デザイン思考とクリティカルデザインの違い

こんにちは。EDP-B/Cの授業に参加させていただきました山崎正美子と申します。私はロンドン芸術大学セントラルセイントマーチンズの大学院にて留学した後、帰国後すぐに授業に参加いたしました。その経験から、今回は、イギリス芸術大学でのプロジェクトとEDPの軸となるデザイン思考を使ったプロジェクトの違いについて、ざっくりとですが感じたことを書きたいと思います。

私が大学院で学んだデザインのあり方はthought-provoking 、provocative、スペキュラティブなどのいろんな形容詞を使って呼ばれているようですが、ここでは一般的に使用度が高いと思われるクリティカルデザイン(critical design)という言葉にします。

大学院で行ったプロジェクトのユーザーテストの様子

簡単に私の感じた2つの違いをまとめました。

デザイン思考
実用的…方法論の定義:あり
Problem-solving
ユーザビリティ重視

クリティカルデザイン
哲学的 …方法論の定義:なし
Thought-provoking
社会的影響重視

1)出てきた文脈の違い

私たちが授業で使用したデザイン思考は、デザイナーに限らず様々なバックグラウンドの人が共通したプロセスを行うことで、今までデザイナーが使用してきたデザインプロセスをいろんな世界で使用することを重視したとても実用的な考え方だと感じました。

一方、クリティカルデザインは欧米中心に20世紀後半から出てきた、デザインは従来の機能的で問題解決するものからもっと思考的で挑発的なものであって良いはずだという動きです。こうした考え方や時流を指す話なので、クリティカルデザインは方法論に対しては明確な提示はありません。

2)プロセスの違い

デザイン思考では、ユーザーインタビューを軸として全てのプロセスが行われます。人々が生活の中で問題や一つのプロダクトに対してどう考えているのかということを、ユーザーのインタビューなどで徹底してリサーチを行い、ユーザーに“共感”し、それを中心に分析、アイディエーション、プロトタイプを行っていくものです。明確なデザインプロセスの提示があり、それを軸に使用者(デザイナー)が工夫して活用します。

一方、クリティカルデザインでは、コンセプトを重視します。それはリサーチから見出した「あなたの」考えを重視するということだと、私は理解しています。

私が学んだ大学院では、哲学を学ぶことをとても重用視していました。私の学科では現象学や物語論を軸として人々が空間をどのように把握しているのかといったことや、文化ごとの空間に対する意識の違いなどを講義として学びました。

生徒たちはこうした講義から、「自分が」どういった問題に関心があるのかということを探していきます。そしてその問題が、人々の中ではどう捉えられているのかということを探るために色々なリサーチ(インタビュー、ケーススタディ、さらなる哲学研究、歴史研究、尾行、ワークショップなど。方法は生徒が考える。自由。)を行います。ただし、そのユーザーリサーチはあくまでリサーチの一要素であり、それのみで答えを探すことは稀です。ユーザーリサーチと哲学面から「自分なり」の答えを探すという分析をしていくのです。ユーザーセンタードというよりも自分の世の中への考えが中心にあります。

3)それぞれの利点

デザイン思考での利点は、分析内容をユーザーインタビューに的を絞っているので、とてもユーザーセンタードであることだと思います。私もEDPに参加していて、出てきたアウトプットは明日からでも世の中で人の役に立つことができるものだ、いうことに感動しました。また、プロトタイプをユーザーに使ってもらいながら改善していくので、ユーザーが使いやすいものが出来上がってきます。

一方、クリティカルデザインの世界では、どれだけ自分の持った疑問を社会に提示して、人を挑発し刺激することができるのかということが重視されているように思います。ですので、コンセプトが最も評価されるものであり、作ったものが実用的であるかどうかはあくまで一つの価値基準にすぎません。つまり、捉えている問題の枠組みが大きいのです。

「挑発する」というと、ただ奇抜なものというイメージを持たれるかもしれませんが、挑発的で人に新しい考えを与えるということは、現在の問題を解決するというよりも、人の考え方そのものに影響を与えることを目指しているということであり、長期的な社会貢献に繋がるものです。

例えば、「電車のプラットホームの新しい使い方」というテーマが与えられているとすると、デザイン思考では「みんなが心地よく並べる方法」などに向かうところ、クリティカルデザインですと「プラットホームで待つという行為は人の感情にどう影響しているのか」「鉄道会社が電車を提供しプラットホームを提供していることは人にどういう意味があるのか」などより根本的な状況を見ていきます。

まとめ:EDPとデザイン思考を通して学んだこと

私がクリティカルデザインを学んだ後に、EDPを通してデザイン思考を軸にプロジェクトを実施して感じたのは(先生の一人がおっしゃっていたことでもありますが)、デザイン思考は多様なチームメンバーの「共通言語」なんだということです。いろんなバックグラウンドの人たちとプロジェクトを進めていく中で、デザイン思考のプロセスのどの部分に自分たちがいるのか、またインサイトをどういう方法で出すのかといったことに共通の理解やメソッドを持てるというのは、チームメンバーのプロジェクトに対する自信につながるように思います。

ただし、メソッドに従っていると、クリティカルデザインで重要とされている自分たちのプロジェクトの社会的メッセージを考える機会が減ってしまうので、そこは意識して考える機会をもつ必要があると思いました。

どちらの考え方にも利点があると思いますが、両方のあり方を知ることで、プロジェクトに求められていることに合わせて、いろんなリサーチを試していくことが可能になり、より解決に対する視点が広がっていくように感じました。

追記)参考:

https://www.moma.org/interactives/exhibitions/2011/talktome/home.html
http://www.drs2016.org/165/
http://dl.acm.org/citation.cfm?id=2466451

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