誰もが「健康」であるために:TWDWで話されたこれからの食と身体を取り巻く課題

みなさんは、健康のことを普段どれだけ意識しているだろうか。栄養を取りさえすれば、健康といえるのだろうか。

技術の発展とともに医療技術や衛生技術が発達した現代、人間の平均寿命は年々上昇している。ニッセイ基礎研究所の資料によると、2016年現在で男性の平均寿命は80.98歳、女性の平均寿命は87.14歳となっている。

寿命が伸びてくると同時に、定年だけではない、新たなライフプランを模索しようとする動きもでてきている。「人生100年時代」ともかたや言われるなか、働き方や生き方に関するイベントなども近年増えてきた。Tokyo Work Design Week(TWDW)は、まさにこれからの働くを考えるためのセッションがいくつも行われる場所だ。

平均寿命は伸びる一方、健康寿命は伸び悩んでいる。いかにして、健康な身体で居続けるか、健康寿命とともに、心身が充実した形で人生を過ごすためにどのように「健康」と向き合っていくかが、ひいては働くこと・生きることにも直結していく。

2016年には、NHKが「健康格差」を特集した番組が放送され、大きな反響を読んだ。これらの放送の内容をまとめた『健康格差』(講談社現代新書)も2017年の11月に出版されている。番組や書籍でも、健康を自己責任論から社会的な問題として認識すべきということが指摘されているとおり、「健康」を考えることを広く社会の問題として捉えていくべきといえる。

社会全体で「健康」と向き合う

「健康」という言葉だが、その意味は実は広い。WHOが定義した「健康」とは、”病気でないとか弱っていないとかことではなく肉体的にも精神的にも社会的にも全てが満たされている状態であること”だとしている。

一般的にイメージされる健康とは、栄養や体を動かすこと、ダイエットや体脂肪率、そこから来る病気のことなどが想起されやすいだろう。もちろんそれも大事だが、それ以外の精神的、社会的なものにおける「健康」にこそ重要な要素が隠されている。

これらはつまり、他者とのつながりや関係性、自己承認や所属意識でもあり、広くみれば地域コミュニティやまちづくりにも関わってくるものかもしれない。TWDWの別のセッションでテーマとなったDoingとBeingの肩書や、家族のあり方などもそうだろう。その人自身が心身ともに「健康」でいられる自己やコミュニティのあり方と向き合うこと、それはつまり、社会全体が健康について向き合うことともいえる。

健康状態の差は、ライフスタイルや環境、保健医療の違いによって起こる。また決定しているのは政治的、社会的、経済的要因でもある。生まれついた社会によって健康格差がでることは、本人の責任ではなく、社会が引き起こしているともいえ、このような健康格差を生み出す要因を「健康の社会的決定要因」と呼ばれている。

欧米では、イギリスを中心として、健康や疾病の要因として社会経済的要因が検討されており、いくつもの調査研究がWHOから資料が発表されている。WHOのヨーロッパ事務局が発表した資料によると、そこでは、10の要因についてまとめられている。

社会的排除貧困の問題、労働就職の問題、働き方雇用の問題、ソーシャルサポート、つながりによる自己充実感。他にも、モータリゼーションではなく、公共交通機関の整備による徒歩や自転車の利用は、運動量だけでなく、日常的に人と人とが接点をつくるための移動のあり方が問われている。

こうした、「健康」そのものを考えるところから、個人の生き方暮らし方のあり方について考えるよいテーマであるといえる。そこで、TWDWでは、そのなかでも食べることを中心に、食を通じて体の健康を考えるセッションを企画した。

食べるものを知り、食べるシーンを考える。いつ誰と、何を食べるか、どのように食べるか。食体験のデザインを通して、健康と向き合うことができるのではないか。

2017年11月22日に開催されたTWDWでは、石井食品取締執行役員の石井智康氏とALL FARM取締執行役員・農場長の寺尾卓也氏の2人のゲストとともに、食べることから働くことを考えてみた。

これからの「美味しさ」と向き合う

石井食品は、創業1945年。戦後すぐの食が困難な時代に、千葉の船橋港を軸に佃煮を製造するところからスタートした。保存技術を確立し、カロリーやタンパク質を摂取するために74年にミートボールを開発。CMで一躍有名となる。食環境が変化し、物余りの時代になってくるなか、安心安全に特化するため、97年から無添加調理をスタート。添加物をなくし、子どもたちに健康な食生活を提供するために技術を磨いていく。

無添加に注力したことをきっかけに、素材の美味しさを引き出す技術を確立。素材を重視するため国産にこだわり、素材の良さを引き出そうとすると、産地によって味や風味、調理方法も変わることから、近年では地域の伝統野菜などを使った新商品の開発にも力をいれている。また、本社の一階にはコミュニティスペースも運営。商品販売だけでなく、商品を使ったアレンジレシピをもとにしたレストランも経営している。

ALL FARMは2014年創業。無農薬・無化学肥料・固定種・露地栽培で野菜を育てている。また、農場だけでなく、その日の朝に収穫した野菜を、その日の内に自前のレストラン「WE ARE THE FARM」に運び、採れたて新鮮の野菜を使った料理を店舗で提供。露地栽培のため、季節の旬なものしか提供できない。そのため、夏には夏の野菜、冬には冬の野菜のみを使った料理を提供する。農場とレストランの両方を経営しながら、作るところから食べるシーンまでをデザインしているのだ。

「無農薬や無化学肥料のこだわりもそうだが、大事なのは、美味しいものを美味しいままに食べてもらいたいこと。どんな野菜も一番美味しい状態で食べてもらいたい。それを最後までデザインしたいと考えている」(寺尾氏)

作ること、食べることの間をつなぐ

石井氏は、かつてITコンサルやフリーランスを経て、現在の石井食品で働いている。20代の頃は、食べることに関してあまり意識を向けていなかったそうだ。しかし、病気をきっかけに、健康について考えるようになったという。

「病気になって、お金や時間、周囲の心配、さらに仕事もできないし、どう治療するかを考えないといけなくなり、精神的も色んな負担やコストが大きかった。体が壊れた時のコストは、働き方云々の前にすべてが崩れてしまう。食べるもの、運動、睡眠、ストレスといった複合的なものを意識することは、自身の仕事の向き合い方、生産性にも大きく影響してくる」(石井氏)

身体の調子が良いと、普段のパフォーマンスにも影響してくる。病気にならない=健康というネガティブ視点ではなく、ポジティブに健康のことを考えることができる。そのための日々の習慣として、食事や食材そのものへの意識の解像度を高めることが求められてくるだろう。

とはいえ、技術の発達とともに、極端な話、栄養を取るだけであれば、サプリや完全食という選択肢が将来ありうるかもしれない。そんな時代に、食そのものの文化はどういう風になっていくのだろうか。

「サプリメントは便利さと時短を追求した結果生まれたもの。しかし、コミュニケーションとしての食は技術では埋められない。美味しいものを食べながら、家族や友人と語らうこと。そこにおけるつながりや関係性を作り出すことが食の大事な要素であり、そこが健康や生きがいにも紐付いていく。だからこそ、これからもそうした団らんは欠かせないし、より重要になってくる」(石井氏)

現代の社会課題の一つでもある「孤食」。食の団らんは、みんなで食事をしながら、楽しかったことを共有したり、近況を話したりする場であり、団らんをきっかけに精神的社会的なつながりや関係性を構築する重要な場である。石井食品のコミュニティスペース「Viridian」では、まさにそうしたお客さんや地域の人たちの憩いの場として、団らんを作る場を通したコミュニティを作っている。食文化は、団らんのあり方を考えることから始まるのではないだろうか。

「食べるものは、その人の身体を作る要素。だからこそ、自分の身体を作る食材そのものを知ることで、自分のことを深く知ることができるはず」。そう話すのは寺尾氏。

寺尾氏が運営する「WE ARE THE FARM」では、飲食店として単に美味しい野菜を提供するだけでなく、野菜の話や作り手のことを伝える媒介役として、レストランスタッフは積極的にお客さんとコミュニケーションを行っている。お客さんの楽しさを最後までデザインするために、作る現場である農場とレストランを経営する新しい形の農業経営のあり方を模索しているという。そこには、作り手自らが消費者とつながり、かつ、最後の最後までを責任もって届ける、垂直統合型といえる。

「お店のコンセプトに共感した常連が次第に増えてきた。お客さんも美味しさだけではない、居心地の良さや対話そのものを楽しむためにレストランに足を運んでもらっている。これまで離れていた生産者とお客さんとの間をつなぐことが必要」(寺尾氏)

「生産者と食べる人をつなぐ存在でありたい」、そう寺尾氏は話す。野菜づくりの現場にも携わっている寺尾氏にとって、野菜を育てることそのものが自身の仕事に対する向き合い方やパフォーマンスを意識するものだという。野菜は何も声を出さない。かわりに、こちらの育て方を素直に受け取り成長していく。だからこそ、野菜の育ちが悪いことは自分が悪かった、と認識するという。いいものを作るためには、作り手である自分やチームの状態がいいものでなければならない。だからこそ、野菜を育てるなかで自身の健康や働き方についても常に向き合うことになっていると話す。

消費者、生産者、メーカー、提供者、それぞれが向き合うべきこと

では、こうした食に携わる人だけでなく、普通の人も食や身体のことについて日々できることはなんだろうか。

石井氏は、日々のゆとりのなかで、週1でも自炊してみたり新鮮な野菜を炒めたりと、自身で一手間加えるだけでも食への関心や意識は変わってくるという。自分自身のライフスタイルのなかで適切な時間をどう作るか。日々の習慣付けのなかで少しづつ取り組んでいくべきだ、と話す。

対して寺尾氏は、作り手自身がもっと変わっていくべきだ、とも話す。

「消費者が変わるよりも、作り手や流通、提供する側がもっと食や健康について真剣に考えていかないといけない。いいものを作って終わりではなく、それをきちんと適切な形で届け、消費者にとって興味や関心を少しでも向けてもらえるためにできる努力はあるはず。そのデザインを考えることが、これからの農家や食に関わる人がやるべきこと。消費者が本物を知れば、そこからたどる道筋がでてくる。本物を提供していくための本質的なデザインを考えるべき」(寺尾氏)

消費者自身が興味関心を向けて、知識や経験を積めるための場を提供する。食そのものではなく、広く食体験、食文化、食の意識を向けるために何ができるのか。その先には、食を通した団らんや、本質的な健康に対して向き合うためのデザインが求められてくる。

作り手、食品メーカー、レストラン経営者、そして消費者。それぞれがそれぞれの立場で食と向き合うために必要な情報や経験を、互いに考えていくこと。「健康」というものが、ますます社会的な課題となってくるなか、これからの豊かな暮らし、働き方、生き方を、それぞれの立場から考えていくべきだろう。

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