新規事業を阻む一番の壁(1)

Daisuke Minamide(南出 大介)
The Sun Also Rises
Published in
10 min readJun 29, 2017

4月に行ったhacker dojoでのこのブログに関する講演は大変盛況で100名近く(瞬間風速的に立ち見の方もいらっしゃったようで)の参加者の前でお話させていただきました。ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。

QAセッションやネットワーキングの際、色々なご質問をいただいたが、未だにこちらでの活動(特に本社との関係)において苦労している日本企業がたくさんあるなと実感した。そして相変わらず事前に用意できていれば避けられた問題もあるように思った。このブログやその他活動を通して「しなくていい苦労」や「無用な問題」を回避・解決できればと改めて思った次第。

さて、これまでに「ベイエリアに進出する日本企業」として5つの大きなテーマについて議論してきたが、今後は個別のアイテムに関して少し深掘って書いていく予定。また前回のエントリーのようなこちらで活躍する日本企業の事例なども今後紹介して行きたいと思うので引き続きお付き合いいただければ。

新規事業を阻む根本の問題?

いきなり核心になってしまうのだが、このブログでは日本企業がシリコンバレーで活動する上で直面する様々な日常の問題点について書いてきたが、その根本の原因は何かずっと考えてきた。既にビズデブ編で一部書いてしまったのだが、その答えは「内部統制(internal control)」と「社内のメンタリティ」にあるような気がしている。

まず内部統制について話を進めたい。前回のポストでは社内規定と書いたが、内部統制は会社運営を実施するためのシステム(仕組み)であり、このシステムから社内規定が作られるのでより的確に表現されていると思う。以下wikiの抜粋だが、

内部統制は、広義には、組織の目的を果たすために責任者または経営者が整備・運用するものである。 狭義には、法律行為財務報告における不正や誤りを防止するために経営者が主体となって整備・運用するものである。具体的には、組織形態や社内規定の整備、業務のマニュアル化や社員教育システムの整備、規律を守りながら目標を達成させるための環境整備、および財務報告や経理の不正防止が挙げられる。 コーポレートガバナンスは株主と経営者との間における仕組みであるが、内部統制は経営者労働者との間における仕組みであり経営そのものである。

「規律を守りながら目標を達成させるための環境整備」というところが一番引っかかる。というのもここでいう目標というのが何を示しているのかによって、作られるべき環境に大きく影響するからだ。

社内ルールはいつ作られたのか?

内部統制のシステム自体は2006年5月に施行された会社法によって大企業はこのシステムを整備・運用することが明確に義務付けられた。とはいえこれはあくまで仕組みの導入を義務付けるもので、会社を運営するための社内ルールは当然それ以前から運用されているはずである。一般的に企業が上場する際は定款(by law)などのルールを細かくきちんと定めるので正式版としてのルールはそのタイミングになるだろう。

では、その社内ルールの根幹は一体いつ作られたものだろうか。全ての会社がそうであるとは思わないが、個人的には、上図にあるように、ある事業が成長し継続的な利益を生み出す成熟期のタイミングが社内ルールのベースラインが完成されたタイミングというのが一般的ではないかと思う。

yahooファイナンス (2017/05/01時点)

上表は2017/05/01時点の時価総額ランキング50だが、どの企業も古くから上場している会社ばかりであり、会社の平均存続年数とったら恐らく自分よりも年齢が上だろう。創業年数の若い新興の企業がこのランキングに乗っていないのは極めて残念だが、その話は置いておき、このランキングに出ている会社を例に考えてみる。創業から上場までの期間を15年(こちらを参照)、その後成熟期まで10年、そして存続期間の平均を50年と仮定すると、約25年間は社内ルールに劇的な変化がないことになる。バブル崩壊が1991年だから、25年前というとちょうどバブルが弾けた後に既存ビジネスの保全・維持に全力を尽くすことを強いられた時代の始まりと重なる。

というか、ランキング内の企業の大部分はバブル崩壊を経験しており、その後30年近く守りの体制を維持している企業がほどんどなのではないだろうか。そう考えると余計合点が行くのだが、社内ルール自体が既存ビジネス、ひいては会社や社員を守るためにtuneされていると考えた方が自然かもしれない。そして30年前に新入社員だった人たちが、現状のマネジメントや事業部長クラスにいる年齢とも考えられる。彼らはその30年間ずっと守ることを強いられ、(既存ビジネスへのon topではなく)スクラッチからビジネスを立上げ会社の売上の柱の一つに成長させたような経験をもつ役員は少ないのでなないかと思案する。

Obsoletedな社内ルール

社内ルールは「目標達成のための環境整備」が主眼となっていると前述したが、その目標とは一体何を指すのかが問題になる。これまでの議論で明らかなように、新しいこと、前例のないこと(=新規事業)については目的に含まれず、あくまで既存事業の保全・維持と拡大についてをターゲットとしているのではなかろうか。

“新規”事業として求められているものが、既存事業やプラットフォームを飛び越えて、全く新しいものへ挑戦するということだとすると、これまで従ってきたルールは全く意味をなさない。さらに既存事業へon topでの新規事業(新機能・サービス改善)という観点でも、インターネットやモバイル(スマホ)がインフラ化した今、ルールが作られた時代とはスピードやスキルセット、そしてユーザーの行動などを含め事業環境が全く異なり、ルールやそれをベースとした判断基準そのものが陳腐化し時代に取り残されていると考えるのが自然だろう。

新規事業を行い成功させるためには、目的に見合ったルール作り又は時代に即したルール変更が必要なタイミングにきているのだと思う。

経営層のメンタリティ

次に社内のメンタリティ、とりわけマネジメント層やDecision Maker達のそれについて議論したい。前述した通り、現状のマネジメントの多くはバブル崩壊後の失われた20年(もう30年?)に、実務で活躍しマネジメントになった方たちだろう。それらの多くの人達は失敗をしなかった人たちではないだろうか?別の見方をすると、ある意味大企業の良い面でもあるのだが、(大きな)失敗をさせてもらえなかった人達とも言えるかもしれない。

シリコンバレーの考え方で言えば、startupが大成功するのは100に1つとか、せいぜい2,3というところだ。起業家たちは過去に1つ2つ会社を潰した経験があって当たり前みたいなところもある。むしろ過去の失敗は、行動した証として賞賛されるし、failconのように失敗を共有し過去から学ぼうとする活動さえある。特に今の時代、世の中の流れがめまぐるしく変化する中で、最初からこれと決め打ちでマーケットを取りに行くこと自体難しい。だからstartupは大きな流れを外さない範囲で素早く行動し失敗が小さなうちに収束させるし、逆にうまく行く(行きそうな)場合は短期間で集中的に資金が集まったりもする。

新規事業の成功率なんてそんな確率であるはずなのだが、日本の大企業ではなかなか失敗をさせてもらえない。よく日本企業(又は日本人)はrisk averseだとか言われるが、リスクの中身がきちんと理解できていればちゃんとリスクは取ると思う。ある意味今までの事業が成功しているのはそういったリスクをきちんと取ってきた先達がいるからだ。しかし時代が変わり、事業の成長・安定期を経てdesicion makerとなった方達の新規事業に対する問題は「自分がわからない事=リスク」と考えてしまうことなんじゃないだろうか。

今まで自分たちは失敗したことがない、つまり自分がよく理解できている業界の範囲内での活動しかしてこなかった(させてもらえなかった)が故に未知なものに対する恐怖心が異常に大きいような思える。又長年に渡って積み重ねてきた小さな成功は、経営層に狭い価値基準による判断方法と自分たちならなんでも成功できるという変な自信を植え付ける要因にもなっている。更にはサラリーマン役員の短い任期中の失敗は次のステージへ上がるには致命的となるため、どうしても短期的に成果のでる小さい成功を追求してしまう圧力がかかる。そのような経験や環境を通して形成されたメンタリティが(前例に囚われない)思い切った判断を阻害しているように思う。

社員のメンタリティ

端的に言うなら金太郎飴だろう。いろんなところで使われている表現だけど、まさに全てを言い表している表現だと思う。組織としては、ローテーションなどで入れ替わっても、組織として同じパフォーマンスを期待できる金太郎飴社員が好まれる。組織を構成するヒラエルキーのすべての階層で失敗を極少化するために総力を捧げる。なぜなら既存ビジネスを守る必要があるからだ。部長は課長に、課長は係長に、係長は担当者に手厚い教育を施す。そうやって上から下まで行動規範やメンタリティの均一化が図られ金太郎飴化して行く。それら共通の行動規範や精神性(!)から逸脱した社員は傍流に追いやられたり、異端児扱いされまともに評価されない、さもなければ自分のやりたいことができるところに転職して行く。だから皆、流れに逆らわないように、同調・同化するよう努めて行く。

そしてそれらをチェックしているのが人事部。大企業の人事部は出世コースとなっているところが多く社員の採用、異動、昇格に到るまでコントロールできる権力の集中した部署だ。現場の声は聞きつつも、年功序列型の昇進制度(古ぼけた内部統制の一つ)に則り、誰をどのタイミングで昇進させるかは人事部が決めるもしくは口を出す権限を持っているはずだ。そうして社員たちは、大企業の中での階段を登るために上司や人事の目を気にしながら、先人たちのコピーとなり既存の枠組みの中で「うまくやる」ことを習得して行く。

今まではそれでよかったかもしれない。まるで年金や社会保障の話と全く同じだが、現状の「上がり」が見えている世代はまさに勝ち逃げできる状況にあるが、若い世代にとって既存ビジネスが、仮に終身雇用で定年まで勤め上げるとしても、本当に商売として持つのか、会社は本当に存続するのかは何の保証もない。そして人口減少や新興国の台頭によってどんどん利鞘・マーケットが縮小しているのを目の当たりにしている世代は、恐らく現行のマネジメント層以上に危機感が強いと思う。以前自分が大企業にいた時は、若ければ若いほど長期的なビジネス像を模索し、幹部層は短期的な成果に捉われがちだったように見えた。

だが一方で、会社の中で成果を出し評価されるためには、上司が求める成果を出す現実を受け入れざるを得ない。少しずつヤスリをかられ、枠にはまるよう削られ、最終的に「会社の求める」人材へ同化して行くのではなかろうか。そして歴史は繰り返されるのだろう。

長くなったのでこの辺で。続きはまた。

続く

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Daisuke Minamide(南出 大介)
The Sun Also Rises

a Venture Capitalist based in the Bay Area. ex Marketer, BD, and Engineer. Love gadgets and technologies.