新卒エンジニア7人がアメリカで自動運転車を体験

Ryuta KAMBE
TIER IV MEDIA
15 min readApr 4, 2023

--

TIER IV / 技術本部 / Computing Team / Computing Research Lab. の神戸です。先日、新卒7人でアメリカに旅行し、自動運転車にたくさん乗ってきました!旅行のかたわら自動運転技術の調査をしてきましたので、エンジニアの視点からまとめた内容をご報告します。

サンフランシスコの朝

日本ではまだ実現されていませんが、サンフランシスコやフェニックスではすでに完全自動運転のタクシーが走っており、Tesla車はどこででも自動運転に切り替えることができます。空港、宿、スーパー間を移動するのにアプリからロボタクシーを呼んだり、Tesla車をレンタルして市街地や高速道路で自動運転機能を試したりしました。アプリで呼んだら誰も乗っていないタクシーが目の前で止まってくれるなんて、ほとんどの日本人はまだ体験したことがないのではないでしょうか?

pick up に来てくれたWaymo @フェニックス

今回乗った自動運転車は、主に以下の3つです。

・Waymo (タクシー、Google)
・Cruise (タクシー、General Motors)
・Tesla (Full Self Driving (FSD)というLv2+機能のベータ版、Tesla)

これらについて、認識、経路計画、UI/UX、その他乗って感じたことなど、技術的側面からまとめました。

TeslaでFSDで恐る恐る手を離してみる

認識

センサーの基本情報

最初に、センサーや周囲環境認識・物体認識の視点から、特にWaymoの自動運転システムについてまとめます。私達が利用したWaymo Oneでは、サービスの実施地域により異なる車体が使われていました。サンフランシスコとフェニックスの空港付近では、以下のJaguar I-Paceベースの車体に5th-generation Waymo Driverが搭載された自動運転車両に乗車しました。

Waypoint — The official Waymo blog: Introducing the 5th-generation Waymo Driver: Informed by experience, designed for scale, engineered to tackle more environments より引用

この車両のセンサー構成は、下図のようになっています。まず、周囲360°をSensingするためのTop LiDARがルーフ上に設置され、そのまわりを囲むようにCameraが搭載されています。加えて、そのすぐ下には前方遠距離のSensingを行うLong Range Camera+Radarが存在しています。さらに、前後と前輪のすぐ上に4つ搭載されたLiDAR+Camera+Radarが、車体近くの物体検知を行います。車両の後方、ウィンカーのすぐ下にもCamera+Radarが設置されています。

Waypoint — The official Waymo blog: Introducing the 5th-generation Waymo Driver: Informed by experience, designed for scale, engineered to tackle more environments より引用

フェニックスの別の地区では、以下のChrysler Pacifica Hybridベースの車体に、Top LiDAR+Camera+Radarと、前輪すぐ上のLiDAR+Radar、前後にLiDAR、リア上部にRadarという構成の自動運転車両に乗車しました。これはJaguar I-Paceベースのものよりも古い車両で、車内システムのUIも大きく異なっています。

https://www.businessinsider.com/how-does-googles-waymo-self-driving-car-work-graphic-2017-1より引用

Waymoの物体認識と精度

Waymoに乗車してまず驚いたのが、認識のミスがほとんどないことです。Waymoは車内のモニターに認識結果を表示してくれるのですが、認識した車両の大きさが伸び縮みすることはあっても、見落としや誤認識はまったくなかったです。特にサンフランシスコでは大雨かつ夜間での走行となったのですが、それでも歩行者や自動車を見落とすことはありませんでした。

Waymo乗車前に、YouTubeの乗車体験動画や公式のデモ動画を見ていたのですが、そこでもWaymoが物体を見落とすことは、ほとんどありませんでした。それに驚きつつも、実際に乗車するといくつか粗はあるのではないかと考えていたのですが、体験してみると、その認識精度の高さにただただ感心するばかりでした。一緒に行ったメンバーからは、「何の問題も起こらなくてつまらない」との感想が出たほどです。

さらに、精度だけでなく、認識できる物体も非常に多い点が印象的でした。車両、歩行者、バイク、自転車、コーンはもちろんのこと、電動キックボードやゴミ箱などもしっかり認識していました。

特に猫を認識して減速したことには驚きました。Waymoは、こちらの動画のように以前から猫を認識対象にはしているようなのですが、公開されているNHTSAのADS Incident Report Dataによると猫や犬が衝突し、命を落とした事故もあるそうです。このような事例から、猫の認識をやや苦手としているのではないかと考えていたのですが、夜間に路駐車両の隙間から飛び出てきた猫に対して、適切に減速できていました。もしかすると、何度も乗れば危険な場面に出会うこともあるかもしれませんが、我々の乗車していた際には認識は完璧という印象でした。

経路計画

制御が非常に滑らか

Waymoは制御が非常に滑らかでした。常に数十メートル先の軌道まで考慮して不必要なステアの揺れや無駄な加速、減速を避けているように感じました。また、レーンチェンジする際にも、縦横方向の加減速度合いも、人が運転しているように自然でした。特にブレーキを抜く際は減速がほぼ一定で、停止位置に対してピッタリと停まることができ、感動すら覚えました。

レーンに縛られないプランニング

また、レーンに縛られないプランニングも素晴らしいものでした。スーパーの駐車場に入った際は、経路がチャタリングしたり途切れたりする挙動が見られたため、バグであった可能性がありますが、行き止まりやpullover(路肩駐車)の後に方向転換するシーンでは、切り替えしてUターンを行うことができていました。おそらくその最中に対向車が来た場合は、衝突検知で停まることができるように設計されていると思われるため、フリースペースでのプランニングがどのように統合されているのか、非常に気になりました。

交差点での対向車の予測

交差点での対向車の予測では、信号のない交差点においてWaymo側が左折、向こうから走行してきたウィンカーをつけていない車両がおそらく直進をしようとするシーンに遭遇しました。直進側は左折側に対して優先権を持つためWaymoは対向車を待っていたのですが、ほどなくして対向車が右折ウィンカーを点けて右折を開始しようとしました。するとWaymoも少し遅れてすぐ後を追うように左折を再開したため、もしかするとウィンカーもきちんと認識しているのかもしれないと感じました。

対向車が停止線に着いてしばらくしてから右折ウィンカーを点け始めたシーン

MRMと自律的な復帰

MRM(Minimum Risk Maneuver)とは、緊急時の安全な停止のことです。Cruiseは激しい雨やひょうが降っていてもきちんと走行し、もし走行中に(誤検知などで)異常を検知しても、MRMに移行して路肩でなるべく駐車しようとすることができていました。実際に以下のような状況に陥り停車したのですが、正常に戻ると、また自動走行を再開できていたのですごいと感じました。

CruiseがMRMで路肩に緊急停止

まだ対応ができていなかったこと

アメリカでは信号のない4-way stopで向かい合う車両同士は、先に着いたほうが先に交差点を渡ることができ、直角に横切る車両同士では自分の右側にいる車両に対して譲るというルールがあります(参考:4-Way Stop Right of Way — What is the Rule? | Top Driver )。サンフランシスコ市内を走行していた際、Waymo側が優先されるべき状況で、左側から来たトラックに道を譲るシーンに遭遇したため、先着順の判断や右左折の優先順位のハンドリングロジックがどのようになっているのか気になりました。

左から来たトラックを譲ったシーン

Cruiseはスピードバンプで毎回停止していたため、日中に後続車がいるとクラクションを鳴らされる可能性が高いと感じました。一方Waymoはスピードバンプでも減速するだけでした。またCruiseはpulloverが上手くいかない印象を受けることが多く、アプリでpickupする際も、一旦近くに来てから数m先に行ってしまう、ということが多々ありました。雨の中で3回ほどCruiseを追いかける羽目になりました (笑)。

Autowareにも路肩駐車機能はありますが、アメリカのような地域への対応、MRMとの提携など、さらなる改善に努めています。

UI/UX

車内・車外のUI

WaymoもCruiseも外向きHMI(自動運転車が外界とインタラクションをするための音声やディスプレイなどのデバイス)をほぼ採用していなかった点に驚きました。デッドロックに陥った場合などのトラブル時にどのように対応するのかが気になります。内向きHMI(車内において自動運転車とユーザーがインタラクションを行うためのタッチパネルなどのデバイス)については、Cruiseは目的地までの現在地と経路のみを表示しているのに対し、Waymoはなぜ停止しているかなどの要因を簡潔にディスプレイ上に表示して、安心感向上に寄与していました。また、車内のユーザー監視については相当コストをかけて運用している印象でした。

Waymo、Cruiseともに、複数カメラでの監視と、異常時にオペレータがユーザーと通話する事で、重大事故を未然に防ぐ体制を整えているようです。

ロボタクシーのアプリの画面(左: Waymo, 右: Cruise)

ユーザ体験

ユーザー体験はどれも素晴らしいものでした。WaymoやCruiseなどのロボタクシーでは、圧倒的な運転技術の高さが感じられ、ぶつかるんじゃないか?などの不安はすぐになくなり、安心して乗ることができました。Waymoは周囲の認識結果をユーザーにも画面上で見せてくれるため、さらに安心できました。運行可能範囲の狭さや次に述べる停車の難しさから若干の使いづらさを感じたものの、それ以外はタクシーとして普通に使うことができ、10回目くらいには逆に面白くなくなってきました (笑)。

TeslaのFSDは運転支援としてほぼ完璧だったのと、どこでも使えるという便利さがありました。多少危険な動きをしても手動運転に切り替えればいいだけなので、その点安心はできました。カラーコーンに沿って走ったり自動で駐車したりする機能もあるらしいですが、今回の旅では試せなかったので残念です。

その他感じたことの分析

乗降ポイントで停車することの重要さ

特にCruiseでは「乗車ポイントから数十メートルほど離れた場所に停車してしまう」現象がよく見られました。これは人間のドライバーであればまず発生しない現象であり、タクシーサービスとしては悪印象でした。

この問題の原因は、アメリカの路上にありがちな大量の路駐車だと考えられます。自動運転車では「指定の場所で一時停車して、乗客を安全に乗降させられるか」を周辺状況に基づいて推定しますが、特に路駐車が多い場所では基準を満たす場所だと判定しづらく、乗車ポイントを通り過ぎて走行してしまったようです。なおWaymoは、路駐車が多い場面でもほぼ完璧に判断できているようで、このような出来事にはほとんど遭遇しませんでした。利用者視点でこの差は大きく、これがWaymoとCruiseのユーザー体験の大きな差になっていると多くのメンバーが感じました。

ティアフォーでも路駐機能を鋭意開発中で、日々性能改善に努めています。

路駐車の横で停車を試みるCruise

高速域における無人サービス展開は意外と難しい?

自動運転業界では「高速道路よりも市街地などの方が自動運転は難しい」というのは、半ば共通認識として扱われることが多いように感じます。しかし、今回ユーザーとして乗車した経験から、無人サービスのビジネス展開においては、むしろ高速道路の方が難易度は高いのではないかと感じました。

その理由として、市街地の走行においては、どのサービスも完成度が高く、安心感がありました。特にWaymoなどは、人間のドライバーに匹敵するほどの技術力で、ほとんど失敗もなく安心して利用できました。万が一の事態が起こっても、停車してしまえば後ろからクラクションを鳴らされる程度で済むパターンがほとんどでしょう。しかしながら、そのWaymoでさえ、高速域でのサービス展開はまだ行っていない様子でした。Teslaでは高速域におけるhands-free機能を使用することは出来ますが、特に合流時などでは高速域が故の恐怖を感じる場面も少なくありませんでした。各地で着実に認可を受けてRobotaxi事業のサービス展開が始まっている一方で、Robotruck事業ではそのような話が少ないのも、上記の感想を裏付けるものと言えると思います。

原因として考えられる仮説の一つは「無人サービス展開において、障害となるのは環境の複雑さよりも、実はfail safe設計の困難さである」というものです。fail safe設計とは、つまり「万が一のときにどのように安全に対応するか」という設計手法です。別業界からの例ですが、類似ケースとして飛行機が挙げられます。飛行機は自動運転に比べて対応すべきシナリオ数も少なく、自動化の技術の研究も盛んに行われています。それでもなお無人化サービスが旅客機等でほとんど実現されていない要因の一つは、fail safe設計が極端に難しいからでしょう。

そのため、高速域走行については、純粋に技術的側面から「万が一」を減らすだけでなく、法規や基準など様々な側面からのアプローチが、市街地走行に比べてより重要になるのではないかと感じました。

以上、自動運転車にたくさん乗ってきた感想を、主に技術的側面からまとめました!自動運転業界を牽引するこれらサービスは、共に自動運転市場を拡大していく味方であると同時に、追い越すべきライバルでもあります。ティアフォーでは、自動運転ソフトウェア「Autoware」を開発しています。これから必ず来る自動運転の未来を一緒に作りたい方を募集しています!

社内報告会の様子
社内報告会の様子

ティアフォーでは、「自動運転の民主化」というビジョンに共感を持ち、自らそれを実現する意欲に満ち溢れた新しい仲間を募集しています。

キャリアページ:https://careers.tier4.jp/

Contact

  • For press, community and speaking requests, contact pr@tier4.jp.
  • For business opportunities and partnership, contact sales@tier4.jp.

Social Media
Twitter | LinkedIn | Facebook | Instagram | YouTube

More

--

--