学び方を学ぶ

koji iyota
といてら豊浦
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7 min readFeb 2, 2017

文部科学省が6月に国立大学向けに出した人文系の組織再編を促す通知が波紋を呼んでいる。

『これからは、将来予測がますます困難な社会になる。社会が大きく変わる中で、単なる知識の暗記ではない、判断力や思考力、創造力といった「真の学ぶ力」が必要になる。答えのない問題に自ら取り組み解答を出す力や、リベラルアーツ教育による人間性の厚みが重要になる。それには大学教育の質の転換が欠かせない。旧態依然たる大学のままで、新しい時代に対応する教育は難しい。』

下村博文文科相は通知の狙いをこう語っている。

リベラル・アーツ(liberal arts)とは...ギリシャ・ローマ時代に理念的な源流を持ち、ヨーロッパの大学制度において中世以降、19世紀後半や20世紀まで、人が持つ必要がある技芸(実践的な知識・学問)の基本と見なされた自由七科のこと。リベラル・アーツという表現の原義は「人を自由にする学問」であり、それを学ぶことで一般教養が身に付くもののことであり、こうした考え方の定義としての起源は古代ギリシャにまで遡る。(以上Wikipedia)

「人を自由にする学問」...

「子どもを畏敬の念をもって受け止め、愛をもって教育し、自由にむけて解き放つ」...いずみの学校に係わるものとして、R.シュタイナーの言葉と大いに通じるものを感じる。

変化の激しいこれからの時代、大学生が今まで存在しなかった職業に就くためにどの専門を選ぶのが有利かを考え始めていることもあちらこちらで論じられている。コミュニケーションやチームワークなど「転移可能な一般的能力」を重視するようになっているというのだ。

2012年の夏、オルタナティブ教育関係者が多数参加して開催された『天外伺朗×本田健ジョイント特別講演会』でも「21世紀の社会人に何が求められているか?」について以下の通り述べられている。

1) 情報を収集して発信する力

2) 新しいものを生み出す力

3) チームで仕事をする力

4) 自分の意見を伝える力 (1対1、1対100、1対1,000)

5) 専門分野の知識

5) は、いずみの学校を卒業した子どもたちが、その後それぞれの分野で身につけていく訳だが、1)〜4)についてはぜひ在学中にその基礎体力をバランス良く身につけて欲しい。そして更に5) についても、昨日学んだことが今日既に陳腐化していると言う表現が大げさで無くなった今日、「学び方を学ぶ」ことがこれからますます大切になっていくことだろう。

いずみの学校の卒業生が感じたこと

ここで、いずみの学校の卒業生の声を改めて噛み締めてみたい。(いずれもNPO法人シュタイナー高等学園いずみの学校「カリキュラムブック(2013年制作)」より引用)

『いずみの学校、シュタイナー学校で学んだことは、私の中で非常に大きな自信となっています。のびのびと感性を磨いた初中等部時代、そして学問に真摯に向き合う姿勢は高等部時代に培われたと思います。主体は常に自分であること、ありとあらゆる行いはすべて自分のためであること。そのことに気付くと世界に怖いものなんてなくなります。いずみの学校で育てていただいた力を、これからどのように社会に役立てていくか。学びつづけることの大切さも教えていただきました。

学校を卒業して特に感じるのが、人に臆することなく接せられる、ということ。これはとても大事なことだと思います。いずみの学校では少人数だったからこそ、「自己」を肯定し、「他人」を認める必要がありました。「自分」を持ちながら周りと調和できる、そういう力が付いたのはとてもありがたいことですし、私の一番の強みになっているのではないかと思います。』

(※ N・K 19歳 10年間在籍(3〜12年生) 国際基督教大学)

『卒業後は、春~秋までは北アルプスの山小屋で働き、冬はスキーの仕事というライフスタイルを合わせて4年ほどしました。その間に、アウトドアアパレルのお店で販売員を1年半ほど。山だけではなく川での仕事も経験し、日本全国いろいろな場所で生活しました。今はカナダに住んで仕事をしながらスキーをしています。

いずみの学校で培ってきたことは、自分が興味を持ったことを大事にし、何でも自分の目で見て自分の手でやってみること。またそれに希望を持って取り組めることです。ごく普通のことだけれど、自分を信じて挑戦できるのはいずみの学校で学んだからだと思います。社会に出ると色んな人がいるけれど、いつも大切なのはお互いを尊重し合い関係を築くことだと感じています。

いずみの学校では、生徒同士、先生方ともより良い信頼関係を築けました。校舎と教室が毎年変わったのも良い思い出です。私は公立の小中学校を卒業してから高等部に転入してきたけれど、高等部の年齢の一番難しい色んなことに興味を持つ大事な時期に、いずみの学校に来れてすごく良かったと思っています。在学中は今の自分の環境が恵まれているとか、すごく素敵な学校にいるなんてあまり考えませんでしたが、社会に出て自分の力で生きていく様になってからじわじわと感じています。』

(※ Y 24歳 3年間在籍(9〜12年生) カナダで仕事しながらスキー)

『将来、建築の仕事をしたいため、現在京都の学校に在籍し建築を学んでいます。学校に在籍中はあまり感じなかったのですが、卒業して感じたことは”自分”がしっかりと出来上がっていたことです。自分で考えたり、思ったり、行動したり、と当たり前のことですが、実際社会にでてみると出来ない人が多いと感じています。いずみの学校では勉学やスポーツの学びだけでなく、生きる力も学び、これがかなり役立っていて、今後も役立っていくことは間違いありません。また、先生と生徒の関係が近く、深い学びが得られます。学校全体が一つの家族のようにも思えます。だからこそ信頼関係が生まれたりして、良い雰囲気の中、生徒と教師が学べる気がします。』

(※ N・I 20歳 7年間在籍(6〜12年生) 建築を勉強中)

いずみの学校に係わるほとんど全ての大人達がそうであるように、自分の子ども時代にはシュタイナー教育というものに出会っていない。そういう大人の1人として、卒業生の声はとても深く染み渡る。いずみの学校で学び、社会に巣立っていった彼らに対し、尊敬の念に似た思いと、そして未来への大きな期待が膨らんでいく。

世界に働きかける

今年の12年生は、修学旅行の目的地であるイタリアに加え、スイスのゲーテアヌムで、世界各国から集うシュタイナー学校の高校生と交流するという好機に恵まれた。

ゲーテアヌムの大ホールで繰り広げられた各校のパフォーマンスの中で、日本の小さなシュタイナー学校からやって来た彼らが挑んだものは、まさに「世界に働きかけた」瞬間だった。そしてその反応は、いわゆる『スタンディングオベーション』にも似た場内からの賛辞、そして共感に迎えられたと聞く。そこで、彼らが学んだことは、彼らの人生において大きな糧となったに違いない。

いずみの学校で学び、まもなくここを巣立っていく生徒たち。最終学年の彼らがこれから迎える「卒業プロジェクト発表」と「卒業演劇」。日に日に秋が深まる今日この頃、これからの学校のイベントがワクワクと待ち遠しい時期がやって来た今を大いに楽しみたい。

高等部「情報」担当 井餘田 浩司

※この投稿はいずみの学校オフィシャルサイトに2015年9月に掲載されたものを再掲載したものです。

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といてら豊浦

高校で教鞭をとりながら「人を育てる」役割を担う人が学び続ける場を運営するラーニングデザイナー&ファシリテーター。toiee Lab パートナー。「学ぶことは楽しい!」を広く伝えるため奮闘中。家族は妻ひとり息子三人。妻の作るつぶつぶ雑穀料理にハマってます。