東工大EDPで書かれたPOVの例(2022年度)

東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト(EDP)では、デザイン思考を活用する過程で、2022年にPOV (Point of View)を記述する新たなフォーマットを使用し始めました。

2022年度EDPはこの新フォーマットの恩恵もあり、鋭いインサイトを含んだ提案が多く為されたと感じています。
現在2023年度EDPを進めていて、2023年度の受講生が参考にできるようにと思い、昨年度の各チームのPOVをここにまとめておきます。

デザイン思考を様々なところで活用している皆様もぜひ参考になりましたら! 「#」の後に、私(坂本)による一言解説も書いてみました。

Team 1
子供を連れたY先生は運動不足だが公園に行っても子供と体を動かすことはあまりない。
なぜなら、公園に行くときに運動の道具をいつも持っているわけではないからだ。
とはいえ、公園には専門の掃除業者はおらず、落ち葉が山積みになっている。
つまりこれは、落ち葉を掃除する活動を楽しいスポーツにすればよいのではないか?
#2つの異なる軸をインサイトの行で交錯させている。

Team 2
在宅ワークが増えた親は屋内空間の狭さを感じ始めた一方で、窓外の庭へ屋内空間を拡張しようとはしない。
なぜなら狭い庭で子どもを自由に走らせたいからだ。
とはいえ、子供が庭で遊ぶ時間は、親は屋内で仕事をしていない。
つまり、時間に応じて窓外空間を棲み分ければよいのではないか。
#インサイト(とはいえ~の行)で空間と時間の問題を入れ替えている。

Team 3
普段徒歩で移動する人は、自分の住む家の近くを汚いと感じている。
なぜなら自販機の横のゴミ箱が常に溢れかえっているからだ。
とはいえ、清掃は業者の責務だと感じ、環境改善のためだけに自分が行動しようとは思えない。
つまりこれは、有益な動機がさらに重なれば、ゴミを溢れさせないよう協力できるのではないか。
#行動のモチベーションが発生する/しない構造を分析している。

Team 4
親: のぼせた経験から長湯をしないよう気を付けている高齢者は、入浴中に歌を歌って入浴時間を測っている。
なぜならお風呂で気持ちよく歌うことで時間管理ができ一石二鳥だからだ。
とはいえ、誰でも入浴中歌い続けるのが楽しいわけではなく、のぼせて周りに迷惑をかける心配は残る。
つまりこれは、歌のように楽しく入浴時間を自己管理でき、周りに迷惑をかけるリスクを減らす入浴法があれば良いのではないか。
#エクストリームユーザーの良さを他の人に敷衍させている。

子供: 親の入浴でのヒートショックを心配する子供は毎日、入浴の前後に電話で安否を確認している。
なぜなら、異常がわかり次第、救護を手配したいからだ。
とはいえ、救護が駆け付けるまでにも熱い湯船内で親のリスクは高まり続けている。
つまりこれは、湯船でのぼせても即座には大事故に至らず、救護までの猶予を作る方法があると良いのではないか。
#ユーザーの行動の時間解像度を高め、微小時間の状況を切り出している。

Team 5
梨園農家は、枝の剪定のため腰に負担の大きい長期作業が強いられている。
なぜなら、トラックが園内に入れず枝を一度地面に落としてから拾うからだ。
とはいえ、トラックを邪魔する「棚」を逆に利用できるのではないか。
つまり、剪定直後に、枝を地面に落とさず、棚を使って枝を運搬車まで運べば良いのではないか。
#ユーザーの行動を解像度高く観察し、最大の障害を逆に解決策に用いる視点を提供。

Team 6
庭を持つ家に住む子供の食育を考えている母親は植木鉢で家庭菜園している。
なぜなら、家を建てたときには土いじりに興味がなかったからだ。
とはいえ、庭に直で植えた方が楽しい。
つまりこれは、気軽に庭での体験を変化できれば良いのではないだろうか。
#ユーザーの行動の時間軸を大きく取り、長期の変化をとらえている。

Team 7
自分のかいた汗が気になる20代女性は、ランニングウェアだけの少量の洗濯に、エネルギー浪費の罪悪感を感じつつそうしている。
なぜなら、ランニングの後汗のかいたウェアと、私服を一緒に洗うことを避ける他の手段がないからだ。
とはいえ、運動をしている間であれば、自身の身体のエネルギーが活用できる。
つまり、ランニングしながら洗濯ができると良いのではないか。
#ユーザーの行動を解像度高く観察し、最大の障害を逆に解決策に用いる視点を提供。

Team 8
スーパーで買い物をしている高齢者は通路で後ろからぶつかられてしまうことがある。
なぜなら、耳が聞こえにくく目も見づらいため、後ろの人に気づきにくいからだ。
とはいえ、後ろを確認しようと振り向けば、バランスを崩して転倒し、大きな怪我をしてしまうかもしれない。
つまりこれは、前を向いたまま後ろを確認できれば良いのではないか
#ユーザーの行動の時間解像度を高め、微小時間の状況を切り出している。

Team 9
葉の色を基準に選別を行っている自然栽培農家さんは 自分が理想とする品質の葉物野菜をお客様に届けることができていない。
なぜなら、「理想の品質」を客観的に分かりやすく従業員に伝えることは難しいからだ.
とはいえ,自然栽培農家さんは頭の中には理想の状態があり,目の前の野菜を見ればそれが理想に近いのか遠いのかは判断できる.
つまり,営農者が判断した色を選別の際の正解にしてしまえばよいのではないか.
#ユーザーの行動を解像度高く観察し、最大の障害を逆に解決策に用いる視点を提供。

Team 10
電子決済をできるだけ避け、現金のみで普段の支払いを済ませている高齢者は、財布の中身を毎日確認することで支出を把握している。
なぜなら、家計簿ほど詳細まで支出を把握したいとは思っていないからだ。
とはいえ、このやり方では電子決済が進む社会から取り残されてしまう。
つまりこれは、電子決済にも対応できる、家計簿よりも簡単な支出管理手段があればよいのではないか。
#ユーザーの微小時間の行動を、長期で汎用性の高い社会問題につなげている。

Team 11
親: 関西で一人暮らしする80代の父親は散らかったキッチンで生活をしている。
なぜなら、腰が悪く整理ができないからだ。
とはいえ、棚の上のスペースは活用されず空いている。
つまりこれは、腰が痛くてもスペースを有効活用できれば良いのではないか。
#「観察」から得られる非常に素朴なツッコミ。

子: 関東で家族と暮らす50代の息子は、月1回片づけをしに親の家に通っている。
なぜなら、キッチン周辺はモノがあふれてしまっているからだ。
とはいえ、親は「まだ使うから」と言うので片づけられない。
つまりこれは、親の生活状況をある程度把握したうえで片付けができればよいのではないか。
#行動のモチベーションが発生する/しない構造を分析している。

2023年度の成果も乞うご期待です!(Hiraku Sakamoto・EDP担当教員)

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Hiraku Sakamoto
東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト

Associate Professor; Engineering Sciences and Design (ESD) Graduate Major, Department of Mechanical Engineering, Tokyo Institute of Technology, Japan.