ユーザーの物語

EDPでは、ユーザーリサーチの段階から最終のプロダクトの発表会まで、ユーザーの体験を物語として表現することをたびたびおこないます。物語る方法はさまざまで、6コマ以内のマンガ、絵コンテのようなストーリーボード、絵や写真を見せながら語る紙芝居やデジタルストーリーテリング、小道具を使った寸劇、ショートムービーなどです。どの表現形式でも、せいぜい5分以内で終わる短いものです。

マンガやストーリーボードは、チームの中の絵のうまい人だけでなく、メンバー全員がどんどん絵を描いて表現します。絵はうまくなくても伝われば十分なのであって、例えば人物であるならば棒人間で十分です。主人公と主人公に関わる人々との関わりを中心に描いていきますが、ユーザーの置かれている環境は非常に大切なので、背景やユーザーが使うモノもできるだけ描きこみます。ユーザー環境を表現するようにするのは、写真や動画を撮影する場合も同様です。

紙芝居や寸劇では、即興でセリフをつくるのではなくて、あらかじめセリフとナレーションが含まれた台本を作ります。即興でユーザー体験をトレースすることは、ユーザーリサーチのロールプレイやユーザーテストでは有効ですが、物語として表現するときはグダグダになって聴き手に伝わりにくくなりがちです。また、物語は他者に表現することだけが目的なのではなくて、台本を作るプロセスを通じてデザインチームがユーザーの体験を深く考察することができるのも一つの大切な目的であるからです。

ユーザーの物語は、ペルソナで設定したような人物を一人、主人公に設定して、ユーザーの視点で語るのが基本です。表現したい内容によっては、複数のユーザーや利害関係者の視点が交錯する場合や、デザインする人本人の視点が入る場合もありますが、複雑な物語構造には高度なスキルが必要となるので一般にはシンプルな視点にした方が伝わりやすいです。

物語は、ユーザーの体験を淡々と再現するのではなくて、物語としての流れをつくります。物語の基本型は、1.初期状態(主人公の紹介と日常)、2.問題や障害の発生、3.問題や障害の解決、4.問題や障害が解決した後の状態です(下図)。ユーザーの物語では大抵の場合、3は解決というよりも解決を示唆する可能性の示唆となり、4までは必要ありません。明らかな問題や障害がない場合、話を創らなければいけない感じがすると思いますが、何も問題のないハッピーな世界ではそもそも新たにデザインする必要はないはずで、たとえ目立った問題がなくても、満たされていない何かがどこかに存在しているからこそデザインをするわけです。ユーザーの物語を語ることの意義は、ユーザーが抱えている潜在的な問題や障害を発見することなのです。

図:物語の基本型

ユーザーリサーチの段階では、ユーザーの物語をつくることは、デザインチームの理解を深めることを第一の目的としておこないますが、デザインチーム以外の人に見て聴いてもらうことをおすすめします。その理由は、発表の場で他の人から有益なフィードバックをもらえるかもしれないということや、他者に発表する緊張感でよいものができるということもありますが、他者に語ろうと思って語ることで無意識に物語としての形式をうまく整えることができるということが大きいです。物語は、太古の昔から人類が受け継いできた、他者に何かを伝えることを通して自分の中にある大切なものを再認識する形式なのです。