VDD 2023 Dublin レポート

Takesato Hayashi
Tokyo Video Tech
Published in
11 min readOct 3, 2023

Reported by Takesato Hayashi

9月22日、23日、24日の三日間にわたり、アイルランドのダブリンでVideoLAN主催のテクニカルカンファレンスVideo Dev Days 2023 Dublin(以下VDD 2023 Dublin)が開催されました。今回、2023年のホストはThe Sigmedia Group at Trinity College Dublin School of Engineeringです。VDD 2019 Tokyoから4年の中断期間を経て開催となりました。前回のホストは東京で、Tokyo Video Techの私はサポート側でした。そのため、今回が初めてのVDDへの参加となります。「世界のマルチメディアを支えているメンバーが集まるカンファレンスVDD」とはどんな感じなのか? をお伝えします。

# 今回の開催場所:アイルランド

私の参加は開催1ヶ月前に決まり、事前の準備や情報収集があまりできないまま旅立ちました。フライトは羽田(HND)から、パリ(CDG)を経由してダブリン空港(DUB)へ。羽田からパリまではエールフランスによるベーリング海上空、グリーンランド上空、UK上空を飛ぶルートで14時間45分、パリからダブリンまでは1時間45分、合計所要時間は途中のトランジット時間も含めて21時間40分でした。(ちなみに帰りのダブリン→羽田は15時間55分)

# 初めてのゲール語

ダブリン空港に到着した際、最初に目に入ったのは初めて見る言葉のサイン。これは後で他の参加者から教えてもらったのですが「ゲール語」というアイルランドの公用語でした。ゲール語はアイルランドの日常で使われる英語とは異なり、ケルト語の系統の言語とのこと。アイルランドで日常で広く使われているのは英語のため、旅行者が意識する機会は空港などに限られます。英語が普及しているため、ゲール語の利用を増やそうと試みているようですが復興はなかなか進んでいないとのことでしたが、こうして公共の場で使われているのはいいですね。

# 通貨とクレジットカード

通貨はユーロが使われています。クレジットカードはタクシーからパブまでVisaのタッチ決済が可能なので、旅行中に現金が必要になったのは飲み物を自動販売機で購入する時のみでした。(クレジットカードが使える自動販売機もあります)

猛暑日が続く日本からの参加だったので、ダブリンの気候はすでに秋になっているとは知っていましたが、寒さ対策がイマイチだった私は翌日から重ね着を強いられることになります。街中ではダウンジャケットを着ている人、マフラーをしている人がいました。

Day 1: Community Day in Dublin on 9/22

初日は、前回のVDD 2019 Tokyoでも好評だった、参加者がグループに分かれて開催地(ダブリン)の街でトレジャーハントを楽しむCommunity Day。オープンソースプロジェクトは、常にメールなどのオンラインコミュニケーションを中心に活動が行われていますが、これはメンバー同士が実際に会って話すユニークなアクティビティ。グループはディスカッションを行い、複数のミッション解決に向けて協力します。初対面でもメンバー同士のコミュニケーションを活性化でき、Dublinの街を知ると同時に良い運動になります。

朝9時、全員がホテルのロビーに集合。VideoLANのPresidentであるJean-Baptiste Kempfがルールを説明し、マップが配布されます。その場で各グループが作られ、VLC media playerのアイコンであるオレンジと白のコーンの帽子をかぶったら出発です。

今回はトータル17のミッションがあり、ミッション遂行にはダブリンの広範囲を散策する必要があります。ちなみに私のこの日の歩数は27,153歩で、移動距離は9.11キロメートルでした。終了時にはメンバーは疲れ果てていました。まぁ、そうですよね。。。

途中、“Escape Boat”というボートから脱出するゲームがサプライズで用意されており、初めて会うメンバーでもたくさんいろんな話ができ、メンバーの特徴などをお互いが知り、仲良くなるいい機会となりました。ミッションの内容はネタバレになるので、ここには書きませんが、前回の東京同様でとっても難しかったことだけは追記しておきます。jb曰く、次回はもっと難しくするとのこと。

たくさん街を歩いた後の夕方は、アイルランドのビュリューワリーによるアイリッシュバーBrewDog Dublin Outpost<https://www.brewdog.com/uk/outpostdublin>に集合。翌日からのカンファレンスに備えます。

Day 2: VDD 2023 in Dublin at Trinity College on 9/23

今日から二日間のカンファレンスが始まります。会場となっているトリニティカレッジへは、参加者が迷わないように、朝8時半にホテルのロビーに集合してから出発しました。土曜日の朝の街やキャンパスは非常に静かで、コーンハットをかぶった一団が会場を目指して行進します。受付を済ませて参加者バッジを受け取り、J M Synge Theatreの会場に入ります。

午前中のセッションは、今回の主催者であるJean-Baptiste Kempfからのオープニングトーク、続いてホストであるTrinity CollegeのSigmedia<https://sigmedia.github.io/>の紹介が行われました。
興味深かったのがアイルランドで一番古く撮影されたビデオを修復するデモムービー。今から20年前に複数のアルゴリズムを使い、オートマチックにビデオのノイズを除去する仕組みを開発したそうです。これらの研究が後にMatrixなどの映画やVLC Media Player、Netflix、YouTubeなどで使用されることになったとのこと。Sigmediaがマルチメディアの分野で重要な役割を果たしているとが紹介されました。その後、Anton KhirnovによるFFMPEG CLI multithreading、Christophe GisquetによるWebEXのスクリーンキャプチャーにAV1を用いたWeb会議システムの実装事例紹介、Remi Denis-CourmontによるRISC-Vについてのセッション、Nicolas PomepuyによるVLC for Android、Ronald Bultjeによるdav1d<https://code.videolan.org/videolan/dav1d>の解説が行われました。

午後は、Unconferenceとして、VLC Media Player、FFMPEG、dav1dの開発ミーティングがそれぞれ開催されました。私はVLC Media Playerのミーティングに参加しました。ミーティングの進行スタイルは、最初に参加者が話したいトピックを提案し、それについて順番に議論する形です。ミーティングでは、次々に意見が交わされ、OpenSourceコミュニティでの議論の自由さと個人のアイディアが尊重されているのを感じました。

# VideoLAN community dinner

18時過ぎまでミーティングした後、カンファレンス初日の夜は、待望のVideoLAN community dinnerが行われました。ダブリンの中心部にあるリフィー川沿いのバー「The Merchant’s Arch<https://www.merchantsarch.ie/>」で、テレビで放送されているRugby World Cup 2023を観戦しながら、アイルランド料理(Shepherd’s Pie, Sticky Toffee Pudding)とアイルランドビール(GUINNESS, Hop House 13 Lager)を、80名以上の参加者全員が一同に会し楽しみました。

Day 3: VDD 2023 in Dublin at Trinity College on 9/24

最終日は9時半スタートで、2つのClever talkから始まります。Martin StorsjöによるLLVMコードベースのオープンソースのWindows用のツールチェーンLLVM-MinGW<https://github.com/mstorsjo/llvm-mingw>の解説。続いてMark ShwartzmanはMetaにおけるFFMPEGの利用事例を紹介しました。彼によると近々リプレースするようですが、内部でFLVがデータソースとして使われているとのこと。久しぶりにその名前を聞きました。懐かしいですねぇ〜。

さて、その後はLightening Talk。5分から10分の持ち時間の中で、さまざまなトピックスが紹介されました。私は最後のスロットをいただいて、VDD 2019に来てくれたことへの感謝とTokyo Teamが楽しんでホストしていたこと、また機会があればホストしたいことを伝えました。そして、「Tokyoに来ることがあったり、Tokyo Video Techで話したいと思ったら連絡して! 」と。
VLC, x264, x265, dav1d, FFMPEGの人達と話していると「東京はとっても楽しかった。」と一様に言っていました。
今回ダブリンに来てよかったと思うのは、VDD 2019 Tokyoが優秀で経験豊富、献身的なスタッフに恵まれたこと、スポンサーのIIJ, J-Stream, ABEMA, MUX, Mozilla, Videolabs, YouTube, Forecast Communicationsの協力があって初めて実現できた素晴らしいカンファレンスだった、と改めて実感できたことでした。尽力してくれた多くの方に、改めてお礼を申し上げます。

今回VDD 2023 Dublinを開催してくれたVideoLANのJean-Baptiste Kempfと声をかけてくれたFrançois Cartegnie、VideoLANのみなさん。ホストしてくれたTrinity College DublinやSigmedia、Vibhoothiに感謝しています。たくさんの刺激と出会い、貴重な経験、素晴らしいVDDをありがとうございました。

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