ブランドらしさをつくる、中川政七商店の「言葉化」とは?/START-UPのためのBRANDING×BUSINESS

Asami Saisho
TO NINE BLOG
Published in
11 min readJun 28, 2017

こんにちは。最所です。

このたびTO NINEが運営する、スタートアップのためのブランディングを軸にしたトークイベント・インタビューシリーズ「START-UPのためのBRANDING×BUSINESS」をお手伝いすることになりました!

今回は、中川政七商店のCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)である緒方さんにブランディングのポイントをお伺いしたインタビューをご紹介します。

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享保元年(1716)に創業し、今年で301年目となる老舗企業・中川政七商店

長年、老舗の麻問屋として知られてきた中川政七商店ですが、近年では伝統技術にこだわりながら現代的な感覚を取り入れた製品を企画製造し、ブランドとしての知名度を飛躍的に伸ばしています。

また、自社ブランドだけではなく「日本の工芸を元気にする!」というビジョンをもとに、日本全国の工芸品のブランド価値をあげるコンサルティング業務も行なっています。

そこで今回は、中川政七商店の成長をより加速するべく昨年ジョインされた、中川政七商店のCDO・緒方恵氏にお話を伺ってきました。

「らしさ」は明文化できない部分にこそ宿るもの。だから、常に議論する。

今回お話を伺った(株)中川政七商店 デジタルコミュニケーション部 部長・緒方恵氏

最所:中川政七商店では、自社ブランドのみならず他の工芸品のブランディングを含めたコンサルティングも行なっているとのことですが、ブランディングにおいて必要な手順はあるのでしょうか?

緒方氏:まず、私どものコンサルティングはブランディングに関するものだけではありません。

工芸品の世界は、目標数値などの基本的な数字が現場で共有できていないことも多いため、PDCAを回すために必要な土壌を整えたり、業務フローや経理計上などの整理整頓から入ります。経営をするにまず真っ当な基盤作りからしましょうということです。

次にその会社・産地の強みと夢の確認をした後、ゴールやビジョン設定、ブランドの言葉化とその共有を行い、そこからマニュアルに落とし込んでいくという工程を経たのち、言葉化できない部分については何度も議論を繰り返すことで、徐々に強いブランドが作られていきます。
そして、そのブランドを体現する商品の製作はもちろん、商流の支援までを一貫して行います。
「作る」を支える土台を固め、ブランドを体現する製品を作り、その製品をお客様に届けるお手伝いまで、全て関わります。

最所:ビジョンやミッションを明文化して貼り出しているところも多いと思うのですが、「言葉化」は明文化とは異なる考え方なのでしょうか?

緒方氏:当然ビジョンは明文化して共有すべきですが、様々な局面で「ブランドらしさ」はあえて明文化するべきではない、また明文化できない部分にこそ、そのブランドらしさが宿ることもあると考えています。

明文化せずに「これは自分たちらしいか?」を毎回議論する土壌を作ることで、ブランディングをより真摯に考える強固なチームにすることができるのです。

例えば特集バナーひとつとってみても、「赤は使わない」と決めて守ることは可能ですが、本来は適材適所で使っていきたい色でもあります。とはいえ、クリエイティブはケースバイケースのため、赤をどう使うか明確なルールを決めきるのは難しいものです。

理想をいえば、ブランドらしさを考えた時にその赤をどう使うかということがチームで何も言わずともビシっと意見が揃う、という状態がベストですよね。決めきれない部分でも、ブランドらしさの捉え方が揃っている。そして、そこに至るまでには「らしさ」について膨大な量の議論が必要なんです。

最所:「ブランドらしさ」は一言で言い表せるものではなく、言葉を尽くして議論することで醸成されるということですね。

緒方氏:そうですね。あえて明文化しない部分を残すことで、他社には真似できない文化が育っていくのだと思います。

また、自分たちらしさにこだわって外に発信してくことで、取材やコラボレーションの依頼も自然と自分たちの雰囲気にあったところからだけ、オファーをいただけるようになりますしね。

小手先のテクニックを重ねても意味がない。LTVを重視した施策で強いブランドへ

中川政七商店のオンラインショップは、徹底的に「ブランドらしさ」が意識されている

最所:Web上のコミュニケーションで、特に意識しているポイントはありますか?

緒方氏:前提として、中川政七商店では、リアル店舗もオンラインショップも共通して「接心好感」を大切にしています。

この「接心好感」も言葉化の活動の一環から生まれてきたものです。
店舗活動の中で最も大事なものは接客だと私どもは考えているのですが、その接客という言葉を私たちらしく言葉化したのが「接心好感」です。

接客という言葉は「お客様に接する」ということは字面から受け取れますが、ではどう接するのか、なにをどうするかという具体的な部分については、個人が自由に解釈できる余地のある言葉です。
そこで、「接するのは心に対して。成すべきは(ブランドに対して)好感を得ること」と定め、接心好感という言葉に置き換えることにしたのです。

こうすると接客とは何をするものなのかが、ひとつの言葉でスッとみんなが理解しやすいものになりますし、役割も明確になります。

「接客してください」ではなく、「接心好感してください」と言うだけでも随分わかりやすいと思いませんか?

これはオンラインのコミュニケーションでも同様です。

現在中川政七商店では売上の大半はリアル店舗で、今後さらにオンラインショップの売上を伸ばしていく予定ですが、私たちはすべてのコミュニケーションの根幹は同じだと考えています。接心好感の強化です。

最所:オンラインもオフラインも、ブランドが伝えたいメッセージは同じということですね。

緒方氏:はい。そして、そのためにはそれぞれに適した伝え方の工夫がありますし、長所と短所を補い合うということがなにより大事です。

例えば、店舗では商品の実際にその場で調理をしてみせるなど実演をするということには当然限界があります。

店舗で調理器具のよさを表現するために、動画コンテンツをWebサイトに置いておき、店内の接客時に役立ててもらうといった連携で、それぞれのよさを生かしてコミュニケーション全体を設計することが重要だと思います。

最所:オンラインショップの設計でこだわっているポイントはありますか?

緒方氏ブランドらしさをキチンと伝えるコンテンツをキチンと作るということを第一優先にしています。

極端な話ですが、購入のみを目標とするのなら、小手先のテクニックで短期的に結果を出すこともできます。

しかし、本質的には自分たちが愛情込めて作った商品とブランドを長く愛してもらうということがなによりも大事ですから、数値で表すならば目の前の購入よりも、LTV(※)を最大化することを目標にしたいものです。
そうすると、まずはブランドらしさにこだわって強固なブランドを作り上げ、ファンを地道に増やすという活動が主軸になります。
※LTV…Life Time Value(顧客生涯価値)の略で、顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益のこと。

最所:初回購入を促進するためのHow toは巷に溢れていますが、そうしたサイトはどこも似たり寄ったりになってしまっていますよね。

緒方氏:そうかもしれないですね。

お客様に「中川政七商店らしさ」を感じていただくためにも、王道のWEB的な施策をあえてやらない、という決断になることは多いです。セールをほとんどやらないなどもそのひとつです。

あとは例えば弊社ではオンラインショップの特集タイトルやバナーの文言もあえてSEOを一切意識せず、中川政七商店らしい表現を追求しています。

梅雨対策商品の特集タイトルであれば、SEOの観点から見ると「梅雨対策」「レイン用品特集」「傘」などの単語を盛り込んで作っていくべきですが、我々が作ると「雨々 降レ降レ」になります。

大事なことは目先の数字ではなく、「らしさ」の追求であり、その「らしさ」を愛してくださる方の輪を少しづつ広げるという活動です。
一朝一夕に大きく数字が上がるという戦略ではありませんが、これでいいと考えています。
私たちは心に接して好感を得ることがミッションであり、それを続けた先に「日本の工芸を元気にする!」というビジョンがあるものだと信じています。

7/14(金)19:30〜 中川政七商店のデジタルマーケティング戦略を伺うトークイベントを開催します!

ブランドらしさを伝えるための「言葉化」にこだわる中川政七商店。

そんな中川政七商店が具体的にWebでブランドらしさを表現するためのルールや、SNSを活用したコミュニケーションのポイントなど、デジタルマーケティング戦略についてじっくりお話を伺うイベントを7/14(金)19:30から開催します!

新規ブランドの立ち上げ担当者やSNS、広報、デジタルマーケティングの担当者など、ブランディング・デジタルマーケティングに興味をお持ちの方におすすめのトークイベントです。

ぜひお早めに前売りチケットをご購入ください。

【チケット購入】

「らしさ」をWebで伝えるには?中川政七商店のデジタルマーケティング戦略/START-UPのためのBRANDING×BUSINESS

※前売り券は1,000円、当日支払いの方は1,500円となっています。前売りチケットの購入をおすすめしております。

【イベント概要】

■日時:7月14日(金) 19:45〜22:00(開場19:30/開演:19:45)

■場所:株式会社CAMPFIRE(渋谷駅 徒歩1分、渋谷ヒカリエ目の前)
東京都渋谷区渋谷2丁目22–3 渋谷東口ビル 5F

■タイムテーブル:

19:30 開場
19:45 開演のご挨拶

19:50 「 “らしさ”をWebで伝えるための中川政七商店のデジタルマーケティング戦略」
(株)中川政七商店 デジタルコミュニケーション部 部長 緒方恵氏

20:10 トークディスカッション 聞き手:吉岡芳明(TO NINE)
20:40 FAQ
21:00 懇親会
22:00 終了予定

【START-UPのためのBRANDING×BUSINESSとは】

株式会社 TO NINEが主催する、スタートアップのためのブランディングを軸にしたトークイベントです。

時間と手間がかかるイメージの強い「ブランディング」ですが、Webを活用することで短期間で成長を遂げた企業も数多く存在しています。

ファッションはもちろん、食やインテリア、雑貨など様々な企業のブランディングのコツを知り、お客様に選ばれるブランドを増やすことを目的として2ヶ月に1度開催しています。

[過去実績]

START-UPのためのBRANDING × BUSINESS #1

START-UPのためのBRANDING×BUSINESS #特別編

【株式会社 TO NINE について】

世界に通じるブランドをつくる仕組みの体系化を目指し、2014年に設立。株式会社KnotのWebサポートをはじめ、様々な企業のブランディング×マーケティングを手掛ける。自社事業として2016年8月にリリースしたオーダシャツ「KEI」は、クラウドファンディングで目標金額の5倍を達成。

【書いた人】

最所あさみ

大手百貨店入社後、ITベンチャーを経て独立。フリーランスとして、ファッション・小売業界を中心にWebメディアの運営やイベント開催を通したコミュニティ支援業務を行う。

個人note:https://note.mu/qzqrnl

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