美大生の感じたすれ違いと学び

2016年度のEDPに参加させていただいていた東京藝術大学美術研究科デザイン専攻修士2年の王です。

昨年のEDPに参加させてもらったあとに、同じように授業に参加していた美大生に授業でのことをインタビューしてみて、授業でどう思ったのか、なぜそう思ったのかを聞いてみました。

そのインタビューと私自身が感じたことの中で共通していた「美大生と東工大生のすれ違い」を二つ振り返って、すれ違いの原因とその経験で得た学びについて書きたいと思います。これを読んで、これからEDPに参加する美大生も東工大生も社会人も授業が楽しめたらと思います。

楽しい協働作業の図

1.「最初、言葉が通じないと思った」

最初、アウェーな気持ちになってる図

美大生、東工大生のチームにいて私や他の美大生が最初に感じたのは「言葉が通じない」ということでした。なぜ通じなかったのか振り返ってみると、共通言語が少ないということと、美大生が抽象的な言葉をよく使うことによるすれ違いがあるのではと思いました。

私の大学では、よく擬音語や抽象的な言葉で会話することが多いです。

たとえば、「もっとふわっとした方がいいよ」「これ、ちょっとフニャッてるからもっとガチっとする?」「海みたいな感じ」などです。このことを、自分の大学内にいるときはほとんど意識していませんでしたが、東工大とチームになって授業を受けるにつれて、いかに自分が擬音語や抽象的な言葉を使っているかに気づきました。

この擬音語や抽象的な言葉をアイデア出しの話し合いで使ったときの東工大生の反応で一番多かったのは「具体的にどういうものか詳細を聞く」でした。

ここで、すれ違いが起こります。美大生たちの多くは、この抽象的な言葉を使っているとき、そこまで具体的に完成イメージが想像できていないことが多いからです。たとえば、

美大生「机とかは?」

東工大生「どんな机?サイズは?素材は?」

美大生「いや、そこまではまだわからないけど、回るとか?」

東工大生「どうやって回るの?なんで?」

美大生「まだそこまではわからないや……」

という感じです。

では、なぜ学内だとうまくいっていたのかというと、アイデア出しの雑談の段階で出てくる言葉はあくまで「種」であって、最終イメージまで持てていなくても問題ないと思っているからです。たとえば、

美大生A「机とかは?」

美大生B「あー机ね!(折りたたみできるやつとかかな?)」

美大生C「机か〜(ガラスでできてて光るとかかな?)」

美大生A「回ったら便利じゃない?」

美大生B「折りたたむんじゃなくて?」

美大生A「あ!折りたたむのもいいね!」

美大生C「光るのかと思った」

美大生B「光るのも面白いかも!」

というイメージです。

一見すると、何も考えず不用意に発言しているよう感じるかもしれませんが、抽象的なそれぞれ想像するものが違う言葉を使うことで、一つの種からチームの人数分アイデアが生まれることがあるのです。

もし抽象的な言葉が出てきたら、とりあえず相槌をうってみたり、どんなイメージ?と一緒に広げてみたりすると、お互いにうっかり新しいアイデアが出てくるかもしれません。また、時間を決めて抽象的な言葉だけで話してみても面白いのではないでしょうか。

このすれ違いに気づいてからは、私のような美大生も自分の考えをより相手のわかりやすい言葉にする努力が必要だと感じました。お互いのことを少しでも知ることで、よりよいアイデアが出ると思いますし、小さな会話の中での一言が最終的に大きな解決策につながることもあると思います。

2.「なにか違う」という感覚

なにか違うと思うけど、皆にどう言えば伝わるのだろう?の図

美大生の多くは、物を作るときに「なにか違う」という感覚を使いながら動いています。

「こうした方が良さそう!」という感覚よりも、「なにか違うから違う道に行こう」の連続で進んでいくのです。そして、その「なにか違う」という感覚は、だいたい本人もなにが違うのかわかっていません。ただ、「なにか違う」という感覚を使って進むことで、まだ「なにか違う」と感じてない多くのアイデアを切り捨てずに進めるのだと思います。

プロジェクトでは、この感覚によるすれ違いもありました。たとえば、

東工大生「こういうプロトタイプ良くない?」

美大生「うーん、なにか違うかも」

東工大生「どこが?」

美大生「どこがと言われても…違くない?違うのにしようよ」

東工大生「そう?」

という具合です。

実際に授業の途中で私は「なにか違う」と思っていても、説明できず言い出せなかったことがありました。その後、別のアイデアが出てその案にはならなかったのですが、この「なにか違う」という感覚をどうしたら上手に言葉で共有できるのかは、まだ私の中で完全には解明できていません。

ただ、私がチームのプロセスの中で「なにか違う」と思ったときに起こした行動があります。

「なぜ違うと感じるか」を文字や図、イラストなどできるだけ相手の表現に合わせて説明する

効果的だったのは、「なぜ違うと感じるか」を文字や図、イラストなどでできるだけ相手の表現に合わせて説明することです。

最初は、簡単な気持ちを箇条書きにし、ホワイトボードに書き出したり、自分の感じたことを時系列で書いていったり、相手のよく使う表現や言葉を織り交ぜながら書いていったりしました。

このとき、私の伝わり辛い言葉を東工大生たちの理解しやすい言葉に言い換えられるように、途中で私の言葉を遮らずに表現しきるまでそばで手伝ってくれた東工大生がいて、助けられたのを覚えています。とても嬉しく、何時間も付き合わせてしまいました。手伝ってくれた東工大生がどう考えてたのかはわかりませんが、相手の表現に合わせて説明しようと行動したことで、信頼感が強まり、東工大生の皆さんが私の表現を汲み取ろうとしてくれたように思いました。それから、お互いに信頼し歩み寄りながらプロジェクトを進めていけました。

まとめ

異業種チームで活動していると多くのすれ違いが起こります。理解してもらえないことや理解できないことに苦しんだり、辛い思いをしたりすることもあります。私も、理解できないものに対して理解しようとせずに反発してしまった経験がありました。しかし、振り返って考えると、授業を通して何度もぶつかることで、表現を変えることを学んだり、他業種からみた美大生を知れたりと、学ぶことばかりでした。

私と同じような美大生が、東工大生や社会人たちと、お互い理解し合い楽しく授業していることを願っています。

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