講師になるなんて思ってもみなかった。でも今では、表現者が巣立っていくことが一番の喜び。編集未経験だった僕が今、「作文の学校」講師としてつくる未来。

Kota Suzuki / スズキコウタ
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11 min readMar 5, 2018

来月からコウタくんが、ライターインターンの講師になっていいと思うよ。

2013年ごろのある日、当時の編集長・兼松佳宏に突然言われました。

その直前に、僕はインターンを終えたばかりなのに…。愛のある無茶振りに、ドキドキしたのをすごくよく覚えています。でも押し寄せたのは、ドキドキ感だけじゃなかった。そこにはワクワク感もあったのです。「何か今まで見たことがない景色に出会えそうだ」というような。

2017年末まで、greenz.jpではライターインターンを季節ごとに迎え入れ、毎週のミーティングや宿題を課しながら、瞬発力ある翻訳記事を量産していました。兼松から引き継いだ僕は2013年から2017年の間、50名ほどのインターンを輩出しました。

兼松佳宏(YOSH)と

ライターインターンの卒業生たちは僕の経験やスキルを吸収して成長し、グリーンズの中枢を担う存在になっていきました。編集デスクの向晴香と福井尚子との出会いもそこでしたし、greenz.jpライターに昇格した方もいます。

そして最後の2~3年には、選考の合格倍率が15倍を超えるほどの大人気プログラムに。みなさんからの期待やニーズ、そして花開いていく卒業生の姿を見ていて、僕は編集者として働く時間と同じぐらい、講師でいる時間が楽しくなっていることに気づきました。そして、教える仕事を増やしていきたいと思い始めたのです。

ライターインターンの講師をしていた頃

インターン卒業生たちの応用に気づかせてもらった

そんな矢先、巣立っていったライターインターンたちと再会したときに、あるヒントをいただきました。というのは、卒業後、書き手や編集者を目指して歩み続ける人は少なく、むしろ起業したりマイプロジェクトを始める人の方が多いと分かったのです。

彼らはグリーンズ流の作文術を、コミュニティやプロジェクトのビジョン・ミッション、就職先の会社の広報戦略をつくるのに応用していました。「表現者を増やす」ことをミッションにしてライターインターンの講師をしていたものの、その「表現者」をライターと編集者に限定して考えていた僕は、卒業生たちが応用して羽ばたいている姿に感化され、この学びの場の間口を広げてみようと考え始めました。

文章で表現したい人は、それを専業にすることを目標にしない層にもたくさんいるぞ。

僕らが培ってきた表現術・作文術をオープンにしていくことで、グリーンズのミッション「ほしい未来は、つくろう」と思える人を増やしていけそうだぞ。

この気づきを元に、僕はスクールプログラムをつくることを決意。インターン卒業生や尊敬するファシリテーターたちに相談し完成したのが「作文の学校」でした。

表現を教えることは、美しい未来づくりである。

「作文の学校」は、2016年11月にキックオフ。これまでに東京や大阪、仙台などで開講し、2018年2月末には総受講者数が100名を突破しました。

greenz.jp副編集長の僕、スズキコウタと編集デスクの向晴香が講師を担当することになり、現在は4時間で超初級編を学べる1DAYクラス、全6回の授業でたっぷり学べるゼミクラスを展開しています。

嬉しいことに、ゼミクラスはこれまで全期満員御礼。そこでは、ゲスト講師としてgreenz.jpライターや編集者を迎え、作文スキルそのものに限定せず、

・「そもそも自分はなぜ表現したいのか・伝えたいのか(WHY)」を可視化する自己内コミュニケーションの手法

・受講生の伝えたいこと(WHAT)を掘り下げていく情報整理法

・読者に向けて情報発信する際の書き手の在り方(HOW)

まで網羅。

毎期、インプットの洪水に溺れそうになりながらも、最後はすごくキラキラした笑顔で卒業していく受講生の表情を見るのが、講師として最も幸せで非常に美しい瞬間です。

近頃、ライターや編集者を志す人々に向けたワークショップやイベントが増えましたが、「作文の学校」はそれらと少し違う設計のプログラム。たとえば「PVやUUを増やしてアフィリエイトで稼ごうぜ」という哲学は皆無です。なぜなら、ライターを志していなくても「何かを伝えたい」「表現したい」というパッションを持つすべての人の居場所であることを大事にしているから。

・自分のマイプロを多くの人々に伝えるための術を学びたい人。

・広報に配属されたけれど、文章を書くことが大変だと感じている人。

・近い将来に考えているプロジェクトのビジョンやミッションを固めたい人。

・恋人にもっと美しいラブレターを書きたい人。

・自分の意見をもっと建設的に書くにはどうしたらいいかと悩んでいる人。

そんな人にこそ、僕は参加してほしい。彼らのぶつかっている課題や超えるべきハードルは、表現で解決できる。そう思っています。(もちろんライターや編集者を目指している人にも大きな学びがあるクラスを提供している自信はありますけれども。)

宿題で、教室で、ひたすら書かせます!

これまでにお迎えしてきたゲスト講師は、コピーライターの丸原孝紀さん、greenz.jpシニアライターの池田美砂子さん、村山幸さん、平川友紀さん、新井優佑さん、石村研二さん、飛田恵美子さん(2018年3月現在)。

greenz.jpや他の媒体でも活躍しているライターに相談を投げかけたり、表現力を高めるためのアドバイスをいただく。それは受講生にとって魅力があるはずですが、同時にゲスト講師たちには自身のスキルや経験を棚卸しする場になり、グリーンズとライターさんの新たな関係を紡ぐ機会にもなりました。

丸原孝紀さんには、コピーライティング、タイトル・見出しをについてレクチャーしていただきました。これは第1期の時の様子

受講生に表現の可能性を知ってもらい、その力を磨き、暮らしや未来づくりに役立ててもらう。

すでにプロとして活動しているライターたちには仕事の棚卸しをして、自分の仕事の社会的価値に誇りを持ってもらう。

このふたつを進めることで、「ほしい未来をつくるために表現を大切にする」人が確実に増えていく。

「作文の学校」は文章を生業にしている僕なりの社会運動だと思っています。

伝えたいだけでなく、伝わる方法も磨く

ところで「今さら表現? 作文? 本当にそれで一皮むけるの?」と疑心暗鬼になっている方がいるかもしれません。むしろ、僕は「言葉を使う作文だからこそできる!」と胸高らかに言いたい。

多くの人々は、常に言葉を使って日頃コミュニケーションをしています。

「嬉しい」だとか「悲しい」という感情。

「気持ちいい」「痛い」「冷たい」といった身体的な感覚。

「僕はこうだと思う」という意見や価値観。

それらを伝えたいとき、あなたは言葉を使いませんか?

そしてきっと多くの人々が、国語の授業で作文を習った経験がある。つまり実は、自分の感情や意見を言葉で発信する基礎って、既に習得している人が多いのです。だから作文は、作曲やダンスでの表現に比べ、ハードルが低く実践できる表現手段と言えます。

「作文の学校」でゲスト講師をしてくれている丸原孝紀さんが、こんな素敵なことを話してくれました。

さまざまな表現のうち、言葉は特に用意するものものなく、比較的かんたんに発信ができる手段だと思います。日ごろ言葉を使ってコミュニケーションしている人であれば、基本は身につけていると言えますので、あとは技術としてより伝わる方法を磨いて書き続ければ、言葉はあなたと世界をより強くつなぐ道具になってくれるでしょう。

ここで読み逃さないでほしいポイントは、「伝わる方法を磨く」ということ。

僕らは「伝えたいこと」はたくさん浮かびますが、意外と「伝わるにはどうしたら良いか」と考えることを忘れがちかもしれません。

「伝えたい」だけでは、発信力に限界がある。だからこそ、あなたの「伝えたい」を、受け取り手の「知りたい」と重ね合わせる技術を習得していく。

そうすれば、あなたのほしい未来は自然とカタチになっていきます。

一緒に未来づくりに取り組んでくれたり共鳴してくれる仲間が生まれます。

そしてあなたの発信したことに感化され、独自の活動を始める可能性だってあります。

「作文の学校」で教えている作文術は、まさにこの原稿を書いている僕が用いているもの

僕らの暮らしと表現は切り離せない。

僕は表現力が豊かなコミュニケーションをしたことで花開いていった社会運動やNPO、美しい暮らしを実現していくカップル、社会的課題が解決していく瞬間をたくさん目撃してきました。その一方で、表現の工夫や配慮が足りなかったことで頓挫してしまったり不和が生まれるチーム、逆に社会的課題の解決から遠ざかっていく様子もたくさん見てきたのです。 表現の精度と社会の健やかさは比例するのですよ、きっと。

表現力を育む場を多くの人々に開放することで、ロジカルで、寛容で、相手を思いやっていて、意見の背景には明確な理由が伴っていて、社会の前進につながる、そんな発信が増えていきます。そうすれば、表現の工夫不足で生まれる誤解や争いも減らしていけるでしょう。 そして、平和な社会、そして人の心が満たされることを最優先とする美しい暮らしを実現につながる可能性があります。

だからこそ僕は”強い気持ち・強い愛”を込め、「作文の学校」を始めました。「あなたの伝えたいことは輝いてるよ」「その輝きは、もっと高められるよ」、そう伝え、気づいてもらうために。

「作文の学校」第3期の最終回で受講生が学びを棚卸ししたときの様子

「作文の学校」の未来

最近、地方や行政からの「作文の学校」の1dayクラスを現地で開催してくれないかと打診をいただくようになりました。これほど嬉しいことはありません。

市民記者プロジェクトを展開する自治体が増えましたが、作文には地方・ローカルのプレゼンスを向上させる力があります。 そしてコミュニティづくりや、縁の糸を手繰り寄せる力も秘めています。 「地域にある魅力をどのように掘り下げて発信していくか」を考える機会にも恵まれます。

だから僕は地域に赴いて「作文の学校」を展開することで、人々の表現力を豊かにし、ローカルな世界の美しさを多くの人々に発信するお手伝いをしたい。そうすることで、地域の魅力を高まると信じてますから。僕は全国ツアーをする気がマンマンですし、将来的には卒業生に暖簾分けして講師を頼んで広げたいとも考えてます! ぜひ気軽にお問い合わせください

仙台での出張クラスより

毎期多くの受講生で賑わうゼミは、ひきつづき東京を拠点としつつ、関西でも始められたら嬉しいですね。タイミングが合うときにぜひ参加してみてください。僕ら講師だけでなく、そこで出会う同期生とのコミュニケーションを通じて、あなたの目の前に広がる世界はきっと変化しますよ。

この記事を読んで、表現したくなりましたか? もしそうなら作文が特にオススメですが、音楽、絵画、ダンス、何を選んでも良いので、週末に始めてみてください。ほしい未来をつくる芸術家として、あなたが羽ばたき始めることを祈ってペンを置きます。

P.S.

こちらの原稿は、年内を目指して書き始めている『「作文の学校」の教科書』を見据えて書いたものです。ウェブ用に編集した別バージョンが、3/10(土)、greenz.jpに掲載される予定。同じ6000字の元素材をもとに、違う編集を施しました。ぜひgreenz.jpで公開されたら、あわせて読んでみてください。

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Kota Suzuki / スズキコウタ
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greenz.jp 副編集長 / 2kai Productions ミュージシャン&フリーランスエディターhttps://greenz.jp/author/kota/ https://www.wantedly.com/users/3287033