デザイン思考の講義を作るとしたら

角 征典 (@kdmsnr)
Aug 19 · 7 min read

大学でデザイン思考を教えているというのは、今どきはぜんぜんめずらしいことではなく、世界中にデザイン思考の授業があるそうです。ただ、同じ「デザイン思考の授業」といっても、たとえば機械系と経営系と情報系では、それぞれ重視する部分がまったく違っています。

せっかくなので、それらのシラバスを見比べてみて、似ているところと違っているところを見つけてみてはどうか? そしたらデザイン思考の本質がつかめるんじゃないの? 理想的なデザイン思考の授業が作れるとよくない?……という感じの論文(プロシーディング)がありました。

Wiesche et al., “Teaching Innovation in Interdisciplinary Environments: Toward a Design Thinking Syllabus.”
https://scholar.google.co.jp/scholar?cluster=6329497326857230509

ここでは、典型的なデザイン思考の授業が時系列に「8つのフェーズ」として設定されています(下図参照)。

基礎知識の習得やチームビルディングを目的とした「Formation」から始まって、プロジェクト全体で「Design Space Exploration(デザイン領域の探索)」を行いながら、あとはひたすらプロトタイピングをしていく感じです。プロトタイピングの部分については、以前書いた「プロトタイプであそぼう」の内容と一致しています。

では、それぞれのフェーズにおける「似ているところ」を見ていきましょう(詳しい内容については、元の論文を参照してください)。

1. Formation

  • デザイン思考基礎:最初にデザイン思考の基礎知識を習得します。

2. Design Space Exploration

  • デスクリサーチ:デザイン思考の講義では「リアルな課題」を扱うために、企業などからテーマ(デザインプロンプト)が与えられることが一般的です。まずはそのテーマについて調べてみましょう、というのがこれですね。とはいえ、何も知らない状態で、まずはユーザーリサーチしてみたほうが「デザイン思考っぽい」なあと思います。

3. Critical Function

  • 低解像度のプロトタイプ:局所最適化しないように、かんたんなプロトタイプをたくさん作る感じです。ここはデザイン思考の最も大きな特徴かもしれませんね。

4. Dark Horse

  • ソリューション空間の探索:何らかのプロトタイプを作った時点で、自分たちが勝手に想定していた「思い込み」を特定していきます。

5. Funky

  • ビジネスモデリング:プロトタイピングであれば、これまで作ったものを統合すべきところですが……ここではビジネスモデルキャンバスなどを作り、経済性を評価するといいのでは?と提案されています。

6. Functional

  • ペルソナとインサイトを再構築する:ここから重要なユーザーのためにプロダクトを洗練させていくことになるため、その「重要なユーザー」をペルソナとして改めて設定します。

7. X-is Finished

  • ユーザーエクスペリエンス:最も重要な機能をきちんと動くように作るところです。この段階になると、使い勝手や意匠にも気を配る必要がでてきます。それらをまとめて「UX」としているのでしょう。

8. Final Prototype

  • ビジネスモデル、ストーリー、ドキュメントのレビュー:これまで獲得・作成した情報を整理して、最終的なプロトタイプを洗練させていきます。

授業としてはこれで終わりです。その後、発表会やピッチコンテストなどを実施するところもあるでしょう。スポンサー企業がいる場合は、企業向けのプレゼンをすることもあると思います。


上記の「似ているところ」には登場していませんが、もうひとつ重要なポイントとして「チームの自律性を重視するのか、それとも計画的に授業を進めるのか」があります。学生のモチベーションが高ければ前者が好ましいわけですが、そうとも限らないのが大学の授業です。宿題として「これをやってきてください」と明確に指示を出すこともときには必要になってくるでしょう。デザイン思考が扱う「Wicked Problem(厄介な問題)」は計画どおりに進まないことが特徴なのですが……まあ、仕方ありません。

身も蓋もない結論としては「両者のバランスをうまくとりましょう」になっちゃうんですけども、その手段としてここでは「マイクロサイクル」が提唱されています。巷でよく見るデザイン思考の「5ステップ」とほとんど同じですね。

この短期的な「5つのステップ」と、先ほどの長期的な「8つのフェーズ」を組み合わせることで、自律性を損なうことなく、授業を計画的に進めていきましょう、という主張がされています。

ちなみにEDPは隔週の授業になっているため、2週間ほど自由にやってもらい、その成果を授業の前半でレビューして、OKだったら次のフェーズに進んでもらうようになっています。偶然ではありますが、両者のバランスがうまくとれているんじゃないでしょーか!(学生からは「そんなことねーよ!」と言われそうですけども……)。

東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト

Solve various problems in society through engineering design

    角 征典 (@kdmsnr)

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    ワイクル株式会社 代表取締役 / 東京工業大学 特任講師 / 翻訳『リーダブルコード』『Running Lean』『Team Geek』『エクストリームプログラミング』他多数

    東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト

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