世界で最もイノベーティブな企業と評されたWarbyParkerのブランディング戦略
Fast Companyというアメリカのメディアが発表している「世界で最もイノベーティブな50社(THE WORLD’S 50 MOST INNOVATIVE COMPANIES)」というものがある。2015年に発表されたランキングでAppleやGoogleを抑えて、1位の評価を得たのがメガネを販売する「Warby Parker (ワービーパーカー) 」である。
ここまでは良く知られた話なのだが、何がイノベーティブだったのだろうか。
無店舗型の販売方法だろうか?
無料で試着できるトライアルサービスだろうか?
発展途上国へのチャリティプログラムだろうか?
このランキングではWarby Parkerはこのように評されたのであった。
FOR BUILDING THE FIRST GREAT MADE-ON-THE-INTERNET BRAND
インターネットから生まれの最初の優れたブランド
彼らは売上と直結しない中長期なブランディング戦略を多く実施してきた。その結果、彼らは5年という比較的短い期間でロイヤリティーの高い顧客を獲得し、安定的な成長と競合優位性を手に入れることができた。
Warby Parkerをニューヨークで視察したが、なぜ支持されているのか理由が分からない人は意外と多い。
それもそのはずである。店舗や商品は彼らの魅力の一部でしかない。Warby Parker の魅力は時間を掛けて育てたブランドストーリーなのだから。
Warby Parker のブランディング戦略について語る前に、まずはリサーチデータを紹介しよう。
Research Date
・設立は2010年、場所はニューヨーク
・名門ペンシルベニア大学ウォートン校に在籍していた4人の学生が創業
・オンラインストアのみで販売を開始
・スタート時のプライスライン$95のみ
・配送/返送とも無料
・5つのフレームを5日間試着できる無料トライアル
・契約工場を自社で抱えて製造
・製品のグラスはイタリア、フレームは中国で製造
・主なターゲットはミレニアム世代
・サイトデザインや写真はヒップな印象を与えている
・近年の年間売上は約120億円
・現在のプライスラインは$145、$195など複数ライン
・現在はアメリカに32店舗、カナダに1店舗を出店
・店内ではサンプルを試着し、検眼してから、PCで商品を購入
・追加料金を支払えば24時間以内に受け取れる
・最高のプロモーションは口コミ
・新規顧客の半分は口コミによって呼び込まれている
・40歳未満の顧客のうち60%がSNSを参考にして購入
・カスタマーサポートの満足度が高い
・女性顧客が車を盗まれて落ち込んでいる時に、彼女がよく通っているバーの20ドル分のギフト券をプレゼントしたという逸話が有名
・販売したメガネ数に応じて、仕入れコストと同等額を非営利団体に寄付
・寄付は発展途上国の人々がメガネ販売するためのトレーニングに活用
・メガネが届く仕組み作りに貢献
・WarbyPeakerの顧客の46%は社会に恩返しするプログラムを喜んでいる
・レモネード販売の全額寄付など多くのチャリティキャンペーンを実施
・20を超える投資家から調達した資金は約140億円
・さらに2016年4月に約120億円の追加出資
・2016年4月時点の時価総額は約1,440億円
Warby Parkarの強みを4つに分けて解説し、最後にブランディング戦略は紹介しよう。
1)良い製品と良い価格
2)ソーシャルグッドな関係
3)ストア以外のコンタクトポイント
4)ブランディング戦略
1)良い製品と良い価格
Warby Parkerは製造と販売の間にいるミドルマン(中間業者)を排除したこと、そしてデザイナーを社内に抱えたことにより、オシャレでコストパフォーマンスの良い製品を販売することを実現した。
またオンラインストアのみでスタートしたので、店舗や販売員という固定費をかける必要がなかったので、販売価格を抑えることができた。アメリカのメガネ製品は一般的に製造コストの10倍くらいの販売価格にされることが多いなかで、一般価格の1/4程度の価格で提供した。
良い製品を良い価格で販売できたことで合理的なミレニアル世代※からも支持を得ることができた。
※ミレニアル世代
1980年代~2000年代に生まれた10代~20代の世代。デジタルネイティブであり、広告よりもSNSを信じ、従来よりも所有欲が低いと言われている。
2)ソーシャルグッドな関係
WarbyPeakerは「見る権利は全ての人にある」という信念の元に、「Buy a pair, Give a pair」というプログラムを実施した。WarbyPeakerのメガネを買うと、慈善団体を通じて発展途上国に寄付される。
寄付金は発展途上国でメガネ販売するためのトレーニングに活用される。
メガネを必要としているのに手に入れることができていない人は全世界で10億人いると言われている。
スタートアップ企業であるが、短期的な売上を狙う施策だけではなく、中長期的な視点を持ち、社会、そして顧客とのつながりを構築したことにより、WarbyPeakerはロイヤリティの高い顧客を持つことができた。
セレブリティの中にもWarbyPeakerのファンは多い。獲得した顧客は、エバンジェリストとなりWarbyPeakerを宣伝してくれる。
3)ストア以外のコンタクトポイント
オンラインストアから始まったWarby Parkerにとって、無料のトライアルプログラムは唯一のコンタクトポイントだった。
Home Try-onを利用すればメガネを5本まで選んで試着することができる。しかも送料は無料で、気に入ったフレームだけ選んで送り返すだけ。送られてくる箱は、お客様の期待を高めるデザインが施されている。
利用者は、ハッシュタグをつけて試着姿をセルフィーしてSNSでアップする。
「どれが一番、似合うと思う? #warbyhometryon」
Online Storeでも商品を届ける時の演出をしっかりすることで、顧客のテンションを高めて、SNSの拡散を後押しした。
顧客はストア以外でも楽しい気分になることを忘れてはいけない。
4)ブランディング戦略
Warby Parkerは、企業にとって何を優先するべきかを知っていた。
洗練された製品、驚きを与えるキャンペーン、社会貢献という要素をWarby Parkerというブランドイメージに紡ぎ上げたのが彼らのブランディング戦略であった。
彼らは『本』というインテリジェンスなメタファーにブランド・ストーリーを絡ませることで、『教養の高い知性あるブランド』を構築することに成功した。
・Warby Parkerの名前の由来は、アメリカの小説家ジャック・ケルアックの未刊作品の登場人物からとった
・クラシックな図書館をイメージした店内で書籍やハシゴが並んでいる
・一部ではセンスの良い書籍も販売
・ニューヨーク公共図書館を舞台にゲリラ・マーケティングを仕掛けた
・スクールバスをリノベーションしたポップアップストアを展開
・オリジナルの絵本を販売している
彼らは言う。何より大事なのはブランドであると。
彼らは優先事項を間違えずにブランドを育ててきたのである。
彼らはWebやSNSを上手に活用し、愛され続けるブランドを作り上げた。
FOR BUILDING THE FIRST GREAT MADE-ON-THE-INTERNET BRAND
インターネットから生まれの最初の優れたブランドと評された
良い製品があっても、消費者が手に取るとは限らない。
口コミが生まれても、売れ続けるとは限らない。
製品を購入してくれても、ブランドを愛し続けるとは限らない。
良い製品が売れて、口コミが広がった後も、Warby Parkerは顧客に愛され続けた。だから競合優位性と事業継続性を獲得できた。これはブランディング戦略の賜物である。
そして日本でもWarby Peakerのようなブランディング×スタートアップが生まれる可能性は大いにある。
そのようなブランドを多く産み出していくことが、我々、TO NINEの使命だと思っている。