Kota Suzuki / スズキコウタ
tiny little thingz
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4 min readJul 3, 2019

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小見山順一郎さまへ

突然話し出すけれど、僕は非暴力主義でリベラルな価値観を持っていて、音楽が大好き。グルメな傾向がある。そして自分の収入源とする仕事は、楽しいことしかやらない。そんなひとりです。ここれらの性格要素が誰からの影響だったのかと聞かれると、父でも母でもなく、祖父である小見山順一郎からだったのではないかと思っています。つまり、僕は彼の振る舞いだったり考え方から、いろいろなものを吸収して解釈し、その解釈した結果を音楽家や編集者というアイデンティティのもとで、発信してきたのではないか。そう感じるのです。

そんな祖父は、嬉しいことに僕のライフスタイルから何かを取り入れようとしてくれていました。2007年ぐらいのことだったと思うんですが、祖父は大金をはたいて当時最も性能に優れたコンピューター、iMacを衝動買いしました。僕がMacBookを楽しそうに操って音楽を聴いたりつくったり、大学の宿題をこなしているのを見て、憧れたようなのです。「コウタ、銀座のApple Storeに買いに行くから手伝ってくれ」と言われ、当時大学生だった僕は足を運んだのを鮮明に覚えています。その帰りに中華をご馳走になったのも。

祖父がiMacを購入してまもなく、僕は音楽テクノロジーを専攻するべく、カリフォルニアへ半年間旅立ちます。そうすると、このiMacは僕と祖父・亡き祖母の関係を色濃くしていく大事な機械に。当時のMacには、今のSkypeやGoogle Hangoutsの走りとも言える、iChatという映像通話機能が搭載されていました。祖父はその使い方をひょいひょいと覚え、カリフォルニアにいる僕に毎日ビデオコールをしてきてくれたのです。カリフォルニアの僕が寝ようとする時間に、築地から帰宅してくる祖父がつながる。カリフォルニアにいた当時、iChatで祖父祖母と話さなかった日はなかったと思います。今は亡き祖母に「時差のおかげであんたと毎日喋れる。もう帰ってこないで、ずっとそっちにいなさい」なんて言われてしまうほどだったから。

そんなiChatで話した膨大な会話の中で、ある日、ドキッとした一言を祖父が言ったのを鮮明に覚えています。それは、「オレは、お前さんが考えてることをもっと深く知り理解したい。お前さんからいっぱい影響を受けてみようかな」というもの。そんなことは両親からも言われたことがないので、ちょっと驚きつつも、「じゃあ、こんな音楽、つくってみたんだけど、どう?」って聴いてもらったり、僕のお気に入りのCDを買って送りつけたり。当時すでに僕はリベラル〜エコロジー〜市民主導の社会づくりに傾倒していたので、そういった話をすることもあったかなと思います。

晩年の一人暮らしの家には、そのiMacは持ち込まれずに処分されてしまったので、交流はいつしか途絶えてしまいましたが、あのカリフォルニアでの半年間は現地での生活や勉学と同じぐらい重要な収穫があり、家族の絆にポジティブな変化を生み出した。もう二度と起こらない、とっても大切な時間だったのでしょうね。それも、もう10年以上前なのか…と時の過ぎる速さに圧倒されるばかりです。

このように、僕が小見山順一郎と影響しあう関係下にあったことはとても幸せなことだったのだとつくづく思います。彼がどこに存在して何を思っていても、僕がどこにいても、まだきっとこの関係は自由に形を変えながら続いていく。そう願っていたいですね。

最後にひとことメッセージを。

モクモクした遠い雲の先でもお元気で。すでにそちらへ行っているみなさんとは仲良く、ワガママを言わないようにね。僕は、まだまだしばし、この世界にいます。じゃ!

スズキコウタ。

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Kota Suzuki / スズキコウタ
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greenz.jp 副編集長 / 2kai Productions ミュージシャン&フリーランスエディターhttps://greenz.jp/author/kota/ https://www.wantedly.com/users/3287033