2019年度EDP「キッチンたんけんたい!」Team-ipi

私たちTeam-ipiは、さくらインターネットさんによる「フルタイムで働く親が子どものためにできる食育をデザインせよ」を課題に、2019年9月から半年間プロジェクトに取り組んできました。2月に最終発表会で報告した成果をまとめました。

入部:それではチームipiの発表を始めます。プロダクトは “待たせてごめんって思ってた”「キッチンたんけんたい」。メンバーは朝倉、石川、中川、そして私、入部の4名です。

子どもがリビングにいてもキッチンが見られる

「キッチンたんけんたい」は、夕食の準備中の子どもと親の関係に着目して作られた、「子どもがリビングにいてもキッチンが見られる」プロダクトです。それでは、まずPVをご覧ください。

「フルタイムで働く、小学校低学年のお子さんがいる家庭」をターゲットとしております。インタビューからこのような家庭では、親が時間的・精神的に忙しいと感じていることがわかっています。そこで先ほどのPVにもあったように、リビングからキッチンにあるカメラのアングルを変えられるプロダクトを作りました。特徴は、子どものみが操作することで、親の手を煩わせないことです。

食への関心が食育へつながるが、時間がない

このプロダクトで解決したい課題は、「フルタイムの親が抱えている葛藤」です。

まず、食育と聞くと「食に関する知識を教えること」が頭に思い浮かびがちですが、実際にはご覧の図のように、たくさんの視点、要素からなるものです。インタビューで「食に興味を持つことで好き嫌いが減った」というお話を聞き、食の興味が食育につながることがわかりました。しかし、フルタイムの親の場合は、忙しくてそのような時間を十分に取ることができないということもわかりました。

働く親の葛藤

フルタイムで働いていて、小学校1年生のお子さんがいるTさんへインタビューしました。子どもが食に興味を持つことが大事だとわかっていながらも、忙しくて夕飯が遅くなってしまい、子どもを待たせてしまっているという罪悪感がありました。また、急いでいる時に子どもにあまりキッチンに来て欲しくないと感じていました。しかしその一方で、忙しい夕飯の支度中でも子どもを邪険にしたくないし、子どもの時間を大切にしたいと思っていました。

このような「子どもの興味」と「夕飯の準備」の葛藤を見いだした私たちは、『食事の準備中に、親の負担にならずに、子どもの食への興味を促進するプロダクト』の必要性を感じました。

リビングで操作するキッチンカメラ

そこで私たちは、「キッチンたんけんたい」というプロダクトを作りました。「キッチンたんけんたい」では親がキッチンで操作する必要はないので、調理中に手を煩わせる心配はありません。ただの映像とは違い、子ども自身がカメラを操作することで、興味を持った時に好きな方向から安全にキッチンの様子を見ることができます。

「キッチンたんけんたい」の目指す姿は、食への興味が食育へとつながるようにサポートするプロダクトです。

ユーザーの声

「キッチンたんけんたい」を2人のユーザーに見ていただきました。

実際にプロダクトを見せたところ、このようなフィードバックが得られました。「使ってみたい」「子どもが上からお鍋を見られるのが良いね」といったお声をいただき、メインの機能としては問題の解決に結びつきそうだと分かりました。同時に 「飽きてしまう可能性」や親のインタラクション性についてのアドバイスを頂きました。

今後は、飽きにくくする工夫やインタラクションを検討していきたいと思います。

「キッチンたんけんたい!」で ハッピーな食卓をつくりませんか?

私からのプロダクト紹介を終わりにしたいと思います。ここからは中川がデザインプロセスをご説明します。

Team-ipiの軌跡

Team-ipi 当たった2つの“壁”

中川:まずプロジェクトが始まって最初に当たった壁が「食育とは何か」です。私たちが子どもだった頃は、私たちにとっても、私たちの親にとっても、「食育」は馴染みがない言葉でした。先生方からのアドバイスは、言葉の定義にこだわってはいけないということでしたが、曖昧な「食育」に関して、どのようにニーズを聞き出せばよいのか戸惑いました。「食育」というと、誰もが「栄養バランス」や「しつけ」を考えてしまう印象があったため、インタビューでは、「食育」という言葉を最後まで使わないことにしました。

何度もインタビューや話し合いを重ねていく中で、フルタイムで働く親は食育まで手を回す余裕がなく、「食育をしましょう」という考えはプレッシャーにもなってしまうと感じました。最終的に「子どもと一緒に過ごす限られた時間の中で、無理せず食に関する関心を高め、食育へつなぐこと」を目指しました。

2つ目の壁はインタビュー相手を探すことです。フルタイムで働く「忙しい」人を対象にしていますが、「時間がない」ことが問題であるため、インタビューをお願いすることが非常に難しかったです。さくらインターネットさんやNTTデータさんにご協力頂きました。また、プロダクトを実際に使う子どもの声を求めていましたが、小学生の知り合いが全然いませんでした。思い切って、大岡山駅の交番前で子どもに声をかけてみたところ、不審者だと思って警戒されてしまいました。その後は、東工大内の芝生で親子連れに声をかけるようにしました。また、角先生の奥様と息子さんに、プロトタイプのフィードバックのため、デザイン工房に来ていただきました。子どもに理解してもらうためには、「プロトタイプの完成度を上げること」や「キッチンを正確に再現すること」が重要であると痛感しました。

プロダクト没案紹介 〜作ってきたプロトタイプ達〜

初めに作ったプロトタイプは「お惣菜お皿メーカー」です。「お惣菜をパックのまま食卓に出さずに、食器に盛り付けている」というお母さまのお話から生まれました。先生方からは、発想や実際にプロトタイプを作ったことを評価されました。しかし、「果たしてこのプロトタイプが食育につながるのか」という問題に直面しました。

他にも、夕食を待つ時間を意識させることを目的とした「Loadingおぼん」や、待ち時間を間接的に可視化した「にんじん」などのプロトタイプも作成しました。

ポスター

発表スライド

ふりかえり

朝倉めぐみ

☆私の母は週末にいくつも鍋を作り置きするため、このテーマに共感がありました。最初はチーム内で「フルタイムで働く忙しさ」のイメージが共有できず、もどかしい気持ちもありました。複数の人に聞いたインタビューが混ざってしまって、誰のどんな課題なのかわからなくなることもありました。ですが、良いチームの雰囲気で一歩一歩最後まで取り組むことができました。最終発表会のブースに来てくれた小さな女の子が、プロダクトを気に入ってくれてとても嬉しかったです。
どういう声や問題をもとにしているのか、チームで定期的に確認しながら進むことが非常に重要だと感じました。またデザイン思考では、とにかく作ってみて、フィードバックをもらうことが大事だと実感しました。
私の急な頼みを聞いて、お忙しい中インタビューを受けてくださった、母校の先生方やアルバイトでお世話になった店長さん、研究室の秘書さんに感謝いたします。

いぴちゃんへ * とにかくムードメーカーでした。毎回の授業をみんなが明るく過ごせました。そして、素敵なイラストやポスター、トマトを作ってくれてありがとう。
入部くんへ * コツコツとプロトタイプや最終プロダクトを実装してくれたので、形になりました。そしてチームをまとめてくれてありがとう。
中川くん * お惣菜お皿メーカーやLoadingおぼん、面白いアイディアを思いつき、実際に作ってチームを動かしてくれてありがとう。

入部航介

☆初めは、インタビューを上手くチーム内で整理出来ず、方向性がずれることが多くありました。その度に時間をかけて皆が納得いくまで話し合い、一歩一歩進んでいきました。常に雰囲気良く活動出来ていたこともあり、自分が思う食育を語りあう時でも、遠慮せずに自分の意見を素直に言えました。そんな風に皆が時間に追われながらも妥協せず、話し合いを重ねたから「キッチンたんけんたい」が生まれたと思います。最終発表では少しトラブルもありましたが、実際にターゲットユーザーである小学生低学年の女の子が興味を示してくれて本当に嬉しかったです。親御さんも「これは欲しいです!」と言ってくれて、半年間頑張って本当に良かったなと思いました。
インタビューを受けてくださった皆さん、本当にありがとうございました。また自分が予定を立てることが多い中、最後まで付いてきてくれた3人には本当感謝しています。

朝倉さんへ*ムービー作り本当ありがとうね。お母さん役もハマってたね!色んな人にインタビューしたり、皆の意見を整理したり、チームのために色々動いてくれて、支えてくれてたと思う。後、キーマカレーご馳走様でした。
いぴへ*いっつも元気で自然とチームが明るくなってたね。ポスターとイラスト本当ありがとうね。凄い丁寧に時間かけてくれたのに、イラストは発表で少ししか映せなくて勿体無かったなと思ってる。夜遅くまでお疲れ様。そして、リーダーを務めてくれてありがとう!
中川へ*プロダクト作り本当ありがとう。すぐ作ってくれるから色々試行錯誤が出来て、チームが前に進みやすかったと思う。ムービーの内容も考えてくれてありがとう。子供目線の演出は凄い分かりやすかった!後、またダーツに行きたいね。

中川 凌

☆食育というテーマとフルタイムで働く親というターゲットはまだ学生の自分とは少し縁遠い世界で、最初は戸惑いつつも皆で何回もインタビューやアイデア出しを重ねる中で最後は良いプロダクトが提案できたと思います。グループで活動をしていく中で学ぶことも多かったです。私は何かプロジェクトを進める中で視野が狭くなったりインタビューから得た情報を自分なりに変形してしまったのが反省点ですが、そこもチームメイトの皆さんが「それは違うんじゃない?」ときちんとすり合わせてくれたことには非常に感謝しています。また、個人としては身の回り(デザイン工房)にあるものを使ってとにかく思いついたものは手に取れる形にしてみることを意識しました。手を動かすのはもともと好きだったので自分なりに貢献できて何よりです。

朝倉さんへ*
チーム内ではしっかり者のポジションでしたがたまに出るおちゃめな部分がとっても素敵でした。朝倉さんがいなかったらチームは安心して動けてなかったと思います。メンバー全員のこころのよりどころです。あったかい家のような方でした。
いぴへ*
実は一番真剣に課題に向き合っていたなと感じました。「実は」というのは失礼かもしれないですが、それを感じさせない明るさだったということです。特に「ユーザーにとってうれしいことは何か?」という点ではこだわりを発揮してくれていたように感じます。時間がかかっても自分ができる良いものを作るという姿勢は見習いたいです。
入部くんへ *
デザイン工房で一緒に作業したり話したりする時間が一番長かったメンバーです。まだ上手く言葉にできないアイデアも最後まで聞いてくれるし提案を添えて返してくれたのでとても話しやすかったです。
→⦿(ダーツまた行きましょう)

石川瑞紀

☆食育という課題にかなり苦戦しましたが、実際のユーザーに耳を傾けて考えることで、自分本位ではなく、本当に必要とされているニーズに近づけたような気がします。
私は、芸術を専門とする学生として参加しました。ものづくりへの考え方は、周りの学生や先生方と違うと感じていましたが、お互いの考え方を理解しながら、グループワークを進めることができました。
指導していただいた先生方、さくらインターネットメンター皆さん、そしてteam-ipiのメンバーのみんな、大変お世話になりました。ありがとうございました!

Illustrated by Mizuki Ishikawa

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