる。また、2008年頃の最初に私がベイエリアに来た時にいた企業層から、他の層に変遷しているようにも感じる。

当時勤めていたのが携帯キャリアだったからかもしれないが、やはり目についたのはメーカー系の企業が多かった。PC関連や携帯電話、通信系のメーカー、商社などが目についたが、最近はCupertino詣でをする部品メーカーはもとより、ネット系やサービス系の企業も多数散見されるし、自動車の部品メーカーなども入ってきている。2008年頃から始まったスマートフォンへのシフトになぞった形で進出企業も変わってきた。また記事中にもある通り、最近では新聞社がシリコンバレーに再進出したり、金融系の企業もこちらにオフィスを構えたりしている。それらの多くは新規ビジネスに向けた情報収集とビジネスデベロップメントを目的としている。

シリコンバレーでの役割

情報収集に関しては、言うまでもないが、いち早く最新の技術やサービス、それらを提供するstartupなどへのアクセスと、巨大tech企業達(apple, google, facebook, teslaなどなど)が次にどんな事を仕掛けてくるかを、世に出る前に周辺情報から分析する事が主な役割として本社から期待されている。単純にリサーチを通してだったり、一歩踏み込んで投資を通じてだったり、様々な方法で情報にリーチしようと日々努力されている。とにかく情報を逐次本社の関連部門に提供するということが大きなミッションとなっている。

ビジネスデベロップメントに関しては、VC除いて純粋に投資を目的にしている事業会社はウチ以外ないので、CVCとしてこちらにきている会社もビズデブをメインとしていると考えると、最終目的としては、例えばメーカーさんなら自社製品に付加価値の付く技術の採用だったり、自社製品の納入先だったり、商社系だと日本での代理店契約だったりと、こちらも形は様々だが、ゴールとしては自社売上に寄与するパートナーの開拓といったところだろう。

またこちらに研究開発拠点を持っているところも多い。純粋にR&Dとして基礎技術の研究を進めている一方、ここ2−3年のトレンドとしては、他の米国系のR&D部門が行っているOpen Innovationのような取り組みも実施されている。今年ホンダがXcceleratorというプログラムを開始したり、softbankも最近Innovation Projectという取組みを開始した(softbankの場合、R&D部門ではなくビジネス部門が実施している)。

日系企業、日本人駐在員向け周辺ビジネスも

下のグラフをみて分かるように、2009年から2011年にかけては横ばいだった在留邦人(カリフォルニア中北部&ネバダ州(何故ネバダ??))が2012年以降は徐々に増加傾向にある。2014年時点の情報しかなかったのだが、恐らく今年に入ってからもこのトレンドは続いているだろう。更に、駐在員だけでなく、出張ベースでベイエリアを訪問する人の数も感覚的には増えている印象。

余談だが、2013年年初に就航したANAの成田〜San Jose便はある意味当りだったと思う。どの情報が本当かは分からないが一部ではSan Jose市の熱烈なlove call(空港発着料の優遇とか)があったので路線を復活(AAが同区間の路線を持っていたが2006年に撤退)したという話しもあった。当然ビジネスなので採算の見込みがあったから路線を作ったと思うが、このトレンドをどうやって読んでいたのか興味がある。

source: 在サンフランシスコ日本総領事館調べ

それら在留邦人向けのサービスとして、現地携帯電話の取り次ぎや自社サービスとして携帯電話サービスを提供する代理店や、こちらでの保険や資産運用を指南する相談窓口が日系スーパーマーケットにブースを構えたりしている。スーパーマーケットや和食レストランなどある意味インフラ的且つ当地の人たちも利用できるものに加えて、完全に日本人をターゲットとしたサービス系のビジネスもで始めている。

2010年頃までは、2007年に起きた金融危機の余波もあり、帰任の挨拶メールや訪問を受ける度に、あの会社も規模縮小・撤退か、と思う事が多かったが、現在は針が完全に逆に振れている。

活況にわくシリコンバレー

日本企業、在留邦人が増えている要因としてはご承知の通りだとは思うが、分かりやすい例として不動産価格の変動をみてみると、グーグルのHQがあるマウンテンビューの不動産販売価格(中央値)の推移をみても、2010年を底に右肩上がりで伸びているのが分かる。

source: silicon valley MLS blog

また以下のグラフは労働人口と雇用数のグラフ(ギャップが失業率)だが、San Franciscoの失業率も4%台とここ9年で最低となっている。更に労働人口そのものも右肩上がりで伸びている事を考えると、失業率が下がったという事は、雇用数の伸びが労働人口の伸びをこえて増えている事であり、経済的に好調な企業が増えているという事がいえるだろう。

source: socketsite

活況の背景

当然背景にはstartupに対する底なしの投資意欲がある。

source: CB Insights

今年の1Qまでのデータだが、quarterly baseで金額的には過去3年で最高の投資額を記録している。ディール数は若干斬減傾向だが、以下のグラフをみて分かる通り、1件あたりの投資金額(特にレーターステージ)が増えており、1件あたり$25M以上のディールで全体の60%以上の投資金額を構成している。

source: pitchbook

当然これは天井知らずに伸びるvaluationが大きく関わっている。以下は過去5年間の各ステージに置けるvaluationの中央値の推移だが、どのステージを見ても右肩上がりとなっている。Unicorn達がどん欲に資金調達を行っており、筆頭であるUberは今年だけでDebtも含め$4.8Bもの資金を調達した。直近のvaluationは$51Bともいわれており、日本の時価総額ランキングの15位以内に入る値となっている(11/16/2015現在)。

過熱しすぎたマーケット

そのUnicornだが、2014年4月では49社あったものが1年後には78社と1.5倍に伸びており、過熱するvaluationと量産されるunicornを背景に、今年に入ってからバブルの崩壊を危惧するブログポストやニュースの記事を数多く目にする機会が増えてきた。

BenchmarkのBill Gurleyは3月に行われたSXSWのkeynoteで、現在のUnicornのいくつかは今年中に死ぬだろうと述べていた。またSequoia CapitalのMichael Moritzは現在のUnicornは”subprime”だとコメントしており、Billと同様に”considerable number”のUnicornは絶滅/extinctするとFinancial Timesに寄稿している。

Business Insiderは、startupのあらゆるデータを扱うMattermarkによるデータで見たリスクの高いUnicornを発表している。Mattermarkは、雇用の状況(リスティングや離職数)、ソーシャルメディアからの流入などからリスクのサインが読み取れるとしている。残念な事にそこにはEvernoteも含まれていたが、この予想の通り(4月の記事)、7月にはCEOがstep downし新しい体制に刷新する事になった。

役割を全うする上で

シリコンバレーの現状がバブル/非バブルという議論は別の機会にするとして、好況の波に合わせ、数多くの日本の企業が既に参入したり、これからシリコンバレーに進出しようとしているが、「本来の目的」を達成する上で今後直面するだろうベーシックな所で陥る罠や困難について、自分を含めた先人達の体験をベースに次回以降述べていきたい。

続き

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Daisuke Minamide(南出 大介)
The Sun Also Rises

a Venture Capitalist based in the Bay Area. ex Marketer, BD, and Engineer. Love gadgets and technologies.