Tokyo Video Tech #1 開催レポート

Takesato Hayashi
Tokyo Video Tech
Published in
17 min readDec 20, 2018

Reported by @nuchi https://www.facebook.com/nuichi
Photograph by Yuji Hanamura

2018年11月、オンラインにフォーカスしたビデオテクノロジーカンファレンス Tokyo Video Tech が立ち上がった。

2018年12月12日、記念すべき第一回目の Meetup イベント #1 Unite the world がフォアキャスト・コミュニケーションズと株式会社SPARROWSの共催で開催され、告知から開始までのリードタイムは今回かなり短かったにも関わらず、27名が参加。その後のbash懇親会での交流も合わせて、非常に有意義でエキサイティングな時間となった。

イベント告知ページ:https://www.meetup.com/ja-JP/Tokyo-Video-Tech/events/256935179/

# 11 — Opening remark

Opening remark は、オーガナイザーの林 岳里さん。

11 というマジックナンバーが投影された後、林さんから次のような謎かけが会場に投げかけられた。「この11という数から、何か思い浮かぶことがありますか?」

会場の誰もが分からず困窮していると、林さんがゆっくりと語り始める。

「以前、来日したサンフランシスコのビデオエンジニアと食事していた時に、熱っぽくMeetupについて紹介された。はじめて聞いて、何のことか分からなかったのだが、『会社の垣根を越え、ビデオに関わるエンジニアが集まって、最新の技術やテクニックについて紹介しながら勉強してゆく集まり』だと知った」

サンフランシスコはこのMeetup発祥の地で、「SF Video Technology」というイベントが頻繁に行われているという。

SFに続き、各国がこのMeetupに続いた。オーストラリアのシドニー、ポートランド、デンバー、ボストン、ニューヨーク、シアトル、台湾、パリ、バルセロナ。林さんは各国のMeetupページを投影しながら、ユニークな特徴があればそれも交えて紹介した。

そして、冒頭の11というマジックナンバーを意味を林さんが明かす。

「今日このイベントが、これらに続く11番目のビデオテクノロジーカンファレンス、Tokyo Video Tech です」

Tokyo Video Tech の特徴の紹介として、Meetup (https://www.meetup.com/) をカンファレンスのポータルサイトとして利用する、という宣言がなされた。

他の国のビデオテクノロジーカンファレンスらと足並みを揃える意味で、日本では馴染みが薄いかもしれないが、ベストな選択肢であろう。

もうひとつ、情報発信用の Medium 公式アカウント(https://medium.com/@tokyovideotech)の紹介があった。

この Opening remark は今後 Tokyo Video Tech が#2, #3 と続いてゆくなかでも、きっと毎回触れられながら、Tokyo Vieo Tech の活動の意味や、根底で繋がっている他の国に思いを馳せる時間となるのだろう。

# ビーチを目の前に最先端の動画ソリューションや製品が集まる、STREAMING MEDIA WEST 2018

次の登壇はフォアキャスト・コミュニケーションズの中塚 貴裕さん。

「STREAMING MEDIA WEST 2018へ行ってきました」と題して、同イベントの参加レポートが、数々の写真や技術情報と共に紹介された。

STREAMING MEDIA WEST は、ニューヨークで開催される EAST とのペアカンファレンス。2005年から開催されている歴史のあるイベントで、出展企業には、Disney, Google, Facebook, Amazon, Hulu, Netflix, Adobe, Intel, NASA.. 名だたる企業が並ぶ。

2018年は11/12, 13, 14の三日間で開催され、参加者数は1,000人、スピーカーが約100人、展示40ソリューション。日本であれば中規模以上の技術カンファレンスだが、中塚さん曰く「結構こじんまりとしたイベント」とのこと。

場所はビーチの目の前のリゾートホテルで行われ、これぞLAというような、素晴らしい気候が中塚氏の紹介写真から見て取れた。

STREAMING MEDIA WEST はストリーミングサービス事業者、配信のエンジニア、ストリーミングに特化した機器メーカーが多く、技術的な話を事例紹介と合わせて行うセッションがほとんどであるとのこと。

今回の中塚氏の参加目的は二つ。「海外の動画配信事情を知る」そして、「新しい動画配信ソリューションや製品の情報を仕入れる」というもの。特に後者は、今現在日本において、良質な情報共有の場が見あたらない。となると、参加すべき価値があるだろう。

中塚さんは参加したワークショップやキーノートでのポイントを、スライドを交えて紹介。筆者はビデオストリーミングについての機材については門外漢だが、中塚氏が紹介していた機材や構成、エンコーダー、クラウドエンコーダー、コーデックといった技術要素を咀嚼しつつ、どのワークショップも、随分と包み隠さず手の内を披露しているな、という印象を持った。

中塚さんの「これはよく知っていて普段馴染みがある」「自分が普段ライブ配信に採用している構成とそう変わらない」あるいは「このRTMPエンコーダーは、GUI上でスケジューリングできるユニークな機能があって」といった解説を、会場の参加者は夢中で聞いているようであった。

中塚さんは、二日目のキーノートスピーカーだった Sling TVのWarren Schlichting氏の言葉を引用しながら「アメリカではいま、8,700万の伝統的なTV放送を視聴しているユーザーがいて、700万人のストリーミングTV視聴者がいるという。このシェアはいずれ逆転されてゆくだろう」という。

確かに今後、そう遠く無い未来に実現される可能性があると感じる。そのような未来においては、STREAMING MEDIA WESTをはじめとした世界の最先端のビデオストリーミング技術、テクニック、ビジネスモデルについて、深い洞察と知識が必要とされてゆくだろう。

# オンラインビデオエンジニアの祭典 — Demuxed

二人目の登壇者はフォアキャスト・コミュニケーションズのチーフマネージングディレクター金沢 広峰さん。本イベントの共同オーガナイザーでもあり、普段はオンラインビデオプラットフォームのdevチームを担当している。

Unite the DEMUXEDと題し、サンフランシスコで行われた Demuxed への参加レポートが、中塚さん同様沢山の写真とともに披露された。

Demuxed をはじめて知る参加者も多かったのではないだろうか。

金沢さんは、Demuxed のアイデンティティは 「The conference for video engineers 、つまりビデオエンジニアのためのカンファレンス」だと紹介した。

「エンコーディングから再生まで、あらゆるものを網羅して扱う世界有数のカンファレンスであり、ここまでビデオストリーミングに特化したカンファレンスはなかなかない」という。

初回は2015年にはじまり、当時はスピーカー9名、参加者128名、スポンサーは二社だったDemuxedは、1年に一度、毎年10月頃に開催され、今回は2018年10月17日、18日の二日間に渡って開催された。

Demuxed への共感は年々高まり、世界各地のvideo tech meetupメンバーがSFに集結。今や、31人のスピーカー、参加者515名、スポンサー17社と、飛躍的に成長している。

金沢さんはこの第四回目の Demuxed へ単独参加。見る限り「日本人はおらず、アジア人もいなかったのでは」とのこと。

なお、Demuxedの発祥起源は、冒頭に林さんからも紹介があった SF Video Technologyにある。QoEベンダーのMux社が中心となり立ち上がったこのmeet up 、`SF Video Technology` については、1,300人が参加するコミュニティとなっており、今も毎月一度のペースでmeet upが開催されているという。

さて、今回の Demuxed 開催会場は、先鋭的なコワーキングスペースである、BESPOKE COWORKING。

BESPOKE COWORKINGについてご存じ無い方は、ぜひ紹介ビデオ<https://vimeo.com/229786353/>もご覧頂きたい。東京にも数々のコワーキングスペースや、WeWork のようなシェア型オフィスが増えているが、BESPOKE COWORKING はそのコンセプト、デザイン性から、一歩先を行っていて、とても魅力的な環境と感じる。

金沢さんは、Demuxedへの参加動機(なんと今回、自費で行ったという!)を、「製品のPRなどがなく、エンジニアが学んだ技術を紹介する場であること」であり、特に次の点を強調した。

一つ目が、スピーカーが立候補後、運営が内容を評価・選定のうえ、登壇が許されるというシステム。これなら、参加した時間が有意義な時間になるであろうことは間違いない。

二つ目は、スピーチスロットを販売しない方針。PRセッションが一切無いため、求めていない製品の宣伝を聞く必要が無いのだ。

三つ目に、参加者の情報は販売されないこと。これはスポンサーも含めてだという。よくある、イベント参加後の製品PRメールや求人メール・・・そういったものが届かない。

四つ目に、過去に参加した様々な映像・配信カンファレンス・イベントでは、放送や機材の話題がメインテーマのため、知っている情報が多く、有益性が乏しい。一方Demuxedのようにオンライビデオをメインにしたものはなく、非常に有益であること。

そして最後に、有名OTT企業やベンダーがオンラインビデオテクノロジーについて直接話が聞けるまたとない機会である、と挙げた。

オンラインビデオテクノロジーに限らず、ここまでソリッドで純粋な技術カンファレンスやmeet up自体、なかなか国内では見かけない。Demuxed のようなスタンスのカンファレンスが、多くの技術者を惹きつけ、拡大を続けている点には注目すべきだろう。

この後金沢さんは、FIFA World Cup 2018のUHD配信を行ったFubo.tvをピックアップし、セッションの内容を紹介した。

AWS構成、vendor の選定の基準、Encoding Specs の紹介といった、普通であれば、社外秘・非開示にしそうな情報もオープンにシェアされたという。

更に、どんなissueがあったかの具体例や、リニア配信におけるモニタリングソリューションを、具体的な製品名も挙げながら紹介された。更には、FIFA World Cup 2018における、エンドユーザーのデバイスや視聴時間帯のstats, usageまでシェアされていた。

最後に金沢さんは「Demuxedについては、過去会のライブ動画アーカイブも公開・配信されているため、是非見て頂きたい」と締めくくった。

Demuxed archives: <https://www.youtube.com/channel/UCIc_DkRxo9UgUSTvWVNCmpA/feed>

質疑応答では、金沢さんに対してHDRの特徴・メリットについての質問、4K配信時に確保すべき帯域についての質問とアドバイスが行われ、続きは懇親会で・・・とまとまった。

# オンラインストリーミングと海賊行為の終わりなき闘い

最後の登壇者は株式会社SPARROWSの酒井 克幸さん。

SportsPro OTT SUMMITに参加してきました〜スポーツ放送の海賊行為の最前線〜 と題して、なかなか普段聞けない、オンラインストリーミングの裏側にある犯罪行為とその対策について触れる、実益あるレポートだった。

酒井さん曰く、「スポーツファンとデジタル配信は相性がいい」という。

なぜかというと、TVだと人気スポーツを流しておく、であったり、決勝戦だけを放映するということになりがちな一方、デジタル/オンデマンドであれば、気に入っているチームを予選から追うこともできるからだ。

事実、一例としては2014年のソチ五輪でデジタル配信でのカバレッジが6万時間を超え、テレビの4.2万時間を超えた。更に2016年のリオ五輪ではデジタルカバレッジは2012年のロンドン五輪から一気に2.5倍伸びて、21.8万時間にもなっているという。

SportsPro OTT SUMMIT主催のSportsPro社は、2008年設立のイギリスのメディア企業。

主催イベントは5本立てで、スポーツ配信の技術者向けやスポーツイベントのスポンサー向けなどテーマ別に分かれているが、酒井さんはそのなかでも、スペインのマドリッドで開催されたスポーツ配信のビジネスサイド向けのイベント「Sports Pro OTT」に、2018年11月28日と29日に参加。

今年は昨年の倍となる600名が参加しており、のべ32セッションがあったが、そのうち4セッションが海賊行為に関するセッションであったとのことで、関係者の注目度の高さが伺える。

はじめに酒井さんからは「なぜ人はPiracyをするのか」という本質的な課題提起がなされた。

これには視聴者側とPiracy事業者それぞれに理由があるという。

視聴者は「見たい番組を見たい」「お金払いたくない」といった理由。

一方のPiracy事業者は権利者に権利料も払わず、制作費も掛からないため「とにかく儲かる」からだ。

Piracyにも歴史の変遷があり、昔はB-CASのハッキング・偽造だったが、今はサッカースタジアム内からスマホで、Facebook LiveやYoutube Live へ勝手に中継をしたり、高画質TVを撮影して再送、PC上のスクリーンキャプチャを再送するといったやり方が主流になっているという。

実際に、スペインのリーガ・エスパニョーラの勝手アプリは市場に1,000個も出回っているとのこと。

酒井さんが「権利者側の対抗策としては次がある」と切り出すと、ペンを持つ聴講者が目立った。

対抗策の一つ目はDRM。加入している正規のユーザーだけに復号鍵を渡すやり方だ。これが今までのB-CASカードの代わりとなる。DRMによっては外部出力を禁止したり、スクリーンキャプチャを検出して配信を止めることも出来るという。

二つ目がウォーターマーク。生の映像の上に局のロゴを載せるといったベーシックなやり方から、映像に独自の模様をオーバーレイし、その模様を契約者のIDを表現。違法配信者を特定したり、配信された総量からの被害額算定も可能になるという。

ウォーターマークには主に三つの手法があり、ひとつめがサーバー・CDN側で埋める方法。もっとも改変しづらいが、インフラ準備コストは掛かるためなかなか使われない手法だ。二つ目がウォータマークを二種類用意しておいて、その二種類の切り替えパターンで契約者のIDを特定する方法。この方法だと、IDの特定に比較的時間が掛かってしまうことや、Piracy事業者によってストリームをまぜてパターンを変えられてしまうことがある三つ目がクライアント側でウォーターマークをオーバーレイする方法。クライアントまではウォーターマークがのっていない信号が来ているため、マニフェストやクライアントが堅固に作られていないと、回避されてしまうという。

大規模なPiracyの実例としては「国対国のレベルにまでなっている」と酒井さんは言う。

実際、カタールにある正規のスポーツ放送専門局beINのコンテンツを、カタールと仲の悪い隣国サウジアラビアやUAEらが共謀して設立したとされるbeoutQ上で海賊版配信するといったことが行われている。

Piracyによるデジタル配信はIPベースなのでインターネットにさえ繋がればどこでも視聴出来てしまう。また、スポーツは映画やドラマと比べて言語の壁も薄いため、対象になりがちだという。納得出来るところがある。

事態を更にひどくしているのが、Piracy事業者が販売しているセットトップボックスの非力なプロテクションをかいくぐって、更に別のPiracy事業者によってPiracy行為が行われる、といったハイエナのようなやり口だ。

こういったPiracy行為の追跡については、一般的には、ウォーターマークから契約者IDで特定するものがベーシックだが、ハイテク犯罪・組織的犯罪であったり、国をまたいだ時に、組織によるリモートでの証拠隠滅行為などより手口が巧妙化している実態があるという。

こぼれ話として、beoutQがPiracy事業者を特定した時は、beoutQが採用しているCDNの支払い履歴中に、Piracy事業者のCEO名を見つけたことで特定できたり、STBのソフトウェアと通信パケットをリバースエンジニアリングして、コード内から開発に関わった関連事業者を特定したケースがあったとのこと。

beoutQの過去の対応の歴史からみても、組織的にPiracy行為をされると、対応・特定に非常に時間もかかるのが実状だ。

酒井さんからはまとめとして、「Piracyは個人がやっているお手軽なものから、組織的・大規模なものまで様々」「配信側はウォーターマークをはじめとした対抗措置に工夫を凝らしているが、組織的なPrimacy行為に対抗するには時間も手間もかかる」として、スポーツ配信ビジネスの裏側にある課題を締めくくった。

最後に

Tokyo Video Tech #1 Unite the world はその後、スタンディングでの bash へと移り、登壇者や参加者らが、普段なかなか深く語ることのできないオンラインビデオテクノロジーについて、語り合いが続いた。

産声をあげばかりの Tokyo Video Tech だが、筆者の印象としては、他の国の Video Tech meet up のように、オンラインビデオテクノロジーに関わるエンジニアや関係者を繋ぎ、お互いを高め合う機会として定着してゆきそうだなと感じた。

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