プロダクトも名前重要

ソフトウェア開発の世界では「名前重要」とよく言われます。Rubyの開発者であるまつもとゆきひろさんの言葉として有名であり、るびまのインタビューや書籍『プログラマが知るべき97のこと』(オライリー・ジャパン)に収録されたエッセイでも言及されています。

個人的には適切な名前をつけることができた機能については、その設計の8割が完成したと考えても言い過ぎでないことが多いように思います。
(まつもとゆきひろ - プログラマが知るべき97のこと/名前重要

「東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト」は「タンジブルなものづくり」をテーマに掲げていますので、ソフトウェア開発だけを行なうことはないのですが、この「名前重要」はソフトウェア以外のものづくりの分野でも重要な概念だと私は考えています。したがって、最初の企画段階から、いろんなチームに「プロダクトにはとにかくイイ名前をつけろ!!」と言い続けています(ウザがられているみたいですが……😢)。

今期に私が担当したチームは2チームでしたので、それぞれ「テガカーオ」と「サイクルチェンジャー」という名前のプロダクトが生まれました。前者は「手✋が顔」になっているリモート会議支援プロダクト、後者は非常食の備蓄サイクルを円滑にするプロダクトです(詳細説明は省略します)。プロダクトの中身は少しずつ調整しながら変わっていきましたが、名前についてはまったく変更せずに最後まで来ています。

「テガカーオ」の動画のオープニングより

このように思いついたソリューションにいい名前をつけることが、ものづくりの第一歩です。下手にカッコいい名前をつけるよりも、ベタな名前にしたほうがいいでしょう。「このプロダクトを一言で説明するなら?」をそのままプロダクトの名前にしてもいいくらいです。「まるで小林製薬みたいだ」と指摘されましたが、まさにそのとおりです。あったらいいなをカタチにしましょう。(売り物にするときは考え直しても大丈夫です)

いい名前があれば、いくつもの利点が得られます。

たとえば、チーム内ではプロダクトに対する共通認識が生まれます。それによって、自分たちの「やるべきこと/やるべきではないこと」が明確になり、開発効率が大きく高まります。

また、チームに共通認識があれば、同時にいくつもの意思決定ができるようになります。これにより「線形ではない開発」が可能になります。これは、デザイン思考が次に目指す姿Circular Design)でもありますね。

チーム外においては、プロダクトのことをユーザーに説明しやすくなるという利点があります。また、説明したあとでプロダクトのことを思い出してもらいやすくなるという利点もあるでしょう。実際、私は「テガカーオ」を作っているチーム名のことをいまだに覚えられず、いつも「テガカーオのチーム」と呼んでいます(ごめん🙇)。

一方、欠点もあります。早い段階で名前にとらわれてしまうと、あとで発想が大きく広がらない可能性があります。陰陽師が「名前はこの世で一番短い呪」と言ったそうですが、思考や行動に一種の制限をかけるのです。

利点/欠点ともにありますが、利点を強化し、欠点を回避するような名前が「いい名前」だとも言えます。いずれにしても「名前重要」は共通しています。優れたプロダクトがあふれてくるような名前を考えてみてください。いい名前の考え方については……また今度説明しましょう。

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角 征典 (@kdmsnr)
東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト

ワイクル株式会社 代表取締役 / 東京工業大学 特任講師 / 翻訳『リーダブルコード』『Running Lean』『Team Geek』『エクストリームプログラミング』他多数