シャドーイングってやったことある?

前回の記事を書いた時、Tigerspikeって社名で書くんだからちゃんとした内容にしなきゃ!と思い込んで、とんでもなく真面目でかたーい文章を書きました、TigerspikeでUXデザイナーをやってる堀口です。その後、「名前出して書いても良い」とのお許しが出たので、殻を破って書きます。とは言ってもそんなに変わらないかもしれません…。

前回の「当たり前を聞く」でなるべく実践的なことを書いたつもりでしたが、今回はリサーチについて具体的な手法を書いてみようかと思います。UXではユーザーリサーチたくさんやりますよね。もう耳タコかと思いますが、UXはUser Experienceの略で、つまりはユーザー(の体験)が中心ですが、そのユーザーは自分じゃない別の人です。なので、その人が日々何を思って、何が嫌いで、何が楽しくて、何がめんどくさくて…は、聞いたり見てみないと分からないわけです。「私は色んなことをちゃんと考えて生きている!」と思いたい人が多そうですが、実際の行動とか選択を見ると、理屈よりはその時の気分で…、なんの気もなしに…、みたいにカオスな気がします。そういう方が人間らしいし、デザインのリサーチはそういう部分を探索するんだなぁ、と思います。

ユーザーは自分じゃないからユーザーリサーチは大事、ということですが、手法はそれこそ星の数ほどあります。名を変え品を変え、ユーザーリサーチメソッドの名のつくノウハウは検索すると掃いて捨てるほどありますが、シャドーイングってあんまり出てこないんですね(たった今Googleで検索しました)。

シャドーイングってなに?

シャドーイングをあえて定義すると「自然な環境の中で、ある役割を担った人が、どんなタスクをどのようにこなしているか」を観察する手法です。なぜこんなことするの?それは前提の仮説として、人が慣れ親しんだ行動を変えることはとても難しいから、です。新しいデザインを提案して導入しても、それが今までのプロセスとあまりにもかけ離れていたら、順応するまでに時間がかかる以上に、そもそも受け入れてくれるのか、かなり不安ですよね?仮に、これでやれ!と言われて仕方なく受け入れたとしても、満足度や達成感などは圧倒的に低いはずです。UXはあまり良くないでしょう。デザイナーとしては悲しいですね。ビジネスとしても影響は良くなさそうです。なので、現状の行動を理解した上で、新しいデザインはそれに適応したものを考えるわけです。

というわけで、シャドーイングは課題の現状把握をする手段の一つとして捉えてください。

やり方

やり方ですが、リサーチャーはまさにシャドー(影)になって、ストーカーのようにそのユーザーがタスクをこなしている様子を観察します。メモ用紙とペンを持ったストーカーになりましょう。張り付く前に、タスクの大体のプロセスを頭に入れておいた方がいいかもしれません。可能なら、シャドーイングする前に軽いインタビューやディスカッションでそのタスクについてどう思ってるのかを聞けると、「○○やるのめんどくさいって言ってたけど、淀みなくキーボード叩いてるな…」「○○は使いやすいって言ってたけど、商品見つけるのにだいぶ時間がかかってるな…」など、観察するポイントも絞れてきます。

シャドーイングを行う環境や場面にもよりますが、観察しながら対象者に質問するスタイルもあります。「今、それブックマークしましたけど、なんでですか?」「その書類の束はどのタイミングでデスクにしまうんですか?」など、行動観察に伴う確認ができます。タスクが専門的で複雑だったりすると、被験者にタスクを説明しながら行ってもらうこともあります。その場で質問ができなさそうな雰囲気だとしたら、一区切りついた時に質問に答えてもらう時間を設けましょう。

注意する点は、タスクをやってる人の邪魔にならないことのほかに、観察するポイントをきちんと事前に決めておくことです。ぼんやりと観察していても仕方がないので、シャドーイングから得たい情報を前もって書いて持っていくと、ガイドにもなりますね。また、可能な限り写真や動画でシャドーイングの様子を記録することをおすすめします。事前許可を取ることは必要ですが。

余談

初めてシャドーイングをやったのは大学時代に車の内装のデザインプロジェクトに関わった時でした。テーマもまた面白くて、「女性がデザインした女性のための車」というコンセプトでアメリカの女性ユーザーを対象にしたプロジェクトでした。その時のシャドーイングは、対象者の車にリサーチャーが二人同乗させてもらって、「スーパーに買い物にいく時」と「子供を学校の後の習い事に送っていく時」の場面を観察した…と思います。自動車のインテリアがテーマだったので、荷物の収納にフォーカスを当てたんです。車社会では自動車の中がごっちゃごちゃ、みたいな人もいますからね。

リサーチャー二人のうち、一人がビデオ撮影担当、もう一人がインタビュー担当、というように役割を分担して、観察メモにはあらかじめ荷物がどのようにして収納されているか車の内装の見取り図みたいのものを印刷して持ってました。トランクの奥にテニスラケット、後部座席の左ドアポケットに子供用の水、といった具合に手早く記録できるようにしたんです。車酔いしながらも、後の提案に繋がる良いリサーチだったと記憶しています(なので10年くらい前のプロジェクトなのに未だポートフォリオに入れてます)。

(当時のシャドーイングノートのサンプル)

海外では消防士など専門的なタスクを分析する上でシャドーイングを行っているみたいです。ほかには製造プラントでの機械オペレーションなど。日本ではあまり話は聞きませんが、やられているんでしょうか?いつかデザインリサーチャー本音トーク会なんて、やりたいものです。

--

--

Tigerspike Tokyo | タイガースパイク 公式アカウント
Tigerspike Tokyo Blog

タイガースパイクは、人間に寄り添うデジタル・プロダクトを開発するグローバル企業です。 洗練されたUXアプローチと最先端のモバイルテクノロジー、独自の合意形成ノウハウを組み合わせて本物のデジタル・プロダクトを提供できる、世界でも数少ないプロフェッショナル集団です。 現在、世界12拠点で事業展開しています。