デザイン思考の授業で踊り続けた「あいまいさとのダンス」

「東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト」のモットーは “Dance with ambiguity” です。不明瞭な状況を楽しみながら、新たな道を切り開いていくことが求められます。自グループでの、楽しくも苦しかった道のりとして、最終的なソリューションに至るまでのアイデア群をここでは示したいと思います。

エンブレム表示

  • ソリューション: 自分の自動車の後ろの道路に、ライトでエンブレムを映し出す。
  • 期待した効果: エンブレムを踏まないように運転することで、車間が一定に保たれ渋滞が抑制され、無理な横入りを抑制することでストレスが軽減される。
  • 実験結果: 暗い夜でないとライトが見えなさそう。後ろの車の運転手のがライトが気になり気が散ってしまう。
エンブレムを後ろの車を見せると車間距離が一定になってストレスが軽減されると思ったのですが...(実験は大学構内で実施しています)

モザイク絵表示

  • ソリューション: 車の後方にモザイク絵を貼る。このモザイク絵は一定の車間距離を取ると、絵としてクリアに見える。
  • 期待した効果: 後続車の運転手が、車間が一定に保たれ渋滞が抑制され、無理な横入りを抑制することでストレスが軽減される。
  • 実験結果: 車間距離は空いたが気持ち悪がられているだけなような...。そもそもモザイク絵を車につけるのが恥ずかしい。
車間を一定の間隔にすると絵としてクリアに見えるモザイク絵をつけて(左)運転してみると、たしかに車間が明らかに開いた(右)のですが...

車両間コミュニケーション

  • ソリューション: ハンドルについた「ありがとうボタン」「ごめんねボタン」を押すと、後方の車にそのマークが表示される
  • 期待した効果: 運転が下手な人が使うことで、運転愛好家のストレスを軽減
  • 実験結果: 「ありきたり。昔から似たようなのあるのに使われないのは何でかねー」「運転下手な人がわざわざ購入して付けたいと思うかね」という自動車愛好家の声で没に。
ハンドルについている「ありがとうボタン」(左)を押すと、後続車にそのマークが見えて(右)、ほっこりのはずでしたが...

車内洗濯機

  • ソリューション: シャツとパンツ1枚程度洗える小型洗濯機を車内に設置
  • 期待した効果: 汗をかいたサーキット帰りの服を車内で洗濯することで、帰宅後の家事の手間を軽減
  • 実験結果: 時間の関係でプロトタイプ完成に至らず(はっきり「不要」という人と、興味を示す人とに真っ二つに意見が割れるアイデアで、大きく化ける予感があっただけに惜しまれます)

考えが膨らまずプロトタイプまでいかなかったアイデアたち

「渋滞を渋滞に感じさせない時間の過ごし方は?」という観点でのアイデア

  • 同乗者は音楽や映像を見て盛り上がり、運転手は同乗者に聞こえない防音装備の中で大声を出すことでイライラ解消
  • 普段やりたいと思いつつも、ついやらないようなことが出来ないか → 撮った写真の整理、人生相談、祖父母への電話
  • 渋滞で車が止まり運転できないのが嫌なのだから、渋滞と逆方向に向けて車を走らせ、渋滞が解消される頃に家に帰る道を示すナビ
  • となりに異性がいて、自分に興味のある話題を話しかけて欲しい → 助手席にマネキンを置いて、プロジェクションマッピングで顔が照射されてリアルな異性があたかも隣で話しかけてくれているような気に…

書き出してみると、突飛なアイデアでも結構真面目に実験していることが分かると思います。アイデアを思いついた時は「今渡こそ、これだ!」と思うのですが、作り、使い、見せると、その時々で想像とは異なる結果が出て、またダンスへ逆戻りしてしまうのです。それでも、手を動かし雑に作り続けることこそが、早く失敗し、より良いアイデアに到達するための近道なのです。

こうして出来た最終的なソリューションは、地味ではありましたが、それが産まれた必然性を感じることが出来ました。

インタビューして分かったのは、自動車愛好家は困っていることがない、ということでした。運転が上手いので自分で何とかする能力があるし、運転が好きなので長時間運転も苦にならない。そんな中で、無理めにでもアイデアを出し続けては「これじゃない感」にさいなまれながらプロトタイプで確かめ続けました。

「ダンス」という名の「悩み」、「苦しみ」が少しでも伝われば、と思います。

--

--