ファシリテーターという役割

東京工業大学修士1年の阿多と申します.エンジニアリングデザインコースの一員として1年間,素晴らしい教師陣と環境の下,デザインの講義を経験しました.先ずは1年間,我々を支えてくださった先生と授業に参加していたメンバーに感謝いたします.

先日の最終発表会をもって半年間のエンジニアリングデザインプロジェクト(EDP)の活動は実質的に完了しました.今振り返れば本当に素晴らしい半年間でした.こんなにも短いスパンで次々と新しい事に挑戦する機会はそうある事ではありません.僕にとってEDPに参加するメンバー全員が仲間であり先生でした.時に励まし合い,時に技術的なサポートを班の垣根を越えてし合いました.

水野君が「意識共有と表現の壁」というタイトルで記事をアップしていました.彼とは半年間同じチームで活動していました.彼が記事をアップした時,実は僕も同じテーマの文章を投じ執筆中で,抱えていた問題は同じだったんだなぁとしみじみ感じました.バックグラウンドの違う人たちが集まって話し合った際に感じる言語の壁については別の機会に僕なりの視点で記事を書こうと思っています.

僕は割と感覚で物をいうタイプなので,水野のようにロジカルシンキングの能力に非常に長けている人からすれば聞き苦しい事があったと思います.しかしながら,持前のせっかちな性格のおかげで議論の際ファシリテーターをやる事が多かったのです(酒の席で仲間にはよく,お前は感覚派だからファシリテーターには向いていない!と言われます…笑).ファシリテーターとして様々な悩みを抱えました.おそらく今後,ファシリテーターをするような後輩君は同じような苦しみを味わうことになると思います.ここで,僕が抱えていた悩みを吐露することが,EDPで活躍する未来のファシリテーターのためになればと思っています.

そもそもファシリテーターの役割とは?

コトバンクで検索するとこのように書いてありました.

ファシリテーション(会議やプロジェクトなどの集団活動がスムーズに進むように,また成果が上がるように支援すること)を専門的に担当する人のことをいう.ファシリテーター自身は集団活動そのものに参加せず,あくまで中立的な立場から活動の支援を行うようにする.

メンバーの意見を中立的な立場で意見を引き出すのがファシリテーターの役割です.

水野が述べていた通り,多様なバックグラウンドを持った人たちが集まって議論をするというのは容易なことではありません.したがって,議論の場ではファシリテーターがいないとアイデアをまとめることが難しくなります.多様なアイデアを受け止め,ロジックを組み立てていく.バラバラのブロックを組み立てるようなおもしろさがファシリテーターにはあります.ですが,ファシリテーターには,アイデアの取捨選択を迫られる場面もあります.そんな時こそ次の事に注意してください.

独裁者になってはいけない

議論が長時間に及ぶと思考に余裕がなくなってきて,次第に視野が狭くなります.そのような時は,早い段階で意見を絞り込んでしまいがちです.まずは我慢して,意見が出切るのを待ちましょう.自分の好みのアイデアというのがあるとは思いますが,ファシリテーターはすべてのアイデアの良いところを見つめましょう.判断はそれからです.早い段階でアイデアを絞ってしまうと,折角の多様性が台無しになってしまいます.

とはいっても….

とにかく時間がない!

時間が限られているとき,ファシリテーターは十分に意見が出切っていない場合でもアイデアを絞り込まなくてはいけない場合があります.

半年間のEDPのプログラムは二つに分けられます.前半(EDP-Bと呼ばれます)は,①グループでデザインプロセスを短いスパンで繰り返すことでデザインをすることに親しみ,②ユーザーインタビューを行うことでデザインに必要な材料を蓄積し,③グループとしての活動のいわば「慣らし運転」を行う時期(てんこ盛り!).後半(EDP-C)は,④プロトタイプを作りながら蓄積したアイデアの仮説を検証し,⑤必要なユーザーインタビューを補う期間であると思います.

ファシリテーターをするうえでキツかったのは前半でした.指定された時間内でアイデアを形にすることが要求されますので,メンバー(6人)のアイデアをまとめるためには多少強引に意見を収束させる必要がありました.つまり,ファシリテーターに取捨選択を迫られる場面が多かったのです.後から考えれば,EDP-Bで短時間に議論をまとめるためには,授業前の準備が大切だったと思います.例えば,最低限ユーザーインタビューのまとめを読んでおくとか,各々が何かしら宿題をしてイメージを蓄積して集まった方が,授業中の議論がスムーズに進んだかもしれません.

意見を引き出すのもファシリテーターの役割

グループワークで自分のアイデアを口にするのは相当な勇気が必要だと思います.そんな時はファシリテーターが「○○さんはどう思います?」と声をかけて発言を促すとよい場合があると思います.顔色を見ながら「お、この人なんか言いたそうだな?」と思ったり,「こういうアイデアなら○○さんがいい発想を持っていそう」といった予想をもって話を振るとよいと思います.サッカーで言えば,司令塔のようにパスを出す感覚です.ラグビーで言えばスタンドオフですね!

いいアイデアがチームワークを高める

いいアイデアが無く発表の日が近づいてくると焦ります.チームワークの雰囲気も最悪になります.地獄です.ファシリテーターをしているとこういう時にも責任を感じます.しかしこれは,いいアイデアが出るまでの辛抱です.いいアイデアがまとまらないのはファシリテーターだけのせいではありません.

僕達の班では,中間発表1週間前までほとんど良いアイデアが無く雰囲気も最悪でしたが,いいアイデアが出てからはゴールが見えて,そこに向かってグループが一致団結したように思います.ファシリテーターが慌てたらグループ全体が浮足立ってしまいます.慌てずあきらめず,粘り強く頑張ってください.

最後に

この世に完ぺきなファシリテーターなどいないと思います.僕はファシリテーターをやるたびに失敗を重ねて来ました.失敗するたびに自分なりに考えてこうしたらいいかな?と作戦を立てて毎回試してきました.正解はありません.未だに下手くそです.同じグループにいる人たちを時には不快な気分にさせたこともあると思います(と言うか,あります).でも,ファシリテーターをすることで得られることも同時にたくさんあります.アイデアがいい感じにまとまったときは最高の気分です.是非,ファシリテーターになる勇気を持ってみてください.

--

--