市民発による持続可能な共同体に向けて:第一回シビックエコノミーフォームを開催しました

江口晋太朗 | SHINTARO Eguchi
TOKYObeta Journal
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18 min readOct 25, 2018

一般社団法人地域デザイン学会と、TOKYObetaが企画する第一回「シビックエコノミーフォーラム」を7月8日に開催した。

本フォーラム立ち上げのきっかけは、私が執筆した『日本のシビックエコノミー』でいくつもの事例として取材をしたように、市民活動を通じてさまざまな人たちが資源や能力をシェアし、助け合うことによって地域の持続可能な経済の仕組みをつくりあげていく活動が注目されている。そうした活動は昨日今日始まったものではなく、様々な形を変えてこれまで取り組まれていた。

こうした動きは時代の流れにも大きく関係している。経済成長の低迷、東日本大震災などの災害をきっかけに、公助や自助のみならず、共助の関係や、成熟した社会における新たなつながりをもとに、豊かな生活を求める人々がいること、そこに対して、新たな価値観が生まれようとしている。地域コミュニティの醸成と一言で言っても、都市型と地方や農村型によってあり方は様々であり、一様にすべてを語ることはできない。しかし、それぞれの地域、コミュニティなりの持続可能なあり方があるはずである。そこには、貨幣経済のみならず、社会関係資本の形成を通じた、多様で持続可能なあり方を求める動きもある。

これらの考え方をもとに地域デザインの理論を構築していくため、一般社団法人地域デザイン学会とともに、シビックエコノミーに関する理論や実践をもとにした多角的な議論を行うフォーラムを企画することとなった。シビックエコノミーが掲げる市民活動を通じた新たなシェアのあり方や、社会関係資本を通じた持続可能な地域のあり方を模索する実践者や研究者の事例発表などを行い、フォーラムを通じて、産官学民の連携を図りながら、多様な地域に関わる人たちとともに、これからの地域社会の未来について議論・実践していく場としていく。

第一回目では、飛騨高山市にてFinTechによる電子地域通貨「さるぼぼコイン」を運営する飛騨信用組合の常勤理事である古里圭史氏、世田谷コミュニティ財団を中心に新しい資金循環を生み出し地域の課題解決を市民の力で実現していく一般社団法人世田谷コミュニティ財団代表理事の水谷衣里氏、閉館した映画館を再建し、映画館を利用した新しい場作りに取り組む、豊岡劇場代表の石橋秀彦氏をゲストにお招きし、それぞれの取り組みや活動背景などをプレゼンいただいた。後半では、ゲストとともに、江口がモデレーターとして、トークセッションを行うという形をとった。

ひだしんが取り組む、地域金融機関としてのこれからのあり方

岐阜県飛騨高山市にある飛騨信用組合(以下、ひだしん)。信用組合とは、地域や業種を限定し、組合員らによる預金をもとに運用する協同組織金融機関であり、出資者は組織の構成員であると同時に顧客であり、同時に、地域住民ということになる。

出資者と構成員や顧客が違うメガバンクとは違う。飛騨信用組合は、高山市、飛騨市、白川村をあわせた約11万人の人口を営業エリアとするもので、そうした意味では地域と共存共栄をしていく金融機関であるといえる。

こうしたなか、ひだしんは、組合の成長、地域と共有できる価値創造のための経営に乗り出した。そのコンセプトは、「街のコンシェルジュ」を柱に、いくつものプロジェクトを立ち上げてきた。

大きな方向性は「育てる金融」だ。事業者の事業立ち上げ初期から成長し安定経営に入るまでの、事業成長の様々なフェーズに対して金融ができる取り組みもいくつも展開していくというものだ。

事業立ち上げ初期に支援するクラウドファンディングサイトFAAVOは、ひだしんが直接運営をしている。これまでに41プロジェクトを支援し、1600万円以上の資金調達、2000人以上の支援者のネットワークを作ってきた。金融機関からすると金額として少額かもしれないが、クラウドファンディングを通じて飛騨高山に関わる人たちが増え、同時に、資金難で動けなかった人たちが新しい動きを立ち上げ、地域と地域外に住む人達が結びつくことで連鎖的に地域プロジェクトが立ち上がっていくという。スタートアップや個人事業など、様々人たちの資金支援のみならず、多様な関係者を巻き込む、PR的手法の位置づけであるといえる。

地域活性化ファンド「結ファンド」では、出資や社債引受等を行い、投資先事業者が行なう成長を支援するために設立したファンドだ。ファンドの管理運営のため、ひだしんの100%子会社としてキャピタル会社を設立。金融機関がこれまで持っていた通常の金融機能に加え、資本性の資金を拠出する仕組みを用意している。結ファンドでは、ひだしんのみならず全国信用協同組合連合会や地域経済活性化支援機構のREVICキャピタルなども出資を行っている。第一号ファンドでは、新たな地域特産品として「飛騨とらふぐ」の養殖設備投資や、まちなかの屋台村「でこなる横丁」の資金支援などいくつもの支援先に対して投資を行った。引き続き二号ファンドも設立。二号ファンドではルネッサンスグループのルネッサンスキャピタルからも出資を受けている。

2017年12月に、ひだしんがリリースしたのが地域通貨の電子化事業「さるぼぼコイン」だ。フィンテックに対応するかという組合経営としての課題や、電子決済、クレカ決済インフラの低普及率などによる域内経済といった課題を解決する一つとして事業をスタートさせた。

もともと、ひだしんでは「さるぼぼ倶楽部」という事業を2012年から行っていた。さるぼぼ倶楽部は、倶楽部会員が加盟店に会員証を提示することで各種サービスが受けられ、加盟店の販売促進につなげるというもの。倶楽部会員には加盟店で利用できる割引券を配布し、加盟店カタログの作成など情報発信も行っていた。このさるぼぼ倶楽部を発展する形で生まれたのがさるぼぼコインだ。

さるぼぼコインは、スマホ利用による静的QRコード決済ツールによる電子決済ツールだ。ユーザーは事前にコインに現金をチャージし、店頭でスマホアプリでQRコードをかざすだけで決済可能となる。地域内住民は、組合口座と紐付けすることで、利便性の高い決済ツールとしても使える。また、加盟店同士では、コインによる資金流通も可能だ。

地域金融機関が、こうした地域密着型の決済ツールを提供することで、域内経済が循環するだけでなく、地域金融機関としても組合経営として手数料ビジネスだけではない新しい顧客接点を生み出している。2018年6月30日時点で、加盟店数734店舗、ユーザー数4400、コイン販売額は2.9億円と、好調な出だしだ。

こうしたツールが普及することで、地域内の消費動向をデータとして把握することができ、また、地方における電子決済の決済体験を普及させることで、キャッシュレスの普及の下地も作ることができる。また、組合としては新規口座開設を誘発し、新規事業者との接点も作りやすい。

今後は、ユーザー数の増加だけでなく、BtoB決済での資金流通の送信や、アプリやシステムとしての機能改善、機能拡充、行政サービスの連携(例えば住民税などの税金の支払いを行なう等)など、様々な展開を見据えている。

こうした、地域金融機関が域内経済を活性化させるために、一プレイヤーとして主体的に地域経済や地域の課題解決に乗り出していくことが、新たな地域金融機関として求められている役割だと古里氏は話す。

地域の担い手を生み出す仕組みづくりを目指すコミュニティ財団とは

続いて登壇したのは、一般社団法人世田谷コミュニティ財団代表理事の水谷氏だ。

そもそも、コミュニティ財団とはなにか。コミュニティ財団とは「コミュニティが抱える課題解決とコミュニティの価値創造のための財団」。つまり、特定の地理的なコミュニティの内部にある課題に対して、公益追求をもとにした活動を行う団体である。主な機能としては法人や個人などの寄付者から集めた寄付をもとに、民間の公益活動法人に対して、様々な支援や助成を行っている。

テーマを特定して、複数の寄付を集める基金を設置・運用し、資金提供者の意思を尊重しながら地域の課題に向けた資金提供や支援を行なう。地域の課題に対して包括的な視点をもとに、必要な事業や支援を行なうことを大切にしており、またコミュニティに立脚した団体のため、支援におけるカテゴリーは様々で、環境問題や子育て支援・教育の問題、マイノリティのサポートなど、幅広いテーマに取り組んでいる。

コミュニティ財団の始まりは約100年前。1914年にアメリカ・クリーブランド州で設立された「クリーブランド財団」だと言われている。すでにアメリカ国内では700以上もの財団、世界でも1700以上の財団があると言われている。 日本でも、コミュニティ財団の設立が少しづつ生まれている。その背景はNPOやソーシャルビジネスなども盛り上がりとともに、地域や街を支える担い手に対して、お金や、知恵、人のつながりをもとに支える仕組みや、まちをより良いものにしていこうとする動きに少しでも参加したいと思う人たちの受け皿となる仕組みとして注目されているのではないだろうか。

自身の住むまちに対して主体的に関わり、地域の人たちとの出会いとつながりを作ることで、結果として自身の人生や生活を豊かにしていく。そうした思いを持った人が増えている現代において、コミュニティ財団というあり方と、コミュニティ財団を通じて地域との関わりを作るあり方が求められている。

世田谷コミュニティ財団は、25名の設立発起人が1口10万円を出して準備会を設立し、半年で400名を超える人たちから合計で700万円以上の寄付を集め、2018年春に財団を設立させた。しかし、設立までには様々な歴史があったという。

ことのはじまりは2013年。コミュニティ財団設立に向けた議論が有志らによって始まる。しかし、議論したからといってすぐに設立できるわけではない。その地域で必要な理由、設立によって、どのような地域のあり方にするべきかというビジョンや方向性を詰めていかなければ意味がない。そこで、2014年に公益信託世田谷まちづくりファンド内に伴走支援型助成プログラム(キラ星応援コミュニティ部門)を設置。プロボノによる支援を開始した。

1992年に設立した公益信託世田谷まちづくりファンドは、三井住友信託銀行が事務局としながら、区民と民間企業らの寄付を集め、行政の運営支援などをもとに、地域のまちづくりの活動を対して助成活動を行ってきた。まちづくりに関する様々な部門が中にはあり、地道なコミュニティ支援を重ねてきたファンドである。

そのファンド内に設立したキラ星部門の準備立ち上げからボランティアで運営を重ねていった。助成先に対して活動の成長を後押しし、かつ2年を前提とした複数年助成による伴走型支援は、これまでのファンドの活動とは違ったものであった。そのさきには、コミュニティ財団における運用をイメージしながら、新たなまちづくり、コミュニティ支援のための様々なナレッジの蓄積や、ロールモデルとなる地域の活動を作り上げる種まきであるともいえる。 次第に財団設立の本格的な検討がはじまっていく。2016年夏には、キラ星の成果を踏まえ、数人で財団設立の本格検討を始め、2016年冬にはコミュニティ財団設立に向けた本格的な企画案を作成、準備会を発足し、12人の呼びかけ人が中心となり、25人の発起人を集めるに至った。

これまでにいくつものコミュニティ財団が設立されたが、東京でのコミュニティ財団は初である。公益信託世田谷まちづくりファンドでの蓄積をもとにしながら、東京という場所ならではのコミュニティ財団を作るということから、より社会に対して発信や影響力を持ったものにしていこうという考えがあるという。そこには、寄付を集めて助成するプログラムのみならず、支援先の組織基盤づくりや、課題を発掘し、解決策を共に練り上げたり、地域のビジョンを作り上げ、ビジョンに対して投資を行い、最終的には公的資金や民間資金、慈善資金などを集めて社会課題に取り組むブレンドファイナンスの仕掛け人を見据えている。より地域に対して主体的に関わりながら、地域の課題解決に向けた仕組みづくりを主軸にしていこうという発想だ。

そのためにも、助成プログラムのみならず、地域の様々な人たちがプロボノやボランティアとして関わるためのコミュニティづくりや仕掛けが求められる。もちろん、組織としての会員基盤や社会情勢と連動した情報発信なども充実させていかなくてはいけない。例えば、先の平成30年7月豪雨を受けて、支援寄付基金を設立するという動きも出てきた。今後は、こうした基金を設立するのみならず、世田谷というエリアにおける防災や減災に向けたネットワークづくりにも注力していきながら、都心部におけるいざというときの備えをしていくことになるだろう。

また、注力ポイントの一つでもある遺贈寄付も今後重要な取り組みになってくる。高齢化や孤独死といった問題だけでなく、遺族や親族のいない人たちの財産の行方など、個人の遺産に関わる問題が社会問題となってくる(すでになっているかもしれない)。そこで、生前に自身の財産、特に不動産の行方をどうするかという選択肢の一つとして、できるだけ社会に貢献するために土地や建物を活用する、という選択肢が出てくる可能性がある。そうした流れのなかに、コミュニティ財団が遺贈寄付として金銭のみならずそうした土地や建物を扱うという考えも。建物や空きスペースを通じてリアルな地域活動をするにあたって、こうした権利関係などもみえてくるだろう。

もちろん、一般的な財産においても、遺贈寄付による市場は大きく、また休眠預金の活用の法案が通過したことを受け、いよいよ休眠預金の活用に向けて社会全体も動き出している。これらのお金を、公益的な活動に流通させ、より良い社会、より良い地域づくりにための仕掛け作りも求められてくるだろう。

まちの課題解決の担い手を、そのまちに住む人自らで立ち上がり、それぞれができる形のなかで地域や社会に貢献する。こうした仕組みづくりによって、世田谷コミュニティ財団は「まちを支える生態系」を作り上げようと取り組み始めているのだ。

まちのレガシーである映画館と地域の新たな関係づくり

コウノトリの生息地として知られる豊岡市。そこに、1927年に創業した豊岡劇場がある。

芝居小屋からスタートし、戦後は映画館として大衆文化の場として地域に愛されてきた。しかし、経営難によって2012年に閉館。しかし、豊岡劇場が長年培ってきたものを閉ざしてはいけないと考えた、地元で不動産業を営む石橋設計の石橋氏が、一度切りの映画上映会を企画したところ、上映会に際して地域住民からも再開の声が寄せられた。そこで、豊岡劇場を再建するための「豊劇新生プロジェクト」がスタートした。

2014年7月に映画館リノベーションのためのクラウドファンディングを開始。271万円の資金とともに、地元金融機関からの支援も受け、リノベーションを実施し、無事、再開することとなる。当初から、ただの映画館ではなく、地域に根ざした映画館とするために、地域コミュニティにもスペースを開放したりと、地元住民にも愛される空間作りにも注力する。

メジャーな作品上映にもこぎつけるようになったことで売上も伸び、立ち見がでるほどの日もあったという。時代の移り変わりとともに一時は閉館した映画館が立ち見がでるほどの活気を取り戻したことの価値は大きい。

しかし、一般的なシネコンと違い規模も小さい豊岡劇場。経営難で閉館したからこそ、経営基盤をしっかりしなくてはいけない一方、興行だけでなく、映画そのもの文化的な価値を楽しんでもらいたいという石橋氏の考えもある。

かつては各町に4,5軒ほどはあった映画館も、居間では地域唯一の映画館となった。地方の映画館とは、いわばかつてまちなかに存在していたレコードショップや商店街のように、時代とともに自然消滅してしまうものだろうか、そうした時代において、地方に住み、暮らしていく価値と可能性はどこにあるのか?と石橋氏は疑問を投げかける。

豊岡劇場は、半径50キロ圏内に唯一ある映画館。だからこそ、数多くの配給会社と取引し、幅広いジャンルの映画上映が可能な箱でもある。だからこそ、上映作品のラインナップも、メジャーどころからマイナーもの、時には社会課題を問いかける社会派の映画や、文化的な作品を上映するなど、映画のプログラミングが重要であるという。小さな映画館ながらも、地域の需要に答えながら、自分たちが思う「価値」をいかに提供していくかが重要だと話す。ときにはまったくお客さんが入らない作品があるかもしれないが、チャレンジングな映画作品を上映し続けることによって、新しい顧客の開拓につなげると同時に、地域における文化発信としての拠点としてのあり方を示そうとしている。

2018年からは、豊岡劇場の向かいにある一軒家を借り上げ、コミュニティスペースとして活用している。映画鑑賞後の対話イベントや映画について学ぶ場など、様々な催しを映画を軸に行っている。映画を軸に、視聴するのみならず、他者との対話や地域課題について議論する場を作ることで、映画という文化産業がもたらす価値を新たに開拓しようとしている。

地域の人たちにとってなくてはならない場所をいかに持続させていくか。経営としての側面と、文化的な側面をうまく融合させながら、地域におけるこれからの拠り所としてなすべきことはなにか。映画館という地域における一つの象徴として存在していた場所のこれからのあり方が求められようとしている。

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地域金融機関における主体的な地域への関わり方と新たなあり方、コミュニティ財団という地域の公益活動を支え、新たな仕組みづくりに取り組む団体、映画館という地域の文化と歴史と築き上げてきた場所の再構築。

どれもが、地域の新しい経済圏を作り上げようとしている事例であり、それぞれが、地域に対して主体的に関わろうとするやり方だ。同時に、どれか一つだけではなく、互いに干渉し、互いに連携しあいながら地域と向き合っている。また、都市と地方におけるそれぞれの社会課題に応じて、必要な資源やネットワークを作る方法論や目的も変わってくる。

シビックエコノミーとは、なにか一つの答えがあるのではなく、市民自らの手によって、どのような地域へと進んでいきたいか。そこにおいて、多様な関わり方を作り出しながら、持続可能な経済圏を作り上げ、豊かな暮らしを作ったり、次の世代に向けた仕組みを作ろうとする終わりのない活動であり、プロセスでもある。

どんなに社会的な利益があるものも、主体が経済的な自立がなければ意味がない。昨今叫ばれているSDGsにおいても、経済の軸を中心にしながら、環境や社会における課題を解決していこうという考えが根底にある。かといって、経済軸だけを走るのでなく、より良い関係としての経済と社会のあり方をバランスよく構築していくことが求められる。シビックエコノミーとは、経済という軸において、貨幣価値のみならず、あらゆる資本(文化資本、社会関係資本など)をもとに、市民一人ひとりの豊かな生活と持続可能なまちのあり方を模索し、思考しようとする姿勢が求められているのだ。

それぞれがそれぞれの方法論で動き出しているなか、私達自身が、今いる場所、住まう場所に対して、どのように関わるべきかを考えるきっかけを与えてくれるはずだ。

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