デザイン思考の歴史:いかにしてデザイン思考に「なった」のか

以下の文章は、Stefanie Di Russoによる「A BRIEF HISTORY OF DESIGN THINKING: HOW DESIGN THINKING CAME TO ‘BE’」の日本語訳である。本人の許可を得て、ここに掲載する。

これからお話することは、あまりハッキリとしたものではありません。デザイン思考と現在それらに関連しているものは、私がこれまでに説明した歴史から直接的に誕生したものではありません。つまり、私はデザイン思考に歴史があったことを示しただけなのです。デザイン思考は、それまでのデザインを改良して、他の分野にも拡張しようとしたさまざまな(共同)プロセス方法論の進化によって誕生したものなのです。

前回からの続き……。

1980年代半ばから現在までに行われてきたのは、ビジネス、サービス、デザインを改良するための新しい方法を見つける競争でした。これらの方法論を歴史的に解釈したければ、個別に系譜を遡ることもできますし、分析することも可能です。これから例を使って説明しましょう。

そう簡単にデザイン思考の歴史を遡ることはできない

この時代を分析する目的は、それまでの主要なデザインプロセス手法の進化を理解し、そこからデザイン思考が新しい手法や考え方として誕生した瞬間を発見することです。ただし、これらの方法論は、同時期に複数の分野や業界で開発されたものであり、直線的に発展したわけではないことに注意してください。私は、大量の文献を読み進めながら一般化手法を用いて、主要なデザインプロセスのトレンドの進化を時系列で理解しようとしました。なぜこのようにするかというと、これまで不明確で矛盾に満ちあふれていたデザイン思考の歴史や進化を客観的に明らかにするためです。

まずはこれ……「参加型デザイン」

初期の参加型の方法論は、一般的に都市計画で使用されていたものでした。その後、デザインの発展によって「参加型デザイン」という名前がつけられました。先ほども説明したように、参加型デザインの歴史や発展は、それ単体であれば(デザイン思考とは関係なく)簡単に歴史を遡ることができます。参加型デザインの歴史を探求したければ、プラトンの『国家』まで遡ることができるでしょう。

プラトンは民衆に助言を求めていたことで知られる
ありがたく思え! 最初にコミュニティの参加を促したのは私だ!

草の根の民主主義は、かつては参加型方法論の中心だったものであり、調和のとれた社会の発展のために何世紀も使用されてきた確立された方法です。ですが、私がここで議論したいのは、これが他の方法(それぞれに独自の歴史があります)と一緒になり、デザイン思考の進化をどのように形作っていったのかです。

バック・トゥ・ザ・フューチャー

プラトンの時代から1960年代まで早送りしましょう。デザイン方法論のムーブメントのなかで、参加型デザインは研究によってその勢いを増していきました。スカンジナビア手法とも呼ばれる参加型デザインは、エンドユーザーをプロジェクトの開発(プロトタイピング)フェーズに組み込むというものでした。この10年間の終わりの技術的な発展は、参加型デザインの「社会的方法論」から「技術的方法論」への移行でした。参加型デザインが技術的に導入される前は、システムデザインが主流であり、反復的なフレームワークでエンジニアたちがプロトタイプを作っていました。

参加型デザインのタイムライン
[主に社会的]
- コミュニティプランニングで使用される方法論に近い
- 主に草の根レベルのコミュニティの発展
[主に技術的]
- スカンジナビア手法 ― 参加型デザインとして知られているもの
- システムデザインへの移行
- エンドユーザーを組み込むために使用される
[インタラクションデザインと同義語]
- 科学的手法をデザインと混ぜる
- 参加型デザインの問題が明らかになる

1980年代になると、参加型デザインは新しく登場したインタラクションデザインの代名詞になりました。参加型デザインの技法の多くは、科学的手法から拝借したものでした。たとえば、ユーザビリティテスト、モックアップ、プロトタイピング、ロールプレイングなどです。

参加型デザインの落とし穴

参加型デザインの大きな欠点は、ユーザーエクスペリエンスとステークホルダーからのインプットを怠っていたことです。ユーザービリティは王様でしたが、感情的な反応の大部分は無視されていました。多くの場合、ユーザーの判断がステークホルダーやデザイナーの判断と衝突した時点で、ユーザーテストは中止されていました。

【参加型デザインの落とし穴!】
- ユーザーエクスペリエンスを完全に無視! 余計なことは言わずに、デバイスがきちんと動くかどうかだけを教えろ。
- ユーザービリティしか扱わない!
- おっと、どうでもいいところが気になるのか。それじゃあ、気にかけてくれる人に話しなよ! 私はデザイナーであって、あんたの精神科医じゃないよ!
- ユーザーが気に入らないだって? いいから気に入ったことにしよう!

こうしたエンドユーザーに関する問題に反応するかのように、コデザイン(協調型デザイン)やコラボレーティブデザインの議論が始まりました。これらの方法は、受け身のユーザーをデザイナーの協力者へ変換するというものでした。

ユーザー中心デザイン

デザインにおけるユーザーの立場の向上に大きく貢献したのは、デザインの理論家ドナルド・ノーマンでした。ドナルド氏は、参加型デザインを「ユーザー中心デザイン」として再定義しました。ユーザテストはユーザビリティよりも、ユーザーの関心やニーズを扱うものになりました。ドナルド氏は「見えるものを作る」ことにより、ユーザーが制御できる人間的な参加型のシステムデザインを好みました。これは、ユーザー自身がエラーを発見し、その解決を自身でコントロールできるようにするためです。

ドナルド・ノーマン(ユーザー中心デザインのゴッドファーザー)

参加型デザインからユーザー中心デザインへの転換において、もうひとつ重要だったのは、ユーザーを「開発プロセスの中心」に配置したことでした。これは、ユーザーテストよりも、ユーザーエクスペリエンスを理解することの利点を強調するものでした。行動科学から方法論を拝借したユーザー中心デザインは、効率性よりも体験を重視し、製品やシステムの開発にユーザーを参加させる人間的な手法を採用しました。

参加型デザインとユーザー中心デザインの違い
[参加型デザイン]
− ユーザーテスト
- 効率性
- エンドユーザーによる開発
[ユーザー中心デザイン]
- ユーザーエクスペリエンス
- ニーズ
- ユーザーは開発の中心

ユーザー中心デザインは、参加型デザインにおけるモルモット的な扱いから、システムの共同開発者にユーザーを昇格させたいという思いから誕生したものです。この新しい方法論は、さまざまな分野の業界や現場にまで広がっています。

サービスデザイン

サービスデザインは、デザイン方法論のタイムラインにおいて、2000年代の節目に突如として登場しました。参加型デザインからユーザー中心デザインへの発展と顧客体験の進化によって、サービスデザインという新しい方法論が形作られたことがわかります。ルーシー・キンベルは、サービスデザインについて以下のようにまとめています。

サービスデザインは、これまでの製品デザイン、環境デザイン、体験デザイン、インタラクションデザインなどを利用したものである。(Kimbell 2009, p. 250)

キンベルと数名の研究者たちは、ビジネスにおける新しい視点の登場について議論しています。それは、閉じたバリューチェーン(何匹かのサルでテストして、製品が動くことがわかったら、あとは忘れてしまう)から、ユーザーが製品(やサービス)を使って「何を」「どのように」「やるか」を理解することへの移行です。これには、ユーザーの旅や体験も含まれます。こうした視点は、デザイン方法論のもうひとつの進化です。製品やサービスのエンドユーザーの体験を考えるだけでなく(ユーザー中心デザイン)、製品やサービスが提供者の手を離れたあとの使い方、インタラクション、旅について理解することへと、注目が移動したのです。

したがって、現在ではあらゆる製品やシステムが1つのサービス単位であると考えられています。キンベルは、サービスと製品を区別することは不適切であると主張しています。あらゆるものが「価値創造」における何らかのサービスとなるからです(Kimbell 2010, p.3)。さらに、サービスデザインは「ユーザー」の定義を拡張し、サービスシステムに影響を受ける/相互作用するステークホルダーや個人までも含めています。

製品やサービスのシステムに対するこうした新しい手法の登場により、包括的なマインドセットの考え方が明らかになりました。サービスデザインの背景にある包括的なマインドセットは、エツィオ・マンズィーニ氏のサービスマーケティングやメタデザインの研究を発端としています。また、サービスデザインで使用されている方法論の多くは、人類学やマーケティングのものを拝借および適応しています。

[メタデザイン]
- 協調的
- オープンソースシステム
- 包括的コミュニティ開発
- 社会的持続性にフォーカス
[サービスデザイン]
- 複数分野
- サービスシステム
- 包括的ステークホルダーエンゲージメント
- サービスの持続性にフォーカス

サービスデザインがそれまでのデザイン方法論と大きく異なるのは、このような包括的な視点です。「エンドユーザー」(マーケティングやユーザー中心の参加型デザインにおける「顧客」)にフォーカスするのではなく、サービスデザインはサービスのすべてのユーザーと協調することを目指しています。ステークホルダーとの関係を構築することで、価値や知識の交換や開発のためのコミュニケーションを可能にするのです。

人間中心デザイン(HCD)

1990年代のはじめから、「人間中心デザイン」と「ユーザー中心デザイン」は、デザインプロセスにおけるエンドユーザーの統合において、交換可能な用語でした。その他の多くのデザイン方法論と同じように、HCDは技術的な製品システムの世界で誕生し、人間中心のインタラクションへと成長していきました(現在でも使用されています)。上記のような技術中心から人間中心への進化は、1990年代後半に始まったものです。

デザイン方法論が物理的なツールよりもマインドセットであることが明らかになったのもこの頃です。ウィリアム・B・ラウス氏は、HCDのマインドセットのイデオロギーについて、著書『Design for Success: A Human-Centered Approach to Designing Successful Products and Systems(成功のためのデザイン:成功する製品やシステムをデザインする人間中心のアプローチ)』で論じています。彼のHCDの定義は哲学的です。

複雑系システムにおける人間の役割は、人間の能力を強化することである。つまり、人間の限界を克服し、ユーザーの受け入れを助長することである。(Rouse, 1991 pp.6–123)

ラウス氏の定義はシステムや製品のエンジニアリングの分野に限定されたものですが、「ユーザー」については大局的な視点が導入されています。サービスデザインに密接に関連してはいますが、さらに広い社会を意識したものとなっています。進化の最終段階(現在)では、HCDはさらに広い社会問題を解決する可能性を秘めています。

HCDはメタデザインとサービスデザインが組み合わさったものですが、人類学とも密接に結びついています。一般的に、サービス開発よりも社会的な開発に使用されています。
[サービスデザイン]
− 複数分野
- サービスシステム
- 包括的ステークホルダーエンゲージメント
- サービスの持続性にフォーカス
- 観客を間接的に理解する方法
- 改善
[人間中心デザイン]
− 協調と複数分野
- 社会的システム
- 包括的コミュニティ開発
- 共感にフォーカス
- 観客を直接的に理解する方法
- 強化

サービスデザインの包括的な幅広い視点により、人間中心デザインは自身の意味を再定義することができました。重大な社会的および環境的な災害と結びついて、HPCは2000年以降に方法論からマインドセットへと移行しました。デザインプロセスに人間味をもたらし、ステークホルダーに共感するためです。これは適切なことでした。HCDのマインドセットは、それまでのデザイン思考を再導入したものでしたが、今回は厄介な問題を解釈する方法を使ったマインドセットでした。

外側の円(青色)は、時系列に沿ったデザイン理論の遷移を示しています。内側の円(ピンク)は、時系列に沿ったデザインプラクティスの方法論の遷移を示しています。

1960年代の方法論のムーブメントから始まったデザインの理論とプラクティスの転換が、まるで鏡に写したかのようになっているところが興味深いですね。60~70年代の科学としてのデザインのトレンドは、1990年代のプロセス方法論を鏡に写した反対側に位置しています。同じように、1980年代のデザイン理論における認知的省察は、私たちが現在取り組んでいるマインドセットのムーブメントを鏡に写した(反対側に位置する)ものです。これがデザインの理論と思考の時間軸をうまく表現できているとは思いませんが(情報デザインオタクは文句を言うでしょうが)、私はあえて「鏡の反射」を強調するために、このような輪を使いました。実際、次第に輪は円に近づいています。このパターンが正しいとすれば、デザインの科学化(私が作った言葉?)にいずれ戻っていくことになるでしょう。私はすでに移行し始めていると考えています。なぜなら神経科学の発達により、デザイン思考の研究に注目が集まっているからです。

私が予測したデザインの次のフェーズを示すために、スタンフォード大学によるデザイン思考における神経科学の動画を紹介しておきます。ぜひ楽しんでください。