新規事業を阻む一番の壁(2)

Daisuke Minamide(南出 大介)
The Sun Also Rises
Published in
5 min readJul 25, 2017

前回は大企業で新規事業がなかなかうまくいかない原因を「内部統制」と「メンタリティ」にあるとした。内部統制は言い換えれば社内ルールであり、メンタリティはその社内ルールを運用してきた長い年月の中で築き上げて来た社内風土や社会(会社?)通念といっても良いかもしれない。

これはもう根の深い問題であることには間違いないのだが、一方ここを攻略せずにどんな取り組みを実施したとしても魂の入っていない箱物行政のような結果に陥ることは明らかだし、現にここに手を入れることなく新規事業推進・オープンイノベーションをうたってうまくいった事例を見聞きすることはほとんどない。

ではこの状況の中で、どのような取り組みを実施すれば大企業にもイノベーションが起こるのか、または新規事業を継続的に実施できる組織となるのかについて議論していきたい。

三つ子の魂百まで、だけど

人間、メンタリティを変えるのは本当に難しい。特に長い年月をかけて積み上げてきた自信、プライド、責任、経験、知識そして習慣に基づく考え方や意識を変えることほど困難なことはないと思う。例が合っているわからないが、fitbitなどのactivitiy trackerやexcersise系のサービスの継続利用率が低いのも、もっとざっくりいってしまうとダイエットが長続きしないのも、「意識を変える」ことが難しいことの現れだと思う。

また、ルールの変更、特に企業の根幹をなすような決まりごと、例えば人事(給与体系・採用基準)だったり決裁権限だったり、はとてつもなく変更が難しい。何より不公平感や不平等性を感じさせるような変更はそれだけで行動を起こさない理由となる。均一性、秩序、ヒラエルキーの維持が会社にとって一番重要事項になってるんじゃないかと穿ってしまう(まるで軍隊)。

できない理由をあげればキリがないのだが、大きな会社を(どんな小さいことであっても)変えることがどれだけ難しいかということは、自分の経験を踏まえても骨身にしみて理解している。とはいえ、行動を起こさない限り新規事業など実施できない。シリコンバレー流で行くとまずは行動ということだが、実のところシリコンバレーでも日本の大企業と同様に苦しんでいる会社はあり、どんな取組が実施されたか見ていきたい。

シリコンバレーの会社ですら大企業病を患う

ここシリコンバレーにあっても、会社の成長に伴うメンタリティの硬質化や保守化、ルール・体制変更や改革の困難化、いわゆる「大企業病」の予防や治療に苦心している会社は数多くある。その中で、とても大胆な取組を実施したのが「あの」Googleだ。2015年にAlphabetを持ち株会社とし、各事業を子会社化して傘下に置くという大きなリストラクチャリングを実施した。

検索・広告という稼ぎ頭をベースにしながら、まだコア事業まで成長していない事業だったり、医療や自動車などの全くの新しい事業を、既存のルールに縛られることなく大胆にスピードをもち且つ(ストックオプションなどにより)社員のモチベーションを保てるような仕組みに移行した。言うならば「新規事業を興すことが事業(ミッション)」としてそれぞれのエンティティーでそれぞれのルール、アイデンティティーを持って取組めるような形となった。

source: business insider

ここから先は完全に私見なのだが、あのGoogleがこのような体制に移行したのは、ある意味大企業病に冒されていた(もしくはその予兆があった)からなんじゃないだろうか。Alphabetグループの87%の売上を叩き出すGoogle(持ち株化したあと検索・広告を所掌する会社)は2017年Q2単独で226億ドル(約2兆3千億円)を叩きだす事業となった。事業の柱として申し分ないけど、移行前の体制だと、例えば超ネット事業である広告と、自動車や医療のような事業とはKPIやスピードなど使う脳みそも筋肉も大きく異なるのに、経営側に広告と同じような期待感を持たれて、執行側が困ることが多々あったんじゃなかろうか。また、稼ぎが大きく力のある勢力が決めたルールに引きづられて、意思決定や運営に支障が出るような場面が多数出てきたのではないだろうか。

そして何より、将来の成長に伴う大きなリターン(への期待感)という、スタートアップに優秀な人材が流入する大きな原動力となっているストックオプションという仕組みが、すでに上場企業である旧Googleでは組めず、いわゆるAクラスの人材を以前ほど獲得できなくなってきたのもあったんじゃないだろうか。逆の見方をすると、広告・検索という大事業の恩恵に甘えて、ハングリーさを失った「サラリーマン」的な社員が増え、社内政治が蔓延る環境が生み出されるような状況にあったのかもしれない(もちろん日本と違ってパフォーマンス出さないと簡単に首にされるとは思うけど)。

という想像を踏まえ、このリストラクチャリングによってそれぞれの事業を会社として責任を持たせ、且つそれぞれの会社に自立と自律、更には将来のupsideを提供するというやり方は、まさに全ての問題を解決するやり方だったと思う。そしてGoogleというかAlphabetは、これからもまだまだ成長することを目指しているという意思の現れにも思える。何よりすごいのは、この改革を「決断し実施」できた経営陣なんだと思う。

さて、このようなある意味会社全体をガラガラポンするようなことが日本の会社にできるのだろうか?まあ、普通に考えてできないだろう。ただこのGoogleの取組は、色々とヒントが含まれているように思う。次回はそのヒントについて考えてみたい。

続く

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Daisuke Minamide(南出 大介)
The Sun Also Rises

a Venture Capitalist based in the Bay Area. ex Marketer, BD, and Engineer. Love gadgets and technologies.