越境型ゼミをやってみて vol.2

皆さんこんにちは。東工大EDP2016年度参加者の奥出です。先日越境型ゼミをやってみて vol.1というタイトルで記事を執筆させていただきましたが、今回はその第二弾、参加者の感想編です!

前記事では越境型ゼミを盛り上げるためのノウハウについて経験を基に紹介させていただきましたが、本記事では実際に参加しているメンバーがどのようなことを考え参加しているのかを中心に紹介させていただきます。工学系、情報系、美術系…と様々なバックグラウンドを持つメンバーが、今回のゼミで何を感じ何を得たか、ゼミの魅力を伝える上で欠かせないそれぞれの学びをシェアしていければと思います。

参加者それぞれの学び

※本記事では記事執筆開始時の5/16時点でゼミで発表経験がある5名の体験談を紹介しています。今ではさらに2人の参加者が増えてさらに学びの濃い時間を得られています。

(1)阿多くんの場合

こんにちは、阿多です。僕は現在、東工大工学院機械系の博士課程後期に所属しています。2016年度は受講者として、その後2年ほどTeaching Assistant(以下TA)としてEDPに参加しました。在宅生活が始まったときに何となく越境ゼミやりたいなぁと考えていましたが、誰を誘おうか決めかねていました。そんな時に山村さんが「ゼミやりましょう!」と声をかけてくれたおかげで個性的で尖ったメンバーが集まり、サクッとゼミをスタートさせる事ができました。アクティブな仲間に感謝しています。

僕は「量子力学」について、歴史的背景を織り交ぜながら発表しています。僕は量子力学の知識に乏しく、研究を進めていくうちに、「量子力学を学び直したらもっと研究が楽しくなりそうだなぁ」と思っていましたが、なかなか手を付ずにいました。在宅生活はこの分野について学び直す絶好の機会で、1週間のうちに得た新しい知識をスライドにまとめ、週末に発表しています。普段は自分の研究に直接的に関係のある論文を読むことがほとんどですが、こんな時だからこを新しい何かを学びたいを得たいとも思っていました。

阿多くんの発表スライドの表紙

「自分の専門分野以外のこと勉強して何の役に立つんだよ」と思う方もいるかもしれませんが、各々が「自分の専門分野はこれ」と言える立場になった大学院生が自分の好きなことを語り合うことは僕が経験した所謂「勉強」方法の中で最も魅力的です。例えば奥出くんが経営の事について発表してくれた時は「今後の経営戦略の中で特許ってどんな意味があるんだろう」とか、黒瀧さんがブロックチェーンの話をしてくれた際は「じゃ量子コンピューターが実用化されたらこの仕組みってどう変わるんだろう」と話すことは、工学者を志す僕が将来考えなくてはいけない(かもしれない)問題を早い段階で考え、専門家とディスカッションしている状態ですので、役に立たないはずがありません。反対に、このゼミからヒントを得て将来何か新しいことができるのかもしれません。脳の異方性を育てるのにもってこいの場です。

とりわけ面白いのは美術系の二人の発表です。少し前の僕は工学と美術は対照的な学問だと思っていました。これは僕が抱いていた間違った、「有名な美術作品はとある天才がとんでもない閃きから生まれてきた」という偏見によるもので、彼女たちの発表を聞いてその間違った固定観念がなくなりました。鹿島さんが紹介してくれた美術史、特にキュビズムに到る歴史は、人間の認知に対して新たな発見を絵画という手法を用いて表現してきた画家の学術的(哲学的)なバトンパスの結果であるとを学びました。さらに18世紀ごろの認知に関する哲学的な解釈を紐解くと、量子力学の歴史におけるいくつかの重要な仮説は当時の哲学者の思想を反映しているのではないかという気付きもありました(詳しくは鹿島さんが書いてくれています)。この気づきによって、自分が今後何かを学んでいく上で「無駄な勉強」というのはほとんどないといという確信をえました。山村さんはArduinoなどイマドキのテクノロジーを駆使して新しい体験を生むデバイスを実際に作って、それを実際に使ってもらうというサイクルを回していて、もしかしたら自分の研究もこんなふうに役立つ日が来るかなぁと発表を聴きながら妄想しています。これはエンジニアとってモチベーションの源泉になると思います。さらに物理学の裏にある哲学的思考を学ぶことは、今後自分がどのような研究者になるのか、そのスタンスを考える良い機会になりました。

今後もこの活動を続けていきたいと思っていますし、それによって何か新しいコトを将来始められるのではないかと妄想して今はワクワクしています。ゼミに参加する全員が熱く自分の興味について語ってくれます。そのお礼ができるように自分の発表も磨いていきたいと思っています。

(2)奥出くんの場合

改めましてこんにちは、ここまで語り手を務めていました奥出です。まず、簡単に自己紹介させていただきますと、僕は東工大で経営工学を学び、2016年度のEDPに参加していいました。次年度のEDPにもTAとして参加し、EDP参加者と交流を広げ、深めていました。そんなつながりでこのゼミに参加できています。

現在は、トラディショナルな産業に対し、産業構造を仕組みから変えていくことをコンセプトにした事業を展開していく事業会社に勤め、商品企画/開発業務に従事しています。その経験を活かし、本ゼミでは倒産企業の事例紹介、マーケティング事例/歴史などについて発表しています。

とまぁ自己紹介はこのくらいにして、このゼミの中でとても印象に残った発表についてお話したいと思います。僕が印象に残ったのは、鹿島さんの「これが作品?芸術ってなに?」というタイトルでのマルセル・デュシャン、あいちトリエンナーレでの事例を基にした芸術の定義についての問いを投げる発表です。

なぜこの発表が印象に残ったかというと、この発表が残した問/学びがビジネスの世界に身を置く自分としても考えていかなければならないテーマだなぁと感じたからです。分野は違えど本質的な人間の価値は変わらない。

鹿島さんの発表は、デュシャンが芸術界に「芸術とは何か?」、「どうやってそれが芸術だと確かめるか」、「誰が決定するのか」という三つの問いを投げかけ、一つの解として「選択」という行為の重要性を示したという話でした。アートのイメージとして強い技術等を基にした職人性等ではなく、作家自身が何に価値を感じ、選択し、新たな観点を与えられるのかというところに価値の重きを置くべきではないのか、という。

ビジネスの世界でも同じことがいえると思っています。歴史に名を残す経営者は、一見当たり前のことの中からクリティカルな選択をし、そしてそれを迷わず実行してきました。芸術の世界でも、その「選択」にフォーカスした価値の置き方を聞き、確かにと納得する反面、分野間での共通点を感じすこしの驚きがありました。

黒瀧さんは一度AI技術について発表してくださいました。また、新しく参加してくれた水野くんは労働のロボット化をテーマに発表をしてくださっています。恐らくこの発表の中でも人間としての価値として「選択」の重要性が語られていくのではないかと想像しています。クリエイティブな価値を発揮できる一つの価値としての「選択」の重要性を、今後の各分野の発表を聞きながら自分の中で咀嚼していこうと思っています。

(3)鹿島さんの場合

こんにちは、鹿島です。私は学部は武蔵野美術大学の油絵学科で、3年次(2017年度)に他のメンバーが言及しているEDPにResearch Assistant(RA)として参加していました。算数を小4でやめたのでまさかの進路ですが、この春から東工大大学院、美学の研究室に所属しています。

このゼミでは主に芸術作品や概念を哲学、社会情勢、知覚などと絡めながら発表しています。発表テーマを決めるとき、「あれ、自分ってなんの専門だったんだっけ…?」と立ち戻ることができたのが、まず最初の学びでした。油絵学科出身だけど油絵はほとんど描かず、卒業制作は映像と写真を出したし、バイトではwebやUI/UXを作ったりエディトリアルやったり、でも進学先は東工大で…というように、やれることこそ多いものの、「その道のプロにはかなわない器用貧乏」というのが私の特徴でした。

鹿島さんのこれまでの作品例

ですが、「異なる専門性」を持つメンバーに囲まれ、「このなかの誰もやっていない私だけが詳しいことって何だろう」と思考するようになり、やっぱりそれって芸術なんじゃないか、しかもただ美しいとかではなく、意図から形式が生まれたものこそ自分が探求しているものなのではないか、と前述したテーマを設定することができました。

聞き手の立場ではそれぞれ異分野ながら自分の領域にも接続することができ、毎度楽しみにしているのですが、なかでも阿多くんの量子力学の発表が印象に残っています。

というのも、人間には直接感知することが出来ない「量子」をいかに科学者たちが思考し、解明してきたかを毎回丁寧に解説してくれるのですが、わたしたちが見ている世界や色、知覚しているものがいかに狭く、限定的なものなのかを気付かされるからです。

阿多くんの発表内で使われていた波長の図

その度に、ある意味「人間に見られるために」作品は作られてきたけれど、もっと違う存在の仕方があってもいいのかもしれない、と反省したりもします。

電子顕微鏡によって量子を「使う」ことができるそうですが、それでも、今日までの常識が明日には覆るなもしれない、と言っていたのも印象的でした。

一方で「量子重ね合わせ」のパートでは、「観測」によって電子の場所が決定すると聞き、先ほど挙げたような人間の知覚とは別に存在する世界の在り方と、観測という人間の行為によって存在する世界の在り方が同時に量子力学には存在しているのもとても興味深かったです。固定観念からすると、このパートは理解に苦しむので常識をいったん外して見ていってください、と阿多くんは話の前に言っていましたが、自分でも意外なことに抵抗なく聞くことが出来ました。これは、(阿多くんの説明のうまさはもちろんですが)従来のものの見方を変化させていくことが頻繁に起こってきた、美術の領域で学んでいることも一つ理解の助けになったのかなと感じました。作ることだけでなく、このような「受け入れ難いこと」を受け入れるのも、ひとつ美術における技術だと体感できたのは大きな学びとなりました。

ずっと家から出ないことに加え自分の場合は大きく所属を変更したため、1週間のペースがなかなか掴めずにいましたが、発表があることで曜日感覚が復活していい意味で焦りながらインプットとアウトプットを回せていることもこのゼミの魅力です。これからも、自分がメンバーから得られている分自分の発表で返せるよう、毎回のキーワードを見定めながら学んでいきたいと思います。

(4)黒瀧さんの場合

こんにちは黒瀧です。2016年のEDPにソフトウェアの専門家として参加していました。現在はGMOペパボ株式会社で働きながら横浜国立大学大学院理工学府の博士後期課程で研究者として活動をしています。いわゆる社会人博士というやつです。今回の越境型ゼミは阿多くんから誘って頂きました。毎週とても楽しい時間を過ごせています。ありがとう!

修士までは情報学を専攻していましたが、博士課程からは機械工学を専門とする研究室に所属し今までとは少し違った環境で研究活動をしています。社会人博士で大変なことの一つに仕事をしながら研究をするので時間が足りないのではないか?という話があります。たしかに、仕事と研究をまったく別のものとして捉えていくと、時間はどんどん足りなくなっていくように感じます。しかし、仕事で学んだことを研究に活かしたり、研究で学んだことを仕事で活かしていくことで、仕事と研究の両方が豊かになっていくことを実感しています。

私が現在研究しているテーマはHuman-Computer Interactionといった分野で、学際的な研究領域です。人が使うセンサーやデバイスを作るには機械工学や化学や電子回路の知識が必要になってきますし、センシングしたデータをどう処理するのか、大量のデータをどう扱うのか?といったところではプログラミングの知識も必要になってきます。そして、設計したシステムを人がどのように扱うのか、使った時にどう感じるのか?という点では心理学・社会学などの知識も必要になってきます。とはいえ1人で全ての分野に精通するのはとても大変ですので、EDPのような分野横断的なチームを組んだり、他分野の人とディスカッションをしながら、研究を進めることがとても大事になってきます。

その中で、この越境型ゼミは私自身にとって多くの学びの機会を与えてくれています。それぞれの専門分野を持った人が集い、お互いの専門分野へのリスペクトを忘れずに議論することで楽しい時間を過ごせています。阿多くんの量子力学の発表では、理論だけでなく著名な研究者の歴史についても学ぶことができます。私も普段はGoogle Scholerで研究者名とキーワードを組み合わせて論文を検索していますが、研究者達の歴史を学びながら、未来を想像していく事が重要である事に改めて気付かされました。奥出くんの経営やマーケティングの話は自分の仕事にすぐにでも活かせそうな内容で、過去事例を分析しながらマーケティングの原則を知ることができたのが良かったですし、漫画の話もフレームワークを使って解説してくれていたのがとても印象的でした。鹿島さんのキュビズムの話ではアートの捉え方の楽しさを知ることができました。今まで難解で理解できなかった作品の背景を知ることで、より立体的に作品を見れるようになった気がします。山村さんの研究内容は自分の研究内容と近い分野だと思いますが、デザインという視点から切り込んでいるので新たな発見がありました。留学体験記の中で話題に上がったサステナビリティの話は自分もこれからもっと考えないといけない事だと気付かされました。また、遠隔コミュニケーションの話は今の自分のリモートワーク環境で感じる課題感とリンクすることが多かったです。

定期的にオンラインで開催できたことが結果的に良かったと思います。皆さん違う研究室・会社に所属していますが、移動の時間を気にせずに集まりやすかったです。これからもオンラインのメリットを活用しながら持続可能なコミュニティとして運用していけると良いなと思っています。

(5)山村さんの場合

こんにちは!2017年度EDPに美大生RAで参加した山村です!自己紹介と今回のゼミの発足の経緯は別の記事(越境型ゼミをやってみて vol.1)で話しているのでぜひこちらも読んでみてください!

私といえば、今のところ多くは「内省」に当てさせて頂いています。

修士課程でやっている研究の内容、留学で制作してきたことの内容など。これらは全て便宜的にはどこかで「発表」をしたものですが、自分ではブラッシュアップを続けている「未完」のものです。制作の過程で、同じ専門の先生方からご指導いただくのももちろん最善を目指す点で重要ですが、ある程度まとまったタイミングで、専門が異なる方からのユーザー視点での評価、痛いところを突かれる意見、また、各分野からの参考資料を共有してくださるおかげでブラッシュアップに当たって大きなヒントになります。うんうん と聞いてくれるだけで嬉しいですが(笑)。

また、自分の専門のコアに近いブランディングやUXの事例を紹介する際は、言語化によって自分の中に解像度を上げて定着させることを目指しています。個人的に、美大生あるある(?)な「フワッとなんとなく理解したつもり」状態で止まり、いざ熱弁しかけてうまく語れず悔しくなることが多々あるので、他者に伝える練習の機会になっています。

また、他のメンバーの発表からの気づきも多いです。奥出さんのマーケティングでは、フレームワークの歴史を紹介してくれました。本音を言うとフレームワークに対して偏見があったのですが(各方面すみません)、事業開発を試みる中で課題が生まれてきたからこそ、それらを解決するための手段としてフレームワークが生まれてきた、ということをなぞると、その必要性に初めて気づけた気がします。経営とデザインの領域は近年急速に歩み寄りが始まっていると考えますが、マーケティングのいろはを理解すると、デザインにおける”ゼロイチ”、コンセプトを描く際の価値創出の思考にも使えることが多いと感じたので、より深めていきたいです。

理系陣からの発表は、知らない分野(またはガン無視してきた分野)の大枠を知る絶好のチャンスなのですが、量子力学にしても、ブロックチェーンにしても、美術史にしても、共通するのは、現在に到るまで人間が様々な思考を凝らし学問として発展させ、世の中を豊かにしてきたことに気付かされます。「現代から過去を眺めるのではなく、過去に遡って順々に現代までを追った時、人間は絶えず世の中に足りないものを捉え、それを補完するために手と頭を動かしてきたんだなあな」などとスケールのでかいことを考えたりします。物事が変化した歴史の分岐点の前に立ち戻って未来を眺めるなんて、 自分一人ではそこまで深入りできなかったことですね。そして分子レベル(!)の存在だとしても、私ももしかしたらその変化を作る一端となって、何か困りごとを解決するクリエイティブをしたいななど夢が膨らむゼミです。

最後に

本記事では、越境型ゼミを行ってみての各参加者の感想・学びを紹介させていただきました。本記事冒頭でも紹介させていただきましたが、ゼミを行う上でため込んだノウハウは別の記事(越境型ゼミをやってみて vol.1)で紹介させていただいております。合わせて読んでいただけますと幸いです。

私たちはこのゼミを通して多くのことを学び、気づき、世界を広げてきました。このような素敵な場がどこかで似たように始まっていくことを願いつつ、私たちもさらに自分たちの世界を広げていこうと思います。

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