自動運転エンジニア目線のCES 2024体験記

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TIER IV MEDIA
18 min readFeb 1, 2024

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ティアフォーの自動運転ソフトウェアエンジニアの浅部佑です。
今回ティアフォーメンバーとして初めてCES 2024に参加しましたので、その様子をご紹介します。

今年も1月9日から12日にかけて、ラスベガスでCES 2024が開催されました。世界各国から数多くの企業が参加する中、ティアフォーも日本発のスタートアップとして出展しました。複数の製品の展示や最先端の技術のライブデモを行い、新しいグローバルプロジェクトも発表され、多くの来場者やパートナーとの議論を交わしました。

ラスベガス コンベンション センター 朝の様子

ティアフォー ブースの紹介

初日からティアフォーのブースはかなり注目されていました。ブースの大きさは昨年に比べて3倍になり、プロダクトやソリューションを効果的に説明できるよう、大きく3つのエリアに分けられていました。1つ目のエリアにはRobobus車両が展示され、ホワイトレーベルのレベル4自動運転ソリューション「ファンファーレ」、自動運転ソフトウェア「Pilot.Auto」やDevOpsプラットフォーム「Web.Auto」を紹介しました。その反対側のエリアでは、「Edge.Auto」のデモ実演や製品の展示、真ん中のエリアは、パートナーとのミーティングスペースとなっていました。

Robobusの展示

大きな窓と特徴的なフォルムの「Robobus」はブースの注目の的でもあり、多くの来場者が車両の中に入ってティアフォーメンバーに色々な質問をしていました。

CES期間中にリファレンスプラットフォーム「Edge.Auto」を発表しました。Edge.Autoの各プロダクトやソリューションを展示しているエリアでは、主に4つのライブデモを実施しました。

Edge.Auto のデモスペース

1つ目のデモではティアフォーで開発を進めている車載カメラと既存のカメラを比較しました。既存のC1カメラとC2カメラと比べると、今回新しくラインナップに追加されたC3カメラは解像度が非常に高いです。これらのカメラはGMSL2インタフェースを利用し、LED flickering mitigationなどの機能も含まれます。

C2カメラによる信号認識

2つ目は最大8台のカメラからのGMSL2入力を10Gbitイーサネットに変換するインターフェース変換モジュールのライブデモです。変換だけではなく、PTPを用いた他センサーとの時刻同期やシャッター制御、画像データの前処理やタイムスタンプ付与などの複雑なパーセプション処理に必要なタスクを担うモジュールとなります。

デモを実施するティアフォーのエンジニア

3つ目は、2.5WのHailo-8アクセラレーターボードを活用してカメラとLiDAR (Light Detection and Ranging) 入力を用いたセマンティックセグメンテーション (セマセグ) を行うデモです。カメラとLiDAR入力単体とフュージョンされたデータでのそれぞれのセマセグが行われ、画面にその結果が表示されます。デモでは、LiDARやカメラの一方を手でブロックした場合でも、セマセグが正常に行われており、センサー構成の冗長性も確認することができます。

4つ目は、ブース中央の大画面を用いたマルチベンダーのLiDAR・カメラのフュージョンデモです。異なるベンダーのLiDARとC2カメラのセット3つが、ブースを見渡せる高い位置に設置されています。ティアフォーが開発を進めるユニバーサルなセンサードライバーを活用することにより、ベンダー間のドライバーや仕様差異を吸収し、一つのパーセプションシステムとして利用可能になります。ブース内や周辺を行き来する来場者のトラッキングがエッジECUで行われ、リアルタイムに大画面に表示されます。

CES期間中にティアフォーは、「Co-MLOps (Cooperative Machine Learning Operations)」プロジェクトの発表も行いました。

本プロジェクトにて開発するCo-MLOps Platformを導入することにより、世界中の様々な地域で収集されるカメラ画像やLiDAR(Light Detection and Ranging)点群などのセンサデータが共有可能となり、さらにCo-MLOps Platform上で提供されるMLOps機能やエッジAIのリファレンスモデルを活用することで、各社が独自の自動運転AI開発を強化できることが期待されます。

CESを通しての注目:Software-Defined Vehicles (SDV)

CESを通して注目されていたトピックが「Software-Defined Vehicles (SDVs)」です。様々なモビリティアプリケーションや車両内の機能をハードウェア依存しないソフトウェア率先型のアプローチで開発・検証・デプロイしていこう、という勢いが感じられました。

ティアフォーのブースではSOAFEEフレームワーク上にアプリケーションとしてAutowareを動作させるデモと展示を行っており、多くの注目を集めていました。

SOAFEE (Scalable Open Architecture for Embedded Edge special interest group (SIG)) は、自動車およびコンピューティング分野の企業が主導する団体で、SDVのためのオープンソースアーキテクチャを共同で構築することを目指しています。クラウドネイティブなアーキテクチャを使用した車両用の共有プラットフォームを作成し、複数のハードウェア構成に柔軟に対応できるようにすることが目標です。業界の協力を促進して新しいソフトウェアアーキテクチャや開発からデプロイまでの方法論を探ることにより、ベース車両ハードウェアやソフトウェアの新しい業界標準が形成されることが期待されています。それらの基本コンポーネントを組み合わせたり、再利用することにより、高度なAD (Autonomous Driving) およびSDVアプリケーションの開発速度とデプロイまでのリードタイムを短縮することができます。ADAS (Advanced Driver Assistance System)、車内エンターテイメント、自動運転ソリューション、その他革新的な車両機能は、競争領域となります。

The Autoware Foundationでは、AutowareエコシステムにSDV開発のベストプラクティスをもたらし、最適化されたハードウェアおよびソフトウェアソリューションを提供するAutoware Open AD Kitに取り組んでいます。自動運転ソフトウェアとアプリケーションは、クラウドで開発、テスト、検証された後、OTA (Over The Air) アップデートを介してフリート車両に展開されます。

Arm Automotive Platformと緊密に連携しており、Open AD Kitはクラウドと実機車両の両方のArmプロセッサで動作させることができ、クラウドでの開発・検証から車両へのデプロイまでをシームレスに行うことができます。このようなプラットフォームを活用することにより、ハードウェアの準備が整う前に、ソフトウェア側の開発・検証を可能とする、シフト・レフトな開発手法を実現できます。

Open AD Kit Blueprint

CESでは、Armとのライブデモを実施し、コンテナ化されたAutowareコンポーネントとOpen AD Kitプラットフォームを使用して、新しいAD機能をクラウドネイティブな方法で展開できる方法を説明しました。Autowareのプランナーの動作ロジックを変えるためにプランナーのコードを一部修正するケースを事例として取り上げました。

元の設計では自己車両のレーン上で物標が検出されると、そこで完全停止するのですが、今回はプランナーを変更して、自己車両のレーン上で物標が検出されると、車線変更を行い前進するようにします。

プランナー変更前と変更後

コードを適切に変更した後、SDVの検証およびデプロイサイクルを完了するには、3つのステップが必要です。まず、新しく修正したソフトウェアに対して、Web.Auto Evaluatorソリューションによって提供されるシミュレータを介してクラウドで機能検証を行います。機能が正常に動作していることが確認されると、その修正込みのコンテナはクラウドベースのバーチャル車両に展開され、そこで再度機能検証が行われます。このバーチャル車両は実機車両のハードウェアとISAレベルパリティが保証されています。この検証が正常に完了すると、実機車両のソフトウェアがOTA経由で更新されます。CESでは、このSDVサイクルの各ステップがパートナーのそれぞれのブースで紹介されていました。

Autowareコミュニティからの「デモローバー」の展示

Autowareコミュニティからも面白い展示が提供されました。スウェーデン発スタートアップ「CanEduDev」が開発した小型のロボット車両「Demo Rover」をティアフォーのブース内にて展示しました。RCカーよりも大きく、ゴーカートよりは小さい1:5スケールの小型車両で、CANシステムも搭載されたフレキシブルな研究開発基盤です。Electronic Speed Controller (ESC) が後輪モーターを駆動し、前輪及び後輪でのステアが可能です。

Demo Roverのテスト走行。CanEduDevのHashem Hashem氏とLars-Berno Fredriksson氏

F1Tenthプロジェクトでは、小型の車両の組み立て方やソフトウェアのリファレンス、学生向けの教材などを多く用意し、自動運転の教育や研究開発に大きな影響を与えました。コストも比較的かからず、シミュレーションに留まらず実車を用いて色々なアルゴリズムや研究を試せるプラットフォームとしてこれからも幅広く活用されていくことが期待されています。一方、一回り大きなサイズのゴーカートの自動運転化プロジェクトがUPennなどでは始まっており、それらのリソースもOSSとして公開されています。CanEduDevの「Demo Rover」はその大きさとCANのインテグレーション、ハードウェアやドキュメントの公開などの特徴から、今後のAutowareコミュニティでの活用が期待できます。まずは、LiDAR、カメラ、IMU、GNSSなどのセンサー類やECUの取り付け、Autowareのインテグレーションなどを通して自動運転化するところから始めてみたいです。

極限に迫る高速な自動運転レーシング

自動運転に関連する幅広い技術テーマはそれぞれ興味深く、特にアプリケーションに特化した自動運転では日々研究開発が行われており、そこから多くを学べます。その良い例が高速レーシング環境での自動運転です。CESの3日目には、ティアフォーメンバーやAWFパートナーと、Las Vegas Motor Speedwayで開催される「Indy Autonomous Challenge (IAC)」を見に行きました。IACは大学チーム対抗の自動運転レーシング大会を開催しており、年数回、世界各地のF1サーキットでレースを実施しています。各チームには同一規格の車両が与えられ、そのハードウェアを最大限に活かした自動運転レーシングのソフトウェアで速さやオーバーテイクなどの走行ストラテジーを競い合います。IACは今年はWest Hallでも大きなブースを構えており、予選大会ともなるシミュレーション大会の上位チームの表彰式や新型車両モデルの発表などには多くの方々が来場していました。

新型車両「IAC AV-24」

IACが今回発表した新型車両「IAC AV-24」は現在主に使われているAV-21からハードウェア・ソフトウェア共に大きく更新されています。4つのLuminar Irisを搭載し、それらのフュージョンで360度のLiDARデータを得られます。ContinentalのARS540レーダーやAllied Visionのカメラ、VectorNavやPointOneのGPS/GNSS、CiscoやMarelliの通信機器なども搭載されています。また、IACはdSpaceと協力し、実機での実走行前の開発・検証で用いることのできるデジタルツインのシミュレーション環境を用意しました。SIMPHERAソフトウェアを内部で活用しており、各チームは、実機とほぼ同じ環境で自動運転アルゴリズムの検証を行ったり、データ収集などを行うことができます。

高速での自動走行に伴う車両ハードウェアやセンサーの極限状態の利用により、今まであまり把握されて来なかった新しい課題が浮き彫りになりました。もちろん高速でのステア制御や速度制御は難しく、振動や熱に伴うセンサー性能の変化や天候・環境に伴う各コンポーネントのチューニングなども課題です。トラックによっては、木々やトンネルなどによりGNSS受信精度が悪化することもありますが、高速での走行時は、数秒間の受信不能や精度悪化でも致命的な場合があります。走行中は全てのセンサーから膨大なデータが収集され、チームにとってはどのデータに注目して分析リソースを割くかのマネジメント的なストラテジーも勝敗を分けます。

IAC AV-24 の紹介

CESでのラスベガス大会では、Technical University of Munichの「TUM Autonomous Motorsport」とUniversity of Virginiaの「Cavalier Autonomous Racing」が決勝で戦い、寒さや風など複雑な環境下でTUMが優勝しました。準決勝でのTUMとKAISTとのレースでは、2チームの自動走行レース車両はオーバーテイクのせめぎ合いで、一時車両同士の距離が1.5m未満にもなっていました。

追い越す瞬間を目の前で見ることができました!

日が暮れてからは新型車両のIAC AV-24の自動走行デモが行われ、真っ暗な中をLEDをピカピカさせながら複数の車両が高速走行を行いました。照明を一切付けずにあの暗闇の中のトラックをあの速さで走るのは、到底人間には真似できません。

Indy Autonomous Challenge
優勝おめでとうございます!

CES全体を通して注目すべき他のトピック

WeRideはコンベンション・センター付近のラスベガス公道での自動運転の走行デモを行っていました。WeRide RobobusはLiDAR、HDRカメラ、レーダーなどを搭載しており、小型なバス車両に10人程が乗車できます。時速40kmぐらいまでは出すことができ、交差点での減速、停止、発進などは快適であり、信号認識なども問題なくできていました。

次世代LiDARとして注目されている4D LiDAR (AEVA FMCW-based LiDAR & Alto Radar’s Altos V Series) やSPAD LiDARなども展示されていました。4D LiDARは従来の3D LiDARが提供するXYZ座標ベースの点群に加えて、点群の速度成分も計測することができます。これらの新しいセンサー群とティアフォーやAutowareが提供するPerceptionパイプラインを組み合わせることにより、物標認識の精度向上や効率化が図れます。

Luminarが実施していたAutomatic Emergency Steering (AES)の実車デモも印象的でした。同社が開発したIris+ LiDARと「Proactive Safety」システムを使い、道路上の障害物を認識し、低遅延で回避行動を計画し実行します。高速な運転時で人間が対応できないクリティカルな状況で、システムが一時的に運転操作をオーバーライドし衝突などの事故を防ぐ仕組みです。

昨年、Luminarは最先端の3D LiDARデータを用いたマッピング技術を持つCivil Mapsを買収し、それ以来、全世界の正確な点群地図を作成・管理し、それを常時更新・アップデートする仕組みを手掛けてきました。LuminarのLiDARが搭載された車両は世界中に展開されており、それらが見る世界を使い、最終的には世界各地の最も最新の点群地図を作りたい、というビジョンです。このような正確かつ新鮮な地図データは、高度なADASや自動運転システムなどの横展開にも活用できます。CES中には、ラスベガス周辺を走行中のLuminar搭載車両がセンシングしたデータを使って、リアルタイムにラスベガスの点群地図を作成・更新していくデモが行われており、その地図が時々刻々と拡大・上書きされていく様子が映し出されていました。

Sony Honda Mobilityが発表した近未来感溢れる「AFEELA」はプレイステーション5のコントローラを使ってステージ上を走り、話題になっていました。

CESのオートモーティブ関連企業が集結してたWest Hallでは、大手OEMに加えて新興EVメーカーやスタートアップなど、比較的新しいプレイヤーの存在感が増していました。VinFastは新型EVコンセプトの発表をし、Toggは新しいT10Fセダンのリリースなどを行いました。

まとめ

ティアフォーのメンバーとしては初めてCESに参加し、ブースでのプロダクト説明やパートナーとのミーティングなど刺激的で盛り沢山な1週間でした。自動運転を含むモビリティ業界は本当に幅広く、ステークホルダーやプレイヤーも多く、時々刻々と進化する技術によって業界全体の方向性やトレンドは常に変化しているように思えます。各社が最先端の技術で競い合う中、自動運転の社会受容性や高度なAIシステムのガバナンス、オープンで公正な仕組みづくり等の課題は、皆が足並みをそろえて協調的に行っていく必要があります。特にEVやSDVの台頭などにより、グローバルに活躍する企業の顔ぶれは変化しているとの声もあり、新興EVメーカーやADAS・AD技術にフォーカスするスタートアップなど新しいプレイヤーが次々に世界各国から現れています。

ティアフォーのブースでも、ティアフォーやAutowareについて既に知っていて詳しい内容を質問しに来られる方や、実際に協業やパートナーシップのお話を進めるためにご来場された方も多くいらっしゃいました。

自動運転ソフトウェアに焦点を当てて始まったティアフォーですが、ハードウェア開発や車両構築も積極的に始め、全国各地で実施する実証実験などを通してレベル4実現に向けての多くの経験とノウハウを得てきました。The Autoware Foundationを通して、グローバルでのポジションも確立しており、多くのパートナー企業や研究開発組織と一緒にオープンなAD開発の促進を率先しています。

CES 2024最終日のティアフォーチーム!

Yu Asabe | 浅部 佑
System Component Team, Software engineer

東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程に在学中にティアフォーで学生エンジニア業務を開始。修士課程修了後、ティアフォーにフルタイムで入社。Autowareのコンポーネント間のインターフェイスや外部APIを担当。V2I通信によるインフラ協調を活用した自動運転機能の設計と実装にも携わる。また、Autowareを活用した自動運転コンペティションなどの企画運営も行っている。

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