地域をよくしたいという信念から成る「ナイツ財団」とは?

アメリカのフロリダ州に拠点を置くナイツ財団は、3000億円の資金をかかえる、ジャーナリズムの分野で最大規模の慈善団体だ。近年は、シビックテック(テクノロジーを使って社会事業を推進する取り組み)や、データジャーナリズム(ビックデータやオープンデータ解析を取り入れた報道)といった新しい業種へ活動範囲を広げ、注目を集めている。

地域をよくする「アイデア」に寄付

ナイツ財団は、学費の支払いに苦しむ大学生の経済的援助に励んだ父親の奉仕精神を引きついだ、二人の兄弟によって設立された団体。ジャーナリズム、アートそしてコミュニティをよくする「アイデア」への寄付と、それらを通じた民主主義の拡大を目指し活動している。

ナイツ財団のはじまり — 奉仕家の父親の思い受け継いだ兄弟

右:ジョン・ナイツ 左:ジェームズ・ナイツ/ 写真: ナイツ財団公式サイト

チャールズ・ナイツ(1867–1933)は、新聞編集者、共和党議員、州知事を経て新聞社の経営者となった。さらに、地域をよくしたいという強い思いから、オハイオ州アクロン市の大学生たちに学費の援助をする奉仕家でもあった。チャールズの死後、息子のジョンとジェームス・ナイツは、父の奉仕精神に敬意を表して、1940年にナイツ・メモリアル教育基金(ナイツ財団の前身)を設立。父とおなじく、学費支払いに苦しむ大学生たちを援助した。1950年に同基金が現在のナイツ財団となり、活動範囲をコミュニティ開発やアート、ジャーナリズムへと広げた。

近年のナイツ財団の活動

冒頭で述べた通り、現在ナイツ財団は、アメリカ最大規模の慈善団体である。過去50年間で400億円をジャーナリズム関連に奉仕してきた。さらにその寄付金のうち、半分の200億円は過去10年間で集めたものであり、財団の近年の著しい成長がみてとれる。しかし注目すべきなのは、経済的影響力だけではなく、「社会の変化を読み取るスピード力」や「その変化を受け入れる柔軟性」なのかもしれない。

ナイツ財団は、過去5年間で寄付先を大幅に見直した。新しいテクノロジーや増え続けるビックデータがコミュニティにもたらすプラスの効果にいち早く注目し、シビックテックやデータジャーナリズムといった発展途中の業界をターゲットとしたプロジェクトを新しくスタートさせた。

Tech for Engagement」(シビックテック向けのプロジェクト)

シビックテック市場のめまぐるしい成長を表したインフォグラフィック: 「$6.4 Billion to be Spent on Civic Tech in 2015, Report Says」by Government technology

IDC Goverment InsightsAccelaが発表したレポートによると、2013年から2018年の間で、シビックテック市場の成長は従来のIT市場と比べて14倍のスピードで拡大していると伝えている。Governmet technologyは、その成長の中核を担っているのはナイツ財団のシビックテック市場への積極的な取り組みだと評価。寄付を通して、シビックテックのような発展途中の業界の普及に努めている。

Government technologyから評価された取り組みのうちの一つは、2010年にスタートした「 Tech for Engagement」である。「Tech for Engagement」では「テクノロジーで民主主義を変革する」をかかげ、2500万ドルを約50ものプロジェクト(フォーラム:Front Porch Forumや団体:neighbor.ly/ Code for America)に寄付し、シビックテックの普及に貢献している。

ナイツ・プロトタイプファンド」(技術者やスタートアップ向けのファンド)

2012年にナイツ・プロトタイプファンドを確立させ、メディア関係者、技術者やスタートアップなどの、6ヶ月間のリサーチやデモンストレーションテストをサポート。2015年11月には新たにプロトタイプファンドから20の団体に35,000ドル(各団体)が寄付された。

ニューヨーク大学院のthe Center for Urban Science and Progress はこのプロトタイプファンドを受けとった団体のひとつで、低コストセンサーとデータプラットフォームを使った地面のでこぼこを測定する装置( Street Quality Identification Device (SQUID)を開発している。さらに、そのデータを可視化し、ニューヨーク市内の道路メンテナンスの現状把握やその政策決定に役立つDOT Mapを作成。現在この装置とマップは、ニューヨーク市運輸省に使用され、政府の道路メンテナンス事業の透明化を図っている。

The Knight News Challenge on Data(データジャーナリズム向けのファンド)

イメージ: ナイツ財団公式ホームページ

2015年9月に新しくつくられたThe Knight News Challenge on Dataは、「Data & Society」(データの関わる科学技術による倫理的問題を取り扱う研究所)と「Open Society」(オープンガバメントを促進する団体)とのコラボレーション企画。「Data for good」をスローガンに掲げ、データを使用し民主主義を促すことを目的としたプロジェクトである。

「どのように個人やコミュニティのためになるデータワークを作れるか?」という題で、ジャーナリスト、メディア団体、NPO, 市民ハッカーや政府を中心にアイディアを募集し、受賞者への寄付金は3万ドル(300万円)とした。データの分析、収集、解釈、プレゼンテーションそしてシェアの機会を提供し、情報の透明化をしつつ、プライバシーやセキュリティ面を向上させ、ジャーナリズムとストーリーテリングの質やテクニックを高めることを目的としている。

揺るがない信念を軸に、新しいことにチャレンジ

今もなお「地域をよくしたい」というチャールズ・ナイツの信念を軸に、社会の変化に対応する柔軟性をもって、最善なアプローチを幅広い視野で模索しつづけるナイツ財団は、あたらしい財団のあり方を体現してくれているように思える。日本の財団や社会をよくするための支援団体にとって、学ぶべきものはあるのではないだろうか。

現在のナイツ財団に至るまでの経緯については、次の記事で詳しく見ていく。