2023年度EDP「歯車」Team4-aigamo

目次

  1. プロダクト紹介

2. デザインプロセス

3. メンバーによる振り返りとメッセージ

4. ポスター

1. プロダクト紹介

こんにちは!Team 4のaigamoです。

私たちはAlpsAlpine株式会社様とともに、「中・長距離ドライバーの新たな働き方をデザインせよ」というテーマに約4ヶ月間取り組みました。

その成果として、忙しいトラックドライバーでも車内で、手軽に、いつでも歯磨きができる「歯車」を提案します。

まずはプロダクトムービーをご覧ください。

歯車とは、遠征先の車内で手軽に歯磨きが行えるようになるプロダクトです。洗面台の機能を有しており、歯ブラシの先端から給水・排水が行えます。

また、シーシャのような長いホースを有しているため、運転席から手を伸ばすだけで歯磨きができます。

では、私たちがなぜこのプロダクトを作ったのか、背景を説明していきます。

私たちは車中泊を伴う長距離ドライバーの方へのインタビューを通じて、「歯」に健康的な問題を抱えている方が多いことが分かりました。

長距離ドライバーのKさんによると、業務中の食生活により歯の調子が悪いそうです。これをきっかけに、様々なドライバーの方々に対して「歯に問題を感じたことはありますか?」とインタビューを行いました。

その結果、「忙しいから歯医者に行く時間がない」、「確かに、現役時代は歯が悪かった」などという共感が得られました。

歯に関する健康問題は、ドライバーの共通問題だったのです。

この事実を踏まえ、さらにその背景について調査を行いました。

すると、歯の健康問題の背景には、長距離ドライバーならではの働き方が原因にあることが分かりました。

1つ目の原因は、大型トラックの路上駐車問題です。

SAやPAの大型トラック駐車場は度々混雑しており、路上駐車をする場合も多いです。

また、荷主に搬入時間が指定されている場合、その時間丁度に到着するために、付近で路上駐車せざるを得ません。

大型トラックの駐車場の整備が十分ではないのです。

こういった環境で休憩するとき、当然周囲に歯を磨く環境はありません。

2つ目の原因は、長時間労働による疲労感です。

休憩時に利用するSA・PAのトイレは、安全の都合上、大型トラックの駐車場から遠いという特徴があります。

これにより、ドライバーはトイレに行きたがらないのです。

「ちょっと遠いだけなら頑張って歩けばいいじゃん!」と思うかもしれませんが、大型トラック駐車場周辺の異臭は、ドライバーの共通認識でした。ドライバーの方にとって、SA・PAのトイレに行く心理的ハードルはとても高いのです。

以上のことから、休憩時に歯を磨くハードルも同様に高いということが分かりました。

ここで私たちは、「なぜ手軽にパッと使える口内洗浄液のようなものは使わないのか?」という疑問が浮かびました。

するとドライバーの方は、「口内洗浄液はエタノールのせいで、アルコール検査器が“誤判定”してしまうかもしれない」とおっしゃっていました。朝の点呼前などは、口内洗浄液を使えないそうです。

車内で手軽に口内を清潔に保つ必要性がありつつも、アルコールのせいで口内洗浄液は使えない…

私たちはこのポイントをインサイトとして捉え、以下の3つのデザイン原則を掲げました。

1つ目は「物理的に歯が磨けること

2つ目は「車内で歯磨きという行為が完結すること

3つ目は「ドライバーの習慣に馴染むこと

これらを踏まえて、私たちが提案するプロダクトが「歯車」です。使い方を説明します。

まず、歯磨き粉ディスペンサーを用いて歯磨き粉を付着させます。

水放出スイッチをONにすると、歯ブラシの先端から水が出てくるので、それで歯を磨きます。磨き終えたら、再び水を出して口をゆすぎます。

最後に吸引スイッチをONにして、唾液を排水タンクへ吸引します。

また、長いホースを有しているため、運転席の隣に設置することで、左手を伸ばすだけで手軽に歯を磨くことが出来ます。

これらの機能・特徴により、歯車は以下のような価値をもたらすと考えます。

歯車のユーザーストーリーを説明します。

導入前

遠征先で休憩を試みるドライバーは、「長距離運転による疲労」かつ「周囲に歯を磨ける環境がない」ことから、特に口内を清潔にせず、車内で眠りにつきます。

導入後

遠征先で休憩を試みるドライバーは、運転席の隣に設置してある歯車のホースに手を伸ばすだけで、歯磨きを完了することができます。これにより、お休み前に車内でちゃちゃっと口を清潔に保てます。

私たちは、この歯車を元ドライバーの方にユーザーテストを行いました。その結果、以下のような意見が得られました。

プロダクトのコンセプト自体は高評価だったものの、車内に設置するとなると、やはりサイズ感が気になるという声がありました。

これを踏まえ、今後の展望としては、車内の設置に適したサイズ感の検討、排水・吸水流路の独立、手入れしやすい構造の再検討が挙げられます。

忙しい中でも口を清潔に保ちたいあなたへ

車内で、手軽に、いつでも歯磨き 「歯車」

2. デザインプロセス

ここからは、Team 4 aigamo が歯車を提案するに至った経緯を説明します。

私たちのチームは途中で離脱者が出てしまったため、最終発表までこの4人で走り切りました。メンバー構成は東工大 機械系1名、融合理工学系2名、昭和女子大学 環境デザイン学部1名です。

とっっても大変でしたが、絆が深まりました。

AlpsAlpine株式会社から「中・長距離ドライバーの働き方をデザインせよ」というテーマをいただきました。

このテーマ設定の背景には2024年問題(2024年4月1日からトラックドライバーの年間残業時間の上限が規制されることによって生じる様々な問題の総称)があったことから、「物流業界の根深い課題がありそう…」、「デザイン思考で働き方提案ってできるの?」などの印象を持ちました。

活動初期では、物流業界の社会的な問題に焦点を当ててインタビューを行いました。

すると、「低賃金」や「人手不足」など、EDPでアプローチが難しそうな課題がたくさん出てきました。しかし、様々な課題が浮き彫りとなっている分野であることも同時に認識しました。

このような様々な社会問題がある中で、実際に働くドライバーはどのような負担を受けているのかについて調査を行いました。

まず取り上げたのは、「梱包材をも商品として丁重に扱う物流業界の慣習」です。

ドライバーの方は、雨の日でも商品を濡らさないように注意を払って運送しています。

この負担を軽減するために、雨に濡れたことをポジティブに捉えられるデザインの梱包材を提案しました。

続いて取り上げたのは、「コストを抑えたい荷主都合による、ドライバーのバラ積み問題」です。

「商品単価の低い荷物は、積載効率が重要視されるため、なるべく一度に多くの荷物を運びたい」という荷主の都合があります。そのため、ドライバーは手作業でバラ積みをし、パンパンに荷物を積み込んでいるのです。

しかし、バラ積みはかなりの重労働であるため、ドライバーの負担となっています。そこで私たちは、腰の負担を軽減する昇降式台車を提案しました。

続いて取り上げたのは、「コストを抑えたい荷主都合による、段ボールの脆弱化問題」です。

運送コストを抑えたい荷主は、どんどん段ボールを薄くしていってるそうです。これにより、ドライバーは段ボールが破損しないように、より注意を払って積み降ろし作業をせざるを得なくなっています。

この負担を軽減するために、高い積載効率を維持して荷主を満足させつつ、荷物への負荷を減らす高さ可変二段式パレットを提案しました。

ここまでの活動を通して感じたことは、革新的なプロトタイプを提案する難しさです。

今まで抽出した課題は、いずれも物流業界にとっては明確なものばかりであり、似たような既存ソリューションも多く存在しました。

アイデアがありきたりなものばかりになってきてしまい、方針転換を迫られます。

その後、ドライバー個人の性格や感情に焦点を当ててインタビューを行っていきました。

すると「ドライバーは内弁慶な人が多い」、「大型トラックはその大きさゆえに様々な不都合があるから、遠征先のローカルな情報が重要である」という2つの事実から、

情報共有が重要だが、ドライバーの気質によってそれができていない現状があるのでは?」という課題を抽出しました。

これを受けて、ドライバーにとって重要な情報共有を促進させるコーヒーマシンを提案しました。

しかし、インセンティブ設計の難しさや、課題に対してクリティカルではないといった問題点が浮き彫りになりました。

課題抽出の方針は好感触だったので、これからはソリューションの実現可能性を考慮した調査を心がけました。

こうして得られたインタビューデータを振り返り、様々な課題感を抽出していきました。(ドライバー×トイレ、ドライバー×子育て、ドライバー×健康など…)

そして歯の健康問題にユニークさを見出し、その背景を調査しました。

その結果、ドライバー特有の働き方によって、口内を清潔に保てていない現状があることが分かりました。また、アルコール検査に引っかかる恐れがあることから、手軽な口内洗浄液が使えないという事実を得ました。

以上のことから、車内で手軽に歯磨きができるようなソリューションがいいのではないかという方針を立てました。手軽とは何かを洗い出し、ようやく歯車の構想が固まります。

これは最終発表から約2週間前の出来事でした。急ピッチで設計・製作を進め、ついに歯車が完成しました。

ちゃんと機能するプロトタイプを作るというところにこだわりました。初めて歯ブラシの先端から水が出たときの達成感は忘れられないです。

3. メンバーによる振り返りとメッセージ

片桐涼太(Katagiri Ryota)

東京工業大学 融合理工学系 修士1年

【振り返り】

Team4の皆んな、約4ヶ月間本当にお疲れ様でした!

最初からメンバーの離脱が相次ぎ不安だらけのスタートでしたが、何とか走り切ることができましたね。これも全部、メンバー全員がEDPに最大限コミットしてくれたからだと思います。ミーティングの集合率も高く、都度都度チームの合意形成を上手く取っていけたことは、私たちの強みだったのではないでしょうか!

とても密度の濃い4ヶ月でした。本当に大変だったけど本当に楽しかったです。色んな人にインタビューして、航空公園でピクニックして、チームで夜遅くまで議論して、プロトタイプ作って、、大学院生にもなってこんな経験できるとは思いませんでした。EDPという場に感謝したいです。

物流業界は課題が沢山あって、逆にアプローチが困難でした。既にDXやロボットの導入が進んでいたり、そもそもの社会構造に原因があったり… EDPとしてどうやって立ち向かっていけばいいのか、散々悩みました。そんな中、電話での突撃取材や、怒涛のPOV作成大会などなど、試行錯誤の末、「ドライバーは歯に問題を抱えている!」という面白いユーザーシーンを抽出できたのは、一つの成果だったと思います。

思い返せば、もっとこうしてみたかったみたいなこともあります。抽出した課題に基づいて決定したデザイン原則にクリティカルな製品であることには満足しているのですが、もっとインサイトの深堀を行いたかったです。「歯」のユーザーシーンにおいて、デザイン思考5ステップのサイクルを沢山回すことで、デザイン原則における制約が狭まり、ソリューションの革新性も増していったんじゃないかなと思います。(時間的になかなか厳しかった…!)

でも、、まさか「歯」に着地するとは(笑) 活動当初からしたら思いもよらない結果になりました。やっぱりEDPって面白いですね

【メンバーからのメッセージ】

Team aigamoのリーダーお疲れ様でした!普段はすごく穏やかで優しそうな片桐さんですが、自分の意見を強く持っていて見た目はクールな熱男だな~と思います(笑)いざというとき、はっきり意見を述べてくださったので話し合いにも活が入りました。片桐さんに「めっちゃいいね」と言われたときは何だか嬉しかったです。ありがとうございました!(by石田)

片桐くんはチームで1番の頑張り屋さんな気がします。リーダーをしてくれたことへの感謝はもちろんのこと、最終プロダクトの作成において夜な夜な一緒に頑張った思い出は忘れません!(by山本)

I want to extend my deepest gratitude for your unwavering leadership and dedication throughout our EDP journey. Your effort in steering our team from the initial stages to the culmination of our project has been nothing short of inspiring. Your guidance during the interview, POV, and prototyping processes was invaluable, ensuring we stayed on track and remained focused on our goals. Your ability to lead, motivate, and keep us aligned with our project’s vision contributed significantly to our success. Your hard work and commitment have not gone unnoticed, and I am genuinely thankful for the opportunity to have worked alongside someone as driven and supportive as you. Thank you for being the backbone of our team and for all the lessons learned along the way. (byミン)

石田菜緒(Ishida Nao)

昭和女子大学 環境デザイン学部 3年

【振り返り】

本プロジェクトに参加しようと思った理由は大学の授業でなかなか挑戦できないソリューションの具現化を経験できると思ったからです。またバックグラウンドが異なる他学生と沢山話して仲良くなりたい!というのも大きな理由です。

はじめは慣れない環境で周りに圧倒されてしまい自分が無力だなと思ってしまうこともありました。しかし気づけばチームでがむしゃらに面白い解決策を見つけることを楽しんでいました。

EDPでは最終的に4人グループとなり東工大生に混ざる昭和女子大生でしたが、みんな優しかったので最後までやりきることができました。ありがとうございました。参加して良かったです!

【メンバーからのメッセージ】

まず、このチームが沢山インタビューできたのは、石田さんの物流業界へのコネクションがあってこそです!!本当にありがとう!普段の活動では、色々調べ物をしてくれて「こんな事例ありましたよ〜」みたいにチームの議論の幅を広げてくれてたことが印象的でした。ポスターや動画では、持ち前の絵心やセンスが光ってた!あと似顔絵うますぎ(by片桐)

石田さんは他大メンバーらしくみんなとは異なる視点で意見を持っていたことが印象的です。持ち前の人当たりの良さのおかげで4人になっても和やかな雰囲気で活動できたように思います。(by山本)

I cannot express enough gratitude for the pivotal role you played in our project. Your efforts in connecting us with truck drivers opened the door to insights we could never have accessed on our own. Your ability to facilitate these critical connections not only enriched our understanding but also grounded our project in real-world perspectives. Additionally, your contributions to our video and poster in the final stage were remarkable, adding a polished and professional touch that elevated our presentation. Your hard work and dedication have been a cornerstone of our project’s success. Thank you for your invaluable contributions and for being such a reliable and inspiring team member. Your efforts have made a significant difference, and I am deeply thankful for your support and hard work. (byミン)

山本拓実(Yamamoto Takumi)

東京工業大学 機械系 修士1年

【振り返り】

EDPでは、専門分野の異なるメンバーと少数精鋭で一つの目標に向かう経験をできて楽しかった。

良いアイデアが思いつかずに悶々としたことや鋭いフィードバックをもらった悔しさが満足のいく最終プロダクトに繋がったように感じる。

【メンバーからのメッセージ】

流石の技術力!!ちゃんと機能するプロトタイプを作れたのは山本君のおかげです。何か不具合が生じても、すぐに原因を特定して修正する姿はかっこよかった!普段の議論では、色んな視点から鋭い意見を言ってくれてたと思います。毎回山本君の考えを聞くのが楽しみでした。そしてコテコテの関西弁でチーム活動の雰囲気を和らげてくれてありがとう(by片桐)

効率お化けの拓さん。最後のプロトタイプ制作では本領発揮!やるべきことを茶々っとやってしまうとはこういう人のことかという感じ^^話し合いでは少し先を予測した物事の捉え方をしていて感心しました。チーム結成当初から話しやすく、気さくな存在がチームにいたのは大きかったです!おかげでグループワークがとてもやりやすかったです。ありがとうございました!(by石田)

Your contributions to our project, especially in the prototype development phase, were critical to turning our ideas into reality. Your technical expertise, creativity, and dedication were instrumental in overcoming the challenges we faced in making our product functional. The success of our prototype is a testament to your hard work and ingenuity. Your ability to navigate through complex problems and find practical solutions has been incredibly impressive. I am grateful for your commitment and for the pivotal role you played in bringing our project to life. Your efforts have been essential to our team’s success, and I couldn’t imagine reaching this point without your invaluable contributions. Thank you for everything. (byミン)

Minh Thu Vo Thi

東京工業大学 融合理工学系 修士1年

【振り返り】

The Engineering Design Project (EDP) class was an immensely rewarding journey that stretched over half a year, filled with challenges, learning, and innovation. Starting from scratch and ending with a functional prototype was no small feat, especially considering the dynamic nature of our team and the ambitious scope of our project. Working alongside dedicated team members, each bringing unique skills and perspectives to the table, has been an invaluable experience. The process of interviewing, defining our point of view, prototyping, and the final presentation taught me the essence of teamwork, perseverance, and innovative thinking. Although the journey was demanding, requiring us to delve into the unfamiliar territory of truck drivers without prior knowledge, the lessons learned and the satisfaction of creating something meaningful were unparalleled. I initially hesitated to enroll in this class, fearing the workload and the challenge of working in a team on such a comprehensive project. However, reflecting on the journey and the product we created together, I am convinced it was the right decision. This class has not only enhanced my technical and design skills but also deepened my appreciation for collaboration and the power of collective effort in bringing innovative ideas to life.

【メンバーからのメッセージ】

インタビュー時に鋭い質問を沢山していて関心させられてました。POV、アイデア出しも含めて課題感の深堀がすごく上手です。普段の活動でも、ミンさんと沢山議論を交わすことで、チーム活動が前に進んでいったと思います。そして圧巻の演技力!そんな特技があるなんて知りませんでした(by片桐)

ビデオ撮影で抜群な演技力を発揮したミンさん。さすがでした~ !常に面白い視点を模索しようと努力していたのが印象的です。そのおかげで最終的に歯車(シーシャ)というユニークなソリューションに出会うことができました!ミンさんは明るくて発言にも積極的だったので4人チームでも和気あいあいと出来たと思います。EDPが終わってもベトナム料理連れてってくださいね♡(by石田)

Minhさんは、みんなとは異なる着眼点を持っており、インタビューやアイデア出しで興味深い発言が多かったことが印象に残っています。時には厳しめの冷静な意見を言う役割もしてくれて、グループに深みを出してくれたことに感謝です。(by山本)

〜Fin〜

4. ポスター

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